J (2.結婚)
2. 引越し (3)
同僚の矢崎は私と同年で翌年の6月に結婚するフィアンセがいました。
私はしばらく前にそのフィアンセを矢崎から紹介されていました。
そのフィアンセと矢崎も同年でした。 大学時代から長く付き合ってのゴールイン、ということでした。
ある晩矢崎は私と酒を飲み、私たちは酔ってこんなことを話しました。
矢崎は言いました。 「工藤はいいな、若い嫁さんを貰って、一種の犯罪だな、」
「何を人聞きの悪い、オレはだな、いいかぁ、 プロポーズするまで友美さんに指一本触れなかったんだぞ、」
「ふ〜ん、アンビリーバブルなやっちゃな〜、あのクドウクンがなぁ、」
「そうそう、オレも不思議、でも、こうなった、」
「では、そのクドウクンに質問、アナタはどんな家庭が理想ですか?、」
「どんな家庭だって?、なんだい、いきなり、、、 そう言うときはまず自分から答えよ、ヤザキクン。 君は順子さんと一緒になって、いったいどんな家庭を作りたいんだい?」
順子さんというのは矢崎のフィアンセの名前でした。
矢崎はちょっとテレ笑いをしてから、急に真顔になって言いました。
「オレはね、何でも話し合って相談しあえる家庭を理想とする。 家庭のことばかりじゃなく、仕事のことも含めて全てを二人で考える。 順子はオレの“奥さん”ではなく、人生の“パートナー”として考えている。 そんなカンジかな、どうだい?、この考え方。」
私は即座に答えました。
「ステキな関係じゃないか、順子さんは聡明だし教養もある。 君の理想とするところにぴったりの人じゃないか、。 ま、だから結婚するんだろうがな、つまり、のろけかね、キミ〜。」
矢崎は再びテレ笑いをして、「まあ、まあ、」と言いました。 そして私に聞きました。
「で、工藤はどうなんだい?、友美ちゃんと、」
私は、、、
私は、矢崎のようにはできないな、と思いました。
話し合うと言っても友美さんと私は8歳も離れている。
30歳の私と22歳の友美さん。
同年の矢崎と順子さんのようには決していかない。
私は少し考えましたが、何も思いつきませんでしたので、 このように答えたのです。
「オレは、普通の家庭であればいい。 トモミさんと、生まれてくる子どもたちが平穏に暮らしている家庭、かな、」
それを聞いて矢崎は言いました。
「工藤らしいな。その考え方。」
「そっか?」
「うん、友美ちゃんは幸せになるよ、きっと、」
「そっかな、そうだといい、それがオレの希望だな、結婚に際しての、、、」
友美さんの妊娠の事実を知ってから、
私にとって友美さんは私の中で特別の存在になっていました。
恋愛や結婚とは次元の違う特別の存在者、
恋人、婚約者、奥さん、という位置付けではなく、
私の子どもを生んでくれる人、
そして、、、
私と共に、その子どもを育ててくれる人、
私はそういう認識を友美さんに持つようになっていました。
私を含めた結婚生活、家庭、というよりは、
友美さんの生活、家庭、を第一義に考える、
そんな私だったのです。
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