J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年05月30日(金)    私は私の実家に。

J (2.結婚)

10. 義母 (6)


義母が来た翌日、私は暇ができたので、
結婚式で世話になった方々へお礼の挨拶をしに出かけました。

もちろん私一人でです。

友美さんは臥せっているわけではありませんでしたが、
安静に、努めて安静に、生活をしていなければいけません。
車に乗ってほうぼうを回るなどは許されることではありませんでした。


行く先々では当然のように友美さんはと問われました。
私は訝しく思われてもいけないと思い、
友美さんに妊娠の兆候があった、と説明をし不義理を詫びました。

そう話すことで私はまた行く先々で喜ばれ、祝いを貰ったりして、
真実が切迫流産ということを隠している自分が辛くも感じました。



私は私の実家にも立ち寄りました。

実は友美さんの切迫流産について私の実家には知らせていませんでした。
無用の心配を掛けたくはなかったからです。
妊娠していることすらもはっきりとは知らせていなかったのです。

この時も友美さんの妊娠について話すことはやめておきました。
何故ならそれを話せば必ず私のうちに祝いにやってくるに決まっています。
私は友美さんは疲れて今日は来れなかった、とだけ言って終いにしました。


私の両親は訝しく私を思ったようですが、捨て置きました。
「まあ、落ち着いたらまた、今は忙しいので、」
と話半分で切り上げて私は早々に実家を後にしました。

母はちょっと寂しげに「またゆっくりおいで、」と言いました。

父は何も言いませんでした。


もともと父は無愛想な男でした。
ああまたいつもの父だとこの時も気にも留めなかった私です。

しかし。
次に会うのは病院のベットに臥した父、ということになろうとは、
この時は夢にも思わなかったことでした。

(友美さんは結婚式以来、私の父に会うことはありませんでした。
 父はこの2ヵ月後癌で倒れ、6ヵ月後亡くなります。
 同じ時期に生まれた新しい命と引き換えるかのように。
 そのことはあとの項で書くことになりますので、ここは筆を進めます。)


・・

夕方私は私の家である社宅に戻りました。

義母が用意してくれた夕食を食べながら、
私は義母と友美さんに翌日から仕事に復帰する旨を伝えました。

義母がきてくれています。
私が友美さんに付き添っていてもやることはない。
であれば早めに仕事に戻って仕事の穴を埋め戻したい。
…私はそのような主旨で話しました。

義母は、純一さんは精々稼いで貰わないとね、友美のために、と言い、
家のことは私がいるから大丈夫、ご心配なく、と言ってくれました。

友美さんは黙って私の顔を見ただけでした。


私と友美さん。

結婚式から新婚旅行という一連の行事はここで終わりました。

まさに夫婦としての生活がスタートしたのです。


(10.義母、の項 終わり)



   2003年05月29日(木)    義母は部屋の襖を閉めたあと無音になりました。

J (2.結婚)

10. 義母 (5)


その晩義母は台所を挟んだ向かいの4畳半に寝ました。

私と友美さんは一応夫婦ですので茶の間の奥の6畳に寝ました。

襖で仕切られた部屋は音がよく聞こえました。(参照こちら



義母はやることを済ますと割り当てられた4畳半の部屋に入りました。
その部屋は私の机や書棚が置いてあるだけの部屋で、
部屋に入ってもすることはあまりなかったと思います。
義母は部屋の襖を閉めたあと無音になりました。

TVなどを見て過ごしませんか、私は声を掛けました。
なんだかね、疲れてしまって、義母は答えました。
そうですか、いろいろとすみませんでした、おやすすみなさい、
私はそういって茶の間に戻りました。


友美さんは義母に勧められ早めに床に就いていました。
私は所在がなく、かといって自分ばかりTVを見ているのも何なので、
こっそりとウィスキーをゴクンと飲んで横になりました。
ストレートで。

純一さん、もう寝るの?、友美さんが小声で聞きました。
ああ、電気消すよ、おやすみ、そう言って私は灯りを消す。
おやすみなさい、友美さんは小さく言って静かになりました。



目を瞑り私は考える。

この数日といったら何だったのだろう?


結婚式を上げて、新婚旅行に行って、
二日泊まって帰ってきて、そして二日、、、

まだ4〜5日しか経っていないんだ、、、


なんだか随分といろいろあったものだなぁ、、、


結婚式の時はよかったな。
人生最高の幸せの境地にいたもんな。

二次会で嫉妬したな。
なんだか昔のことのように感じるな。

ああ、そして、初夜、、、。


そして切迫流産、か、、、。


こんなことになるなんて、
こんなことになるなんて、
こんなことになるなんて、、、


、、、



   2003年05月28日(水)    黙っている友美さん。

J (2.結婚)

10. 義母 (4)


夜になり義母と共に食卓を囲む。

再びまた私は緊張しながら食事をする。

ここは私の家なのに、、、。



ビールを飲む私。
純一さん。あまり飲まないことですよ、
友美がこういうことになっている時ですからね、という義母。
黙っている友美さん。

トモミさん、どう、食欲はあるの?と聞く私。
少し、と答える友美さん。
会話が途切れる。
タバコを探す私。

純一さん、友美の前ではタバコは辞めていただかないと、と義母。
あ、すみません、そうでした、と私。
そう、友美さんの実家ではタバコを吸わない私だった、、、。(参照こちら
そうでしたって、純一さん、子どもに影響したらどうするの?
もう、何から何まで、と呆れ顔の義母。
小さくなってビールのコップをなめる私。


私がビールを飲み終えるまで、
義母も友美さんもご飯を食べるのを待ってくれていました。
どうぞ、お義母さん、お先に召し上がってくださいと、
私は再三お願いしたのですが、いえ、それは失礼に当たりますからと、
じっと私が飲み終わるのを待っていてくれるのです。

私はそそくさと飲み干して、ではご飯にしてください、
そう言うよりありませんでした。


風呂もどうぞお先に、ということで私は言われたとおり先に入りました。
風呂から上がると、ごゆっくりと声を掛けられて、
ああ、これじゃ友美さんの実家にいるのと変わらないじゃないか、
そんな気分になってしまう私でもありました。

でも、仕方ないです。
友美さんの具合が悪いんですから。

それに義母は精一杯のことを私たちにしてくれているのです。

感謝こそすれ、不満を感じてはいけないのです。


分かってはいます。
分かっているんです。
いい人なんです、とっても。


でもなぁ、

もう少し、その、トゲのない言い方、してくれるといいのにな。

ふぅ。

その時の私の心中はそんな感じでしたです。



、、、当然夜も義母の管理下で私たちは眠りました。

当然です。



   2003年05月27日(火)    義母は注意深く私の表情を見ていました。

J (2.結婚)

10. 義母 (3)


その当時義母は50前でした。

確か47〜8歳だったかと思います。

まだ“女”でした。

そして、、、私は30歳、友美さんは22歳でした。



私が義母にきつく問い詰められている間、
友美さんは常の通りじっと黙って私と義母を見ていました。
自分の考えを言うでなく、私の立場を弁護するでなく、
ただじっとして小さくなって聞いているだけでした。

私と義母は大人、友美さんだけが子ども。
そんな感じでした。


「ホテル。はい、予約してあった熱海の温泉旅館に行きました。」
「、、、それで。」
「ええ、ゆっくりと、お風呂に入って。食事して。寝ました。」
「何事も無かったのですね、?」

義母は注意深く私の表情を見ていました。
私はその視線が辛くって、顔を背け友美さんを見ました。
友美さんは私の視線を避けるように下を向きました。
(私に聞かないで、お願い、純一さん、、、)
そんな素振りでした。

「何事もありません。ちょっと飲んで、普通に寝ました。」
「そう。また純一さんのことだから無理なことを友美にさせたんじゃないかと、
 私は不安を持っていましたのよ。まぁ、まさか、いくらなんでも、そうよね。」

(純一さんのことだから)、、、何という嫌味な言い方だろう!

しかし、実際に私はそれに近いことをしたのだ。
何といわれようが返す言葉も無い。


義母はちょっと間をあけてからまた聞きました。
「普通ねぇ、、、。本当ですね、純一さん。」
「はい。本当です。普通に、普通でした。」
「まぁ!普通に、普通!、、、純一さん。なんて言い方なさるの。
 こんなに友美が辛いことになっているのに、その面倒臭そうな言い方。」
「い、いえ、そういうつもりでは、なくって、ふつうです、すみましえん。」

私はしどろもどろになってしまいました。
義母は、はあ〜と聞こえるように深いため息をつき、
「ともかく、しばらくは、いろいろと我慢なさること。よろしいわね。」
「は、はい。よろしくお願いいたします。」

義母はひとまず私を解放して、友美さんと話し始めました。
私はともかくも頭を下げて、その場を退きました。


退くと言ってもここは私のうちですから、
トイレに立った後、用も無い用事を作って隣の部屋に入っただけですが。


・・

隣室で私はタバコを吸いながら考える。

そう、私は友美さんを抱いた。
だけど、それは普通のことじゃないか。
結婚して初めての夜なんだ。
そうすることが普通じゃないか。

それにそれは友美さんも望んだこと。(参照こちら


、、、しかしあの時のSEXは!

ああ、あの時、私がもう少し理性的であれば。

もう、取り返しがつかないことではあるのだけれど。



   2003年05月26日(月)    「ホテル、、、」義母は私の顔を伺いました。

J (2.結婚)

10. 義母 (2)


確かに私は愚かでした。

義母に問い詰められて批判的に当たられても仕方ありません。

私がもう少しの配慮をすれば、
こんなことにはならなかったかも知れないのですから。



義母は私を問い詰める、事の次第を知るために。

「それで、どこで何をしたの?」
「、、、ええと、まず、結婚式の翌日、ゆっくりしてから車で伊豆に向かいました。」
「まあ、翌日!、あんなに遅くまで友美を引っ張りまわしたのに!、」
「ですが、それは、予定していたことです、お義母さんもご承知のことで、」

義母は睨むような眼差しを私に向けました。

「、、、それで?」
「それで、途中で軽食を食べて3時過ぎに錦ヶ浦に着きました、」
「まあ、錦ヶ浦!、、、あんな危ない所に、、、!階段を上ったり下りたり、
 妊娠している友美には無謀じゃないですか、純一さん、」
「え、ええ、ですが、、、」

私なりに気遣いながら歩いたんです、(参照こちら
、、、その言葉は言えませんでした、
義母は私の言葉を遮るように言葉をつなげたものですから。

「いえ、無謀です、純一さんは男だから女の辛さが分からないのです。
 友美はおとなしい子だから、たぶんその時も辛かったのです。
 それを、あなたは分からなかったのです。、、、」
「、、、は、はい、すみません。」
「それで?」
「それでとは?」
「その後どうしたのですか?」
「えっと、ホテルに行きました。」
「ホテル、、、」

義母は私の顔を伺いました。
その目はイヤラシイ目をしていました。


く、そうだよ!
セックスしたよ!

私はそう吐き捨ててその場から立ち去りたくなりました。

が、そうはできません。

じっと、次の言葉を待つ私でした、、、。



   2003年05月25日(日)    10.義母

J (2.結婚)

10. 義母 (1)


2〜3日して友美さんのお母さまがやってきました。

友美さんの身体が安定するまでの間、家事を手伝ってくれるために。

私もいつまでも会社を休んでもいられなかったので。


私は友美さんの具合が当初思ったよりも悪いものではなく、
しばらく安静にしていればじきによくなると医者に説明を受け、
心の動揺がなくなり、周りのことがよく見えるようになっていました。

私の休暇は結婚式前日から10日間の予定でしたが、
新婚旅行から帰った今となっては、
いかに友美さんが切迫流産だからといっても、
同僚の目のある社宅住まいではいささか気まずいものがありました。

そして、友美さんの切迫流産については、
人に吹聴することではありませんので、
私は周りから好奇の目で見られ居心地も悪かったからです。



義母は来るなりきつく私を問い詰めました。

「まぁ、純一さん、まったくどうしたことですか。
 あれほど大事にしてくださいね、って言っておいたのに。」
「どうもすみませんでした。」
「結婚式のあとだって、二次会や三次会やら、
 遅くまで友美を引きずりまわしたそうじゃないの、」
「、、、すみません、、でした。」


私は初めて会ったときから、どうも義母とは相性が悪かったのです。

私が結婚を決意し初めて友美さんの実家にご挨拶をしにいった時、
私は悪い虫扱いで敷居さえ跨がせてもらえなかった。(参照こちら

結婚の許しを戴いた時には節操の無い人間のように言われ、
「結婚式を上げるまでは、子どもを作るような振る舞いはしないで下さいね」と、
きつく釘をさされたものだった。(参照こちら

ああ、しかし、私はその禁を破り、結婚前に友美さんを妊娠させてしまった。
そのことにより義母から私への信頼は、全くなくなってしまっていた、、、。


そして、今、切迫流産、、、。

、、、私は義母から全ての非を問い詰められる。



義母からすれば、何もかも私が悪いのです。

何もかも。


私と友美さんが職場で出会って結ばれた、

そのこと自体からして私が悪いかのように、

何もかも。


私が悪いのです、、、。



   2003年05月24日(土)    切迫流産!なんじゃそりゃ!

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (18)


しばらくして。

友美さんが診察室から。

出てきました。



「、、、トモミさん?、どうだった?」

友美さんは私の顔を見るなり涙顔になりました。
が、すぐにキッと堪えた表情をして私に伝えました。

「、、、切迫流産、だって。」

、、、切迫流産!なんじゃそりゃ!


私の頭は混乱しました。
なにしろ切迫流産なんて言葉、初めて聞いたのです。
ただ真っ直ぐに男として生きてきた私には縁がない言葉だった、、、

「そ、そ、それはもう駄目ってことか?」
「、、、」
「おい、トモミさん、どういうことなんだよ、」
「、、、流産になりかけている、ってこと、」

、、、流産になりかけている!


私は愕然として取り乱しました。
もうこの世の終わりかというばかりに。

「にゅ、入院、、し、しりつすんのか、しゅ、手術、」
「ううん、入院するほどじゃないの、」

、、、なんで!なんで入院しない!流産しそうなんだろ!


私は全く無知でした。
友美さんの一言一言を食い入るように聞き、
その都度頭があっちへこっちへ飛んでまとまりがありませんでした。


「どういうこと?、よく分からないよ、君の言っていること、」
「ちょっと出血していて、それだけ、」
「それだけ?」
「うん。一週間か10日、安静にしていなさいって、」
「安静?、安静にしていたら?」
「、、、大丈夫かも、」
「かも?」
「、、、うん、×××



そこまで話して友美さんは泣きました。
随分と辛かったのだろうと思います。
私に伝えることは伝え、そして泣く。

おろおろした私に比べ友美さんはりっぱだったと思います、、、。


私は、

私はただ、

溶けたアイスを持っていたにすぎませんでした、、、。



(9.切迫流産、の項 終わり)



   2003年05月23日(金)    トモミさんごめんね、アイス、溶けちゃってる、

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (17)


待合室でじっと待つ私。

そうだ、、、タバコ。

喫煙所、、、



アイス、、、


何で溶けていくんだ!
せっかく!、せっかく!、せっかく!
せっかくトモミさんのための買ってきたのにぃ!

溶けないでくれよぉ!
トモミさんが食べられないジャンかぁ!
おい!おい!おい!おい!おい!おい!おい!おいぃ!


・・

あーあ、
アイスが、アイスが溶けちゃうよ、、、
友美さん、どうしよっか、、、

ね、トモミさん、どうしよう、
アイス、溶けちゃってる、
ごめんね、、、


ごめんね、オレ、何にもしてやれない、
オレ、だめだ、
君のこと、何にもしてやれない、
こんなオレ、だめだ、、、


大切にするって。
大事にするって。
幸せにするって心に決めてたのに。

オレがしたことは、
ヤキモチ焼いて、無理をさせて、
労わりもなく君を抱いただけ、、、。

オレ、だめだね、、、



神様。
お願いします。

なんともない、ね、なんともないよね、

なんともないって、言ってくれよ、お願いだから、、、


・・

待合室に溶けたアイスと無力の私。

短い時間が長く流れました。



   2003年05月22日(木)    しかし。友美さんは既に診察室に入ってしまっていた。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (16)


私たちの新婚旅行はそこで途切れました。

私はその場でなんと答えたか覚えていません。

もう少し、もう少し、辛抱して、と、
祈るように友美さんに話していたようでした、、、。



車は高速を下り、そのまま近所の産婦人科へ。


こういう時に男は無力です。

その場にいるだけ。
ただ待合室でぼおっとしているだけ。

タバコが吸いたくなって、指を唇に当て、はぁとため息をつくだけ。



友美さんの方が意外にしっかりしていました。

私に、「純一さん、心配しないで、なんともないから。」と
私が逆に励まされたりしたほどです。

「おなか、痛くないの?」
「大丈夫、車から降りたらなんだか楽。」
「でも、さっきはとても辛そうだったよ、苦しそうだったよ、」
「さっきは、うん、つらかった、でも今は平気、」
「じゃぁ、大丈夫?」
「たぶん、。車に酔っただけかも知れないし。」


受付がすんで友美さんは私に告げました。

「ね、純一さん、お願いがあるの。」
「何、何、何でもやるよ。何でも言ってくれ、」
「アイス食べたい、」
「アイス?」
「うん、なんだか冷たいもの食べたいの、」
「だけど、おなか痛いんじゃないの?」
「、、、今は、痛くない、だから、ね。お願い、」
「分かった、待ってて。アイス、オレに任せておけ!」


私は自分ができる唯一の仕事を貰いうれしかった。

力いっぱいアイスを買いに行きました。

近くにパン屋を見つけ勢いよく入り言いました。
「いちっばん、おいしいアイス、下さい!」

パン屋の店員はびっくりしていましたが、
私にとってはこれこそ唯一できる仕事なんです。
どうして力が入らないことがありましょう。

ともかく人気があるというアイスを買い、
力いっぱいお金を払い、
力いっぱいアイスを握り締めて、
私は急いで病院に戻りました。


しかし。

友美さんは既に診察室に入ってしまっていました、、、。



   2003年05月21日(水)    友美さんは救いを求めるような表情で私を見つめ言いました。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (15)


私たちは互いに相手にとって良かれと思ったことをしているのに、
どうしても歯車が合わなくなってしまっていたのです。

私は友美さんの身体のことを思い、
友美さんは私に気を使い、
それがお互いに分かっているのにしっくりこない。

友美さんは気持ちが悪くって、
私は渋滞でイライラして、
言わなくてもいいことを言ってしまって黙ってしまった。


(ノド乾いた、か、、、)

しばらくして私は自分もノドが乾いたことを認めました。
しかし、どうすることもできない。この渋滞では。


はあ、、、。

半ば諦めて頭をハンドルに凭れていると、
徐々に車は動き始め、見る見るうちに流れ始めました、、。



運転手は現金なものです。
渋滞を抜け走り始めた途端、急に目が輝いて気分が直ります。

私もその口で俄かに元気が戻りました。


そして友美さんに軽口を叩くのです。

「あはは。もう、なんだったんだろうね、ほら、スイスイ走っている。
 トモミさん、もう少しだよ。我慢してね。♪す〜いすいっと♪」


しかし、友美さんの返事はありません。
横を向いたままじっとしています。

「どうしたの?トモミさん、ね、大丈夫?」


片手で友美さんの肩を揺らす私。

「トモミさん?、友美?」


友美さんは救いを求めるような表情で私を見つめ言いました。

おなかが、痛い、、、



   2003年05月20日(火)    私は冷たく友美さんに当たってしまった。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (14)


翌朝食事を済ませ私たちは約束どおり帰路につきました。

友美さんは見掛けは普通に見えました。

が、食事の様子を見るには、やはり普通ではないようにも見えました。


私は「どう?、」と聞いてみたいと思いましたが、
また「大丈夫、」という返事しか返って来はしないと思い、
聞かずにしておきました。

何故というに、そう聞くことにより、
帰ろうとしている私たちの理由がなくなることを恐れたからです。



帰りの高速は朝ということもあって順調に流れました。
ところが首都高に入ったあたりから渋滞しはじめ、
やがては動かなくなってしまいました。

ふと見ると友美さんは辛そうな表情です。

「大丈夫?、辛そうなかんじだけど、」
「ちょっと酔ったみたい、なんだか気持ち悪い、」

大丈夫だ、大丈夫だ、と言い張っていた友美さんが、
いやに弱々しく気分の悪さを訴えました。

(これは、そうとうに悪いのだ、、、)

私は困りました。
ここではどうにもしてやれない。

「もう少しだから、ね、我慢して。」


・・

私は渋滞の中、じりじりとして考える。

(やっぱり、昨日、、、医者に行っておけばよかったのかもしれない、、、)
(全ては私の判断の甘さなのだろうか、、、)
(後悔先立たず、なんてことにならなければいいが、、、)

じきに私はイライラしてくる。

(だけど、大丈夫って言ったのはトモミさんじゃないか、)
(オレがあんなに言ったのに、頑固に意地をはっちゃってさ、)
(もう、こんなんで何かあったら、オレ、立つ瀬ないよ、)


チクショー。早く走らねぇ〜かなぁ。


「純一さん、ノド乾いた、、、」

「ノド!?、あのね、トモミさん、この状況分かるでしょ。ジュータイ。
 オレ、君のためにジリジリしているんだから、少しは考えて物言ってくれよ。」


、、、私は冷たく友美さんに当たってしまった。


「、、ごめんなさい。」辛そうに息を呑み、横をむいた友美さん。

(オレだって、辛いよ。ったく。)そう思ってしまった度量の狭い私。

陰湿なムード漂う車の中、でした。



   2003年05月19日(月)    私は友美さんを横にさせました。・・・そして夜も更ける。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (13)


ホテルに着くとすぐにふとんを敷いて、私は友美さんを横にさせました。

友美さんは「もう大丈夫なのに、」と言って口を膨らませましたが、
「僕も少し疲れたから、」と言って私も横になりましたので、
どうもこうも言うこともなくなって結局は素直に横になりました。


しばらくして私は起き友美さんを見てみると、
ぐっすりと寝ている様子、まずはよかったと安堵して、
起さないよう静かに部屋を出て風呂に向かいました。

(これで何事もなければいいんだけど、)

湯船に浸かりながら私は腕を組みそう思いました。



夕食は部屋食でした。

友美さんはいつもよりは食が細く見えました。
が、しっかりと食べていました。
私は腹が減っていましたのでバクバク食べました。

考えてみれば私たちは昼飯を抜いてしまっていたのでした。


私はビールを一本だけ飲みました。

友美さんは私があまり飲まないことを心配して、
「純一さん、お加減でも悪いの?」と聞きましたが、
私は「いや、腹が減って、今夜は酒よりもメシだ、」と答えておきました。


私は、本当は飲みたかった。
飲んで心配事を消してしまいたかった。

でも。

飲んで酔っぱらってどうする?
ひとりで浮かれてどうする?

友美さんの身体の調子が今ひとつだってぇのに。

、、。

「トモミさん、あの、おなか痛くない?、大丈夫?、」

「ええ、お陰さまで、全然よ、」

笑顔を作って答える友美さん。
その瞳の奥の真実を見極めようとする私。


しかし、真実はふたりにも分っていなかったのです、、、


・・

そして夜も更ける。


友美さんも風呂に入り、

私ももう一度湯に浸かり、

頃合もよくなった頃、


私たちは別々のふとんで寝むりにつく、のでした。


、、、私は再び性欲を失いし者になっていました。



   2003年05月18日(日)    私は祈るような気持ちで何事もないことを願いました。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (12)


友美さんは芯が強い。

見掛けはおとなし目の友美さんですが、
一度こうと決めたらこうと、梃子でも動かない頑固さを持っていました。

それは結婚後私が知った友美さんの性格の一面でした。


結婚前に見えない細かな性質はお互いに必ずあるものです。
そしてそれは結婚後に徐々に現れ見えてくる。
私にとっては友美さんのこの芯の強さがそれに当たりました。



ですが、私もまた意地があります。

何故というに男が決定事項だとまで言ったことを翻すわけにもいきません。
たとえ友美さんが何と言っても、医者に行くと決めたからには医者に行く。
私は強制してでも友美さんを医者に連れて行こうと頑として言い張りました。


医者に行こう、と言う私。
大丈夫、嫌、と言う友美さん。

車の中で言い合うふたりでした。


・・

ふぅ。このままじゃ埒があかない。

そのうちに私は黙り込んで考え始めました。

友美さんもまた怒られた子どものように下を向き黙り込む。


じっとした時間が過ぎてゆく。


、、そして私は折れました。

友美さんがこうまで言い張るんだから大丈夫なんだろう。
やっぱりオレの思い過ごしかもしれないし。
見れば平気そうな素振りの友美さんだ。

こんなことをしているんだったらホテルに行って、
疲れている友美さんを休ませて上げた方がよっぽどいいに決まっている。


「わかったよ、じゃ、もう一泊だけしよう、君が大丈夫ならば。
 でね、明日は帰るからね、なに、また伊豆なんていつでもこれる、
 今は君の身体の大事を取ろうね、それで決定、で、いいだろ?」

友美さんはその言葉を聞いてホッとした表情になりました。
そして、「ごめんなさい、我が儘言って、」と頭を下げました。



私の不安は消えたわけではありませんでした、
でも、友美さんの希望も私は大切にしたかったのです、
私のことを思えばこそ無理している友美さん、その気持ちに答えたかったのです、

ですから、

私は祈るような気持ちで何事もないことを願いました。

友美さん、生まれてくる子ども、

共に無事でありますように。


・・

私は河津温泉のホテルへと車を走らせました。



   2003年05月17日(土)    友美さんは頑なに医者に行くことを拒みました。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (11)


私は友美さんの髪を撫で言い聞かすように言いました。
「トモミさん、ちょっと辛抱してね、」
「?」
(どうするの?)と言う問い掛けるような友美さんの目。

しかし私はそれに答えず、キッとした表情になり車を出す。
(医者だ!、医者だ!、医者だ!、医者だ!、、、)



私は医者という以外頭に浮かばなかった。
今すべきは友美さんを医者に連れて行くこと、
四の五の言って考えている場合じゃない。

駐車場を出て街道を走る、
友美さんは横を向いてじっと私を見ている、
私は医者を探しながら車を走らす。

(そうだ、闇雲に走っていても駄目だ。聞かなくっちゃ、)

私は動転していたのです。
ですから、医者、というだけで車を走らせていた。

私は慌てて車を横に止めて、道先の店で病院の在り処を聞くことにしました。



「トモミさん、ここで待っていて、すぐに戻るから、」
「、、、どうしたの?」
「お医者さん、どこにあるか聞いてくる、産婦人科、」
「!」

友美さんは医者という言葉を聞いた途端、驚いたように起き上がりました。
そして、ついさっき、弱々しく涙ぐむようにしていた友美さんが急に毅然として、
「純一さん、私、私大丈夫、ちょっと気持ちが悪かっただけ、
 お医者さんになんかいかなくっても大丈夫、ね、もう直ったわ、もう、」
と言う。

それは私にとって予測の範囲外の反応でした。



「そんなこと言ったって、さっきの君は尋常じゃなかったぜ、
 それに、君はまた無理をしている。正直に言わないと駄目だよ。」

「本当なの、大丈夫なの、ね、だから病院になんか行かないで、」

「、、、。」

「ね、旅行、続けましょ、お願いだから、、、ね、純一さん、」

「、、、。」

私は友美さんの必死の形相をまじまじと見ました。・・そして考える。


 彼女は嘘をついている、間違いなく。
 だがそれは私のことを思ってのこと。

 せっかくの新婚旅行、これでおしまい、そんなことになったらと、
 きっと友美さんは考えているに違いない。
 私さえ我慢すれば、そうすれば楽しい旅行は続けられると。


 だけど、トモミさん、それは浅はかな考えだよ。
 だって、もし、もし、もーし、妊娠に異常が来しているとしたら、
 それは旅行が続けられるとか楽しいっていう次元の問題じゃない。
 僕と、君と、生まれてくる子ども、みんなの問題なんだ。

 だから。医者に行こう。



・・私は考えを纏め、諭すように友美さんに話す。

「いや、医者に行こう、ね、君の気持ちは分かる、
 だけど、今は僕の考えを全てに優先させるよ、これは決定事項だ。」

「嫌。」

、、、思えば友美さんが私の考えに反対したのはこの時が最初であったかもしれない。

友美さんは頑なに医者に行くことを拒みました。



   2003年05月16日(金)    四の五の言っている場合じゃない。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (10)


その言葉を聞いた瞬間、私の心は凍りつきました。

愕然として体がガタガタ震えるようでした。

恐れていた事態が現実として明らかになった、

、、、そういう瞬間が訪れたのです、私の眼前に!



本当は、、、

本当は私はそのことを恐れれていたのだ!

明け方見た不吉な夢。
あれは私の恐れを表した夢だった。
私はその恐怖から逃げたかった。(参照こちら

だから、だから私は!

だから自分を偽ってビールを飲んだりして陽気になって、
いいようにいいように考えていたんだ!


本当はそうなんだ!

友美さんが苦しそうにしていたのも、
内心はそういうことかも知れないと疑う自分もいたんだ!

だけど、
だけどそれが本当にそういうことだとしたら、、、

私はそういうふうに考えるのが怖くって自分を偽っていたんだ!

そして、そうさ、友美さんもまだまださ、なんて、
くたびれているのさ、アルコールがのこっているのさ、なんて、、、


そうやって誤魔化していただけなんだ!

本当は、、、!


、、、。

本当のことを言えばそうなんです。


結婚式、二次会、そして新婚旅行、
それだけでも妊娠している友美さんにとってはキツイものだった筈です。

それなのに尚、私は彼女に酒を薦め、そして激しいSEXをした!


具合が悪くなって当たり前じゃんかよー!!!



・・

私はこの事態が尋常じゃないことを瞬間的に悟りました。

そして考えを巡らす。

(四の五の言っている場合じゃない。
 判断の過ちは後で反省すればいい。
 今考えるべきことは、今をどうするか、だ、、、)


私は一瞬逡巡しました、が、すぐに決断を下しました。


(医者だ、)



   2003年05月15日(木)    私は友美さんの顔を覗き込む。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (9)


私たちは無言でリフト乗り場に向かいました。

私はちょっと言い過ぎたかなとは思いましたが、
言い放ってすぐに取り繕うのも体裁が悪く思い黙々と歩いていたのです。

友美さんは、、、相当辛そうでした。
ですが私に叱られた手前、気力を振り絞って私に付いてきていたのです。


私は優しさが足りなかった、、、そう反省する苦い思い出です。


・・

私たちはリフトに乗って、再び駐車場に戻りました。

私は車のドアを開け、「ほら。」と友美さんを促して車に乗せました。
そしてシートを倒してやり、「少し寝たら?」と声を掛けました。
友美さんは、「ごめんなさい。」とだけ言って目を瞑りました。


私はドアを閉めてタバコに火を点けました。

さて、どうしよう、、、
これじゃぁどこに行くったってなぁ、、、


私は考えながら所在無く付近をうろつきました。

30分。

一時間。

それ位して私は車に戻って、窓の外から友美さんの様子を伺いました。

、、、友美さんは先ほど私がシートを倒した時のまま、目を瞑っていました。



再びまた私は所在無くあたりをうろつく。

どうしよう、、、
このまま寝かしておくよりないか、、、

何本も何本もタバコを吸いながら暇を潰す私、でした。

、、30分。

、、、一時間。

そして昼も過ぎていく。


私は結論を出しました。

もうホテルに向かおう。
早いけれどチェックインして友美さんに休んでもらえばいい。



車に乗り込み無言でエンジンを掛ける私。
友美さんはうっすら目を開ける。

「ん?、トモミさん、そのまま休んでいていいよ、
 もう今日はどこにも行かず、ホテルに行ってゆっくりしようね。」

「、、、xxxxx

友美さんは何かを言うが聞こえない。
その目は何かを訴えている。

「何?、聞こえないよ、」

私は友美さんの顔を覗き込む。
辛そうな、すまなそうな、そして涙ぐんでいるような表情。

「どうしたの?」

私は友美さんの唇に耳を当て声を聞き取ろうとする。



、、、。

そして、、、友美さんはやっと私に本当のことを伝えたのです。

おなかがいたいの。」、、、と。






   2003年05月13日(火)    私はそれが深刻な事態とはまだ思いませんでした。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (8)


私にとってはそれは青天の霹靂、突然の事態でした。

急に座り込んでしまった友美さんについて、
ただどうしたことかと問い掛けるよりありませんでした。

友美さんはこの世の終わりかというくらいに青ざめていました。


「どうしたの?、トモミさん、」

私は座り込んだ友美さんの顔を覗き込むようにして聞きました。

友美さんは、「ごめんなさい、気持ち悪くなっちゃって、」と答えました。



私はそれが深刻な事態とはまだ思いませんでした。
仕方ないなぁ、こんないい景色なのに、と舌打ちしたい気分でした。
何故なら私は友美さんからは何も聞いていなかったのですから。

友美さんが朝から下腹部に異常を感じていて、
私にそれを伝えることができずにずっと我慢していたなんて、
本人の口からはっきりと伝えて貰わなければ分からないじゃないですか。

せっかく、せっかく、良かれと思ってエスコートして、
大室山の頂上に着いた途端座り込んで気持ち悪いなんて、
なんだよ〜、って感じに思ってしまっても当然じゃぁないですか。


いや、今思い出すと、もっと配慮が必要だった、、、そう思います。

ですが、その時は私も若かった。
人を思い遣る気持ちがまだまだ足りなかった。

、、そこには調子に乗った愚かしい私しかいなかったのです。



それで、その時の私は友美さんに悲しい言葉を掛けてしまうのです、、、。

「トモミさん、具合が悪かったら早くに言ってくれたらいいのに、
 ここは頂上だし、休むところもない。
 もう、オレだって二日酔いのところを頑張っているんだぜ。
 君との大切な新婚旅行を楽しい思い出にしようって思ってね!」

ちぇっ、という思いが込められた言い方でした。


友美さんは私のキツイ言葉にショックを受けたように見られました。

(私だって、、、私だって純一さんに楽しくして貰おうと思って、
 だから頑張ってここまできたのに、、、!)

、、友美さんはそんな思いだったのかも知れません。



「大丈夫。」友美さんはキッとした表情をして立ち上がりました。

私はそんな友美さんを可愛くないと思いました。

「大丈夫なわけないだろ!、そんなふらふらで!
 無理するなって。君の身体は君だけのものじゃないんだぞ。」

私はことさら語気を強めて叱るように言いました。



友美さんは無言でした。

私は、「すぐに下に降りよう。」と言ってすたすた歩き始めました。

友美さんは無言で私に従いました。



気まずい雰囲気が漂うふたりでした。



   2003年05月12日(月)    ああ、私は妊娠について、あらましの知識は持っていたはずなのに!

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (7)


大室山の麓に着く頃、友美さんはたいそう具合が悪くなっていました。

下腹部の痛みは今朝ほどよりも収まっていたそうですが、
身体がだるく思うように動けなくなっていました。

それでも尚友美さんは私にそれを伝えませんでした。
何故かと言うに、私は陽気に明るく楽しそうに振る舞っていて、
そんな私を見ると、友美さんはどうしてもそのことを言い出せなかった、、、。


、、、悪循環、でした。


私は友美さんに楽しく旅行をしてもらいたいと思う。
友美さんはそんな私の気持ちに答えたいと思う。
なので、自分の体調の変化を私に伝えられない。


ああ、私は妊娠について、
あらましの知識は勉強して持っていたはずなのに!(参照こちら


その時の私は!
ことの全てを注意深く考えようとはせずに、
自分の都合のいいように考えていただけ、だった、、、。


そこには調子に乗った愚かしい私しかいなかったのです。


・・

駐車場に着き車を降りると友美さんの足取りは重かった。

私は友美さんの体調の異変を知る由もなかったので、
(まだ疲れが残っているのかなぁ、)というように思いました。

それで少しでも安心させようと、
「友美さん、しっかりしろって、リフトにのって上に上がるだけなんだからさ、」
と肩を押すようにしてリフト乗り場まで歩かせました。

友美さんは表情だけは明るく振る舞っていました。


・・

私たちはリフトに乗って頂上に。

そしてリフトを降りる、、、。


そこは360度の大パノラマ。

ぐるりと見渡すと、富士山、伊豆七島、南アルプス、、、。



私は友美さんの肩に手を回し言葉をかける。明るく清々しい声で。

「ね、トモミさん、素晴らしい眺望だね、」


その言葉に友美さんは凭れたように身体を私に預け、

「うん、ステキ、、、」とか細く言って、


私の顔をすまなそうに見て、


そして、座り込んで、しまった、


そこに、、、。



   2003年05月11日(日)    でも。無理させちゃいけないよん。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (6)


ビールを飲み始めた私は昨夜の酔いが戻って、すぐに上機嫌になっていきました。



そうさ、そうさ、
大丈夫さ、楽しくやらなくっちゃ、せっかくの新婚旅行なんだもの。

ふふふん♪

さて、っと今日はどこに友美さんを連れて行ってあげようかなぁ。
予定は未定、だって伊豆なんてどう行こうが心得ているもんネ。

でも。無理させちゃいけないよん。
友美さんのお腹には、なんたって子どもがいるんだもんね。

ふふふん♪っと。


二日酔いに朝風呂、そして迎え酒。調子にのっている愚かな私。
友美さんの気持ちも知らないで。



しばらくして友美さんが風呂から戻ってきました。
私はビール飲んで上機嫌。
部屋に入ってくる友美さんに「よ、お帰り!」と調子よく声を掛けるのです。

友美さんは私の機嫌を損ねちゃいけないと、
精一杯明るく振る舞う、それがまた私の誤解を生む。

(友美さん、やっぱり大丈夫だ、、、)ホッとする私でした。


そうさ、そうさ。

やっぱり友美さんはくたびれているだけさ。
ちょっぴりアルコールが残っていただけさ。


「トモミさん、どう?、僕が言った通りだったでしょう?
 風呂入ったらさっぱりしたでしょう?」
「ええ、とっても、」

そう友美さんは体調の辛さを隠して私に答えたのでした。



これなら大丈夫さ、ちょっとくらい。
僕がちゃんとエスコートしてあげれば大丈夫。

そっだな、大室山に行こう。
あそこならリフトがあるから友美さんも無理することもない。

城ヶ崎はどうかなぁ。
たくさん歩くことになっちゃうからなぁ。

うん、まず大室山に行ってそれから考えよう、、、



しばらくして朝食を取る、
友美さんは食が進みませんでした、

が、私は大して気にも留めずに、
今日の予定を明るく話していたのでした。



   2003年05月10日(土)    友美さんはくたびれているのさ。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (5)


「起きたんだ、布団なんてそこに畳んでおけばいいよ、
 どう?、君も風呂入ってきたら?、さっぱりするぜ、」

私は明るく友美さんに声を掛けました。
友美さんは布団をあげながら、
「ええ、でも、」と気乗りしない返事をしました。

見ると冴えの無い表情をしていました。



「どうしたの?、気分でも悪いの?」
「ううん、」
「顔色が冴えないぞ、」
「そう?、でも、大丈夫、ただちょっと、、、」
「?」
「ううん、やっぱり、大丈夫、」


ああ、また友美さんははっきり言わない。

友美さんはいつでも私に心配を掛けまいとして、
よっぽどじゃない限り弱音を吐きません。

私はそうした友美さんの胸の奥の奥を推量して、
次の行動を考えるのが常でした。いつでも。今も。



私はこの時友美さんは“くたびれている”と推量しました。

結婚式、二次会、新婚旅行、初夜、、、激しいSEX、、、
身重の彼女にとってはきついスケジュールだったはずです。

そしてまた私はこう推量しました。
友美さんは昨夜飲めないアルコールを飲んだ。
それがために若干の“二日酔いの状態にある”のではないかと。


“くたびれている”、“二日酔いの状態にある”、、、のであれば、
、、、そうだ、風呂だ、やっぱり、風呂に入るに限る。

私は友美さんを推量しこう結論を出しました。


「トモミさん、いいからオレの言うことを聞いて、風呂に入っておいで。
 君はたぶんくたびれている、そして若干アルコールが残っている、
 だから顔色が冴えないんだ、たぶんね、ほら、タオル、」

私はそう言って友美さんにタオルを渡し、肩を押して促しました。
友美さんは私の勧めに逆らうことができずに、
「、、、じゃ、入ってくる、」と素直にタオルを受け取り部屋を出て行きました。



(・・あとあとで聞いた話ではこの時既に友美さんは下腹部に痛みがあり、
 なんらかに異常を感じ不安を持っていたとのことでした。

 ですが友美さんはそのことを私に伝えることによって、
 せっかくの新婚旅行が、台無しになってしまうことを恐れたのです。

 ただでさえ私が楽しみにしていた南の島をキャンセルしているのに。

 ちょっと自分が我慢すれば、、、

 そう思って私にそのことを告げられなかったと、
 あとあとでそのことを聞いた私はただ溜息がでるばかりでしたが・・)


しかし、、、。

その時の私はそんなことは知りも知りません。
努めて明るく都合のいいように考える愚かな私しかいませんでした。


友美さんはくたびれているのさ。
アルコールが少し残っているだけさ。
風呂に入ってゆったりすれば大丈夫さ。


そうさ、そうさ。


そうだなぁ、
まだ時間あるし、、、喉が渇いたし、、、

ビールでも飲んで迎え酒、しちゃおうかな、っと。


そうさ、そうさ。

新婚旅行なんだもん、楽しくいかなくっちゃ。


(、、、愚かな私。)



   2003年05月09日(金)    ともかくも友美さんは喜んでくれた。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (4)


私はふらふらと最上階の浴場に向かいました。

朝の風呂場は空いていました。

二日酔いの私は沈むように湯に浸る、、、。



目を閉じて頭まで潜る私。
アルコールを頭から追い出したいかのように。

身体が熱くなると湯から上がり、
冷たい水をかぶり、また湯に潜る。

それを無言で繰り返す私でした。



じきに私の身体はしゃんとしてゆき、
少しは正常な思考ができるようになってきました。


夢の全てはアルコールのせいだ、、、。


私は都合よく、いや、都合のいいように考えることにしました。

ここは悔やむよりも、明るくいいことを考えようと。



  ともかくも友美さんは喜んでくれた。
  ともかくも友美さんとひとつになれた。
  ともかくも友美さんと大切な初夜を全うできたんだ。

  オッケイじゃん。


  あの果てた時のこつんとした違和感は、気のせいさ。
  あんなに酔っていたんだもの、
  それを取り立てて気にするほうがおかしいのさ。(参照こちら

  そうさ、そうさ。


  明け方のあの夢はオレに対するオレ自身の警笛だ。
  友美さんは妊娠しているんだもの、あんなSEXはしちゃいけない。
  そうさ、友美さんを大切にせいよ、っていうおのれの指示さ。(参照こちら

  そうさ、そうさ。



私は努めてことの全てをいいように結論付けて、
よっし、オッケイさ、と一声出して風呂から上がりました。


酔いも少し飛んで、部屋に戻る足取りはしっかりしていました。


部屋に戻ると友美さんはふとんをあげていました、、、。



   2003年05月08日(木)    その一言でわたしの心は落ち着きました。

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (3)


思い出さなければいいのに、いろいろな事が思い出される。

思い出すごとに私の頭は割れそうに痛くなる。

私は何本も何本もタバコを吸い、苦しみもがき頭を掻き毟る。



、、ああ、そうだ、、、

あの時私はうわごとでレイの名前を呼んでいたのだ、、、

そしてそれを友美さんに聞かれてしまった、、、(参照こちら



そのことを思い出し私の頭はカッとなりました。


違う!違う!あれは本当に違うんだ!
どんなことがあったって、たとえそうであっても、違うんだ!
オレにはトモミさんしか!トモミさんしか!


私はいても立ってもいられず、友美さんの傍らに行きました。

そして友美さんのふとんに入り込み、
眠っている友美さんを横から抱きしめてキスをしました。


友美さんはうっすら目を開けましました、、、。


・・

、、、純一さん?
、、うん、ごめんね、昨夜は、あんなで、、、

友美さんは首を横に振り、私の胸の中に顔を埋めて言いました。

、、、アリガト、うれしかった。


その一言でわたしの心は落ち着きました。
そして無性に友美さんが愛しくなってキツクキツク抱きしめるのです。



友美さんはいつもどおりの友美さんでした。

、、、つらくない?純一さん、たくさん飲んだから、
、、ちょっと、つらいかな、だから起きちゃって、

、、、今何時ごろなのかしら?
、、6時前だよ、、、、トモミさんはつらくない?

、、、大丈夫、よ、
、、でも、

、、、でも?でも、なぁに?純一さん、
、、うん、なんでもない。



私はすっと布団から出て立ちあがり普通の声で言いました。

「何でもないよ。トモミさん。あのさ、オレ、風呂入ってくる。
 もう少しゆっくり寝てていいからね。大切な君の身体、ゆっくり休めて。」


私はきょとんとしている友美さんの頬にちゅっとキスをして、
さっとタオルを取って部屋を出ました。


廊下を歩きながら私は思う。


、、夢の話はできない、と。



   2003年05月07日(水)    私は友美さんと確かに結ばれた、

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (2)


私はまさしく二日酔いでした。

頭ががんがん割れそうに痛い。

そして気色の悪い夢にうなされて目が醒めた、、、。(参照こちら



私は布団から出て窓際の椅子に腰掛けタバコを吸いながら考える。

昨夜の私、酩酊の上での“行為”、果たしてあれは夢だったのか、
現実だったのだろうか、それにしても生々しく思い出される夢の断片。



う、頭が痛い、、、

思い出そうとすると頭が割れそうになる、、、


私は友美さんと確かに結ばれた、ひとつになった、初夜を過ごした。

これは、確かなことのようだ、、、



レイ?、、、

そう、レイだ。

私はレイの夢を見たんだ、、、

生まれたままのレイの姿、そして。
はっきりと思い出されるレイとの“行為”、、、。(参照こちら


、、、ぐっ、ヘドがでそうだ、何と言う破廉恥な夢。



しかし、、、

レイのフルヌードは脳裏に焼き付いて離れない。

そして、、、“カラダ”の感触、、、。
あれはどうしたことなんだろう、オレの深層心理の為した幻想なのか。


うっ、ううう、、、頭が割れそうに、痛い、やめよう、考えるのは。



ともかくも。

オレは確かに友美さんを抱いてひとつになったんだ、、、。

確かに、、、。

間違いなく、、、。


・・

じきに、

私はあることを思い出すのです。

タバコを深く吸いながら、、、。





あれはいったい何だったんだろう、、、!



友美さんの中で果てた瞬間に感じた違和感。

何かにコツンと当たったような。



気のせい、、、、なのか。


(ああ、頭が割れそうに痛い!、)



   2003年05月06日(火)    9. 切迫流産

J (2.結婚)

9. 切迫流産 (1)


明け方、私は気色の悪い夢にうなされ目が醒める。

これは、結婚式の翌々日、新婚旅行の二日目の朝のこと。


・・

夢の中で私は赤子を抱いていました。

その子どもは生まれたばかりで可愛い赤子だったのですが、
よく見ると頭に傷がある、そしてその傷口には私の体液がついている、

私は「ごめんね、ごめんね、」と言いながら赤子の頭を洗うのですが、
いくら洗っても私の体液はこびりついて落ちないのです、

そのうちに赤子は「痛いよ、痛いよ、」と泣くのです、
どうしてか言葉を話す赤子の前で私は涙を流しながら謝っている、
「ごめんね、おとうさんが悪かったんだよ、ごめんね、」と、、、。

「痛いよ、痛いよ、」と泣く赤子。

「ごめんね、ごめんね、」と謝る私。



そこへ友美さんがやってきて私に言うのです。
「純一さん、もう赤ちゃんとはお別れなの、」と伏目がちに。

友美さんの両足には彼女の“自身”から流れでた血が滴り落ちていて、
見ると赤子もまた血塗られた顔になっている、、、。

異常なその光景にも関わらず私はただ泣いて謝っている、、、。

赤子は「痛いよ、痛いよ、」と泣いている、、、。

友美さんは私から赤子を受け取り、そして言う、
「いつかきっと、天国で逢えるわ、さようなら、純一さん、」



「待って!、おいていかないで!、もっと、」

そう言いながら、何故か私は裸なのです、何故か!
そして、私は勃起しているのです、何故か!

「あなたの、そのおぞましい性欲が、私たちをこんなにしたのよ、」
「そんな!」

そう言いながら、私は狂気の表情で友美さんを抱こうとする、何故か!

「あっ、嫌!、離して!、」

その時、赤子が私の“猛た棒”にしがみついて私を止める、
「ヤメロ!オトウサン、ヤメロ!、オマエノセイデ、オカアサントボクハ、、、!」

ああ!、

私はその刺激で射精してしまう、何と言うことだ!


血と私の体液にまみれた赤子、
ぐったりと横たわる友美さん、

私はまた、「ごめんよ、ごめんよ、ごめんよ、」と泣き濡れる、、、。



・・

そして、、、私は目が醒めました。

私の横には友美さんがすやすや眠っていました。

私は友美さんの掛け布団を直してやり、そっと額に口付けをしました。


(ごめんね、トモミさん、)


時計の針は5時を指そうとしていました、、、。



   2003年05月05日(月)    私の“カラダ”は友美さんの“カラダ”の中に入っていく、、、。

J (2.結婚)

8. 酔夢 (11)


私は必死でした。

頭の中からレイの虚像を払拭して、
友美さんのことだけに集中して、
ありったけの想いを込めて友美さんを愛撫しました。

友美さんの“カラダ”はもう既に何度も絶頂を迎えた後でしたので、
その余韻によって私の愛撫は彼女を恍惚の世界に導いていきました。

静かな悦楽の調べが彼女の身体を奏でているようでした。


私の“私自身”は友美さんの“カラダ”を離れた時のままでした。
依然としてほんのちょっとのシゲキでイッテしまいそうでした。

いつでもひとつになればそれでことが終わる、そんな状態でした。


やがて、、、。

私の身体がまた疲労を感じ始めました。
酔いによってまた頭がグラグラしてきました。

これ以上はまた先ほどの二の舞になるかというほどに、
懸命に友美さんを愛していた私にも限界が近づいてきたようでした。


私は友美さんに聞きました。
「トモミさん、イクよ、いい?、」と。

友美さんは穏やかな表情で答えました。
「うん、いっぱい頂だい、お願い、いっぱい、」と。


・・

私は友美さんの中に入っていく。

静かに、そっと。

私の“カラダ”は友美さんの“カラダ”の中に入っていく、、、。

静かに、そっと。

奥まで、奥まで、奥まで、、、


(あっ!)

(もう、イッテしまう、、、!)

なんともう“私”は極まってしまった!
友美さんの“カラダ”の奥まで到達したかしないかのうちに!


その瞬間、私は無我夢中で腰を動かしました。

乱暴なまでに友美さんを突き上げました。


、、トモミさん!、イ、イク、トモミさん!、

、、、純一さん!、いっぱい、いっぱいね、奥まで、もっと奥まで、、、

、、トモミさん!、あっ、トモミ!、さ、んっ!

、、、っ!


、、




・・


、、私は友美さんの中で果てました。

思いを遂げた私たちには至福の余韻だけが身体に残りました。

安らかな時を迎えて私たちは眠りにつく。
お互いに身体を寄せ合って。


しかし、その時に、

ああ、その時に、

私の“カラダ”は何かを感じていたのです。

、、、果てた瞬間に、何かにコツンと当たったような違和感を。



それは酩酊の上でのこと、

夢と現実が移ろう中でのこと、

そう、気のせいだったのかも知れません、



そうであって欲しかった、、、。



(8.酔夢、の項 終わり)


   2003年05月04日(日)    友美さんは身体の動きをとめて、

J (2.結婚)

8. 酔夢 (10)


私はもう本当にイキそうだったのです。

もうちょっとのことで、そうもうちょっと軽い刺激がハシルだけで、
私は心のうちから身体の隅々まで悦楽感に包まれる、その直前に今あったのです、

友美さんがまた聞いた、「純一さん、イキそう?、」という問いかけに、
イク、もうイクよ、と、私のカラダがそう答えていたのです、、、


なぜかというに、

私の“カラダ”は、イキたい、イキたいと嘶いている、
私の“カラダ”は、全てをこと終えんとして絶頂を迎えようとしている、


友美さんが友美さんであって、レイではなくって、
友美さんのカラダは友美さんのカラダであって、レイではなくって、
だからといっても、もう“私”が萎えてしまうことなどあり得ない、

結局私は夢と現実とが交差する狭間にあって、
友美さんとひとつになりながらレイを感じ、
レイを感じながら友美さんとの想いを遂げる、ことになるのだろうか、、、。


・・・夢うつつの私はそんなふうに頭の中で考えながら、
その最後を迎えようとしていました、、、。


そして、、、

友美さんは身体の動きをとめて、私の果てるのを感じ、
“カラダ”の内側を緩やかに締めて“私”を刺激する、、、



その瞬間、私の頭がカッとしました。
私は自分の“カラダ”を友美さんから抜きました。

イク直前に私は寸でのところでイカズに“私”を抜きました。

私はその時、はっきりと目が醒めたのです、、、。

(目が醒めたように感じたのです、、、。)



ダメだよ!そんなの!

ダメだよ!それじゃ!

私はおもむろに体位を入れ替えました、
私は正常位になって友美さんの顔を見おろして、しっかりと友美さんを見ました。


ダメだよ!それじゃ、トモミさんが可哀想ジャンか!
自分はイッテ、気持ちイイかも知れない、だけど、そんなのダメだ!

レイを感じて、友美さんの中で果てるなんて、ダメだよ!そんなの!

!!!


友美さんはワケが分らず、ぽーっと紅潮した顔のまま私を見上げていました。
私は友美さんに対して申し訳ない思いで溢れてきました。

私は優しく唇にキスをしながら、
「トモミさん、オレ、もう少し頑張ってみる、だから、一緒にイッテね、」
と言って、再び愛撫をし始めたのです、彼女の感じるところを。


・・

今、思い出せば、それも全て酩酊している中での、
異常な私の“行為”であったように思えてきます、


しつこいばかりの性への執着心、


言わば狂気の沙汰。


長い初夜が移ろっていく、、、狂ったように。



   2003年05月03日(土)    友美さんはまた小さな声で私に聞きました。

J (2.結婚)

8. 酔夢 (9)


友美さんはそっと身体を沈めていきました。

私の“カラダ”は友美さんの“カラダ”の中に入っていく、、、。

“私”は友美さんに包まれました。


  こ、これは、、、?
  これは先ほどの夢と同じじゃないか、、、
  私の“カラダ”がレイの“カラダ”の中に入って、
  “私”がレイに包まれたあの夢と同じじゃないか、、、(参照こちら


私は再び眠ってしまっていたのかもしれません。
夢の中でのことだったのかも知れません。
または夢の中と現実との境でうつろっていたのかも知れません。


これは夢、、、?
、、、私の意識は朦朧としていきまいた。

友美さんは再び「純一さん、イキそう?、」と小さな声で私に聞きました。

「、、、うん、」 ・・・私は目を瞑りました。


・・

友美さんはゆっくり腰を動かしました。
私は目を瞑り私の“カラダ”が感じているままに身を任せました。

  感じる、、、
  トモミさん、そう、ゆっくり、ゆっくり腰を動かせていて、、、



、、、しかし、この感触は、、、?
、、、これは、夢の中のレイの感触、、、

  (レイ!?)


レイ、そう思った瞬間、私の“カラダ”は急に性的感触を取り戻しました。

  ・ううっ、イイ、、、とっても、レイちゃん、、、・


私は現実には友美さんに包まれながら、夢見るようにレイに包まれて、
今まさに果ててしまいそうな“カラダ”に昇りつめてイクのです。

レイとして感じる“カラダ”は実際には友美さんの“カラダ”なのに、、、。

  ・イ、イイ、レイちゃん、レイ、もう、、、、・


ああ、私はまた夢と現実の境を移ろっているのです、、、


・・

私の脳裏には夢で見たレイの全裸が生き生きと浮びあがっていました。

  ・レイちゃん、もう、、、オレ、もうイキそうだよ、うっ・


レイの豊かな胸が私の眼前で大きく揺れていました。
私はその胸に手を伸ばす。

しかし、、、そこにはこぶりの小さな友美さんの胸がありました、、、。

  ・レイちゃん、!?・


私はハッとして目を開けました。
私の身体の上には当然に友美さんがいました。


そして、、、

友美さんはまた小さな声で私に聞きました。

「純一さん、イキそう?、」と。



   2003年05月02日(金)    そして、、、私は疲れてしまったのです。

J (2.結婚)

8. 酔夢 (8)


そして、、、私は疲れてしまったのです。

狂ったように“カラダ”を上下に動かしているうちに、
私の身体そのものは疲労していきました。

私は次第にハアハアと息を上げてしまい、
やがて、、、私は友美さんの身体の上に突っ伏してしまうのです。


しかし、私の“私自身”は頑強なほどに凛々しいままでした、、、。



友美さんは私が疲れてしまったことをすぐに察したようです。
彼女は私の“私自身”が未だイッテいないことも同時に察しました。

「純一さん、ありがとう、そんなに、、、私を思ってくれて、、、」

そう言って友美さんは身体をずらして私から離れ、
「今度は私が、、、」と言いながらするり私の身体を回り上になりました。



私は過度のアルコールによって朦朧としていたのに加え、
疲労によって全身がぐったりしてしまいました。

夢と現実の間をぐるぐると回る酩酊の世界にいるようでした。

友美さんの様子も自分の様子も朧にしか掴めなくなっていました。


ですから、
普段では決して考えられない女性上位の体位に友美さんがなったことも、
違和感もなくそれが夢の中での出来事の続きかの如く受け入れていくのです。


・・

友美さんは夢の時と同じように私の“私自身”を舌先で愛撫し始めました。

そう、正確に言えば、私にとっては夢の中、
友美さんにとっては現実に為した“私自身”への愛撫なのでしたが。(参照こちら

友美さんは私の“私自身”を優しく舐め上げました。
先ほどと同じように。

両手で優しく包み優しく扱くのでした。
先ほどと同じように。


ただ、先ほどと違うことは、
私の“私自身”はなかなかイキそうにないことでした。

夢の中ではあんなにイキそうになっていた同じ“行為”のなかで、
私は“カラダ”から伝わってくる快感が麻痺していたかのようでした。


私は再び眠ってしまっていたのかもしれません。

夢の中でのことだったのかも知れません。

または夢の中と現実との境でうつろっていたのかも知れません。



しかし、私の“私自身”は頑強なほどに凛々しいままでした、、、。


友美さんは心を尽くして私の“私自身”を愛撫してくれました。
夢の中での出来事のように。

両手で優しく包み優しく扱くのでした。
夢の中での出来事のように。


そして、、、

少しして友美さんは顔を上げて、

「純一さん、イキそう?、」と小さな声で私に聞きました。


私は、「、、、うん、」と申し訳なさそうな声で答えました。


どうしてか、そう答えました。

どうしてか、、、。



   2003年05月01日(木)    悲しいことに、私はなかなかイキませんでした。

J (2.結婚)

8. 酔夢 (7)


本当は、、、私は夢の中でレイに包まれていたのです。

レイの“カラダ”の中でレイを感じて、レイの“カラダ”の中で果てたのです。

それが実際には友美さんの“カラダ”の中であったとしても、
夢の中での私は、、、レイとして感じてレイの中でイッテしまったのです。


だが。

私はそれを認めたくはなかった!

レイなんて、私の中ではこれっぽっちも思っていないのに!
なのになんでレイが夢の中で現れる!、なんでオレを!、なんでオレが!


、、私は友美さんを抱きながら狂ったように“カラダ”を動かして、
心の中でこう連呼する、、、。
(ごめんね!、トモミさん、ごめんね!、ごめんね!、)


・・

抱きながら、私は友美さんの名前を一生懸命呼びつづけました。
「トモミさん!、トモミさん!、トモミさん!、」と。

抱かれながら、友美さんは私の名前を呼びつづけました。
「純一さん!、純一さん!、純一さん!、」と。



、、友美さんの“カラダ”の中は、
彼女自身の愛液と、、、夢の中で果てた私の体液でぐちゃぐちゃでした。

、、私の頭の中は過度のアルコールによって、
夢と現実とがぐちゃぐちゃに交差していました。

、、何もかも、ぐちゃぐちゃでした。

、、私は、狂ったようでした。



・・

悲しいことに、私はなかなかイキませんでした。
“カラダ”を上下するばかりで“カラダ”から感じるものがありませんでした。

酒のせいかもしれません。一度果てたばかりだからかも知れません。

しかし、、“カラダ”としての凛々しさは萎えることなく持ち続けていました。


友美さんはもう絶頂を何度も迎えているようでした。

これほどまでにというほどに、歓喜の声をあげながら、
私にしがみついてそして至福の世界を浮遊しているかのようでした。



私は、ただただ狂った獣のように“カラダ”を上下していました。

ただただ、友美さんの名前を連呼して。

友美さんは、我を忘れて全身で悦びを表していました。

歓喜の声で私の名前を連呼して。


、、、それは、

夢と現実が交差する朦朧とした中での“行為”でした、、、。



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