J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2005年05月31日(火)    11. 一夜の夢

J (3.秘密の恋愛)

11. 一夜の夢 (1)


私はレイの肩を抱き、毅然として歩き始める。
レイは視線を斜め下に落として、
肩に掛かった私の腕に押されるように歩く。

夜間照明の落ちた暗やむ公園から、
ゆっくりと裏通りへと、
無言で歩くふたりでした。

裏通りは夜のホテル街へと続いていました。
ここ隣町の繁華街はその種のホテルが多いことでも、
ちょっと知られていた街でした。
そういうことを裏付けて考えると、
私ははなからこうなることを予測していたのかもしれません。

レイと話すために私がこの繁華街を選んだこと。(参照こちら
ホテル街へ続く裏通りのある公園にレイを誘ったこと。(参照こちら
それらは私の知らぬ私自身の下心がそうさせたのかも知れません。

言葉巧みにレイを信じさせて。
よくあるように最後に抱いて別れよう、
そんな腐れ男の下心?・・・が私にあったのか?

いや、そんなはずはない。
私は信念に賭けて、
そうした下心は持っていなかった。
考えてもいなかった。

結果的にこうなったのは、
すべては自然な流れでした。

誰がどう私をさげずもうと。

そんはずはなかったのです。。

・・

歩く二人は無言でした。
レイは何かを考えているようでもあり、
何も考えていないようでもありました。

私はと言えば、
何も考えていませんでした。
ただの男でしかありませんでした。

征服欲に基づく、
ただの男、、。


   2005年05月30日(月)    愛してる・・ 君を抱きたい・・

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (16)


私は唇をレイの唇から離し、
じっとレイの瞳を見つめました。
レイの瞳はうっすらと潤んでいました。

レイは“私”を感じているようでした。

そのレイの瞳を見て、
ついに私は、
言ってしまった、、。


「愛してる・・

 君を抱きたい・・」


その瞬間、。
レイは私の肩に顔を埋めました。

恥じらうように。

・・

君を抱きたい、、!?

よもやこの様な言葉を私が発しようとは、
この瞬間まで誰が予測できたことでしょう!?

だが私は言ってしまった。
その時の心の欲するままに、。


そう、。
私は抱きたくなってしまった。
レイが欲しくて欲しくて、
どうしようもなくなってしまった。

想いを重ねて、唇を重ねて。
衣服越しにレイの体に触れて、
ひとつになりたいって、
思ってしまった。
欲してしまった。

前後なんて何にも考えてなかった。
考えられなかった。

ただもう、その時だけの想いで、
その時の感情に任せて言ってしまった。

その時の心の欲するままに、。


レイは無言でした。
何も言わず、いや、何も言えなかったのでしょう。
私の肩に顔を埋めたまま、
じっとしていました。

私はレイの髪を優しく撫でながら、
耳元でそっと言いました。

「行こう。」

とひと言だけ。。


(10. 夜の公園で、の項 終わり)


   2005年05月27日(金)    私はレイの唇に唇を重ねました。ちゅっ、と。

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (15)


私はレイの唇に唇を重ねました。
ちゅっ、と。
初めは硬く閉ざされたレイの唇でした。

続けてまた私はレイにキスをする。
ちゅっ、ちゅっ、と。
うつろにレイの唇が開きました。

そして、。

3回目に私が唇を重ねた時には、
私とレイの舌は絡まり、
深い接吻となったのでした。


レイにキスをして、
私の思考はとろんと溶けてしまいました。

頭の中に何もありませんでした。
理性も倫理も道徳も建前も立場も、
まったく溶けてなくなってしまっていました。

妻子ある身ということも。
仕事上の上司であるということも。
私が何でここにいるのかということも。

まったく溶けてなくなってしまったのでした。


レイは私に身を預けていました。
私はレイの背中に手を回し、
支えるようにして抱きしめていました。

レイの体はぴったりと私に触れていました。
私はレイの体の柔らかな起伏を、
衣服越しに感じていました。


もう私は、、

私を止めることはできませんでした。



   2005年05月26日(木)    最後の最後の別れ際という時に。

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (14)


、、と、その瞬間。

その時を待っていたかのように、
バタと照明が消えました。

夜も更けて10時を過ぎていたのでした。
公園に付属する野球場やテニスコートの夜間照明が、
消されて当然の時刻ではありました。(参照こちら

だがあまりにもタイミングがよく、
あまりにも出来すぎた状況の演出。

暗やむ公園の一角で、
見つめあい抱きしめて。

最後の最後の別れ際という時に。

愛し合うふたりは何をするのでしょう。


私はもう一人の私に支配され、
今ここにある私以外の何者でもありませんでした。
今ここにある私、すなわち、
ひとりの男として愛する女を抱きしめている私。

私、僕、俺。

すべての一人称を超越して、
ただここにあるだけの私。

レイもまた、
そうであったかと思います。
一人の女として愛する男に抱きしめられて、
ただそこにあるだけのレイであった、
そう思うのです。


この時の私の瞳の奥には、
きっと熱い情炎が燃え滾っていたことでしょう。

レイはそれに気がついた、筈でした。

なぜなら。
レイはそっと瞳を閉じた、からです。


私を受け入れるために。



   2005年05月25日(水)    私の中のもう一人の私は、私の理性を超えて私を支配する。

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (13)


もう一度だけ、もう一度だけ、
もう少しだけ、もう少しだけ、。

ついさっき抱き合ったばかりなのに。
もう十分お互いの想いを確かめ合ったばかりなのに。
もう思い残すことはないと気持ちを断ち切ったばかりなのに。

もうちょっとだけ、もうちょっとだけ、
最後だから、最後だから、最後の最後だから、。

・・

ああ、この状況はあの時と似ている。
遠く記憶が蘇る。
あの時。
ふたりが初めて飲んだ夜。(参照こちら

あの時、あの瞬間。
レイとの別れ際、私は、、、
私自身をどうにもできなくなってしまったんだ。

私はレイを抱きしめて。
強引にキスをしようとしたのだった、、。


今もあの時と同じだ。
私はレイをもう一度抱きしめて、
それで済むわけがない。

私の中のもう一人の私は、
私の理性を超えて私を支配する。
私は情熱によってのみレイに接する。

わかっている。
きっとそうなる。
わかっている。わかっている。わかっている。


だがだめだ!
私はレイの瞳をじっと見つめ、、。

もう、、

既に抱きしめていた!。。



   2005年05月24日(火)    もう一度だけ、もう一度だけ、レイを抱きしめたい、

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (12)


もうこれっきり、これっきりと思いながら、
私は何度もレイを引き寄せようとする。
口ではきれい事を並べていながら、
心の中では捨て切れない想いで揺れている。


ああ、、。

俺は本当は自分のことしか考えていないんだな。
君の事を考えているとか口先ばかりで言って、
結局はこうなんだな。
自分のエゴを押し付けているだけなんだな。

だってそうだろう?
俺は今夜何度「帰ろう」と口にした?
俺は今夜何度これで終わりって考えた?

言うたびに、考えるたびに、
もう少しだけ、もうちょっとだけと、
この公園までレイを連れてきたのじゃないか。

そして我を忘れてレイを抱きしめて、、。
挙句、また、「じゃ、帰ろう、」?

と、言った途端に、、
また、最後の最後に抱擁したい、だ!

なんともなんとも、未練がましい、見下げた男だな、
俺って奴はよ!


だけど、、。

私の中のもう一人の私は、
そんな私の心の声に耳を貸さなかったのです。

もう一度だけ、もう一度だけ、
レイを抱きしめたい、
そう欲してやまないのでした。

抱きしめればそれで済む、
そんなわけは無いのに。。



   2005年05月23日(月)    未練がましい私、

J (3.秘密の恋愛)

10. 夜の公園で (11)


そして、、、。

そして私はもうその時が来たのだと、判断しました。
私とレイがそれぞれ自分に帰る時。
それが別れの最後の瞬間。

これでおしまい。
始まることなく終わる、
君と僕との物語。

・・

「、、じゃ、。」
と言って私は気持ちを振り切るように立ち上がる。
立ち上がりながら固く握りあっていた手を離す。
 
「帰ろう。」
私は努めてレイの上司である工藤純一に戻って言う。

レイは一瞬そうした私を恨めしそうに見つめ、
だが、すぐにいつものレイの口調で、
「はい。」と答えました。


レイはベンチの周りに散らかした、
食べ物の残りなどを集めてゴミ箱に捨てて。
私は飲み残したアルコールをぐいっと飲み干して。

再び見詰め合う私とレイ。

これでほんとにほんとに終わりなんだ。
言葉なく目と目で確認しあうふたりでした。


この時、私にはもう一人の私が、
私を支配し始めたのです。

私はもう一度、最後の最後にレイを、
ぎゅっと抱擁したくなってしまったのです、。


未練がましい私、でした。。



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