恋のさじかげん
れのん



 決別の効用

彼の手の大きさを、しっかりと覚えておこうと思うと、涙がこみ上げてくる。
彼の声のトーンを、聞き逃さないでおこうと思うと、苦しくなる。
彼の顔や、肌の感じ、匂い、そういったそれぞれのパーツは、
遠くへ行く私には、思い出になるのだと思った。
別れることを前提につきあい始めているのだと、
当初は考えもしなかった理由を後で付けている。
別れると思うと、どんな記憶でも、思い出でも、美化されていくように思えるし、
会わなくなると思うと、どんな辛いことも、消化されていくみたい。
人はそんなに強くはないし、そんなに都合よくも出来てないけど、
やっぱり、ふっきることで、少しは心を前向きにしていけるのだと思った。
決別の効用・・・・・・ほんの少しだけ気持ちを軽くできる。
           ほんの少しだけ辛さを前向きに変えていける。


2001年11月20日(火)



 宿り木

男の人をかわいいと思うこともある。
そして、ずるいとも思う。
女に生まれたら、その時点で、男のずるさも、かわいさにして、
許して、受け入れていくことは、決まっているのかしらね。
母性本能という言葉があって、それは、母親のみが持ち得るものではなく、
女性なら、愛すべきものが出来たときには、
知らず知らずのうちに振る舞っている、すべての行動と感情なのかもしれない。
母親じゃないけど、でも、時々は宿り木の様な、
ただ、傍にいて全面的に頼れる誰かを、
性別に関係なく、人は求めているのかもしれない。

2001年11月18日(日)



 不倫と分別

別れることは、私の気持ちのなかでは決まっているのに、
彼は、「頑張る」つもりらしい。
「いっしょに頑張ろう、」と言われたけれど、
苦さがこみ上げてきて、ただ、笑うことしかできなかった。
遠距離になることがわかってからの彼は、会いたがり、そして、抱きたがる。
いっしょにいたいと言ってくれるのは嬉しいけれど、
地元を離れるとなると、いろいろな人にも連絡して、
別れを惜しむ時間も、儀礼的であっても、感傷的であっても、
こなすための時間が必要で、私は彼との時間があまり取れそうになく、
それを彼は不満に思っている様子は伝わってくる。
3年間近で、3年間、なんのアクションも無ければ、
不倫は一生不倫のままだと、自分で暗示のように思い続けているから、
その期日が来るのと、私が関東に越す日が来るのが
ほぼ同時期になりそうなことに救いすら感じる。
それは有る意味、仕事のため、という大義名分にもなり、
好きでも、傍にいてくれない人を思い続けることの困難さ、
そして、家族のある人との恋愛の危うさ、もろさをますます感じさせるけれど。
本当は、はっきりと別れを切り出すべきだろうし、
けれど、こういったことでもない限り、私は別れを決心できそうにないのも事実。
ああ、どうしてこんなにはまっているんだろう。。。。
3年からは、愛着が湧くって本当ね。
他人のものでも、3年付き合ったら、やっぱり、自分のもののように、
匂いだとか、居心地が良くなってしまうものなのかしら。
それが、例え歪曲した何かを含んでいたとしても。。。
不倫は、純粋に好きかもしれないけれど、やっぱり純愛とは言えない。
不倫は、単純に好きになってしまった結果だけど、やっぱりやましい。
そして、とても、浅はか。
始まった時点で、気づかなければいけないこと、
肝に銘じておくべき事、、、、たくさんの制限と諦観があってしかるべき。
なのに、始まってしまったら、どんどん自分勝手に振る舞って、
好きを持てあましてしまう。
不倫をするのなら、大人の分別を持たなければいけないのね。
結果的に、彼を家庭から奪い、結婚することになっても。



2001年11月15日(木)



 内定

来年度からの仕事の内定をもらった。
私は、関東へ就職する。移り住む。
何となく、分かっていたことであり、
何となく、覚悟をしなければならなかったこと。
私はようやく、彼と別れる絶好の機会と、理由を得たことになる。
これで、私は会えない日曜のこと、日常に潜む家族の匂いに
おびえることが無くなる。
罪の意識から、逃れられる。
けど、彼が前に言った、「ついていく」と言った一言を、
真に受けてしまっていた自分を、情けなく思ったり、
ついてきてなんて欲しくないって、思ってみたり。
この内定が、二人の人生を分かつことになる。
そして、それは確実。
仕事をしたいと望んだのは私。
誰の代わりでもない、たったひとりの「私」になりたいっておもった。
彼の妻になりたいとは望まなかった私。
それは、略奪であり、彼の家庭の崩壊を意味するから。
誰かに恨まれたり、後ろ指刺されるような生き方はしたくない。
それは、きれい事ではなく、本当にそう思っていること。
だから、今回の内定は神様がくださった、最良のプレゼントなのだ。
唯一無二の自分を手に入れ、後ろめたさからも解放される、
彼との別れも、距離と忙しさのせいにしてしまえる。
これほどのよい条件なんて無い。
なのに、少しだけ胸が空虚で、風がわたっていくのを感じる。
大丈夫、私は強いから。
大丈夫、一人きりの日曜日は、きっと
すてきな時間になるから。
すてきな一人きりになるから。


2001年11月06日(火)
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