垂頭喪氣
 人前で泣き出すのを必死で堪えて自分の心を抉る映像を見續けるのは非常に辛い。僕にはとても辛い。

 いつも母の事を想ふ度に「ごめんなさい」といふ言葉で胸が一杯になる。
 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい…」、そして「眞面目に生きなきや。眞面目に勉強しなくては。眞面目に。眞面目に。眞面目に…」そればかりを心に溢れさせ、僕は他に思考が及ぶ前に逃げる。
 考へても考へても僕が償い切れる事は無く、考へるだけでは何も償えずに無意味に終わつてしまふから。
 思考の迷路に嵌まり込んでぐるゝゝと堂々巡りをする前に僕にはすべき事が澤山あるのだから。

 だが、今日見た映像は僕に逃避を許さなかつた。
 あの時、僕が正直に母に話していたら如何なつたのだらう。僕は少しでも彼女の望む方向に進めたのでは無かつただらうか。
 あの時期に僕がまう少し眞面目に生きていたら、母はもつと喜んでくれただらうか。
 あの頃の僕の決定は全て母を苦しめる結果しか齎さなかつたのではなかろうか。

 考へても仕方無い。
 今の僕に出來る事は既知の失敗を繰り返さずに前に進む事だ。
2003年10月21日(火)


 露惡趣味
 偶に僕は自分の血族に關する事など是迄の人生で關わった出來事を他人に話す事がある。
 其れは例えば僕の叔父が爲した惡行についてであったり、僕が幼い頃に爲した行爲であったり、僕の母に關する話だったり、僕を「友達」だと云っていた女性の所業だったりする。
 大抵の場合、僕が相手にそういう話をするのは相手がしている話を遮る爲だ。
 相手が話すよりも重くて救い樣の無い話をして、相手の話を其れ以上聽かない樣にする爲だ。

 僕が露惡趣味を顯にすると相手と僕との距離は遠ざかる。二度と僕の望まぬ類いの話をしなくなる人が多い。
 それまでの樣に表面上だけのあっさりした關係に戻っていくのだ。顏を見たら挨拶をして、偶に一緒に食事をとる程度で特に生活の苦しみを語る事の無い表面的な友人關係に。

 自分の過去がフラッシュ・バックする樣な類いの話は聽きたくない。
 徒に其れだけの理由で今日も僕は作り笑顏で知人に話をした。乾いた笑い聲をあげながら。
2003年10月10日(金)


 思ひ出した
 偶にふつと親の言葉を思ひ出すことがある。
 本當に偶に、一ヶ月に一度以下の割合で僕は親が僕に言つた言葉を思ひ出してしまふ。

 「人間は所詮一人だから。」
 「男はいつかは女を捨てるから。」
 だから。
 「手に職をつけなさい。」
 「一人でゐても食ひつぱぐれないだけの收入を得る手段を手に入れなさい。」
 「若し子供が出來ても一人で育てられるだけの蓄えを持ちなさい。」

 本當にさうだ。
 そして、僕は彼女の言葉を一つも實踐出來てゐない。
 食ひつぱぐれ掛ける程度の低收入しか僕は掴めずにゐるのだから。
 それだから、彼女は去年僕に言つたのだらうか。
 「子供が出來たら私が育ててあげるから、安心して生みなさい。私が立派に育て上げてあげるから。」
2003年10月04日(土)
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