サクラいっぱい落ちてたよ
枯れたんじゃないのに 花ごと落ちてた
なんだろうね?
いつまで 隠しておけるだろう
目玉焼き失敗したくらいで そんなにヘコむなよ
つぶれた目玉は オレが食べるからさ
ほら けっこうおいしいよ? うん、うまいっ
あの子が小さい頃 タンポポのことを 「たんぽこ」って言って
何度おしえても 「たんぽこ」で
それがなんだか可愛くて 母とわたしは クスクスクスクス笑ってしまった
ふいにそんなことを思い出して 読んでいた本をふせて クスクスクスクス笑う
姉ちゃんが冷蔵庫をあけた。 「ん?」
そしてふりむいた。 「あの」
「し、知らないよっ 姉ちゃんのチーズケーキなんて食べてないよっ」
はっ。
姉ちゃんははじめキョトンとして、 それから笑った。すごく笑った。 ぼくも笑った。 「いいよ、好きなんでしょ。 またいっぱい買ってくるし」 「うひ」
姉ちゃんがこういうので怒ったことって ほとんどない。
「ねぇあれ、場所取りしてんのかな」 「かもね」 「いいねぇ。…綺麗だねぇ」 「うん。そうね」
『桜はあまり好きじゃない』なんて ここでワザワザ言うことない わたしの指はさっきから シャツのとれかかったボタンを弄んでる
お父さんの持ってきたお土産のお菓子
あんなに美味しかったのに
もう美味しくない
「オレ、早起きして見送るから、ぜったい声かけてってね!」
だけど今朝おきたら9時で
あわててお父さんの部屋みにいったら 布団が上げてあった
カラッポだった
みんなで朝ご飯っていいもんだなぁ… とお父さんが言って
姉ちゃんはバンソウコウを二重にして こりずに新しい靴を履き
ぼくは2回ころんで1回つっかえて 二人に笑われた
いつもの日曜みたいな気がした
5時すぎても空は明るくて ひょっとしたら今日は いつまでもお日様が沈まないんじゃないかって
そうおもった
夕方、おじいちゃんとおばあちゃんが来て お父さんと 居間で大人だけで話をしてた
とちゅう姉ちゃんだけが呼ばれて行き 次はぼくかなと思いながら待ってた
姉ちゃんが戻ってきて 「なんの話?」と聞いたら うーん、うん… と言って、台所の方へ歩いてく
ぼくもなんとなく付いてくと 姉ちゃんは 冷蔵庫をあけて閉めてあけて閉めてまた開けて マーガリンを移動させて プリンの賞味期限をみて元にもどして それから牛乳を手にとって振りかえり ぼくに「飲む?」と聞いた
わたしも飲もうかな、と言って 姉ちゃんは棚からマグカップをだしてきた ホットミルクなんかよりそのままがいいのに…
ぼくが三杯目をコップに注いでたら 姉ちゃんがビローンとしたのをこっちにつきだして 「食べる?」と言った ぼくがそれを噛みしめて「うおー」と喜んでると 「やだぁ、そんなもの」と言って イヤそうに可笑しそうに笑った
うちには 靴ベラってものがあったんだ
とか
靴ずれ? はりきって新しい靴なんか履くからだよ
とか
三人でもこんなに楽しいなんて お母さんにワルイかなぁ
とか
「…戦争、始まっちゃったね」 「そーなの?」 「うん」
「どうして戦争すんのかな」 「うーん……好きなんでしょ、きっと」 「あー。いるよクラスにも、ケンカ好きなやつ」 「そういうのっていつも同じ人だよね」
春分の日、お父さんが帰ってくる
姉ちゃんもうれしそうにしてて ハナウタなんか歌ってる
そーだ お土産はなんだろう?
食べるもんがいいなぁ
「やっぱ春休みがいちばんかなー」 「宿題ないからでしょ?」 「でへ」
「今年はクラス替えもないしね」 「うん」 「でも給食もない」 「うっ それはツライ…」
ここんとこ姉ちゃん元気ないから そーかベンピなんだなとおもって 牛乳飲んどけ って言ったら
「あたしベンピじゃないし牛乳なんかキライなのっ!」
こえー。
つーか
元気じゃん。
弟とわたしと どうしてそんなに扱いがちがうんだろう
でも そんな事にも慣れてしまっていた
「この子は手が掛かるもの」 「あんたはお姉ちゃんなんだから」
そうだね
弟は手が掛かるもん
わたしはお姉ちゃんだもの
弟が泣くと、わたしは母に怒られた
「どうしてちゃんと見てないの」 「あんたが付いてるのに!」 「あんた何かしたんでしょ!」
だから弟が泣かないように 泣いても すぐ泣きやんでもらうように気をつけていた
わたしが泣くと、母に笑われた
「へんな顔ね」 「いつまで泣いてんの?」 「何その目。親をにらんだりして…なんて子だろうね!」
だから泣かないように 泣いてもすぐにとめるように していた
アルバムの写真はどれも
弟のそばに母が立ち 弟の肩や腕に手を添えたり 手をつないだりしてる
わたしはその横にひとりで立っていたり 父と一緒に写っていたり あるいは写っていなかったり
写真って おもしろいくらい正直だ
「姉ちゃん貼って」 「ん」
ときどき こうして甘えてくるのは
「やだ、ツメ伸びてるじゃない」 「ん? あホントだ」 「切らないと」 「こんどでいい」
たぶん、それは
「うぉ、なんじゃこりゃ」
「姉ちゃん、きてきて!」 「なによ」
「ほら。」 「やーよ」
「ほら。」 「わ、ふやふや…」 「おもろ」 「ふふ、うん」
『冷ぞうこを見よ』 ん??
あら、イチゴ。
『食っとけ!!』 あはは…バカね。
わ、甘い… これ、高いほうのイチゴかも?
キュ、キュキュ…
『残りはあんたが食え!』
げっ 580円… 足りるかな(ゴソゴソ)
お、買える買える♪
でも あの子は待っている
母を 待っている
この熱も ノドも
バチが当たったんだ
あの子に見せずに手紙を破ったから
バチが当たったんだ
おととい、ポストに入ってた手紙。 薄いピンク色で花模様。
わたし達を捨てておきながら ピンク色の花模様。
『 心配しています 』
やぶった。
震える手で、粉々になるまで破った。
「ケホ。」
姉ちゃんが熱だした きのう傘なしで帰ってきたからだ
「…、……」
声が出ないから ぼくが先生に伝えておく事になったけど 姉ちゃんは不安なようで 口パクでまだ何か言ってる
「だいじょぶ、ちゃんと伝えとく」 「ケホ、……」 「いーから、寝てろって」 「…、……」 「らじゃ。行ってきまっす」
それって
梅じゃない?
先生の机に桜があってさ、 カワダが自分んちの庭から持ってきたらしいんだけど
でさ、 それをナカヤンが倒しちゃったんだ
「あっははは」 「ん?」 「だって、つむじが」 「?」 「こんなトコにあるんだもん… っくく」 「っせバーカ」 「バカはあんたでしょ、バーカバーカ」 「っせブース」 「……」 「ひひっ、勝ったー!」 「…夕飯ナシ、ね」 「うっ」
【わたしが弟について知ってること】
・名前を大きく書く(はみ出すくらい) ・足はやい ・すぐ靴下に穴あけちゃう ・めったに風邪ひかない ・けっこう泣き虫 ・お母さんっ子だった ・服のボタンをうまくかけられない
------------------------ 【ぼくが姉ちゃんについて知ってること】
・手ぇ冷たい ・ガミガミうるさい ・すぐ怒る(すぐ直る) ・なんでも忘れる ・牛乳きらい ・泣かない ・姉ちゃんの本さわると怒られる ・日記をつけてるっぽい(鍵付き引き出しにしまってるらしい)
あ カレー粉たりないかも…
ね ちょっと ルウ買ってきてくれる? あんたの好きなのでいいから
きょうの給食んまかったねっ ガーッと食べてすぐ並んだよ
ねね、 またカレーつくって! 中辛ね中辛っ
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