思考過多の記録
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去る6月27日に、僕の出身高校で「社会人講話」なるものがあり、講師として参加してきた。 これは、総合学習の一環で、 「実社会における様々な『仕事』の実際や、また『生きる力』を知ることで、『進路実現』へむけての意義づけを行う」 という目標で行われる正規の「授業」である。 そもそものきっかけは、僕の高校時代のクラスメート(女性)から、あるブログサイトのメッセージを通して声をかけられたことである。僕の出身高校が今年初めてこの「社会人講話」を企画して、卒業生を「講師」として招くことにしたのだけれど、誰かやってくれる人はいないか、とその彼女が声をかけられたのだった。彼女は、自分では無理なので、知り合いの何人かに声をかけた。そのうちの一人が僕だったというわけだ。
「講話」の前に、久し振りに会って話をしようということになり、僕達はJRの駅で待ち合わせをした。高校時代から大学時代にかけて、よく使っていた駅である。 僕は当時と比べたら体重が大幅に増加してしまった。事前のメールの遣り取りでは、彼女もそうだという。お互いに分からないのではないか、少なくとも、彼女には僕は分からないのではないかと思われた。なので、携帯の連絡先も聞いておいて、万が一発見できなければ携帯に連絡しようと思っていた。 僕の方が少し早く着き、改札口の近辺で待っていると、駅前広場の方から眼鏡をかけた女性が、僕の方にまっしぐらに走ってきた。 それが、彼女だった。 最後に会ってから、実に19年の歳月が流れていた。
彼女は、高校時代から僕にとってはある種特別な存在だった。恋人になったことはないが、よくつるんでいた。僕と彼女が付き合っていると誤解されたことが何回もあった程だ。 それもそのはず、彼女と僕は、本当に波長が合った。2人は誕生日が同じだったのだ。それで意気投合した。お互いがお互いをリスペクトもしていた。 放課後や自習時間等、僕達はよく2人で語り合った。何を話していたのかはもう思い出せないが、とにかく彼女といると楽しかった。 しかし、繰り返すが、僕と彼女は「交際」はしなかった。常にお互いに別々の恋人や片思いの相手がいた。そのことについて、相談し合ったりもした。そんな時、彼女は常に僕の強い味方だった。 高校を卒業し、別々の大学に進学しても、僕と彼女の関係が途切れることはなかった。彼女の大学の友人も巻き込み、「グループ交際」のような状態になっていたこともある。
そんな彼女と僕は、ある約束をしていた。それは、 「30になってどっちも独身だったら、結婚しよう」 というものだった。 今思えば、何とも不思議な約束である。これは彼女の方から言い出したことなので、真意は分からない。そんな約束を頭の片隅において、僕達の関係は続いていた。 しかし、僕が就職をする頃には、彼女には付き合っている人がいて、徐々に僕との関係は疎遠になっていった。 そして彼女は、僕との約束を守った。 彼女は29歳の夏に、付き合っていた人と結婚したのだった。 その結婚式に、僕は呼ばれていた。それが19年前である。 その結婚式以来の再会だった。
「久し振り〜」 と言いながら僕に駆け寄ってきた彼女は、当時はかけていなかった眼鏡をしていたが、それ以外は当時のままだった。彼女も、 「すぐに分かったよ。全然変わってないね」 と言った。 不思議に「懐かしい」とは思わなかった。ただ、長い年月を経て、彼女がここにいることが、何物にも代えがたいことのように思われた。 近くのファミレスに入って昼食を一緒にすることにした。彼女と話していると、一気に時が巻き戻ったような感覚になる。お互いの近況などを報告し合ったのだが、話し方も、時々前髪を気にする癖も、昔のままだ。「社会人講話」の件で何度かメールはしていたのだが、実際に会ってみると、メールとはやはり違う。 僕も、かつて彼女とつるんでいた頃の僕の感覚になって、いろんなことを話した。何だか不思議な感じがした。
あっという間に時間がきて、僕達は高校へ向かうバスに乗った。このバスも、よく彼女と乗っていたものだ。バスに揺られながらの会話も、やはりタイムスリップしたような感覚になる。 彼女と話をしながら、もし僕達が、30まで独身を貫き、結婚したとしたらどうなっていたのだろうと考えていた。そのあり得たかも知れない人生に思いをはせているうちに、バスは高校に到着した。彼女は、 「時間があれば私も話が聞きたいんだけど」 と言った。そして僕達は、 「じゃあ、またね」 と、昔のような感じで別れた。
19年ぶりの再会だったが、彼女は19年前から抜け出してきたようだった。お互い今抱えている問題は違っても、共通の過去があるから、すぐに昔に帰れる。そして彼女の瞳に映るから、僕は自信を取り戻せる。 彼女も僕も歳を重ねたが、それでも彼女は昔と同じ、僕にとっては唯一無二の、「特別な彼女」である。 これまでも、これからも、ずっとそうであり続けるだろう。
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