Always here,always close to you. - 2004年04月29日(木) 昨日は友人Iと共に、演劇集団キャラメルボックス『ヒトミ』観劇ツアー。 出発する前に珈琲哲学にて昼食。Iより誕生日プレゼントを戴く。関係ないけど私の誕生日は堂本剛と同じらしい。戴いたのは可愛らしい調味料入れと『アルフ』のキーホルダー(爆笑)。アルフ! アルフDVD化はいつですか! いや『ER』とか海外ドラマも色々DVD化されてるわけだし……ほんとに早く出ないかなあ。 それから『CASSHERN』のアルバムも戴く。サントラと、10組のアーティストの提供した楽曲を集めたCDの2枚組みで、なんとACIDMANとTHE BACK HORNが参加していた。しかもバックホーンは書き下ろし新曲(帰宅してから聴いたらもう涙出そうにカッコイイ……)。自分は全くこの新曲のことを知らなかったのでIに大感謝。とIが、 「実はAからもプレゼント預かってるんだけど……」 と包みをもうひとつ。Aは以前一緒にバイトをしていた知り合いでIの元彼さんでもある。Iがプレゼントとかにまめな子なので、それにつられて買ってくれるらしい(去年も貰った)。ついでにIとAは先日別れてただの友達に戻ったらしい。 それはともかく私自身はよほど親しい友人の誕生日しか祝わない。Aとはさして親しいわけではない。そして私は親しくない人から物を貰ったり奢られたりするのがとてもとても苦手だ。わざわざ用意してもらった以上受け取らないわけにもいかない、貰ったからにはお返しもせねばなるまい。親しくない人へのプレゼントを選ぶのはとても面倒くさい。……トホホ。 なにはともあれいざ東京へ。 新幹線を上野で降りて、まずはスヌーピーフリークのIの為に上野駅構内のスヌーピーショップへ。「ほらほらキオスク限定スヌーピーだよ」と無責任にあれこれ薦めてみる。楽しい。 その後新宿へ。今回の劇場は新宿シアターアプル。開演まで時間があるので高島屋やMYCITYで時間をつぶす。HMVにてレミオロメン『朝顔』初回盤を発見。いやー焦って通常盤買わなくて良かった! 勿論早速購入。晴晴"のCDもちゃんと置いてあってなんだか嬉しい。更にアケボシ『White reply』には特典のポストカードが付いていた。……けどこれはもう持ってます……ポストカードだけ欲しい(それは無理)。 服や靴を眺め、再度自分の中で価値基準の見直しを迫られる。てかどいつもこいつも高いってばよ……。でも最近はやっと服や靴を見るのにも慣れてきた。いいことだ(たぶん)。 軽く夕飯を食べて劇場へ向かう。ロビーで取り敢えずポストカードを買って中に入る。比較的前のほうの席が取れたので嬉しい。やっぱり役者さんの表情がちゃんと分かるくらいの位置がいい。 『ヒトミ』は再演。初演はビデオで何度か観た(Iは初めて)。 台詞や場面を思い出すだけで「思い出し泣き」してしまうもの、というのが自分には幾つかあって、キャラメルボックスの舞台で言うと『広くてすてきな宇宙じゃないか』とこの『ヒトミ』がそれにあたる。 ピアノの教師だったヒトミは事故で頚椎を損傷し、首から下が全く動かない。それが「ハーネス」という器具をつけ、過酷なリハビリを経て再び動けるようになる。けれどヒトミは、歩けるようになり手が動かせるようになってもピアノに触れようとしない。やがてハーネスに欠陥が見つかり、ヒトミからハーネスが外される日がやって来る。 ヒトミには小沢という恋人がいた。けれどヒトミは事故以来小沢に頑なな態度を取り続けている。それでも小沢はヒトミに会いに来る。 ある日小沢が病室を訪ねると、ヒトミが「友人の典子に会いに行きたい」と言い出す。典子が事故に遭ったから、と。急いで典子の経営するホテルへふたりは向かう。けれど事故に遭ったというのはヒトミがついた嘘だった。「どうしても典子に会いたかった」とヒトミ。翌日、医師とヒトミの母親が迎えに来て、小沢や典子はヒトミがハーネスを外されてしまうことを知る。 ヒトミは何故ピアノに触れようとしなかったのか。何故小沢に頑なな態度を取るのか。何故病院を抜け出して典子のホテルへ来たのか。 ハーネスによって身体を動かせるようになったが、身体の感覚は無いままだった。だから暑さも寒さも感じない。手に触れられても何も感じない。誰かが触れていてくれても目を閉じると皆消えてしまう。自分がどこにいるのか分からなくなる。 歩くというのは地面を踏みしめるということ。ピアノを弾くということは指先に気持ちを込めるということ。だから感覚の無い身体で鍵盤を幾ら叩いても弾いたことにはならない。何も感じられない自分はもう死んでいる、ゼロなんだとヒトミは言う。 小沢はヒトミに言う。海岸で潮の匂いを、風を感じなかったかと。風は勝手に吹いているだけだと言い募るヒトミの頬に小沢は手を触れる。 「これは? おれの手は冷たいか?」 あたたかい、とヒトミは答える。 まだ風を感じることができる。観ることも聴くこともできる。 一緒に風を感じよう。この世界のすべてを二人で観よう。 「おれはいつでもそばにいる。お前が瞳を閉じない限り」 ホテルを出る朝、ヒトミはロビーに置かれたピアノの前に座る。子供の頃に初めて弾いたピアノ。引っ越すことになって以来典子に預けたままだったピアノ。ゆっくりと鍵盤に触れる。典子が訊く。 「どうだった? ピアノは、何て言ってた?」 「よくわからない。……でも、私はすごくうれしい」 ……ああ、あらすじを書いてるだけで泣けてきてしまった。 ものすごくはしょって書いてしまったけど、実際の物語にはもっともっとたくさんの気持ちが言葉が込められている。自分はゼロだというヒトミが悲しくて、小沢のこれ以上ないというくらいの言葉があたたかくて、舞台を包むスパイラルライフの音楽がやさしくて。 劇場でぼろぼろ泣きながら、やっぱりこの話は大好きだと思った。 再演にあたって少し台詞が変わっていた。台詞が増えて良かったと思うところもあったのだけれど、「おれの手は冷たいか?」と訊くところは初演のほうがハッとさせられる感じがあった気がする。初演だと、ヒトミに「ゼロじゃない」と気づかせるのが小沢の手だった(と私は思った)のが、再演では「潮の匂いは? 風は?」という“言葉”でまず気づかされているように感じた。この場面については初演のほうが好きかな……という感じ。それ以外は甲乙付け難し。 Iと共に「良かったねえ……」としみじみしながら劇場を後にしたのでありました。 ところで次回のキャラメル公演は夏、『ブラック・フラッグ・ブルーズ』! 更に冬公演は北村薫原作の『スキップ』!! みみみ観なくては!! うわーダイゴとヤマアラシが生で見られる! てかキャストは是非岡田達也&中村恵子でお願いします!! - 世界は美しくなんかない。 - 2004年04月26日(月) 誕生日に友人から貰った時雨沢恵一『キノの旅』を読む。 基本的に自分がよく読むのは娯楽系の小説が多いと自覚しているのだけれど、所謂ライトノベルやティーンズノベルは昔からどうも苦手で読んでいない(小野不由美は例外)。でも『キノ』はなかなか良かった。 ライトノベルが苦手な理由は幾つかあって、ファンタジー及びRPG的世界観に馴染めないとか砕けすぎた文体が肌に合わないとかまあそんなところで、でも『キノ』については、ファンタジー音痴の私にも何とかついていける世界観だったし(『EAT-MAN』に近しいものを感じる)、文体も砕けすぎていない分むしろ馴染みやすく、個人的には読みやすかった。内容も寓話的とも取れる要素が幾つもあって、単純に「面白かった」だけでは終わらない。こういうライトノベルもあるんだなあ……と食わず嫌いしていた自分をやや反省。続きが気になるところ。 土曜日放送のドラマ『センセイの鞄』は良かった。実に良かった……。 ものっすごいツボにハマってしまってボロボロ泣いた。池脇千鶴風に言うと「リアルでエロくて胸がきゅんきゅんした」って奴です。初老の国語の先生と元教え子(37歳)。一歩間違えたら「これってどうなのよ……」と思ってしまいそうな感じなのに、ドロドロした流れにはならない実に絶妙なバランス。もう決して若くはないふたりなのに、かわいくてかわいくてしょーがない。まだ読んでないけど原作がいいのかそれとも脚本や演出の妙ってことか。いやそれにしてもやはり柄本明はスバラシイ。 『拝み屋横丁顛末記(2)』を早く買わねば。そしてあさってはいよいよキャラメルボックス『ヒトミ』。スパイラルライフ好きの友人Iと共に。考えたら彼女と長野市以外へ出かけるの初めてじゃんか。楽しみ楽しみ。 ニュースや何かで騒がれていることが気になりつつも、感情的になってしまったり対立する意見(というか中傷)を目にするとはんなりとへこんでしまう為、必要最小限の情報しか知らないでいる。それでも知り合いの言葉とか家で取ってる新聞のコラムとかで自分に近い意見(できればこれが正論であって欲しい)を見ると少しほっとする。 偉くて声の大きい人たちの言うことが常識だというのなら、その内、外で病気や事故で倒れても誰も助けてくれなくなるんじゃないだろか。無視されるに留まらず「体調管理できない(注意が足りない)お前が悪いんだろ」とか言われちゃったり、救急車を呼んでも「税金を無駄遣いするな」とか「搬送代払え」とか言われちゃったりするんじゃないかね。怖い話です。 - イマジン - 2004年04月19日(月) ある感情について訊かれた。 「それって、どんな感じ?」 心臓をわしづかみされたような感じ、と答えた。 よくわからない、と言われたのでたとえをいろいろ言ってみた。 仕事やなんかで重大なミスをしたときに、内臓がぎゅうっと縮むような感じ。 大事なものを誤って壊してしまった、傷つけてしまったときのような感じ。 インフルエンザにかかったような感じ。 思いつく限りいろいろ挙げてみたけど、結局、 「そんな風になったことないからわかんない」 と言われてしまった。 私の話し方が悪かったのかもしれない。でも、あっさり「わかんない」と言われたらなんだかがっくりしてしまった(わかったふりをされるよりはマシなのだけれど)。 経験したことがないからわからない。 それは確かにそうだろう。何にしたってわからないものはわからない。当たり前だ。 でも、経験したことがないなら、想像してみればいいと思うわけで。 想像したって本当のところは理解できないだろうけど、それでも想像してみるというのが自分にとっては至極当たり前だったので、言ってみれば「“経験したことがないことはわからない”とあっさり放り投げる気持ち」こそが、私にとっては「どんな感じかよくわかんない」のかもしれない。 想像してみることは必ずしも意味があるとは限らない。 決して難しい作業ではないのだけれど、ついついやり方を間違えてしまうし、間違えていなくても正しく作用するとは限らない。 それでも想像することは大事なことなんじゃないかと今までずっと思ってきたしたぶんこれからもそれは変わらない。 相手の気持ちになってみる、ってことは相手を自分の都合のいいように解釈することではもちろんなくて、自分の感情を押し付けることでもなくて。 その人がどんな思いで行動したのか。 どんな状況でどんな経験をしてきたのか。 どんな思いで発言したのか。 いくら考えてみたところで結局当事者以外にはわからないのかもしれないけれど、それでも、ほんの少し考えればわかりそうなことはいくつもある。ほんの少し想像してみれば、相手に対して今こんなことを言うべきじゃないするべきじゃない、そのくらいのことはわかる。それはむしろわかるわからない以前の、至極常識的なことに思える。 相手の発言が自分にとって不愉快だったとしても、相手のおかれた立場を考慮したらこちらが抑えるべきという場合もあるんじゃないか。 相手がどれだけ混乱しているか不安でいるか苦しんでいるか、少し考えれば分かる筈だ。そんな状況で万人が満足するようなことを言えっていうのはあまりにも酷だ。ましてや自分の不愉快さを相手にぶつけて更に傷つけるなんて論外だ。 どうしてこんなことができるんだろう。どうしてこんな話になってしまうんだろう。その議論が正しくても正しくなくても、今言うべきこととは到底思えないのに。 傷口に塩を塗るようなこんな話が「常識」としてまかり通ってしまうのだとしたら、と考えると鳥肌が立つ。 それは相手を武器で脅かすことよりももっとずっと、恐ろしい。 - 断片的短編小説 - 2004年04月11日(日) 10日の日記で小説のようなものを載せてみました。 3年ばかり前に書いたものです。 書きたい話があって、それを可能な限り短くまとめたらたぶんこんな感じ。 そういう感じの断片的短編(掌編かも)小説です。 - 翼を片方 - 2004年04月10日(土) しとどに背中を濡らしているのは、雨でも汗でもない。 見えなくとも分かっている。俺の背中は血まみれなのだ。 翼をもがれた。 それがいつだったのか、そもそもどんな翼がそこに在ったのか――白いのか、黒いのか――そういったことは思い出せない。 とにかく俺は翼をもがれた。その傷口から溢れた血で背中はぬめり、服は濡れそぼっている。 視線を落とす。 座り込んだ足元には血溜りが広がっている。 ――いつからこうしているのだろう。 考えてみても、やはり思い出せなかった。 己の手に目をやる。両方とも、血まみれだ。 ふと、翼をもいだのは俺自身ではないかと思った。――確証など何もなかったが。 ひたひたと陣地を広げ続ける足元のそれと比べて、両手にこびりついた血糊は赤黒く、半ば乾いていた。 それからまた別なことを思いつく。 ――両手に付いているのは、俺の血なのか? これは俺のものではなく別の誰か――例えば俺が殺した人間の血ではないか。 ――否。 殺した――のではない。 喰ったのではないか。 おれは自分以外の誰かを殺し、喰った。だから両手は血まみれで―― 翼はもがれたのだ。 たぶんそれが真相なのだろう。 ならば、それを行なったのが俺であれ誰であれ、大した違いは無い。 翼はもがれた。失われた。 だから俺は、こうして血溜りに浸ったまま動けずにいるのだ。 翼が無くてはどこにも行けない。 哀しいと思った。 どこにも行けないことが、ではなく、自分自身をただただ哀しいと思った。 何とあさましい生物なのだろう――この俺は。 足音が近付いてきた。 顔を上げるより早く、足音の主は俺の作った血溜りに足を踏み入れた。 ぴしゃ、と音がする。黒い革靴だった。 「どうしてこんなところに座り込んでる?」 頭の上から声が降ってきた。 「翼を――もがれたから」 革靴を見つめたままで俺は答えた。 「翼が無いからどこにも行けない――だから、ここにいいる」 そいつは妙だ――と頭上の声が言う。 「あんたにはまだ足があるだろう。手だってある。それなのにどこにも行けないって?」 それはあんたが勝手に思い込んでるだけだろう? 「違う」 首を振る。 「まだ足があるとか手があるとか、そういうことじゃない。翼をもがれたから、俺はどこにも行けないんだ。足があっても手があっても、もうどこにも行けない。翼を失くすってのはそういうことなんだよ」 だって俺は―― 「――俺はあさましい生物だから」 返答は無かった。 革靴はこれでいなくなるだろうと思っていた。だが、それは一歩も動くことなく俺の前に在った。 よく見ると、あちこち擦り切れてひどくくたびれた靴で、降ってきた張りのある声とはどこか不釣合いな気がした。 暫くして、また声が降ってきた。 「――すまん」 意外な言葉に、思わず顔を上げる。 「きっとあんたはそう言うと思ってた――分かってたよ」 黒い革靴は黒い三つ揃いを着ていた。 「だからここへ来たんだ――あんたに会いに」 渡したいものがあるんだ――とそいつは言い、 ぬっと俺の前に翼が差し出された。 「――これは?」 何のことか分からなかった。少なくとも、これは俺の背中に生えていたものではないようだった。 「これ――あんたにやるよ」 「え?」 「俺の。片方、やるよ」 翼はどこまでも黒く――けれど付け根からは真っ赤な血が滴っていた。 「これをあんたに渡したくて――ずっと、ずっと捜してたんだ」 あんたのことを、とそいつは言って破顔した。 ふいに、何かが満たされていくような気がした。 からっぽだった俺の内側が何かで満たされていく。流れ出てしまった血よりも、もっと温かくて心地よい、何か。 ――知っている。 俺はたぶん、こいつを知っている。 失くしたくなかった。翼よりも何よりも、俺はこいつを失くしたくなかったのだ。 「俺のと、これをあんたが付けてさ。それで――ふたりで肩組んで。そしたら――どこへだって行けるだろう?」 -
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