J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2005年12月23日(金)    君が欲しいんだ、、。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (16)


私は唇を離しレイの頬に軽く口付ける。
紅潮して熱いレイの頬。

私は頬擦りをするようにしながら、
レイの髪に顔を埋める。
短い吐息がレイの口から漏れる。

きつくぎゅうっとレイの身体を抱く私。
レイの首筋に唇を寄せ。
しっとりと彼女の首筋を愛撫する。

あ、、
あ、、あん、、

レイは抑えるように声を漏らす。
恥らうようにして。


(感じてる・・)

レイは“女”として部分が感じてた。
いかに恥じらい隠そうとも、
私には“それ”がわかりました。

女が“それ”を求める時に香る艶な香りが、
レイの身体から漂っていました。

そして“それ”に呼応して。
私も“男”としての部分が感じてた。

さきほど、しょんぼりと可哀想なほどに鎮められていた、
私の“私自身”は再び猛ていました。

恥ずかしげもなく。
そり立って。


私は唇をレイの耳元に寄せて。

、、囁く。

「君が欲しいんだ、、。」

・・

レイの力が抜けました。
胸の前で固く交差させていた両手がだらんと下がりました。

観念したように。


   2005年12月20日(火)    ふっと脳裏をよぎった言葉は、“恥じらい”・・。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (15)


だがレイの瞳の海の嵐を乗り越えた私には、迷いはなかった。
この場においての私はレイの“だめ”にひるむことはなかった。
先ほどのように、力が抜けてしまうことはなかった。(参照こちら

私は確固たる私の意思が私を動かした。
私の手はレイの両手を握り、力ずくで退けようとした。

一瞬力と力がぶつかる・・。

レイのこの自分の胸を触られまいとする力は、
本能的なものなのか、意思によるものなのか?
それとも?

ふっと脳裏をよぎった言葉は、“恥じらい”・・。


ねえ、レイ。
僕たちはひとつになるんだよ。
これから裸になるんだよ。
身も心も裸に。

恥らう君の心。
とても愛しいけれど。
でも。
今、この時は。

無理にでも君の心に着ているもの、
すべて脱いで。


私はもう一度レイに口付けました。
レイは唇を半開きにして受け入れました。
深く舌を絡め唇を吸うとほのかに甘い味が広がりました。

レイの閉じていた瞳がうっすらと開きました。
その瞳は恥じらいで熱く潤んでいました。
きっと“彼女自身”も、、。

(と私にはそう感じられました。)


   2005年12月18日(日)    一瞬、レイはびくっとして、自分の胸を両手で守りました。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (14)


宇宙に上も下もない。
天地が崩れ逆さまに世界がなろうとも、
私は宇宙の中心で立っている。
この宇宙は私の宇宙。

私には揺るぐことない精神がある。
私はレイの瞳の海に身を投じてひとたび自我を失った、
だが私は確固たる私を失うことはなかった。
レイの海に飲み込まれながらも私は、
レイを私の宇宙に飲み込んだのだ。


突然、嵐が止みました。
雲が切れ、光が全体に広がりました。
みるみると空が澄み切り青空が広がりました。

ふと見ると、私のすぐそばにレイが蹲っていました。
レイは嵐の恐怖と雨に打たれた寒さで身を震わせていました。
私はレイを抱き寄せて身を暖めました。

心配ないよ。
嵐は収まったよ。
もう恐れるものは何もない。

レイは私を見ました。
そして瞳を閉じました。

私はレイに口付けする。

愛してる。。

・・

ラブソファに座りお互いの瞳の奥を見詰め合っていた私とレイは、
いつしか抱き合って口付けを交わしていました。

自然の男女が自然に愛の営みとして交わす、
そんな口付けでした。

レイは瞳を閉じて私に身体を預けていました。
私の宇宙のなかでレイは安らいでいるようでもありました。
私は優しくレイの髪を撫でました。

やがて私の手はレイの髪から頬へすべらせて頬を撫で、
また頬から肩へ柔らかく触れてゆき、
レイのふくよかな胸へと移りゆきました。

一瞬、レイはびくっとして、自分の胸を両手で守りました。

(だめ、、)

そう言うようにして。


   2005年12月15日(木)    私は。胸高まり、、。レイの瞳に吸い込まれてゆくのでした。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (13)


レイの瞳は深い海のようでした。
私は吸い込まれるような気分になりました。

いつかもそうだったな。(参照こちら
あの時、俺はレイの深い海のような瞳を見て、
その深奥より光放たれる眼差しに胸が高鳴って、
ついその瞳の海に引き込まれそうになったのだった。

今またレイの瞳の奥には深い海が広がっていて、
熱く燃えるような光を放っている。

その光を見入っているうちに私は。
胸高まり、、。
レイの瞳に吸い込まれてゆくのでした。

・・

私はレイの瞳に吸い込まれるように、自我を失い、
気がつくとレイの瞳の海に漂っていました。

穏やかな海でした。
ぷかりぷかり浮いているとそのまま眠ってしまいそうな、
暖かな陽射しに溢れている海でした。

けれど、その海はとても深そうでした。
ちょっと潜ってみるとどこまでも深く海は広がっていました。
どんどん潜ってゆくと私はとても怖くなり、
慌てて海面に浮き上がりました。

すると、海は今度は揺らいでいました。
風が出てきたようです。
嵐がくるのだろうか。
私は岸を探しました、が、見渡す限り、海でした。

やがて海は大荒れに荒れてきました。
天地がぐらぐら揺れような荒れようでした。
波は何百メートルもの高さでうねりました。
雨は海面を刺すように叩き付けました。
風は水飛沫を一瞬にして遥か彼方に飛ばすほどでした。

だが、私は微動だにしませんでした。
風を受け、雨に打たれ、波を被っても、
海の中心で立ち続けていました。
そう、私は泳いでいたのではない。
海面に立っていたのだ!


   2005年12月13日(火)    ラブホテルのラブソファに座りふたり。。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (12)


「あれ?、工藤さん、またビール飲んでるの?」

レイは可笑しそうにくすくす笑ってそう言い、私の横に座りました。

「うん、なんだか、飲んでしまった。あはは。」

私はどうしてか力なく笑う。

「そう、、。もう飲みすぎですよ、工藤さん?」
「うーん、、。そう?」
「うん、そう。」

ふたりして「そう、そう」と言い合うから、それが可笑しくて、
私は今度は楽しくて笑う。
レイも私と同じように、楽しそうに笑った。

「ふふ、レイちゃん、ちょっとばかり長かったから、俺、ちょっとばかり心配したよ。」
「長かったって?」
「トイレ。」
「あは。」

今度はレイ、顔を赤らめて笑う。

「気分でも悪くなっちゃったのかな、って思って俺、」
「ううん、違うわ、。」
「じゃ、うんち?」
「また!違うわ!」

まったくも〜、工藤さんったら、、という顔のレイ、でも目は笑ってる。
あははは〜、っと私は笑って。

「じゃさ、、えっと、紙がなかったとか?」
「違います、!」
「じゃぁ、うーん、あれかな、やっぱ。」
「たぶん、違います。」

そか、と言って私は煙草に手を伸ばす。
レイを私のその手を見つめながら言う。

「あのね、工藤さん。」
「ん?、何?」
「私、ちょっと、ね。」
「うん、。」

ちょっと、考えた、んだろう?
今の状況、今の俺たち、それがどういうものなのか?

私はレイの次の言葉をまたずに言う。

「いやね、レイちゃん、俺も、ね。」
「俺も?」
「うん、。」

レイは私の顔を見入る。
私もレイの顔を見入る。
お互いの瞳の奥に何があるのか。
ふたりは見る。

ラブホテルのラブソファに座りふたり。。


   2005年12月12日(月)    俺は俺らしく最後まで、俺でありつづければいい。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (11)


ああ、だが。。
今や俺の“自身”は萎えている。
しょんぼりと、可哀想なほどに、鎮められている、。

ダメだな。
こりゃ。

私は部屋に備え付けの冷蔵庫を開けビールを取り出し、
どさっとソファーに腰をおろす。
コップにビールを注ぎ、一息にそれを飲み干す。

ん?
レイはどうしたんだろ?

私の意識は自分の世界から立ち戻り、
いまだトイレから戻らないレイに気がつく。

トイレにしてはちょっと長いな。
気分でも悪くなったのかな。
だとすると、、どうしたらいい?

それとも、、。
レイも俺同様にいろいろと考えているのかも?
あれこれ考えて出てこれないのかな。
だとすると、、どうすればいい?

ああ、もしくは!
俺の豹変を恐れているとか。
そうだな、俺はレイを襲うこともできる。
だとすると、、どうなる?

私はビールをまた注いで、今度半分ほど飲み、
深々とソファーに体を沈め、沈思黙考する。

ま、俺は俺だ。
俺は俺らしく最後まで、俺でありつづければいい。
俺は俺の望むままにあればいい。

レイの気分がすぐれないのであれば介抱すればいい。
レイがあれこれと考えているなら話を聞けばいい。
レイを抱きたければ抱いたらいい。
それでレイに拒まれたら、それでいい。

すべてはあるがまま、為るがまま、だ。


私が自分の考えを纏めあげた頃に、
レイはかちゃと扉を開けて、トイレから出てきました。
何でか照れたように恥らって、でも、にこりとして、
私の様子を伺うようにして、レイは私を見ました。

それはいつもと変わらぬレイでした。


   2005年12月09日(金)    レイは本当に望んでいないのか?

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (10)


なぜなら。
レイはホテルの入る時一瞬、
若干躊躇った様子もあったじゃないか。(参照こちら

この部屋に入ろうとした時にも、
さも当然のように部屋に入ろうとする私に、
レイは何かを訴えようとしてたじゃないか。(参照こちら

一個の男と女として互いの魂がひとつ炎と熱く燃えていたとしても、
もはや私たちを遮るものは何もなかったとしても、
それぞれの“個”を統一するそれぞれの自己が“それ”を望まぬのであれば、
ふたつの“個”はひとつになれない。

好きで好きで好きで、好きであっても。
愛して愛して愛して、愛していても。
互いが同じ時に“それ”を望まぬのであれば、
ふたつの“個”はひとつになれない。

無理をして身体を合わせ、
身体と身体をひとつにすることはできよう。
だが、それは所詮、身体的な結合に過ぎない。
魂と魂、心と心、身体と身体がひとつになってこそ初めて、
ふたりひとつに結ばれるのだ。

今、レイは“それ”を望んでいない。
俺がいくら望んでいても。
レイは望んでいない・・。


そう結論付けた私の中に、もう一人の私が現れる。

そうなのか?
レイは本当に望んでいないのか?
望んでいながらも、心がブレーキをかけるってことあるんじゃないのか?

レイの“自身”もまた潤んでいた。(参照こちら

俺たちは確かめ合うことなくても、感じ合い、
男と女の交わりの合図が反応しあっていたのじゃないのか?

身も心も溶けてとろとろと炎、
魂と魂がひとつになるその交わりの準備が、
既に互いの心と体において整ってきていたのじゃないのか?

だからこそ、俺の“自身”は猛ていたのじゃないのか?(参照こちら

俺がこれほどレイを感じていたというのに、
今、レイは“それ”を望んでいないだと?

レイは本当に望んでいないのか?


   2005年12月08日(木)    レイも、俺と同じく望んでいると思ってた。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (9)


・・

ふぅ。
私は一呼吸しため息を吐き、
多少覚めた目で部屋を見回す。

なんだかな。
なんでこんなとこに俺とレイは、いるんだろ。
ラブホテルだぞ、ここは、、。
つい数時間前には考えもつかなかった場所じゃんか。

私は今夜これまでの経緯を振り返る。
本来の工藤純一的思考が始められる。


俺は最初、レイのこれからのこと、の話を聞くために、
今夜レイを誘ったんだった。(参照こちら

それで、、レイが会社を辞めるって話になって・・。(参照こちら
これで終わりなんだな、ってことになって。(参照こちら

たぶんこれが個人的にレイと過ごす最後の夜だからと、
レイに対して一度も言ったことがない言葉を、
俺は最後にレイに伝えたくなったんだった。(参照こちら


で、俺はレイを連れ夜の公園に行き・・。(参照こちら

そこでお互いの思い出話をしているうちに、
だんだん自分の気持ちを抑えられなくなってしまった俺は、、
レイを抱きしめて・・。(参照こちら
あげく、キスをした!(参照こちら

そして。
俺はもう俺を止められなくなってしまって。
言ってしまったんだ、、。

「愛してる・・
 君を抱きたい・・」と。(参照こちら


だが。
「行こう、」と言葉にレイは何も答えなかった。
俺に従いここまで来たが、
レイは何を考えていたのだろう。

俺は、俺の望みを遂げたい一心で、勢いここまでレイを連れてきた。
レイは、その勢いに引かれて、ここまで来てしまった。
そう考えられなくもないじゃないか。

俺は、この夜を一千年の夢一夜と捉えて、
直前で見ながら立ち止まっていた一線を超えることを望んだ。
心と心、魂と魂、そして身体と身体の結合を望んだ。(参照こちら

レイも、俺と同じく望んでいると思ってた。
けれど、それは俺の思い過ごしで、レイはそれは望んでいなかった。
そう考えられなくもないじゃないか。


   2005年12月07日(水)    仮にも俺は工藤純一だ。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (8)


ダメ!?
ダメって!?
ダメって何が!?
この期に及んで、いったい何がダメなんだい!?

私は言葉が咄嗟にでなかった。

ダメ、、。
つまり、ダメ、ってこと、、?
つまりつまり、つまり、。
これからふたりがなそうとしていることが、ダメ、ってこと、、?

私はやっとのことで言葉を発しました。
「ダメ、、って。。?」
レイは、(うん)とばかり、こくんと首を縦に振る。
「やっぱり、、いけないわ、、。」
伏せ目がちにレイは言う。

「ん、、。」
私は言葉を飲み、レイを抱く私の腕の力が弱まる。
私とレイの間にひんやりとした風が吹く。


ああ、、。
なんという、、。

どうしようもこうしようもない。
私の思考はくるくる回るが、適当なアクションがおこせずに、
レイを抱き寄せたままにいる。

なんとかしなくちゃ。
なんとか、って?
何をなんとかするんだよ?

このまま押し倒して抱いちゃうかい?
力づくで抱こうとすりゃ“できる”ぞ。
やっちまうかい?

そんなこと、できるわけないだろう!
仮にも俺は工藤純一だ。
俺自身の沽券にかけて、そんなことは、できない。

好きなんだろ?
抱きたいんだろ?
やっちゃえよ?

好きだよ。
抱きたいよ。
やっちゃいたいよ。

だけど、愛してるんだよ、
だから、できないんだよ、
そんなことは!

私の思考はくるくる回るばかり。
そんな私にレイはおもむろに言いました。

「工藤さん、、?」
「、、?」
「私、トイレ、、」
「、、あ、ああ、」

私は力なく答えレイを離す。
レイは私を避けるようにして私の腕の中からすり抜けて。
トイレへ入りドアを閉めかちゃりと鍵をかけた。

私はぽつんと取り残されただ立ち尽くして。

ひとり、部屋。


   2005年12月06日(火)    工藤さん、やっぱり、、ダメ、、

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (7)


恋人関係でもなく、婚姻関係にあるわけでもない、
ただの上司と部下がふたり。。

引き返せない場所にさらに一歩、、
私とレイは踏み入れたのでした。


その部屋はさほど広くはなかった。
広くもない部屋なのに、ひとつ大きなベットと、
ふたり掛けのラブソファ、
そしてテーブルが置かれてた。

その他には特別何もない部屋。
そこは男女が“する”ためだけの部屋。
“いかにも”そのための部屋、でした。

3年の想いを重ねるふたりにとって、
いささかムードが足りない部屋ではありました、が、
今更あとには戻れない。

ここにきた、のだから。
ここまできた、のだから。
ここにある“今”がふたりのすべて。


私は部屋を一瞥してレイを抱き寄せる。
瞳を見つめレイの唇を求める。
「レイちゃん、。」

レイは硬く緊張した身体を私に預けながら、
瞳を閉じて私の唇に唇を合わす。
「、、工藤さん、。」

ふたりの唇は一瞬重なって、、
これからという時にレイは急に唇を離し、、
そして言いました。

「、、工藤さん、やっぱり、、」

「やっぱり、、?」

「やっぱり、、ダメ、、」

、、!


   2005年12月05日(月)    一千年の夢一夜

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (6)


俺たちは、ひとつになりたい、んだろう!

この今は、そのためにある、んだろう!

この先一千年の時を過ごしても、
もうこの今は二度と訪れない、この時、この夜、なんだ。
運命の綾が不条理に交わって生まれた今宵、一千年の夢一夜、なんだ。

垣間見た現実にうろたえてどうする?
クドウジュンイチよ、、。

私は現実存在としての自己を打ち消すように、
こう自分に言い聞かせた。

しかし、その迷いはレイにも確実に伝わったのだろう。
レイの炎はさらに鎮まってゆくように、
私には感じられていました。


一瞬垣間見た現実の私たち。
私とレイの関係。

恋人関係でもなく、婚姻関係にあるわけでもなく、
ただの上司と部下。
まして私は妻子ある身。

人目を忍ばなくてはならない現実。


だけど、。
だけど、好きなんだよ、、。
愛してるんだよ、、。

運命が、現実が、どうあったって!
どうしようもなく、好きで好きで好きで、好きなんだ、、よ、、。
愛して愛して愛して、愛しているんだ、、よ、、!

だから、。
だから、この今、だけは、。
レイとふたりひとつに結ばれたい、、。

一千年の夢一夜。。

・・

エレベーターを降り、私たちは部屋の前へ。
私はキーを挿し入れドアを開ける。
さも当然のように部屋に入ろうとする私に、
レイは何かを訴えようとしました。

が、。
私はその素振りを無視し部屋の明かりを点け、
レイを部屋の中に導きいれ、、
かちゃりとドアを閉めた。

、、ラブホテルの密室にふたり。


   2005年12月04日(日)    ばつが悪いものだよね、ああいうのって。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (5)


この世に生まれ点し続けてきた魂の炎が、
最も燃え盛るその時が近づいていることを証すように、
互いの魂がひとつ炎と熱く燃えている。

もはや私たちを遮るものは何もない。
一個の男と女として、は、だが。


エレベーターが降りてきて扉が開く。
タイミング悪く事を済ませたカップルと鉢合せする。
レイはびくっとして身体を私から離す。
カップルは何食わぬ顔で通り過ぎる。

私はレイの背をそっと抱き、素知らぬ顔でエレベーターに乗り込む。
レイの背から緊張した硬さが感じられる。
私はエレベーターのボタンを押し扉を閉める。
レイはふぅと小さくため息。

レイの身体が硬く強張ってゆくのが分かる。
レイの炎の熱が弱まってゆくのが、背を抱く腕から伝わる。
私の炎もまたそれと呼応して少し弱まり、
現実存在としての自己が頭をもたげてくる。

そう、たった一瞬であっても第三者と交わったその時に、
レイと私は現実に呼び覚まされたのだ。


「ばつが悪いものだよね、ああいうのって。」

私は意味のない笑みを浮かべてつまらない言葉を掛ける。

照れるわけでもなく、悪びれるわけでもなく、
ただその場をお茶を濁すようなその言い方。
冷めかけた情炎を再び燃え上がらせるには不適当過ぎる。

俺は何を望むのだ?
俺たちは何を求めているのだ?
この今は何のためにある?

そんな言葉より、もっと適した言葉があったろうに、。
ふたりっきりのこのエレベーターの中!


俺は、、レイを抱きたい、んだろう!


   2005年12月03日(土)    ひとつ炎に燃える魂と魂。それが、恋愛。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (4)


客観的に見れば私のこの時の行動は、
上司が辞めてゆく部下に酒を飲ませ誑かし、
ホテルに連れ込んだだけのことと映るのでしょう。
ましてその上司は妻子ある身。
倫理に照らして許されざる行動と、
人に言われることでしょう。

ですが。
恋愛の情愛においては、
理性も倫理も道徳も建前も立場もない。
すべてを超越して人は魂を燃焼させるのです。

一個の男として。
一個の女として。
ひとつ炎に燃える魂と魂。
それが、恋愛。

真に恋愛の経験がある者にしか分からぬ境地、
でしょうけれども。。

それが、恋愛、なのです。

・・

フロントで部屋を選び、私とレイはエレベーターを待つ。
いつぞやのことを思い出す私。
つい2ヶ月前の大阪の夜。(参照こちら

あの時の私は。
「なんだか、恋人同士みないだな、」と失言して、途端、
「レイちゃん、“彼”とは、うまくいってるの?」と聞いたんだ。

そして私たちは。
私には妻と子どもがいて。レイには“彼”がいて。
私とレイはただの上司と部下の関係。
そのことをはっきりと認識しあったのだ。

しかし今の私たちは。
ただひとつ恋愛の情によりて今ここにある。

一個の男として。
一個の女として。

ひとつ炎に燃えている。


   2005年12月02日(金)    私は連なるホテルのネオンを見上げつつ、

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (3)


同時にまた私は感じました。

レイの“自身”もまた潤んでいることを。。

私とレイは、。
確かめ合うことなくても、感じ合い、
男と女の交わりの合図が反応しあっていたのです。

身も心も溶けてとろとろと炎、
魂と魂がひとつになるその交わりの準備が、
既に互いの心と体において整ってきていたのでした。


私は連なるホテルのネオンを見上げつつ、
(どのホテルにしようか。。)
と、ほんのひと時立ち止まり思案する。
レイは私の胸に顔を隠すようにして、伏目がちに下を見ている。

そうだね。
こんなところを誰かに見られたら“こと”だ。

場末の所謂連れ込みホテルの風情にあっては、
どこも同じことだろう。

私は横文字で書かれたシャレた趣きのホテルを見定め、
そこへわき目をせず進み、
すっとエントランスをくぐり、
私とレイはそのホテルへ入りました。

あまりにもそれは自然の流れのように、
超えることのなかった一線を、
越えようとしているふたりでした。

レイはホテルの入る時一瞬、
若干躊躇った様子もありましたけれど。


   2005年12月01日(木)    たとえそれが一夜限りの夢であったとしても。

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (2)


この時の私は、、。
ただひとりの男としての本能が私を支配していたのです。

好きで好きでたまらなかったレイ。
そのレイとこれからひとつになる。
私はレイの肩を抱き、無我夢中の境地でした。

レイも、。
きっとそうであったに違いありません。
身も心もすべて私に預けるように、
何も言わず私に導かれ歩いていました。

私たちは上司も部下もない。
ただの男と女、でした。


私たちにはこれまで越えられない一線がありました。(参照こちら
それは超えてはならない一線でした。
あと一歩踏み出せば掴める互いの望みを、
直前で見ながら立ち止まっていた私たちでした。

しかし。
私たちはその一線を超えることを望みました。

たとえそれが一夜限りの夢であったとしても。
たとえそれが最初で最後の一度きりであったとしても。

私たちは思いを遂げてひとつに結ばれることを望んだのです。

愛という名の真実を確かめあったその夜、
心と心、魂と魂、そして身体と身体の結合を望んだのです。

・・

裏通りのホテルのネオンを見た時、
レイは頭を私の胸元に凭れかけました。

すべてを委ねるようにして。

私はレイを強く支えて、
より一層ぴったりとレイと寄り添いました。

大丈夫だよと言うようにして。


そして私はこの時気づきました。

“私自身”がもう、猛ていることを。。


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