知らなくても わからなくても
近いってこと 感じる
アサキは 生まれたばかりの動物みたいに ゆっくりと目をひらいた
わたしがのぞきこむと アサキの目のなかの目もひらき そこには 青い風が映っていた
「誰ですか」 と、アサキ
「誰でもないです」 と、わたし
真顔でみつめ合い つぎの瞬間 ふたり同時にふきだした
公園の芝生 『 はいらないでください 』の立て札
色付けのすんだ絵に 石の重し
隣りで寝ころがるアサキ かるい髪 風にあそぶ
わたしは草をちぎり 青いにおい たしかめる
すぅ アサキの寝息
すぅ 草の青い
すぅ
すぅ
わたしたち いま
青になる
草になる
はいらないで
誰も はいらないでください
おとうさん。
帰ってきた それだけでいいのに
あそこ行こう それ見よう じゃああれは? って
わたしたちとのお盆休みを セッセと消化しようとしてる
まるで 宿題みたいに
日焼けした先生が みんなにあの花火事件の話をした
「犯人はまだわかっていないということで…」
ショウタは 家族旅行とかで来てなかった
ナカヤンは 腕の皮をむいていた
ぼくは 消しゴムのかすを鉛筆のおしりでこねていた
「……事故のないように…、みなさんも…」
みんなが下敷きであおぐペコペコいう音と セミの鳴き声にさえぎられて 先生の声、小さくなる 遠くなる
「ちょ… おいっ」
花火、人ん家に向いたままじゃん?!
「ヒュ! ヒュヒュッ、ヒュヒュッ! 」
一瞬 辺りは昼間みたいに明るくなって
「ガツ、 パリパリーンッ」
目を焼くような白い光が オレンジの灯りのなかへ 深く入っていった
タカシがなにかを物色するように歩きだして ぼくらもあとに続いた
しばらくウロウロ歩いて 公園の端っこ 杉みたいな木の植わってるところで ピタ、と止まった
木のすぐ向こうは人の家になってて 目の前、ほんの2・3メートルくらいの距離で 居間(茶の間)があって オレンジ色の灯りとテレビの音がもれていた
「こんなとこで派手にやったら、ね、怒られるよ…」 タカシのひじをつつき、ショウタが弱々しく言う
タカシはその灯りをまっすぐに見たまま 「貸せ」 とぼくに向かって手をだした
催眠術にかかったみたいに すんなりとチャッカマンを渡してしまった
タカシは振り向いてニヤリと笑い 「チビんなよ?」ってぼくらに言うと なんのためらいもなく 束ねたロケット花火にチャッカマンを近づけた
タカシは公園の外灯の下に立って なにやら作業っぽいことをしてる
ショウタが見に行って タカシの手元をのぞきこんだ
「ひぇっ、マジ?」
ショウタの声につられて ぼくとナカヤンも走って見に行く
タカシは 20本くらいのロケット花火を 草の茎みたいなものでぐるぐる巻きにして 1つに束ねてるとこだった
「それ、ヤバイよ…」 ナカヤンの声が震えてる
タカシはニヤッと笑い ぐるぐる巻きの最後をきつく縛った
ぼくは チャッカマンを持つ右手が湿るのを感じた チャッカマンを左手に持ち直して Tシャツで右手をふく
「( ムカつかね? )」 こそっと、ナカヤンがぼくに言ってきた
「んー」 ぼくは適当にながして ナカヤン花火の先から火をもらう
シュワッと燃えだすときの 煙が目にしみたり 燃えかすを水につけたとき 鼻にツーンとくるのが イヤなんだけど面白い
『 普通 』のやつがなくなって 『 しょぼい 』に入った頃か 例のタカシが また何か単独行動をはじめた
みんな『 普通 』の花火を手にとったけど タカシだけ いきなり『 やばい 』をとった
ぼくらが ピンクだ!緑だ! って火の色を数えてると タカシはどっかから拾ってきた空き瓶に 『 やばい 』をセットして火を点けた
「ヒューーーー パチ。」
ロケット花火だ うちではお父さんしか触らない
ショウタが「俺も、したい…」 と言うと タカシは「これだけな」 と 一本だけショウタに手渡した
「お前らもな」 ぼくらにも一本ずつ渡すと 残りのロケットぜんぶ そのタカシがにぎってしまった
「きょう、花火だからさ」
早めに夕飯つくってもらって どこに入ったか分かんないような食べ方をした
夜に出掛けるのって それだけでワクワクする
公園につくと ショウタが従兄弟を連れてきてて タカシっていうそいつは いっこ上の学年らしかった(学校も違う)
ナカヤンが家から持たされた 『 ジャンボ 』って花火セット
それをみんなで開けて 『 やばい・普通・しょぼい 』 3通りに分けてから いよいよ始まった
洗面所の鏡のまえ 体をななめにひねり おそるおそる 耳の傷口の消毒
夜は こっちの耳を庇うようにして寝てる
でもね 傷をかばっているつもりで ほんとは この傷に守られてる
わたし 傷にすがってる
お父さんがお盆休みに帰るまでに 宿題を終わらせたい
けど
プール 漫画 アイス 昼寝 クワガタ 夕寝 すいか テレビ 夜寝
なにしろぼくは忙しいからさ
ぷフー。(鼻息)
2003年08月07日(木) |
アサキ・17 ほんの一瞬だった |
あけられてしまった
ホチキスかピストルみたいなもので ほんの一瞬だった
髪を耳にはさむ癖があるから 片耳だけにしてもらった
夜、その場所がジンジンして なかなか眠れなかった
やわらかな暗闇のなかで目を泳がせ 枕カバーの端っこをつかむ
「わたしは、わたしだけど、もう」
点滅する痛みは なにかの暗号のようで
「もう、わたしじゃないかもしれない…」
けれど、今のわたしには とても解読できそうになかった
2003年08月06日(水) |
アサキ・16 アサキを連れて |
アサキを連れて帰宅すると 弟はプールに行ったらしく居なかった
算数の宿題、アサキはきっちり終わらせてあった 字がきれいで、答えはぜんぶ合ってるように見えた
エアコンの ヴーー…ンという運転音のほかは
わたしの鉛筆の音と アサキが雑誌をめくる音だけ
宿題も写し終わって ふたりでアイスをかじっていたら
「そだ、いいもん持ってきた」 と、アサキが鞄をごそごそ探りはじめた
2003年08月05日(火) |
アサキ・15 明日は |
明日はアサキに 算数の宿題をうつさせてもらう
なぜか わたしん家ですることになった
えと、んーと お掃除は今朝したばかりだし…
何かしなくちゃ、って気がして 部屋のなか、ぐるぐる四角く歩きまわってる
グラグラしてた歯が抜けた すいかアイス食べてるときだった
歯をティッシュにくるんで 出かけることにした
いい屋根さがして歩いてたら 神社まで来ちゃって
神社の屋根はナカナカいい形だったから そこに投げることにした
4回目で 僕の歯は屋根に乗っかった
……。 あの上から見る景色ってどんなだろ
なんだかな 歯のヤツめ、うらやましいぞ
お父さんに Tシャツとスカートとサンダルを買ってもらう
選びながら
『 アサキと会うとき用に… 』 と考えている自分がいて
『 ちがうもん、私が着たいからこれにするんだもん 』 と横から口をだす自分もいて
2003年08月02日(土) |
アサキ・14 このままいったら |
「いいよ。予定あるんなら仕方ない」
アサキからの誘い はじめて断った
怖くて
アサキの引力が 怖くって
2003年08月01日(金) |
言い訳ばっかり上手くなる |
「いいかげん起きなさいっ」 「やダ。」
「いくら夏休みだからって」 「スローライフ」
「は?」 「時代はスローライフだよ」
もうっ くだらない事ばっか覚えちゃうんだから
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