J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2003年02月25日(火)    恋愛に過去なんか関係ありません。

J (2.結婚)

4. 二次会 (8)


私は友美さんに私と知り合う前の男性関係を聞いたことがありません。

私が聞くってことは私も話さなくてはなりません。

私が私の過去の女性関係を友美さん話したとしても、
私にとっては心苦しいことは何一つありません。


ですが、、、
友美さんにとっては辛いことも中にはあるのです。



過去のこと、終わったこと。

わざわざ悲しい思いをさせるために真実を語るべきでない。

私はそう考えていました。


学生時代の恋愛については、相手が既に結婚していたこともあり、
私は友美さんにすべて思い出話のように話してやりました。
もちろん、誰とどこでキスをして、どこでSEXをしたか、
というような話はオミットしました。


社会人になってからの恋愛については一切話していませんでした。

何故なら友美さんも知っているオンナとの付き合いもあったからです。

そのオンナとはキチンと整理をして別れていましたので、
私にとってはやましいことはなにもなかったのですが、
そのことを敢えて話すことはそのオンナへは無礼にあたります。
また、友美さんにいらぬ気遣いをさせることにもなります。

ですから私はあえて話さなかったのです。



恋愛に過去なんか関係ありません。

目の前の相手を愛する。信じる。

それだけです。


互いの過去について聞かず語らずにいて当然、

私はそう考えていたのです。


友美さんにも初恋があり、恋愛もあり、失恋もあったのでしょう。

私がそうであるように。

そのことを知ってどうなるものでもありませんし、
そのことを知ったとしても何の価値も生み出さない。

であれば、あえてそれを知る用はないのです。



ところが。

そんな私であったはずなのに、、、

私はこのケンジという男が何故か気に懸かりました。


友美さんとどういう付き合いがあったのだろう?
幼馴染とはいえ呼び捨てで呼び合う程のこの親しさは?
声をかけてもいないのにワザワザ結婚式の二次会に来るのは何故?

、、、あの電話の男?

友美さんに結婚を5年待って欲しいと電話を掛けてきた男、、、。


頭の中にクレッションがいくらも浮かんでくる。


とは言え。

今は聞けない、友美さんに。

この場では、聞けない。



この席では、

友美さんに、、、聞けない。


   2003年02月24日(月)    今の僕は君と生活できるだけの稼ぎがないけれど、

J (2.結婚)

4. 二次会 (7)


この男じゃないのか?

私は頭の中でぐるぐる考える。

この男じゃないのか?

、、、


私は友美さんから聞いたことがあります。

私と友美さんが友美さんのご両親から結婚を許されてから、
随分と経った時だったかと思います。
友美さんは、ぽつりと言ったことがあります。

そう、本当に、ぽつりと。

どうでもいいことなのよ、というように、、、


「純一さん、昨日ね、」
「うん?、」
「昨日の夜、電話があったの、」
「うん、誰から?、」
「同級生、」
「何だって?、」
「う〜ん、結婚するのか?、って、」
「男?、女?、」
「男。」
「それで?、」
「それで私、そうなのよ、って言ったの、」
「ふ〜ん、それで?、」
「そうしたらこんなこと言うの、待って欲しい、って。
 今の僕は君と生活できるだけの稼ぎがないけど、5年待って欲しい、って。」
「で?、」
「それだけ、」
「ふ〜ん、で、友美さんはなんて答えたの?、」
「待てないわ、って、」
「ふ〜ん、そうしたらその、男の子、なんて言ったの?、」
「分った、って、」
「それで?、」
「それだけなの、どうでもいいことなんだけど、、、
 一応純一さんには話しておかなくちゃいけないかな、って思ったから、、、」


、、、私にとってもどうでもいいような話でした、この時は。

何でかって言うと、
友美さんは本当にどうでもいいような口ぶりで話したものですから。


しかし。

改めて思い出すと何だか気に懸かる、、、


、、、

この男じゃないのか?

その時の電話の男って?



   2003年02月23日(日)    だけどなんでワザワザこいつは

J (2.結婚)

4. 二次会 (6)


人のやさしそうな男でした。

学生か、それとも社会に出て日の浅い、それ位に見えました。

私は一瞥して、大したことない奴だな、と判断しました。


しかし、この男、友美さんを呼び捨てにした、、、。


私は私で、私の友人が話し掛けてくるので、
友美さんとその男の話に加わることができなくいました。
ただ耳はそちらに向いていました。

男は言いました。
「トモミ、結婚おめでとう、よかったね、」と。

友美さんは嬉しそうに答えました。
「あ、ケンジ、来てくれたんだァ、ありがとゥ、でも、どうして?、」
男もにこやかに答えました。
「うん、トモミのお母さんに聞いてね、で、さっちゃん達に聞いて、」
「そうなんだ、」と友美さん。
「そうそう、」とその男。

息がピッタリ合っている、、、


ケンジ!?、なんなんだ、こいつ!?、


ケンジという男は友美さんを呼び捨てにしている、
友美さんもこの男をケンジと呼び捨てにしてる、

どういう関係なんだ?、このふたり。

オレダッテ、トモミサンヲ、ヨビステニシタコトナド、ナイノニ。


私は横目でちらっとふたりを見ました。

友美さんとケンジという男は私のほうを見ずに話してる。にこやかに。


私はたまらず聞きました。
でも、ふたりが呼び捨てで呼び合っていることなど全く気にもしない振りをして。

「トモミさん、誰?、紹介して?」
「あ、純一さん、ゴメンナサイ、私の小学校時代の同級生なの、
 長谷部健二君、家も近くって幼なじみなのよ、」
「クドウサン、ですね、初めまして、ハセベっていいます、」
「あ、そうなんだ、よろしくね、そっか、幼なじみかぁ、」


私はまじまじとふたりを見比べました。

幼なじみか。ならば呼び捨ても納得できる。

だけどなんでワザワザこいつはオレたちの結婚式の二次会に来たんだ?


ワザワザ、。

誘ってもいないのに、。


話はそこで途切れ、、、

私はまた私の友人に酒を勧められその友人との会話に戻る。
友美さんと長谷部健二はまたにこやかにふたりで話をし始める。

私には、「トモミ、」「ケンジ、」と呼び合う声だけが耳に響く。



私の頭の中はぐるぐると回る。


なんだ?なんだ?なんだ?


   2003年02月22日(土)    友美さんを呼び捨てにする男。

J (2.結婚)

4. 二次会 (5)


私は幸せの絶頂にいた、

となりには結婚したばかりの妻友美さん、

周りには私たちを祝福してくれる大勢の人々、


私は幸せの絶頂にいた、

私はこれからの自分に輝きを感じていた、

私は友美さんを愛し守り大切にし、生まれてくる子どもに希望を与え、

ここにいる全ての人々と共に将来に向かって生きて行く、


なんと幸せな時、

なんと満ち足りた時、

なんと嬉しいこのひとときであろう、オレよ!


オレよ、この幸せを噛み締めて忘れるな。

オレよ、この満ち足りたひとときを感謝をもって受け止めよ。

オレよ!、オレよ!、オレよ!、、、


私は幸せの絶頂の中で私自身に対しこうして連呼していました。



鏑木さんたちのあとも一気飲みは続きました。
私は昼の披露宴からかなりの量のアルコールを飲んでいました。
しかし、いくら飲んでも大丈夫でした。
いくらでも飲めました。
誰が誰やら分からないくらいに次から次へと酒を勧められ、
次から次へと飲んでいる私でした。

みな口々にお祝いの言葉やら、思い出話やら、話し掛けてくれました。
私はいちいちにお礼の言葉を返し、そして酒を飲みました。


そして。

ひとりの男が私と友美さんの前に立ちました。



その男は、、、


私をチラリとも見ずに、友美さんに話し掛けました。

「友美、、結婚おめでとう、よかったね、、、」



私には初めて見る顔、でした。


私の妻、友美さんを呼び捨てにする、この男。

何者?


   2003年02月21日(金)    その時は、私は幸せの絶頂にいた、

J (2.結婚)

4. 二次会 (4)


二次会は始まりしばらくは歓談の時間。

この時私はあの男と出会う。

私はこの時の印象を忘れ得ない。



この会場にいる全ての人々が私と友美さんを祝福してくれている。

友美さんはキラキラ顔を輝かせ喜びに溢れている。

私たちは幸せの絶頂にいる。



友人たちが次から次へと私と友美さんのところへやって来て、
祝福の言葉を言いながらビールやら酒やらを注いで行く。

会社の同僚、小さい頃からの友人、知人、懐かしい顔、見飽きた顔、、、
友美さんの友人、はじめてあった人々、これからよろしくと声かけて、、、




あまりの人の多さに私たちの席のまわりはごった返していました。


私のセクションのみんなも来てくれました。

鏑木さん、矢崎、宮川、、、そして、レイ、も。


私は鏑木さんたちにいきなりビールの一気飲みをさせられました。
その間にレイは友美さんに花束を渡し、
にこやかに「おめでとうございます、」と友美さんに言葉をかけました。
友美さんは、
「わ、キレイね、ありがとう、これドライフラワーにして大事にするわ、」
と嬉しそうに話していました。

私は横から、「レイチャン、ありがとう、」とだけ言いました。
鏑木さんが「ガハハ、飲め、飲め、」と盛んに煽るので、
結局その時はそれ以上の話はできなかったのでした。


ただし、
レイと私はもう終わったことですし、
いや、終わるも何も、始まってもいなかったわけですし、
私はその時は何も感じませんでした。

レイと顔を合わせても何も感じない。
もうすっかり私はレイへの恋愛の情を封印できていたのです。



その時は、

私は幸せの絶頂にいた、

それが私の心のうちで何よりも勝っていた、

そういう時だったのです。



そこへ、あの男が現れる、、、のです。



   2003年02月20日(木)    また、延々と飲むんです、

J (2.結婚)

4. 二次会 (3)


一呼吸おいて幹事がマイクを持ちました。

「ええと、有り難うゴザイマシタ。人前でよくやるな、って感じですが、、、
 ま、いいでしょう、とりあえず新郎新婦はそこに座って、そう、、、うん。
 、、、では、さっそく乾杯します、みなさん、準備はいいですか?、、
 え?、なんですか?、、、あ、そうすね、私は何者か、言わなくちゃ、ね。
 えっと、私は新郎純一君の小学校時代からの友人で都築って言います。
 小学校、中学校と一緒で、高校は違うんですけれど、
 バンドなんかを一緒にやってまして、あ、あとで披露しますからね、
 で、そんなわけで、純一君のことは裏も表も何でも知っている奴です。
 な、純、ヒミツ、バラシチャオウカナ、、、な〜んて、ウソですよん。
 純は本当に真っ直ぐな奴です、オレが保証する、友美ちゃん、信じていいよ。
 え?、話が長いって?、そうっすねぇ、ゴメンナサイ、では、みなさん、
 とと、誰か乾杯の音頭をとってもらわなくっちゃ、えっと〜、」

私はちょこっと幹事の都築に耳打ちしました。

「了解、では、新郎純一君のご指名ですのでよろしくお願いいたします。
 ○×会社部長の部長さん、よろしくお願いしまッす、」

部長は「なんだよ、こんな席でもおれか、」とか言いながら、
ニコニコして出てきてくれました。でも、かなり酔ってるゾ。

「え、新郎のご指名でありますので、はなはだ僭越ではありますが、
 ひとこと!、新郎新婦になりかわり、ご挨拶をさせていただきます、」

、、、って、部長、挨拶はいいんですって、乾杯、乾杯の音頭ですよ〜。


長々とした挨拶、ブ〜イングだぞ、これは。


「とまあ、ふたりはそういうわけで結ばれたのでして、私としても、、、」


、、、部長!、部長!、それくらいでいいっすよ〜。


「つまり、工藤君は我が社のホープでして、あ〜、将来を嘱望される、、、」


、、、あちゃ〜、完全に自分の世界に入ってるゾ。


「、、、ということです、工藤君、ガンバレよ、これでアイサツおわり!、」


幹事、やっと終わったかという声で、部長に声をかけます。

「すみません、ありがとうございました、で、乾杯の音頭は、?、」

「おお、そうだった、それではみなさん、グラスをお持ちください、」

ザワザワザワ、準備オッケイです。
部長、さすがに堂の入った調子で声高らかに、、、

「純一君、友美さん、おふたりの結婚を祝ってカンパイ!」

カンパイ!

ヒャッホウ〜。

コングラッチュレイション。

みな口々にその場に合わせた掛け声を上げて。

、、、


ふ〜、やっと、始まった、、、そんな感じでしたね。



また、延々と飲むんです、

よく飲むね、このJの話。



   2003年02月19日(水)    私は彼女を抱きしめ、、、唇に軽くキスをしました。 

J (2.結婚)

4. 二次会 (2)


私たちは中央に用意された席につきました。

しかし、なんという人の数だろう!
ギュウギュウ詰めじゃないか!

私は友美さんに、「なんだかすごいね、人数、」と耳打ちしました。



幹事の友人が私に話し掛けてきました。
「よ、すぐ始めるよ、いいかい?」

「OKだよ、ありがとう、しかし、すごい数だな、」

「ああ、出席通知をもらった以上に来てるぜ、約、、、倍だよ。
 お前の会社の人も披露宴からたくさん流れてきているし、
 みんな酔っ払っているから収拾がつかないぜ。」

「おお、そういえばそうだな、あ、部長までいるじゃんか、」

「それと友美ちゃんのお友達も来てるよ、連絡もらった以上に、」

「あ、すみません、誰かしら?、」

「よくわかんないけど、何たって受付が大混乱だったんだもの、
 会費貰うだけでやっとでやんしたからね〜、」



会場はざわめきっぱなし。

でも。

主役はやっぱり、私と友美さん。



幹事がマイクをとり、私たちの紹介を始めると一同ひとつになりまして、、、

「え、これから、純一君と友美さんの結婚式の2次会を始めます。
 先ず始めに、本日晴れて結ばれたおふたりに結婚の報告をシテモライマス。
 では、純、友美さん、前へ、そう、そうそう、くっついて、、、、どうぞ、」

って、幹事、マイクをオレに渡しやがる。



おいよお、聞いてないぞ、挨拶するなんてぇ〜。


友美さんは脇からキラキラした瞳で私の顔を見上げてる。

ち、キチッっと決めてやるか、四の五の言わずに。


「え〜、」(やんや、やんや、)

「本日〜、」(やんや、やんや、)

「私たちは〜、」(やんや、やんや、)

「コホン、」(チューしろ、チューを、)

「了解!、では、」(、、、シーン、、、)


私は友美さんを見つめました。

友美さんは目を閉じました。


私は彼女を抱きしめ、、、唇に軽くキスをしました。 

間髪おかず私はマイクを握り言いました。

「ということで、本日僕たちは結婚しました。
 今日はたくさんお集まり下さいまして、ありがとうございます!」



割れんばかりの大歓声と拍手の渦、ですぞ。



   2003年02月18日(火)    4. 二次会

J (2.結婚)

4. 二次会 (1)


私と友美さんは晴れて結婚しました。

私たちの左手の薬指には揃いの指輪。

披露宴が終わりお客様を送り出す頃、私たちは幸せの絶頂にありました。



披露宴が予定以上に時間延長したこともあって、
2次会を準備していた友人たちは長い時間待つ羽目になっていました。

幹事は私の古くからの友人たちがやってくれていました。

彼らは早くに披露宴会場を後にし、2次会の会場となる居酒屋に行き、
貸しきり時間の変更やら、会場の準備やら、
2次会だけ参加する友人の接待やらにあたってくれていました。



私と友美さんは着替えもそこそこにして2次会会場へ急ぎました。

会場の入り口では幹事が私たちの到着を、まだかまだか、と待っていました。

私たちの顔を見るなり、幹事は店の中に向かって声を掛け皆を呼びました。

店内からは歓声が聞こえました。



2階にある会場に向かい私は友美さんの肩を抱き階段を上り始める。

私たちの頭上から紙ふぶきが飛ぶ。

大勢の友人の顔、顔、顔、、、

揉みくちゃにされながら会場に入る私と友美さん。


場内は人で溢れかえっていました。



   2003年02月17日(月)    私と友美さんは晴れて夫婦となりました。

J (2.結婚)

3. 結婚式 (5)


結婚式は恙無く進みました。

感動的な儀式はふたりを敬虔な心持ちにして、
私たちは心をひとつにして誓い合ったのです。

生涯を共にする、と。


式が終わり私は友美さんに、「よかったね、」と声をかけました。

友美さんは、「ウン、」と少し涙ぐんで返事をしました。

私は笑顔で、「またぁ、すぐにそうなっちゃうんだからぁ、」と言い、
友美さんの目頭をすうっと指で擦ってあげました。



神聖な儀式のあとは賑やかな披露宴がありました。
披露宴では出席者全員が祝福してくれました。
私は次から次へと酒を勧められ、あっという間に酔っぱらってしまいました。

友美さんは2度お色直しをしました。
私もキャンドルサービスの時に和装から洋装へと着替えました。
私が会場から出たのはその時だけでした。


延々と続く披露宴です。

4時間はやりました。

最後の方は結婚披露宴なのか、
ただの宴会なのか分らないほど乱れていました。


しかし、

最後の最後、両親への花束贈呈の時は一同シーンとなって、
友美さんの涙にみな貰い泣きをしていました。


そうして全ては滞りなく終わり、私と友美さんは晴れて夫婦となりました。



私は幸せでした。

友美さんも幸せそうでした。

誰もが幸せそうでした。



私は全ての人に感謝をして、頭を何度も下げました。

ありがとう、ありがとう、ありがとう、、、

誰もがにこやかに答えました。

がんばれ、幸せになれよ、いつまでもふたりで仲良くな、、、



結婚式って、、、いいですね!


(3.結婚式、の項 終わり)



   2003年02月16日(日)    私は戦争に反対します。

(本日は「J(ジェイ)」を休載します。)

+++

私は名もない一般人です。

金も名誉も地位もなく、人に誇れるものは何一つない人間です。

世の中の片隅で日々日常を生きているだけの存在です。

ネット上で秘密の恋愛日記を拙い文章で書き綴っている、それだけの者です。



ノンポリです。

いかなるイデオロギーにも組しておりません。

いかなる宗教にも信仰の意思を持ち得ていません。

いかなるムーブメントにも参画していません。


私はただ一個の“個”としてこの社会に投機しているだけの存在です。


ですが。


私にも声がある。
私にも無名の声がある。

その声は世の中に何の影響力も与えないけれども、
私は思うことを発するこの声を今日は使いたいのです。


私は戦争に反対します。



私は名もない人間です。
そして秘密の恋愛をすることもある穢れた人間です。
世の中に対して意見する資格はない。私は偽善者です。


ですが。
私は日本の子ども達と同じようにバクダッドの子ども達を思います。

私は悲しい気持ちでいっぱいです。

ですから。
今日だけは自分の声を使いたい。


私は戦争に反対します。いかなる武力による解決を望みません。



私にはこの日記以外に私の声を使えるところがないのです。


気に障ったらごめんなさい。


+++


明日からはまたJ(ジェイ)を書きます。
My日記リストに入れてくださっている皆様、よろしくお願いいたします。

2003/02/16 Jean-Jacques Azur


   2003年02月15日(土)    結婚式はもう始まるのです。主役は私と友美さん。

J (2.結婚)

3. 結婚式 (4)


翌日は突き抜けるような青空の好天気に恵まれました。

私の気持ちはさっぱりしていました。

深呼吸をすると、さあて、やるぞ、という元気が自然と溢れてきました。


私はひとりで町の空気を吸いたいと思い、両親より先に家を出ました。


今夜からはもう戻らない私の実家。
明日からはもう見かけない近所の風景。
これからは歩くことのない駅までのこの道筋。

この改札口。このプラットホーム。この私鉄の電車。



私は生まれてからこの町以外で生活をしたことがありませんでした。

学生時代から年がら年中、旅に出ていた私でしたが、
いつでも帰ってくるのはこの町でした。

自転車で日本一周した時も、単車で信州や北海道を駆け回った時も、
列車の旅に揺られてあてのない旅を続けた時も、

いつも帰ってくるところはこの町でした。


これからは、新しい町。
これからは、新しい家。
これからは、新しい家族。


さあて、やるぞ、、、!

私は友美さんを想ってそう気持ちを引き締めました。



式場に着くと既に友美さんの一行は到着していました。


私は友美さんの控え室を覗き、
日本髪のかつらを被った友美さんを見つけました。

友美さんは私に気づき照れたように微笑みました。

私も釣られて照れたように微笑みました。

私たちは二言三言言葉を交わし、私はそこを後にしました。



結婚式はもう始まるのです。

主役は私と友美さん。


私たちはただ座っていればよく、

後は万事、式次第に沿ってことは進むのでした。



   2003年02月14日(金)    私は純一さんの中で生きるの。

J (2.結婚)

3. 結婚式 (3)


私はその後、駅で友美さんと待ち合わせをしていました。

結婚式場に行き最終の打ち合わせをするためです。

打ち合わせと言っても詳細はすでに決まっているので、
内容の最終確認をするだけのことでした。


友美さんは打ち合わせの後、
式場の美容室でかつらを被るために髪をセットしました。
(何ていうのかは知りません。ともかくぴしっとセットしてました。)

私はその間式場のロビーで所在無く待っていました。



髪のセットが終わった友美さんはちんちくりんな頭になっていました。

友美さんは恥ずかしそうに、「ヘンでしょ?、」と聞きました。

私は内心ヘンだな、とは思いましたが、
「でも、明日、かつらを被るためのヘアーセットなんだもの。
 しかたないじゃん。気にしない、気にしない。」
と言いました。

友美さんは、「ウン、」と頷きました。



私たちは喫茶店に入りしばらく話をしました。
明日の今日です。話はいくらでもありました。

とは言っても、いつもどおり私がだいたい話して、
友美さんは微笑んで聞いていることが多いのですが。


何かを決めるときはいつでもそうでした。
私が黙ると友美さんも黙ります。
じっと次の私の言葉を待ちます。
友美さんは決して自分の意見を言いません。

私はいつでも友美さんをリードしてあげて、
友美さんはいつでも私の後を歩く、
そんなふたりの間柄が定着しつつありました。

+++


私はある晩ベッドの中で友美さんに聞いてみたことがあります。

君はなんでも僕の言う通りがいいというけれど、それでいいの?


友美さんは甘えたように答えました。

私は純一さんの中で生きるの。それでいいの、、、。


+++

友美さんは私の世界の中で生きることに幸せを見出した、

私は、その時はそう解釈をしておきました。


しかしそれは結婚後、私にとっては重圧になることもありました。
何故なら、私はいつでも私の世界の中に、
友美さんの過ごしやすい世界を作っておいてあげなければならないからです。

どんな時も。

どんな時も。



ですが、その頃は、
つまり結婚を控えたこの時期は、そんなことは感じませんでしたが。

私はそんな友美さんを愛しいと思い、
ただ愛することに魂を燃やすことを誓っていたのです。


何でかって言うと、(何度も書きましたが、)


私にとっての友美さんは、婚約者、というだけではなく、

私の子どもを生んでくれる人、

そして、、、

私と共に、その子どもを育ててくれる人、

私はそういう認識を友美さんに持つようになっていたからです。


恋愛や結婚とは次元の違う特別の存在者、

それが妊娠を境に私の中に生まれた友美さんの存在認識でしたから。



   2003年02月13日(木)    よっし、結婚だ。・・・オトコ、30歳。

J (2.結婚)

3. 結婚式 (2)


結婚式の前日、私は午前中に散髪をしました。

気分一新して明日を迎えたかったからです。

床屋の鏡に映った私の顔は幾分若さが失せているように見えました。


オトコ、30歳。

これからの人生は自分一人のものじゃない。

キリッっとしなくっちゃ。


私は床屋のあるじにぐっと短めに髪をカットするように依頼し、
しばらく鏡に映った自分の顔とこれまでの人生について話し合いました。


幼少の頃の思い出、
少年の頃の思い出、
青春の頃の思い出、
社会人となってからの思い出、、、

うれしかったこと、悲しかったこと、成功したこと、失敗したこと、、、

初恋、初めてのキス、初めてのひと、初めての失恋、、、

これまでの道程、これからの道程、、、


友美さん、生まれてくる子ども、


そうだ、

私は友美さんを大切にしなくっちゃ。
私は友美さんを大事にしなくっちゃ。

生まれてくる子どものために、、、


、、、

レイ?、、、


レイとのことはいい思い出だな、

今はちょっぴり辛いけれど、オレの最後の恋だったのかも、、、



けれど。

私には、生まれてくる子どもがいる。

私には、その子どもを産んでくれる友美さんがいる。


そして。

結婚式はもう明日なんだ。


、、、

散髪が済む頃には私の心は整理され、

私はすっかり晴れやかな気分になっていました。



よっし、結婚だ。

そんな気分になったのです。



   2003年02月12日(水)    3. 結婚式

J (2.結婚)

3. 結婚式 (1)


結婚式前の一週間、私は毎晩のように酒を飲みました。

同僚、上司、友人、、、毎日夜遅くまで飲み明かしました。

「独身生活最後」、これが決め言葉でした。


私は毎日フラフラになって出社し仕事をしました。
上司は目を瞑ってくれました。
同僚はフォローしてくれました。

結婚は一生に一度の自分が“主役”、
誰もがそう心得ているので、誰もが祝福してくれたのです。



レイとのことは、、、

私は毎晩の酒のおかげで、もうどうでもよくなっていました。
いや、正確には、どうでもよくなって行きました。
毎日顔を合わせても私は何も感じなくなりました。

私はレイに仕事上の話だけをし、私の留守中の段取りを説明し、
あとは彼女に任せ自分でやるように指示をしました。
彼女は自分の裁量でできることをし、できないことは私に聞いてきました。

私は矢崎と相談し、私の留守中は矢崎に聞くようにとレイに伝えました。



私は結婚式の前日から10日間休暇を取っていました。

当初新婚旅行は海外に行く予定をしていましたが、
友美さんの妊娠を知り大事をとって取り止めました。
のんびりと車で温泉地をめぐる計画に変更してありました。



私は毎晩酒を飲みました。

鏑木さんとは、「独身最後」と称して女遊びもいたしました。
この「独身最後」という決め言葉は、夜の町の女性に大いにもてました。
私はどこでも普通以上のサービスを受けました。


結婚後もこの決め言葉を使って、何度かいい思いをしたことがあります。


今じゃ使っても信じてもらえないでしょうが、、、


ちょっと、楽しかった頃の思い出です。



   2003年02月11日(火)    その夜、私はふとんにくるまるようにして眠りにつきました。

J (2.結婚)

2. 引越し (14)


鏑木さんが口をはさみました。
「おいおい、おふたりさんよぉ、ナニ見詰め合って難しい話をしてるんだい?、
 まったく工藤は仕事の話になると真面目気いっぽんなんだからなぁ、」

私は、鏑木さんの言葉で自分一人が浮いていることに気がつきました。
そして作り笑いをしレイに謝りました。
「ホントだ、これは失礼しました、へへ、ゴメンね、レイちゃん、」

レイは真面目な顔で、「いえ、そんなことはないです、」と答えました。


レイのこの言葉は少し冷たく聞こえました、、、



私たちはその後、食べるものを食べ、飲むものを飲み、面白おかしく話をし、

そのうちに鏑木さんがそろそろ帰るか、ということでレイを連れ先に帰り、

矢崎と宮川は少し仮眠をとってからワゴン車に乗って帰りました。



私は、、、ひとり残りました。



トモミさん、、、

もう僕には君しかいない、、、



幸せ一杯になるはずの新居にひとり佇む私。

とてつもない寂しさを感じるのは何故?


レイ、のこと?

否、!、それは違う、、、

それは違う、、、

それは、、、

違う、、、


、、、


その夜、私は友美さんと新生活で共にするふとんを引っ張り出し、

そのふとんにくるまるようにして眠りにつきました。

友美さんのことを思いながら。


その時、私の“私自身”は、、、 

ひとり悲しく猛り、、、

そして、、、ひとり悲しく果てるのでした。



(2.引越し、の項 終わり)


   2003年02月10日(月)    オレは彼女を3年でものにしてやる。

J (2.結婚)

2. 引越し (13)


私は何が何でもそういうことに結論づけようとしていました。

アルコールは私を自暴自棄にさせたあげく、自己に正当性を与えるのです。


つまり、自分がレイに心を奪われたのは、恋愛感情によるものではなくって、
仕事上でレイを一人前にしてやろうとする熱意の余り、
一生懸命になってレイのことを考えているうちに、
いつしかそれが恋愛感情に近い愛情に変化したように錯覚していたのだ、と。



レイが私のことなんか何とも思っていないと同様に、

私もレイのことなんか何とも思っていないんだ!

そうなのだ!

私がレイに寄せた切ない私の恋愛の情、

私がレイを思って狂おしいばかりに揺れ動いたこの私の魂、

これらはみな錯覚だったのだ!


まったくもってしてレイは全然なっちゃぁいない!

まだまだ子どもだ!


オレは彼女を3年でものにしてやる。

そう約束したから一生懸命やっているだけなのだ!


、、、

私の心のうちの叫びとは裏腹に、私は話を続けました。

「レイちゃん、僕はね、今後はもっと君に厳しくしようと思う。
 もうそろそろ新人扱いも不要だろうと思う。
 君は面接の時に僕の話を聞いて決心をして会社に入った筈だ、
 その時僕が君になんと言ったか、は、覚えているよね。」

レイははっきりと答えました。
「はい。私は工藤さんの話を聞いて会社に魅力をかんじたのですもの。」


私はレイの目をじっと見詰めました。

レイも私の視線をそらさずにじっと私の目を見ていました。


私はこの時にレイへの思いを断ち切りました。

そう思い込みました。



これでいいのだよ、クドウジュンイチ、、、

私の心の声が私にそう語りました、、、



   2003年02月09日(日)    つまり、工藤はレイちゃんが仕事でものになるようになるまでは、

J (2.結婚)

2. 引越し (12)


今思い起こせばそれはまったく子ども染みた私の言動でした。


好きな子に対して意地悪をして関心を買おうとする、

好きな子に対して悪口を言って無関心を装うとする、

好きな子に対して否定をして自分の心を閉ざしてしまう、


そんな、愛情表現がうまくできない幼い子どもと一緒、の、私でした。



残念なことにその時の私は、私のその言動に自ら整合性を与え、

私のこの言動は子ども染みた愛情表現であるとは認識せず、
「まったくもってしてレイはぜんぜんなっちゃいない、」

と本当に思い込んでしまうのです。



しかし、、、

聞くほうは皆オトナです。


私の言葉にはそれなりに意図するものがあるのだろうとして理解を試み、
それぞれに解釈をして話を続けてしまう。


私は思ってもいないことを口走ったがために、

それを正当化するために自らを偽って、

レイとの間に決定的な氷の壁を築いていくのでした。



矢崎が言いました。
「工藤、その言い方はレイちゃんがかわいそうだろう、
 レイちゃんはまだ今年社会人になったばかりの18歳だもの、
 友美ちゃんに比べたらまだまだ子ども、当然じゃないか、」

鏑木さんが言いました。
「うんうん、友美ちゃんはよく出来た子だ、工藤にはもったいないくらいに、
 だけど、レイちゃんもよく出来た子だ、将来、きっといい結婚ができる、
 そっか、工藤はレイちゃんの保護者のようなものだからな、心配なんだな、」

レイはふたりのフォローに気を取り直してか笑顔で言いました。
「私なんて、、、全然ダメ。でも、友美さんには憧れてます。
 いつかきっと、友美さんのようになれたらいいな、って、」

私は語気を荒げて言いました。
「いやなに、そういうことを言いたいんじゃないんだ、レイちゃん、
 トモミさんだって、オレから見ると全然ダメ、さ。
 僕は君に期待しているから仕事を頑張って欲しいだけ、なんだ。
 でね、君が結婚する時は僕がよしと言った時、
 そして僕がよしと言った相手でなければダメだぞ、ということなんだ。」

矢崎が言葉を引き取るように言いました。
「つまり、工藤はレイちゃんが仕事でものになるようになるまでは、
 恋愛したり結婚して貰っては困る、そういうことを言ってるのか?」

私は一呼吸おいて答えました。
「恋愛は、、、自由だ、そんなことをオレが束縛する権利はないし興味もない、
 ただね、仕事は仕事だから、つまり、仕事上ではオレはキチッとする、
 そう、、、レイちゃん、僕は君が入社する時に言ったよね、覚えている?」


レイは思い巡らし首を傾げました。


私は話を続けました。

「ほら、君を3年でものにしてやる、って、さ、」(参照 こちら



   2003年02月08日(土)    なんと哀れな悲しい一人芝居であったことよ!

J (2.結婚)

2. 引越し (11)


酒の席での結婚談義。

鏑木さんの結婚生活についての面白おかしい話から始まって、
私と友美さんの馴れ初めだとか、友美さんのどこに惚れただとか、
鏑木さんに結婚の相談して随分世話になったこととか、
矢崎も結婚の予定があるとか、理想の結婚はどうだとか、

次第に酔っ払って、、、

レイに彼氏がいるとかいないとか、結婚するのは遠い先の話だとか、
宮川は彼女をなぜつくらないんだとか、レイちゃんなんてどうだとか、
そんな話はいいでしょうと憮然とする宮川を面白がったりして魚にしたりとか、

さらに酔いは深まって、、、

年上がいいとか、年下がいいとか、いや、同じ年代がいいとか、
誰某はどうだとか、彼其はどうしたとか、
あそこの夫婦はこうだとか、どこかの夫婦はこうしてるとか、、、


尽きることなく話題は右左に脱線し、

面白おかしく語り繋がれては再び本題に帰り、

最終的には結局、

私と友美さんの結婚の話題に戻るのでした。


、、、


私は正直言ってレイの前ではその種の話はしずらかった。

レイはきっと不愉快なはず。


私と友美さんとのこの新居にレイがいる、
そのこと自体、レイにとっては居心地が悪いのじゃないか?


私はそんなふうに思って、ちら、ちら、っとレイをみました。


が、、、

レイは一向にそんな素振りもなく、

ただみんなの話に加わって楽しそうに談笑しているのでした。



そうしたレイを見て私は物足りない思いに駆られました。

少しくらいやきもちのような感情を、
レイに持って欲しくもあったのかも知れません。


なんとも、なんとも身勝手な私のこの感情です。


そして、、、

私の心は反対の方向へと揺らぎ始めたのです。



レイは私のことなんか、何とも思ってないんだ!

私のレイへの恋愛感情は、まったくの片思いなんだ!



レイに寄せた切ない私の恋愛の情、

レイを思って狂おしいばかりに揺れ動いたこの私の魂、

なんと哀れな悲しい一人芝居であったことよ!



アルコールは私を自暴自棄にさせ、
ついには思ってもいないことを口走るのでした。


「レイちゃん、君はトモミさんに比べたらまだまだ子どもだ。
 ぜんぜんなっちゃない。君が結婚する時は僕がよしと言った時だ、ぞ。」


突然の私のこの言葉に一同、え?っという顔をして私を見ました。


レイは一瞬、哀しそうな顔をしました。



   2003年02月07日(金)    アルコールが入るにつれ、

J (2.結婚)

2. 引越し (10)


「お待たせ、お待たせ、いやあ、待たせたなあ〜、悪い悪い、」

ちょうどその時にドアが開き鏑木さんとレイが戻ってきました。

私は内心ほっとしました。

が、、、

レイのことを話題にしていた私たち3人、
なんとなく話が中途半端に終わった感が否めずあり、
顔を見合わせて黙りこくってしまいました。


鏑木さんが言いました。

「どうした、3人とも、ぼけっとしちゃって、
 さあさ、飲もう飲もう、待たせて悪かったな、」

私は「ずいぶん時間がかかりましたね、」と聞きました。

「道に迷っちゃってさ、それとな、これも買ってきた、」と鏑木さん。

「なんすかそれ?、」と私。

「おでん、」と鏑木さん。

「おでん?、」と今度は矢崎。

「やっぱ、おでんだろ、オレ、好きだから、」と鏑木さん。

「はあ、やっぱ、そうっす、よね、」とトリは宮川。


天性の明るさを持つ鏑木さんのこのタイミングの妙があって、
私たちは自然と笑みをこぼしたものです。

座は持ち直しました。


レイは、一緒になってクスリと笑い、鏑木さんの隣に座りました。

そこは、、、私の真ん前でした。


レイは一瞬、私と目を合わし、すっとそらした、、、。



私たちはまずビールを開けました。

私は「今日はどうもありがとうございました、」と杯を上げ、
ほかのみんなは、
「この度はどうもおめでとう、」というようなことを口々に言い、
こうして結婚前祝いと称した昼間の酒宴が始まりました。



そして、アルコールが入るにつれ、

私、矢崎、宮川、、、

先ほどレイの話をしていた3人の深層心理が働いて、

自然と結婚談義になってゆくのです。



   2003年02月06日(木)    「だがな、女は若い方がいい、」

J (2.結婚)

2. 引越し (9)


宮川は言いました。

「レイちゃんですか?、考えたこともありませんけど、、」

それを聞いて矢崎は私に同意を求めるように言いました。

「宮川、年下はいいぞ、なあ、工藤、」


私は何と答えたものか言葉に窮しました。



私と友美さんは、私が30歳で友美さんが22歳、8歳違いです。
矢崎と矢崎のフィアンセ順子さんは、同じ年です。
宮川は、、、
学生時代に一回りも年上の女性との恋に落ち、恋を失った人間です。

さらに、レイは18歳、、、
25歳の宮川とは7歳年下になり、私の一回り年下。

そして、、、

私はそのレイに恋愛の情を持ち、それを封印したばかり。



、、、「年下はいいぞ、なあ、」

この矢崎の振りには、私はすぐには答えを出せませんでした。

私の頭はくるくるまわるばかり、でした。



私がなんとも答えずに、ただ、うーんと考えているので、
宮川がなんとなく話をつなぎました。

「矢崎さんの結婚相手も年下なんですか?、」

「いや、オレは同じ年だ、だがな、女は若い方がいい、」

「どうしてですか?、」

「そりゃぁ、なんたってアレがいい、」

「アレ、ですかぁ?」

「そりゃそうさ、レイちゃんを見てみろ、あの子は特にいい、」


それを聞いて私は口を挟みました。
「おいよぉ、矢崎、レイちゃんのことをよく知っているような口振りだな、
 なんか彼女とあったのか?、」

矢崎はニヤリとして答えました。
「ふふ、長年のカン、っていうやつさ、オレのね、。それに、」

「それに?、」

「何かあるわけないだろ、お前といつも一緒にいるのに、な、クドウ君。
 そうだ、聞いてみたいな、お前はレイちゃんのことをどう見ている?、」


「、、、オレか?、」



私は弱りました。思わぬ話の展開。何と答えよう、、、



   2003年02月05日(水)    いや、社宅は駄目だ、

J (2.結婚)

2. 引越し (8)


社宅は3Kでした。3階建ての西南角の1階。

6畳ふた間と4畳半ひと間、台所とトイレ、風呂。

昔よくあった団地サイズの社宅で、全部で12所帯入れます。


みな同じ会社の同僚が入居していて、みな顔見知りです。


今日の引越しのことは社宅の人には特別に連絡していませんでしたが、
私たちがどやどやと荷物を運び入れる作業の騒々しさに気がついて、
何人かのひとが手伝おうかと声をかけてくれました。

しかし、申し上げました通り、たったこれだけの荷物です。

あっという間に運び入れてしまいましたので、お気持ちだけ戴いておきました。



私と矢崎と宮川の3人は早々に仕事を終えました。

私たちは鏑木さんとレイを待ちながら一服つけ、所在無くしていました。



私はレイのことが気になっていました。

あの夜からまだ数週間もたっていません。

レイはどんな気持ちでいるんだろう、、、



矢崎が部屋を見回してぼそっと言いました。
「おい、工藤、いい部屋だな、ここ、」

私は窓の外を眺めながら言いました。
「ああ、まだ新しいからな、この部屋はオレたちが始めてだし、
 矢崎はどうするんだ?、結婚したら、ここに住むのか?、」

矢崎は答えました。
「いや、社宅は駄目だ、工藤みたいに社内恋愛ならいいかもしれんが、
 外から入る嫁さんには付き合いが難しいそうだからな、」

私は、「ふ〜ん、そんなもんかな、」と答えました。



「え?、矢崎さんも結婚するんですか?、」

私たちの話を聞いていた宮川が口をはさみました。

私は、ちょっと不味いことを言ってしまったかな、
と思い矢崎をちらっと見ました。

しかし矢崎は動ぜず、「そうだよ、」と答えました。

そして、
「宮川君、君は誰か 付き合っている人がいるのかい?、」と聞きました。


宮川は、「いません、」とぽつりと答えました。


矢崎は言いました。

「レイちゃんなんて、どうだい?、」



、、、私は目を丸くしました。



   2003年02月04日(火)    私はレイのことが気になりました。

J (2.結婚)

2. 引越し (7)


しかしその心配は取り越し苦労でした。

何でかって言うと、こういうことでした。


私たちの乗るワゴンが社宅に着くと、
鏑木さんとレイが待ち構えたように待っててくれました。


私は車から降りるなり、ふたりに礼を言いました。

「お待たせしすみません、鏑木さん、レイちゃん、
 今日はありがとうございます、せっかくのおやすみなのに、」


鏑木さんはニヤニヤしながら、「なんのいいってことよ、」と言いました。

レイは軽く会釈して、「おはようございます、」と言いました。



あれ?、二人の手にはなにやらコンビニのビニール袋が、、、


鏑木さんが言いました。
「ちょっと買出ししといてやったぞ、な、レイちゃん、」

レイは、へへ、っと笑いました。


私はすぐに事の次第を了解して、詫びながらこう言いました。

「あ、すみませんです、僕が準備しなくっちゃいけなかったのに、、、
 どうしよっかなって思ってたとこなんですよ、おいくらになりましたか?、」

鏑木さんが答えました。
「いいって、いいって、オレの気持ちだ、前祝いと思ってくれ、」

私は「そういうわけにもいかないっすよ、」と言いましたが、
鏑木さんは頑として私の申し出を断って、

「それよりも積み下ろしは3人で十分なんだろ、さっさと荷物を運んじゃえよ、
 オレとレイちゃんは酒屋にいってくるからさ、な、」と言うのです。

それを聞きつけた矢崎と宮川、
「やっぱ、一杯やるんすか?」「そうこなくっちゃ、」とか言って、、、


、、、ハイ、またまたお酒を飲みながらの話になるのです。
 
(私とアルコールは切っても切れない関係なのでご理解願います。)



私たちはさっさか荷物を運び込み、所定の位置にそれらを配置して、
すぐさま一杯飲めるようにテーブルを出し、
鏑木さんとレイが酒を買って戻ってくるのを待ちました。

鏑木さんとレイはと言えば、引越しについては何もしなかったってぇことです。

結果的に。



私はレイのことが気になりました。

レイと酒を飲むのは、あの夜以来のことですから。(参照 こちら


レイは、どう思っているのだろう、、、



   2003年02月03日(月)    レイ、、、か、頼みづらいな、

J (2.結婚)

2. 引越し (6)


引越しと言っても独身の私の身の回りの荷物を運ぶだけのことです。

大の大人が4人も集まってもらっても、そうは仕事はありません。


私は鏑木さんに、「そういうことですから、」とやんわり断ったのですが、
鏑木さんは、「なんの、おまえの一大事にオレを誘わないってェのか、」と、
話を聞きようもありませんでした。


結局、鏑木さん、矢崎、宮川、そしてレイ、
私のセクションのスタッフ全員が手伝ってくれることになりました。



当日、矢崎と宮川が会社のワゴン車を借りて朝9時に私の実家にきました。

鏑木さんとレイは直接新居となる会社の社宅に行ってもらいました。

私たちが着く11時過ぎごろに待ち合わせをしておいたのです。


案の定、私の荷物はものの30分で積み込みが終わり、
私と矢崎と宮川の3人は一路郊外にある新居となる社宅へと向かいました。



(しまったぞ、、、)

私は車中ふと気がつきました。


(、、、丁度昼時になっちゃうじゃんか、何か用意しておくんだったな、)

私はこっそりそう思い、どうしたもんかと思案しました。


(こんな時、女手があると助かるのになぁ、、、)


だけど友美さんはいません。

友美さんは妊娠しているから、大事をとって来ないでいい、
そういうふうに決めたのは私でした。



レイ、、、か、

頼みづらいな、

どうしよっかなぁ、、、



私たちの乗るワゴン車は海岸線を走る高速道路を遅滞なく走り、

あっという間に目的地である町へと入ってゆきました。



   2003年02月02日(日)    その女性には家庭があった。

J (2.結婚)

2. 引越し (5)


入社3年目の営業社員、宮川は25歳で私の部下です。

彼は入社1年目を別のセクションで勤めていましたが、
自己主張の強い奴で上司と折り合いが悪く、
厄介者扱いで私のところに回ってきた人材でした。

私はそんな彼を昔の自分を見るような思いもして可愛がり、
彼は私を慕いもし、反骨もし、私のもとで切磋琢磨し、
短期間でものになっていく、その過程にありました。

私は彼をレイが入社いた時から一人立ちをさせ、
今では相当の成果を上げるまでに育っていたのです。



宮川には恋人はいませんでした。


身長180cmを超える長身でスリムな体格、顔もまずくはない。

はたから見ると女にもてそうなタイプ。(いや実際によくもてた)


なのに宮川に決まった彼女がいないわけは、、、

いつかの夜に酒を飲み、
私が彼から、涙ながらに聞いた話では次のような理由からでした。



彼は学生時代に辛い失恋を経験した。

彼は年上の女性に恋をした。

彼は全てを捧げて愛した。


ところがその年上の女性は、
彼のことを愛しはしましたが、恋愛ではなかった。


恋愛の情の宮川。その宮川を愛しむ年上の女性。

その女性には家庭があった。

子どももいた。


だが、その女性は浮気のために宮川と交わったのではない。


彼女は、、、

一生懸命に、一本気に、恋愛の情で向かってくる若者を、

ただ愛しいと思う感情にかられ、刹那の愛に心を奪われていたのです。



いずれ、、、その情の違いは残酷に、若き宮川の熱い思いを狂わし、

彼は超えることを望めない一線を果敢に超えようとするのであるが、

結局には無残にも悲しく消えゆき、残ったものは彼の傷ついた心のみ。


彼女は現実に戻り、宮川は広い荒野に一人旅立った、、、。



それ以来彼は恋愛をしていない、そうです。


そういう奴です、宮川って。


なんだかな、かなぁ。



   2003年02月01日(土)    結婚している鏑木さんはよく私をだしに使いました。

J (2.結婚)

2. 引越し (4)


鏑木さんはもともと経理部の所属でした。

新規事業部を立ち上げる際に数字の強い人間を一人セクションにおこうと、
そういう役割で配属されたスタッフでした。

そうとは言っても机に座ってばかりいるわけにもいかず、
いつしか在庫管理を主に見てもらうことになっていました。

当時の私が30歳だったとすると、
一回り上の鏑木さんは42歳であったはずです。


鏑木さんの奥さんも、友美さんとちょうど同じく、八つ年が離れていました。

私と友美さんと同じ社内恋愛で、そして同じく結婚に際して苦労した人でした。


私は友美さんのご両親になかなか結婚の許しを得られずに苦労していた頃、
鏑木さんにはいろいろとアドバイスや励ましをして貰って、
随分とお世話になったものでした。


鏑木さんもよくお酒を飲みました。

女遊びもよくされました。


鏑木さんと私は若き頃よくつるんで繁華街を飲み歩きました。

私が20代の盛りの頃です。

飲めば必ず鏑木さんは私を如何わしいところへ誘い、

私も酔った勢いでそういうところにも顔を出し遊びもしました。


結婚している鏑木さんはよく私をだしに使いました。

私は必ず鏑木さんの奥さんに電話をして、アリバイ作りをしたものです。

「今夜は仕事の都合で遅くなります、、、僕と一緒です。ハイ。」


最初のうちは効果があったのですが、
しばらくするうちに、私は鏑木さんの奥さんから、
“工藤が亭主を誘っている”というふうに思われてしまいました。

(ヌレギヌだよ〜、どっちかっていうと鏑木さんが誘っているのに〜)


ま、先輩後輩の間柄、ショーガナイっすけどね。


鏑木さんは奥さんにめっぽう弱い、

だから外で気晴らしをする、

そんな人でした。


でも、とってもいい人です。



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この物語はフィクションです。

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