彩々

2003年06月15日(日) 嵐が来る(revised)

まだ遠いけれど、
ごおごおと鳴く風を思うだけで心が晴れる。
天気予報にここまで気持ちを動かされるなんて、
疲労ゆえの破壊衝動だろうか。
今夜は夜勤。10時までパソコンの前。

空想がちだったという幼い頃の彼女に、会ってみたい。
写真でしか見たことない、ちいさい手を取って、つなぎたい。
生まれたときから父がいないせいか、
大人になった今でも私は、
男の人の大きな手に惹かれる。
この前会社の後輩と早朝の商店街を歩いてて、
なぜか無性に手がつなぎたくなって、
「つないでいい?」と何度も聞きそうになった。
彼に恋愛感情はかけらももってなくて、ただ、
そうすればとても安心できる気がして。
だからかな、
彼女の手を大きな手で包めたら、と時折思う。
けれど、私に与えられるのは、
人より若干高いこの体温だけ。

あの日は小雨だった。
ぼろぼろと目からとめどなく涙は落ちるのに
どうやっても感情は言葉にならなくて、
ただ部屋を飛び出すしかできなかった。
涙も拭わないでハンドルを握ったら、
呆然と独りを知った。
頭を冷やそうと海辺で煙草をふかした。
何年かぶりに嗚咽して泣いた。
何度も根気良く鳴り続ける彼女の電話に
かろうじて繋ぎ止められたけれど、
今でも少し、私の心は宙に浮いている。
一週間前の出来事。

写真の山が、押入の奥から出てきた。
床の上に散らばった無数のそれに圧倒された。
私と前の彼女の、笑顔。旅した数々の景色と、感情。
一番胸を刺したのは、
数の多さが示す時間の長さじゃない。
ディズニーランドで二人肩を並べて撮ってもらった一枚の、
私の少しはにかんだ、でも満たされた幸せな笑顔。
今の私は今の彼女しかいらないと心から思ってるけれど、
あの笑顔を、痛切に羨んだ。
後ろめたさを振り払うように、
幾度も試みながら写真を捨てきれなかったぬるい感傷を嫌悪した。
そして、
一枚一枚丁寧に記憶を追ってから、
一枚ずつ茶色い指定ごみの袋に投げ入れた。

君に会いたいよ。
でも、
あの日の棘が私に黙って膝を抱えさせる。


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喬(きょう) [MAIL]

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