J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2002年12月31日(火)    実はさ、

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (7)


思い当たるふしは、ある。

私は夏季研修の花火の夜、
無防備に友美さんを抱いたのでした。
そう、あの記憶に無い夜の出来事です。(こちら


私は、そういうことはキチンとする人間です。
責任感の強い人間です。
ですが、あの晩だけは、どうかしてそうなってしまった、、、



数日前、友美さんは明るく嬉しそうに私にそのことを告げました。


「純一さん、もしかして、もしかしてかも、よ♪」

「なんだよ〜、それって、何がなんだか分んないこと言うなよ〜。」

「う〜ん、と、どうしよっかな〜、あのね、もしかしたら、なの、
 生理が来てないの、だから、、、なの、」

「え!、ホント!、だって、いつだって、ほら、ちゃんと、、、」

「きっと、あの花火の夜、よ。純一さん、覚えてる?、」

「、、、ああ、あの時、もちろんだとも、覚えているとも、
 そっか、トモミさん、オレ、君のこともっともっと大事にするよ、
 ありがとう、トモミさん、うんうん、そっか、そっかぁ、、、」

「よかった、、、私、もしかしたら、純一さん酔ってたから、って、、、
 よかった、うれしい、そんなふうに喜んで貰えて、、、」


私は記憶にないとは言えませんでした。
こんなに嬉しそうに私にそれを告げる友美さんなんだもの、、、
私は彼女を本当に愛しく思いました。


「うん、オレ、子供大好きだから、さ、よかったなぁ、って、
 じゃさ、さっそく名前を考えよっか、ね!」

「もう、純一さん、気が早いんだから〜、フフ♪、
 まだ確定じゃないの、ちょっと遅れているだけかも、よ、」

「な〜んだ、でもでも、大切にしてね、君の身体、そっかぁ、、、」



このような会話を、数日前私は友美さんとしていたのです。


私はレイと飲みながら、そのことを思い出したのです。


私はレイの質問に答えました。

「コドモかぁ、子供はオレ、大好きだから、たくさん欲しいよ、
 でもなぁ、女性に負担をかけたくないし、まぁ、ふたりかな、」

レイは「ふ〜ん、」と口を窄めて頷きました。


その時私はつい、口を滑らせてしまいました。

「実はさ、トモミさん、妊娠したかもしれないんだよね、、、」

私は言ってしまってから、(しまった!、)と思い口を噤みましたが、
レイはしっかりと聞いてしまったようでした。



レイは私の顔を見て、「え?、」っという顔をしました。



   2002年12月30日(月)    生理が来ていない、って言っていた、、、

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (6)


(どうしても聞きたい、、、)
レイが付き合っている人がいるのか、いないのか。

友美さんには、いると言い、
私には、いないと言ったレイ。
何故だろう?

好きな人はいる、と言ったレイ、
どういう事だろう、、、


再び私の脳裏にはその疑問がぐるぐる渦巻いていました。


私は堪らなく口を滑らせました。


「ところで、レイちゃん、前に言っていた好きな人、って、
 元気にしてるの?、うまくいっているのかな、彼と、」

レイはにこにこ笑みを浮かべ「エ?、」っと首を傾げました。
どうしてそんなこと急にきくんですかぁ、って顔付きでした。

「いやさぁ、毎日遅くまで仕事してもらってるだろ?、
 レイちゃん、デートもできないんじゃないかな、って思うからさ、
 おい、これはだな、親心ってやつだぞぉ、別になんだというわけじゃない、」

と、私はもっともらしいことを言ってみましたが、
うまくは伝わらなかったと思います。

レイは、「う〜ん、、、」といったまま、少し考えて、
「大丈夫です、うまくいってますよ、」と答えました。



って、ことは彼氏がやっぱりいるんだ、、、
私は落胆する自分を認めました。

何で?、

オレは来月結婚するっていうのに、この気持ちの落胆はなんだろう、、、


今度はレイが個人的なことを聞いてきました。
それは私と友美さんの結婚についてのことでした。

レイはいろいろと聞いてきました。
式場のこととか、引き出物のこととか、新婚旅行のこととか、。

いちいちに私は正直に答えてやりました。


そして、レイはこんなことも聞いてきました。

「工藤さん、お子さんは何人くらい欲しいんですか?、」


コドモ、、、

そうだ、

私はあることを思い出しました。



そういえば友美さん、生理が来ていない、って言っていた、、、



   2002年12月29日(日)    私と飲むと楽しい、、、

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (5)


カウンターに座るとマスターが私に話し掛けました。

「らっしゃい、クドちゃん、久し振りだねェ〜」

「ああ、マスター、ここんとこ忙しくってさ、オレ、来月結婚するの、知ってる?」

「知ってるよ、総務にいた娘って聞いたけど、この女(ひと)?、」


私はレイを見てニヤっとして、「違うよ、」と言い、
レイに「なに飲む?、ビールにするか?、」と聞きました。

レイは、「ハイ、そうします、」と言いました。



「マスター、このコは今年営業部に入社したばかりの樋口さん、
 えっと、ビール頂戴、それとつまみを適当に、お願い、」

「な〜んだ、いくらなんでもトシが離れていると思ったよ、」
と、マスターは私に言い、
そして奥に向かって、「おい、ビール、」と声をかけました。

私は内心、
(やっぱりレイとオレは随分年が離れているように見られるんだな、、、)
と思い少しがっかりしたものです。

私は30歳、レイは18歳、当然と言えば当然でしたけど。



すし秀は営業でよく接待に使うので、私もマスターとは古い馴染みです。
ただ、いつもはお客さんと一緒なので、個人的な話はあまりしませんでしたが、
なぜかマスターは私を気安く「クドちゃん、クドちゃん」と呼ぶのでした。


ビールが来て私はレイに注いでやり、
レイも気を使って私のグラスにビールを注ぎました。

「じゃ、今日はお疲れ、」「御疲れ様でした、」

私たちはグラスを合わせ、
私はグイっと飲み干し、レイはちょっぴり口を湿らしました。


「うまい、、ん?、なんだレイちゃん、今夜はおすましじゃないか?、
 ぐいって飲んだらいいのに、夏季研修の時みたいに、、、」

「え〜、あの時ワタシ、そんなに飲んでないですよ〜、
 工藤さんは随分と酔っぱらってましたけどね〜、」

「そうだっけな、ま、いいや、せっかくだから少し飲めよ、
 この先営業部にいると飲む機会も多くなるからさ、練習、練習、だよ」

「でも、ワタシ、未成年ですよォ、」

「んんん、じゃ、ジュースでも貰うかい?、」

「いえ、大丈夫です、工藤さんと飲むの、ワタシ、楽しいですから、、、」



私と飲むと楽しい、、、
レイは嬉しいことを言ってくれました。



私は気持ちよく、ビールを何杯も飲み、
そのうち水割りにかえ、いつしか酔っぱらってきてしまいました。

レイも私に付き合うように水割りにし、
少し酔ったように見えました。

会話が、滑らかに弾んでいました。


私はレイについてのふたつの疑問(こちら)を思い出し、
無性に聞いてみたくなっていました。



レイの胸のカタチ、、、

これについては、知りたくても知りようがありませんでしたが、

もうひとつの疑問、

レイの彼氏については、どうしても聞いてみたくなりました。



   2002年12月28日(土)    レイだって困るだろうに、

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (4)


いくら安全パイと言ったって、
いくら婚約者がいるからと言ったって、

いくらオジさんと娘くらいに、
トシが離れているように見えるからと言ったって、

考え過ぎかもしれませんが、
私はレイとこの時間に二人きりで食事に行くのは抵抗がありました。


レイだって困るだろうに、こんなオレと一緒に、夜遅くまで二人きりでデートじゃ。

私はそんなふうに思ったのです。

(実はデートじゃなく、先輩が部下を食事に連れて行くだけのことなのですが、)



なので私は、どうする?、って、

顔で聞いたのです。

なのにレイはきょとんとして、

首を傾げていいような悪いような微笑みを返してきた、、、


 (日中ずっと同行していた私とレイ、
  昼の食事も一緒に取って、
  一休みする喫茶店でも一緒に過ごし、
  そして夕食も一緒じゃ息が詰まらないのかい?)


私はこう聞いてみたい、そう思いましたが、
何故だかもう一人の私がそれを口に出すことを止めて、

「よっし、さっさと仕事を片付けて、メシ食いにいこう、
 せっかく部長が経費使っていいって言ってんだから、な、」

と、いきいきとした声でレイに言いました。

レイはニッコリして、
「ハイ!、工藤係長、」と、はっきりとした声で言いました。


であれば、と、

私たちは、そそくさと仕事を切り上げて、

まだ残っていた連中に威勢良く「お先!、」「お先に失礼します!、」

と、声を掛けてから事務所を出て、すし秀に向いました。



この時点では、私とレイの関係は、
単なる上司と部下、それ以上も以下もありませんでした。


私はレイを部下として親愛の情でもって彼女を思い、
たぶんレイは私を、
上司として敬愛する情でもって私を慕っているに過ぎなかったと思います。



ふたりはすし秀のカウンターに並んで腰を下ろしました。



   2002年12月27日(金)    レイは、キョトンとした顔をして、

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (3)


私から見るとまだ幼いと感じたレイですが、
事務所の制服姿と違い、営業用にスーツに着替えた彼女は、
年の割にはしっかりとして見えました。


こうしてみると意外に美人だな、

私はそう思ったものです、最初に彼女を連れて歩いた日に。


レイ、
うっすらと薄い化粧をして、
日本人形のような切れ長の目、
すっとした形のいい鼻に小さな唇、
肩までのびた艶やかな黒い髪、、、

身長160cmを越えるスラリとした彼女、

ま、
客先の評判は上々、でした。

若いということで全てを任せることはできませんけれど。



その夜は帰社時間が遅くなったこともあって、
事務所に戻るともう残っていた人も僅かでした。

もう8時も近かった。

私は部長にその日の出来事を報告し、
在庫を管理する鏑木さんと打ち合わせをして、
レイに出荷の段取りを指示しました。


部長が言いました。

「工藤君、樋口さんはもう帰してやったらどうだい?
 こんな時間だ、明日にもできるだろう?、」

私は少しムッとして言いました。

「いや、こればっかりは部長、私の方針でやらせて下さい。
 一人でなんでもできるようになる、それが私のセオリーです。
 営業は時間なんて関係ありません、
 それに、、、樋口さんはそれを承知して入社したんです。
 彼女を年が若いからとか、女性だからといって、差別することは、
 彼女に失礼になります。」

部長は、やれやれという顔をして、

「ともかく、就業時間外だ、彼女の都合を聞いてやれ、な、
 今夜デートかもしれないんだぞ、」

と言い、ニヤリとしました。


私はレイの顔をチラリ見ました、
レイは小さく手を振りました、
(チガウ、チガウ)、そんな素振りです。


私はそんなレイを見て、ホッと緩やかな気分を取り戻し、
部長に柔らかい表情を向け言いました。

「了解しました、部長。
 生意気なことを言って申し訳ありませんでした。
 今日は後片付けだけをして、もう帰してやります。」

部長は私に向かって、

「ん、そうか、それでいい、どうも君は仕事となると真っ直ぐ過ぎる、
 それくらいの柔らかさでいかないとこの先潰れるぞ、」

と言い、続けてレイに向かって、

「たまには先輩にメシでも奢ってもらうんだな、
 工藤君は安全パイだ、妙な心配はいらん、結婚前だしね、」

などと言ってから、私とレイの両方を見比べて、わっはっはと笑いました。


私はすかさず、

「部長、部長も一緒にお願いしますよ、
 誘い水だけして、ほれ行って来い、はないですよね、」

と言いましたが、
部長は私の言葉を遮るように、

「いや、工藤君、今夜は僕も予定があってね、
 そのかわり、すし秀にいって食べてきていいぞ、
 決裁は僕があしたしてやるから、な、」

と言って、自席に戻るや「お先、」と帰ってしまいました。



すし秀、
そこは営業でよく接待で使う会社の近所のすし屋です。


私はレイに向かって、
どうする?、って、顔で聞きました。

レイは、
キョトンとした顔をして、
私の顔の意味が分からない、というふうでした。



   2002年12月26日(木)    当時私は30歳、レイは18歳、でした。

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (2)


私の仕事については何度か触れましたが、
その頃の私は中規模の輸入商社に勤めており、
営業部で新規事業を立ち上げたばかりでした。

そしてレイは私の部下として配属された新入社員、です。
(セクションの構成についてはこちらを参照下さい)


イタリアの小さな商社と契約をし服飾品を輸入し販売をする、
それが新規事業の主たる仕事でした。

当時はまだ始まったばかりですので、取り扱い金額も少なく、
ただ前へ前へと販売先の開拓に走る毎日でした。

細かい仕事が多かった、
だから毎晩遅くまでかかって出荷の段取りをしていた、
そんな日常でした。

何年かするうちに事業が軌道に乗り、
百貨店への出店をするようにまでなるのですが、
当時は小売店への卸しが主体でしたので。

今でいう“直輸入”というような、そんな事業形態のハシリ、
そんなように考えていただいたらよいかと思います。


が、仕事のことについては、これ以上詳しくは書かないで進めます。
この話は、私とレイとの恋愛についての物語ですので。



私はレイを私の不在中の窓口として客先に紹介するために、
9月より私が外出するたびに同行させるようにしました。


私とレイ、
当時私は30歳、レイは18歳、でした。

ずいぶんと歳の離れた二人です。

見た感じ、オジさんと娘、でしょうか。


私自身、レイについての見方は、そういう見方をしていました。

まだまだ幼いな、この子は、、、

そんな風に考えていました。


ただし、夏季研修以来、ふとした仕草に彼女の女性を認め、
ドキッとすることも多くなってきていましたが。



その夜は遠方に訪問したため、帰社時間が随分と遅くなった、、、

そんな夜でした。



   2002年12月25日(水)    6. 初めてふたりで飲んだ夜 

J (1.新入社員)

6. 初めてふたりで飲んだ夜 (1)


夏季練成が終わり、暑い夏が来て、そして行き、秋になりました。

9月にもなると新入社員のレイも職場の雰囲気に馴染み、
自分の仕事を能動的に自分から進んで出来るようになってきました。

私は友美さんとの結婚を控え忙しい毎日でした。



私はレイをそろそろ表にも出そうかとも思い始めていました。

彼女はよく勉強をし、商品の理解力も深まってきていましたし、
電話での応対も客先からいい評判を戴いておりました。


しかし、まだレイは18歳、客先の信頼を得られるのだろうか、
部長に相談すると必ずその点を問われるのであろうけれど。


徐々に、徐々に、かな、

私はそうすることにしました。


差し当たって、
私の不在中、つまり結婚式と新婚旅行の僅かの間、
レイに前に出て貰わなくてはなりません。


私はレイを私の不在中の窓口として客先に紹介するために、
暫く同行して歩いてみることに致しました。



   2002年12月24日(火)    友美さんは衣服を整えシャンとしました。

J (1.新入社員)

5. 記憶にない夜 (4)


新しい命が生まれた、、、


しかし、そのことを知るのは1ヶ月も先のことでした。
その晩の私には知る由もありません。

その時は、
私は友美さんの抱き締めてその余韻に浸るのみでした。


私が身体を離すと、友美さんは衣服を整え、シャンとしました。

私はだらしなかった。

友美さんはそんな私を見て、クスクス笑い、
「純一さん、何かしたって、皆に思われてよ、」
と言いながら、私の衣服を整えようとしました。

私は、「うーん、そっかぁ、」と言いながら、
友美さんに乱れを整えてもらい、
「君はいつでもシャンとしているね、エライね、」
と褒め言葉を言いました。(ように記憶しています、オボロゲですが、、、)


その後は、たぶん友美さんの肩を抱き、
いえ、逆に友美さんに凭れるように、が正しいかもしれません、
ともかくも、私たちは宿舎に戻りました。


私はそのまま自分の部屋に入り、蒲団にもぐり込みました。

そして朝まで深い眠りについたのです。


友美さんはと言えば、
キチンとお風呂に入ってから自分の部屋に戻り、
まだ起きていた新入社員の話の輪の中に入り、
朝までいろいろな話をしたそうです。



レイは、
その話の輪の中にいて、
いろいろな話を聞いていた、

そんなことを何年かしてから、レイの口から聞きました。



私の記憶にない夜は、
こうして一夜を明かしていきました。



私はレイに何かを話していた。

そして、
レイは友美さんからもいろいろな話を聞いていた。


そんな夜だったのです。



(5.記憶にない夜、の項 終わり)



   2002年12月23日(月)    私は猛る思いを遂げました。

J (1.新入社員)

5. 記憶にない夜 (3)


夜の海岸の月明かりのもとで、友美さんを抱き締める私。

私には理性がなくなってしまっていた、、、


友美さんは目を瞑り、私のされるままにされました。


私は柔らかな彼女の身体を抱き締めて、

彼女の唇から首うなじへ、そして耳もとへキスをして、

彼女の髪を撫で、その香りに包まれるうちに、

私の身体は熱く、つまりそのようになってしまい、

無性に彼女を抱きたくなってしまったのです。



酒によって理性が飛んでいた、
そればかりの理由では決してなかった、

今思い起こすと、
私は、レイとのことがあって、心の動揺がそうさせた、
そういう理由からとしか説明がつかない、

その夜の友美さんに対する私の行為でした。



そこは砂浜でした。
あまりに見通しが良過ぎた。

私が彼女自身を無我夢中でまさぐり当てて、
いよいよもうその核心に触れようとした時に、
友美さんは目を開きました。

そして、「純一さん、ダメ、、、ね、あそこ、」と、言いました。


あそこ、、、

そこにはボートが重ねて並べてありました。
酔っていない友美さんは冷静に周りを見ていたのでしょう。

移ろう私の目にはぼやけて見えていた周りのことが。


私はそのボートとボートの間の陰に、
彼女を引きずるようにして連れ込みました。


そして、、、

私は猛る思いを遂げました。



友美さんはその時も、「ありがとう、」と言いました。

私も口癖のように「ありがとう、」と言った筈です。
記憶にはありませんが。



ただし、その夜に新しい命が生まれたのでした。

確かな交わりの証として。



   2002年12月22日(日)    私は、いつしか唇を重ねておりました

J (1.新入社員)

5. 記憶にない夜 (2)


「散歩?、そうだ、そうだ、行こう、行こう、」

私は随分酔っていました。


人前であることもどうでもいいように、大胆にそう言い、

「おい、あと頼むな、ちゃんと片付けておけよ、
 オレはちょっと友美さんと海岸を散歩にいかにゃならん、」

新入社員の何人かに声を掛けてから、私は立ち上がりました。


友美さんは、少し戸惑ってしまったようです。
身の回りを片付けをしながら、
「純一さん、皆に悪いわ、片付けてからにしましょ、」と言いました。

すると、安田が、
「友美さん、大丈夫ですよん、あと自分達の分だけですから、」
と言い、まごまごしている友美さんを送り出してくれました。



月明かりの夜の海岸。


しばらくは離れて歩いていましたが、

少しするうちに並んで歩き、

また少しするとぴったりくっついて歩くようになり、

そのうちに私は友美さんの女性を感じ、

いつしか唇を重ねておりました。



私は酔っていました。
いつもの理性がなくなってしまっていた、、、


去年の花火の夜以来、
友美さんは私を拒むことはなくなっていました。

いつでも私に身を預けてきました。


その夜も、そうでした。

私には、うっすらとしか記憶にない、そんな夜なのに、、、



   2002年12月21日(土)    5. 記憶にない夜

J (1.新入社員)

5. 記憶にない夜 (1)


その時私はレイと何を話したのか記憶にありません。

何故だか、私の隣にレイが座っていて、何かを話していた、、、
私の記憶にはそうとしか残っていませんでした。

けれども、レイはその時の話を記憶していて、
それがその後、私とレイの関係に影響を及ぼした、のです。


私の記憶にない話、
ですが、
確かに私が話したという話、

3年後、レイの口からその話を聞いた時には、
私は自分の気持ちに疑いを持ち得なかった、、、


しかし、ここではその話は書きません。

この物語が3年後に駒を進め、
レイが私に向かってその話をする時までは、
私はその話の記憶がないままににして、筆を進めなければなりませんから。



その時のレイとの話についての記憶がないのと同様、
私はその他の出来事についても、うっすらとしか記憶にありません。

よっぽど私は酩酊してしまったのです。



花火が終わり、皆で片付ける段になりました。

なのに私は一部の連中と一緒に飲み続けていました。

大方が宿舎に引き上げた後も。

レイは、どうしてか先に宿舎に戻りました。



最後は、数人の新入社員と、私と友美さんが残っていました。


友美さんは言いました。

「純一さん、お散歩、どうします?、」




   2002年12月20日(金)    私も私で軽い奴でして、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (11)


そして今。

夏季練成の花火の夜、

友美さんと肩を並べて見ている、この花火、なのでした。



「純一さん、去年の隅田川の花火、覚えている?、」

「覚えているよ、もちろん、」

「そう、よかった♪、」

友美さんは嬉しそうに言いました。



私は暫くの間、去年の花火の夜のことを思い出していました。

その時からの一年を振り返えっていたのです。

「一年って早いね、トモミさん、」

「うん、こんなに、」

友美さんは私の顔を確かめるように見てから、

小さな声で、(こんなに、幸せ、)と言いました。


この一年で私と友美さんは結婚が許され、
この一年で私と友美さんは、誰にも祝福される間柄になっていたのです。


私は、(これで、これでいいんだ、)と自分に言い聞かせ、
先程、レイと目があって、少しでも揺れた私の心を戒めました。


そして、、、私は、友美さんの肩を抱きました。



しばらくそのまま花火を見ていました、

が、そのうち、皆の手前、私的な行動は慎むべきだと考え、

「あとでね、みんなに悪いから、」

私は友美さんにそう言って、自分のもといたテーブルに戻りました。

友美さんは落ち着いた素振りで、
しかし未練めいた眼差しで、「うん、」と言いました。



席に戻ると、A部長もB課長もかなり酔っ払っていました。
(これは勘弁、)と思い、私は新入社員のテーブルに移動しました。

新入社員たちは皆で一気飲みをしたようで、大層酔っていました。


私はレイを見かけ、
「おい、レイちゃん、駄目じゃないか、そんなに飲んで、」
と声を掛けました。

レイは酔っぱらった様子で、
「キャハハ、だってェ、一気飲みなんてはじめてなんだもん、」
と答えました。

(あれれ、これはいったい、レイはどの位飲んだのだろう、)

私は目の前にいた安田に、
「、、、ったくう、おい、安田、ちょっとは気を使え、未成年なんだぞ、この子は、」
と言いましたが、安田は、
「工藤さん、違うんす、っつか、レイちゃん、自分で飲んだんすよ、」
などと言うのでした。


ち、しようがない奴だ、と私は思いましたが、
それ以上言っても仕方がないので、それで仕舞いにしました。
 
そして、恥かしながら、私も私で軽い奴でして、
「工藤さん、イッキ、イッキ、」との大合唱がおきると、
つい一緒になって飲んでしまったのです。



花火が終わる頃には、私もぐてんぐてんになってしまいました。


気がつくと、何故だか私の隣には、レイ、がいました。



(4.花火の夜、の項 終わり)



   2002年12月19日(木)    私は優しく彼女を抱きました。

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (10)


その夜、私たちは初めて結ばれました。

私の強い意思を感じ取った友美さんは、
私の申し出にただこくんと頷くよりなかった、、、


花火はまだ続いておりました。

夜空には一面に、どん、と鳴るごとに、
花火が華やかな光を散りばめられては消えていきました。

私たちはこの刹那のようでした。

ふたりは放たれた火の粉のように、
川沿いのネオンが艶やかなホテルへと消えていきました。



ベッドでの友美さんは無言でした。

固く目を瞑り祈るようでもありました。

しかし彼女自身は、しっとりとしていました。

潤んだ瞳のようでした。

私は優しく彼女を抱きました。

しかしその瞬間は野獣のようでもありました。



ことが終わり、落ち着きを取り戻した時、友美さんは口を開きました。

「ありがとう、、、」

友美さんはそう言いました。


私も、「ありがとう、」と、
自然に口から感謝の言葉が出ました。

(友美さん、君のことはずっと大切にする、)

私は心の中でそう約束しました。



その夜から私は友美さんに対して、
愛しく思うことに加え、さらに、
彼女を大切に、守っていく義務のような感情、が芽生えました。

これは、親が子を思うような感情に近いものです。


結婚にあたっての私の決意はこうして固いものになった、

今にして思えばそのように思えるのです。



   2002年12月18日(水)    君を今夜、抱きたい、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (9)


その友美さんが結婚前に私に身体を許したのは、
夏季研修の前の年の花火の夜でした。


その日私たちは友美さんの実家へ行き、
何度目かの冷たい仕打ちに合って、辛い気持ちに包まれていました。

「まぁ、なんとかなるよ、そのうちに、、、」

と、私は友美さんを励ましましたが、

私とても八方塞りで前が見えなかった、、、

(これが仕事だったら、もっとうまくできるのに、、、)

私は友美さんのご両親に信頼を得ることができず、
自分という存在に自信がなくなりそうになっていました。



その日は下町の川で大きな花火大会がありました。

私たちはあてもなく花火を見に行くことにしました。


何でもいい、華やかな気分になりたかったからです。


しかし花火を見ながら私はその美しさよりも、
その華やかさの短命さ、そのはかなさばかりを感じました。

どん、となって、夜空を一面に輝かせる美しい火の演舞、
けれど、それは一瞬にして燃え尽きてしまう、、、


私はとてもとても切なくなり、友美さんの肩を強く抱きました。

友美さんは私がじっと黙っていることが不安だったのでしょう、
私の腕の中に顔を埋め、
そっと、「好き、って言って、」と言いました。


私は、、、答えませんでした。


その代りにクチヅケをしました。


そして、私は、、、

「君を今夜、、抱きたい、」、と耳元で囁きました。



私は私に力が欲しかった。

そのためには彼女を抱くよりない、そう思ったのです。



   2002年12月17日(火)    結婚までは身体を許したくない、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (8)


私は友美さんにプロポーズをしましたが、
ではすぐに結婚、というわけにはいきませんでした。

まだ21才になったばかりの彼女です。

そして私は29歳、でした。


友美さんのご両親は大層反対されました。

私はご挨拶に伺った友美さんの実家の玄関先で、
友美さんのお母様にこう言われました。

「だから東京には出したくなかったのよ、
 悪い虫がつくといけないから、って。」

私は悪い虫扱いで敷居さえ跨がせてもらえませんでした。

(友美さんのご両親に友美さんと私の結婚の許しを得るまでに、
 半年の月日が必要でした。
 ですが、これもまた本題と離れますので割愛致します。)



6月の友美さんの誕生日の夜から、
私と友美さんは結婚を前提とした間柄になりました。

しかし、依然として私たちは、
キス以上の関係は持ちませんでした。


友美さんは私に対し、
恋愛の情を持っているように、私には感じられました。

今思えばそれは、
兄を思うような親愛の情だったのかもしれません。

私は友美さんに対し、
同じように恋愛の情を持っている、そのように私は思っていました。

しかしながらそれは、
本当のところは、愛しいと思う心、その心情であったのです。


けれども、私も男です。
性的欲望がないわけではありません。

ただ、愛しい、と、思うばかりに、
いざという時には友美さんの心情を優先し、
そしてその性的欲望を諌めていたのです。


友美さんは結婚までは身体を許したくない、
そういうふうでしたので。



   2002年12月16日(月)    つまり、だ、結婚しよう、な、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (7)


私は友美さんと付き合うにつけ、
友美さんに対する愛しさが募っていくのでした。

いつでも、にこにことしていて、人の悪い口は絶対にせず、
デートと言えば必ず手作りのお弁当を持ってきて、
甲斐甲斐しく私の世話を焼こうとする態度に、私は心を奪われていくのでした。



6月のある日、友美さんの誕生日に、
私はロシア料理店に彼女を招待しました。

そこの店主に私はチップを渡し、
楽団に歌のプレゼントをしてもらうように依頼しました。


ロシア民謡の音楽のあとに、
楽団は私たちのテーブルにやってきました。

そして、
店主が花束をもって現れ、友美さんに渡し、
「今日、お誕生日の彼女に祝福を!」
とレストラン中に聞こえるように声を掛けました。

店中から暖かい拍手と笑顔が友美さんに送られました。

友美さんはびっくりして、小さくなって、
「ありがとうございます、」と小声で言って頭を下げました。

そこで楽団がロシアの楽器を奏でます。
 
 HAPPY BIRTHDAY TO YOU〜♪

友美さんは感動して泣きながら私に言います。

「ありがとう、純一さん、ありがとう、、、」

「な〜に、泣いてんだよ〜、、へへ、嬉しかった?、」

「うん、、、」

私はなんだかめちゃめちゃに友美さんを愛しく思って、
ついに、こんなことを言ってしまったのです。

「もう泣くな、来年も、再来年も、10年後も、ず〜っと、
 ず〜っと、オレが祝ってやるから、な、だから、もう泣くな、」

「うん、ありがとう、」

(つまり、結婚しよう、ってことだな、これは、、、)

私は、つまり、そういうことを言ったのでした。

「つまり、だ、結婚しよう、な、だってさ、
 君が他の人と結婚したら、こんなふうに祝ってやれないもんな、」

「はい、、、」

友美さんは、また涙を浮かべて、嬉しそうに頷きました。



こうして私はプロポーズをしたのです、友美さんに。



   2002年12月15日(日)    その表情がとても愛しかった、、、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (6)


友美さんは、どうして私が自分を誘ってくれないのか、
そのことを悩んでいました。

(私がイヤなのかしら、)

好きとか、嫌いとかじゃなくっても、
これほどみんなに噂されているのに、
どうして声を掛けてくれないのかしら。


私が誘った時、彼女は私の前で涙をためて言いました。

「すみません、工藤さん、私が悪いんです、
 私が、そういう素振りをしていたんです。
 工藤さんは、私がおイヤなのでしょう?」

この展開は私には意外でした。
私はうろたえて、つい言ってしまいました。

「そんなことはないんだ、悪いのはオレのほうなんだ、
 オレ、君と結構トシがはなれているから、
 だから遠慮して、君に悪いようになっちゃって、
 、、、
 オレ、君のこと、好きだよ、かわいいし、」


友美さんは、(ホントですか?)、という顔をしました。


その表情がとても愛しかった、、、

私のこころは揺れ動き、私は、ホントだとも、と頷きました。


「もしよかったら、本当につきあってみないか、
 君さえよければ僕はそうしたい、」



その夜、私と友美さんは初めてのキスをしました。

気持ちを確かめ合うような、そんなキスでした。



そうして私は、その当時付き合っていた女と清算し、
(この女とのことは本題と関係がないので書きませんが、)
友美さんと付き合うようになりました。


周囲は安心したようでした。

もともと皆から愛されていた友美さんです。
そして、私とても、皆から親しまれていた私です。

誰もが祝福してくれる、オープンなカップルが誕生したわけです。



ただ、私には、
友美さんを愛しいとおもう心はありましたが、
友美さんに対しての恋愛の情はなかったのですが。



   2002年12月14日(土)    工藤は二股かけて友美さんを泣かせたらしい、

J (1.新入社員)

4. 花火の夜 (5)


私は友美さんを飲みに誘いました。
ただそれは義理をはたす為だったのです。

その最初のデート?は当然何もなく、
(ですが楽しいひとときではありましたが、)
次に会う約束もせずに別れました。


ところが世の中にはホワイト・デーなる行事があります。

私はまた義理を果たすためにキャンディーを買い、
友美さんにプレゼントをしました。

そしてそれでおしまい、ってことで、と私は考えていました。


しかしながら、人の目はそうは取ってはいませんでした。

営業の工藤と総務の友美さんは、できてるらしい、という、
妙なうわさがもっともらしく語られていたのです。

果ては、
工藤は悪いやつだ、友美さんをほったらかしにして、とか、
工藤は二股かけて友美さんを泣かせたらしい、とか、
思わぬ事態が私を取り巻きだしたのです。

あ〜あ、オレはどうでもいいが、この事態は友美さんがかわいそうだ、
私はそう思って、再び彼女と話すべく飲みに誘ったのです。


果たして彼女も悩んでいました。

しかしそれは違う意味で悩んでいたのです。



   2002年12月13日(金)    今晩時間とれたら、どう?、

J (1.新入社員)

4.花火の夜 (4)


バレンタインデーに義理チョコをくれた友美さん。
それにはこんなメッセージが添えられていました。

『いつ飲みに連れていってくれるんですか?』

私はこれを読んで、
(ああ、軽率なこと言っちゃったな、)と思いました。

何故ならその当時私には付き合っていた彼女がいましたし、
もともとそんなつもりもなかったからです。


しかし、一度口から出た言葉です、
言いっぱなしはいけないな、と思い、さっそく友美さんを誘うことにしました。


私は総務部に行き、事務所の真中で友美さんに声をかけました。

別にやましい事はありません。
堂々としたもんです。

「よ、友美さん、この間の件だけど、さ、
 今晩時間とれたら、どう?、」
「え?、いいんですか?、」
「うん、君さえよければ。ネ。」

それを聞きつけた総務課長が言いました。

「工藤君、なんだね、この間の件、とは?、」
「課長、聞くのはヤボってもんですよ、デートです、デート!、」
「ほう、デートねぇ、」
「なんてウソですよ、ハハハ、すみません、
 いや、成人式のお祝いにちょっといい所を教えてあげるって、
 この間の先月のパーティの時に約束していましてね、
 それで、ネ、友美さん、」
「はい、」

友美さんはニコニコして返事をしました。

「というわけで、課長、今晩友美さんを借りますので、
 残業はナシ、ってことでたのんます。」
「ああ、わかったよ、でも、ちょっかいだすなよ〜、
 営業の連中は手癖が悪いからな、」
「なんの、大丈夫っすよ、親が子供を連れて行くようなもんすから、」

私は総務課長にそういってから、
友美さんに向かって言いました。

「じゃさ、今晩7時に、」

「はい、宜しくお願いいたします、」

友美さんはとっても嬉しそうにして頭を下げました。


そもそもこれが既成事実が積み重なる最初のことでした。



   2002年12月12日(木)    今度飲みに連れって行ってあげようか?

J (1.新入社員)

4.花火の夜 (3)


私と友美さん。

私は営業部、友美さんは総務部、の、社内恋愛。


社内の成人式のお祝いパーティの時に、
軽い気持ちで飲みに誘ったのが始まりでした。

パーティの最中、友美さんは皆にビールを注いで回り、
やがて私の所にも注ぎにきました。

「工藤さん、いつもお世話になっています。」
「やぁ、友美さん、おめでとう、君も少しは飲めるのかい?、」
「いえ、少しで駄目になっちゃうんです。」
「ふ〜ん、そう、君はどこの出身だっけ?、」
「田舎なんですよ、○×郡の○×町、」
「あ、海のほうだね、いいなぁ、いつでも釣りができて、」
「工藤さんは釣りがお好きなんですか?、」
「うん、○×町の港にはよく行くよ、」
「なんだか恥ずかしいわぁ、」
「そんなことはない、いい町じゃないか、」

とまぁ、話がぽんぽんと弾みました。

私は気をよくしてついその調子で飲みに誘ったのです。

「今度飲みに連れって行ってあげようか?、」
「はい、お願いします、」

とあっさりとした返事、
私はこれは社交辞令と心得て、
「今度ね、」とだけ言っておきました。


私はそれっきりほっておきました。
何故なら私は友美さんに特別な感情は持っていませんでしたし、
彼女もたぶんそうであろうと思っていましたので。

当時、友美さんは20歳、私は28歳、
年齢もかなり離れていたこともありましたし。


ところが、一月後のバレンタインデーの日に、

それが思い違いであったことに私は気づいたのでした。


それは、、、
勘違いの始まりのようでもありました。


ともかく、私と友美さんの仲は、
バレンタインデーを機会に、
とんとん拍子にプロポーズするまで一気に進むのです。



   2002年12月11日(水)    花火の夜、私たちは初めて結ばれたのでした。

J (1.新入社員)

4.花火の夜 (2)


私はレイのほうをチラッとでも見たことに後悔をしました。

見なければよかった、、、
目が合ってしまうなんて思いもよらなかったのに、、、

そして、何でオレは目をそらしたんだ、!、


その時私がとった奇妙な行動に、私は私自身を嫌悪しました。

その時、私は友美さんから身をずらし、少し離れたのです。

肩を並べているところを、レイに見られたくないかのように、、、



「きれいね〜、、、純一さん、」

友美さんの声に私は我に帰りました。

「ああ、キレイだ、、、すっげぇな〜、」
私はことさら素っ頓狂な声で言いました。

自分の後ろめたさを隠すかのように。


「純一さん、去年の隅田川の花火、覚えている?、」

「覚えているよ、もちろん、」

「そう、よかった♪、」
友美さんは嬉しそうに言いました。


去年のある日の花火の夜、
私たちは初めて結ばれたのでした。

私はその一ヶ月前にプロポーズをしていました。

しかしそれまでのお付き合いの中で、
友美さんは頑なにそのことを拒んでいました。

私も友美さんのことは別格な対象でしたので、
特別にそのことを強く要求してはいませんでした。



その晩は、そうなるべくして、そのようになった、
そうなるしかなかった、そういう夜だったのです。



   2002年12月10日(火)    4.花火の夜

J (1.新入社員)

4.花火の夜 (1)


私は、A部長とB課長と一緒に飲んでいました。
レイは、新入社員がかたまった輪の中にいました。
友美さんは、A部長、B課長のご家族と一緒のテーブルでした。


雨上がりの夜空には満天の星が輝いています。

私とレイが夕暮れ時に気がついた水平線のの青い空は、
いつのまにか雲を追いやり空一面を征服していたのです。


その夜空に、どーん、と一際大きな花火。

視界いっぱいに広がる火の粉の演舞。


「これは、、、」、(凄い、、、!)

私はなんだかとっても嬉しくなりました。
とっても楽しい気分になりました。

何故ならその夜空は、
私とレイだけが知っている明日の空に違いなかったからです。



私はレイのほうを見やりました。

レイは、、、
夜空を仰いでじっと花火を見ているようでした。


私は友美さんを見ました。

友美さんは、、、
私の視線に直ぐ気づき微笑みを返してくれました。

嬉しくなって私は友美さんにウインクを送りました。


また花火が、どーん、と上がり、周囲が歓声に包まれました。


花火を見上げながら、ふと、私は思いました。



オレは何故レイを最初に見たんだろう?
オレはレイに特別な感情を持ち始めているんだろうか?

すぐさま私はその疑問を打ち消しました。

そんなことはあろう筈がない、
オレはもうすぐ友美さんと結婚するのだ、

そんなことは決してありえないことだ、、、



矢も溜まらず、
席を立って私は友美さんのところへ行きました。

「一緒に見よう、トモミさん、」

「うん、」

私と友美さんは肩を並べて夜空を仰ぎました。
私は私の気持ちを確かめるために。


そうしながらも、

私は、、、
私は、横目でちらりと、レイを見てみました。

花火が、また、どーん、と上がりました。


歓声の声が上がる中、

私とレイは、一瞬目が合って、、、


そして、お互いに目をそらしました。



   2002年12月09日(月)    レイちゃん、何していたの?、

J (1.新入社員)

3.雨、そして (9)


女心は分りません。
もの思いに耽っているのかと思うと、
ケロっと明るく楽しそうに振る舞う。

後日私はこの時のことをレイの口から聞くのですが、
この時の私にはこの時のレイがよく理解できませんでした。

ただ私の中でのレイへの見方が、
明らかに変わった出来事ではありました。


  私と同じ感性を持っているレイ、
  
  吸い込まれそうになる深い海のような瞳、

  そしてその深奥より光放たれる眼差し、


私はこの時の印象を生涯忘れることができません。



私は皆のところへゆき、
「そろそろ戻ろう、」と告げ、歩き始めました。

友美さんが私の横に来て、
「レイちゃん、何していたの?、」
と聞きましたので、私は、
「海を見ながら、、、明日の天気のことを考えていたんだってさ、」
というように答えておきました。



夜になりました。

今夜は港で花火大会があります。

夕食を早目に済ませ皆で宿舎近くの海岸へ行きます。


この海岸は港からは少し離れていますが、
混雑することもなく、かえってゆっくりと見物できます。

新入社員たちはキャンプ用のテーブルや椅子を運び、
女性は簡単なつまみ類を運び、
引率の私たちは、、、また、ビールと酒、です。

よく飲む会社です。


焚火を焚いて、
子供たちは自分で持ってきた花火を興じ、
大人たちはアルコールがまわり、舌が滑らかになり、
そろそろかな、という時に、


どーん、と大きな打ち上げ花火が上がりました。


(3.雨、そして、、の項 終わり)


   2002年12月08日(日)    私はもっとレイに近づきました。

J (1.新入社員)

3.雨、そして (8)


「何してんだろう?、ひとりでレイちゃんは、、、
 トモミさん、先にみんなのところへ行っておいて、
 オレ、ちょっとレイちゃんを呼んでくるから、」
「うん。先に行ってる、」
友美さんは微笑みを残し私から離れていきました。


私はレイの方へ歩いて近づいてゆきました。
レイは近づく私に気がつかない様子でした。
海の遠くのほうをじっと見つめていました。


「何を見ているんだい?、」
私は笑顔を作ってレイに声をかけました。
このひと言は波の音に消されレイには聞こえなかったようです。
「、、、」

私はレイにもっと近づきました。

「レイちゃん、どうしたの?、」
「あ、工藤さん、、いつの間に、」
「ひとりみんなから離れて、、、おセンチかい?、
 それともホームシック?、、なわけないか、」
私は愛嬌を崩して言いました。

レイはニコッとして、
「友美さんは?、」と聞きました。
「うん、先にみんなのところへ行ったよ、
 オレ、レイちゃんの姿見かけたから呼びに来た、」
「すみません、ひとりで勝手なことしていて、」
「いや、いいんだよ、」
そう言ってから、私はレイから目を離し海を見やりました。


波の音がふたりの声を遮ります。
私はもっとレイに近づきました。
寄り添うぐらいに。


「何見ていたの?、ひとりで、」

「あそこ」、レイは指を指しました。

「どこ?、」

「ほらぁ、あそこです、海と空の境のところ、水平線の向こう、」


「水平線の向こうに何が見えるんだい?、」

「雲と海の切れるところに青い空が見えるの、
 ね、工藤さん、見えますでしょ?、」


「ホントだ、もうすぐ今日が終わると言うのにね、」

「そうなの、明日がそこまで来ている、
 そう思っていたら、つい、ひとりで見入ってしまったんです、」



私は私と同じ感性を持っているレイを知り少し驚きました。

(何と言うことだろう、、、!、この子は私と同じものを見ていたのだ、)


私はレイの顔を見ました。
レイの目は遠く水平線の向こうを見ていました。
そして私の視線に気がつき私の目を見ました。


私は一瞬レイの瞳の奥を見て胸が高鳴りました。


  深い海のような瞳、、、

  この深海の奥より放つ光はいったいなんであろう、、、


私はついレイの瞳の奥に引き込まれそうになり、
慌てて言いました。
「レイちゃん、行こう、みんな待っているよ、」

レイは微笑んで、
「はい、工藤さん、了解しました、
 早く行かないと、友美さんがヤキモチ妬きますからね〜!」

レイはケロっとそんなことを言い、走って行ってしまいました。


レイの足取りは軽く楽しそうに見えました。
私には何が楽しいのかは分りませんでしたが。



   2002年12月07日(土)    純一さん、みんなが、、、

J (1.新入社員)

3.雨、そして (7)


雨は上がりましたが海はまだ荒れていました。
打ち返す波は濁って泡となり、足元を漱いでいきます。

私はタバコをくわえ、黙って遠い水平線を見ていました。
友美さんも黙って私に付き合ってくれました。

少しして友美さんが聞きました。
「純一さん、明日は晴れるかしら?」
「ん?、大丈夫だろ、たぶん、もう雲が切れてきている、」


私には水平線の向こうに青い空が見えていました。
その光景は私を魅了していたのです。


  波のうねりの先の、雲のよどみの先の、
  海の先の切れるところ、雲の先の切れるところ、

  その境に、
  明日見えるであろう青い空が微かに覗く、

  もうすぐに闇に消え行く今日にあって、
  誰にも知られることのない今日から明日へのこの移ろい、

  壮大な自然の摂理を目の当たりにして、
  私は心奪われし時を過ごすのだ。


私は友美さんの肩を抱き、
「よかったね、こういう時間がとれて、」
と優しく語りかけました。


友美さんはうれしそうな表情をし、私に身体を預けましたが、
思い出したかのように、皆のほうに目をチラッと向けて、
「純一さん、みんなが、、、」
(みんなが見ているわ、)と小声で言って少し身を引きました。

「うん、」
(でも、この二日間、キスもしていないよ、寂しくない?、)
私は肩から手を引きやはり小声で言いました。

「うん、」
(今は大丈夫、夜に、今夜こそ夜のお散歩に連れていってね、)
と友美さんはさらに小さな声で囁きました。

「うん、」
(じゃ、夜に、)
私は言葉を発音せずに目で答えました。



さて、と、戻ろうか、
そう思ってあたりを見回した私の目に、ふとレイの姿が映りました。

(あれ?、)
レイは何やっているんだろう、あんなところで一人で。



レイは皆からひとりぽつんと離れ、海辺に佇んでいました。



   2002年12月06日(金)    アツアツで当てられっぱなしになっちゃうし、

J (1.新入社員)

3.雨、そして (6)


昼食は広間に集まってまた酒を注文し、
備え付けてあったカラオケで歌を歌いだし、
2時間も食べて飲んで遊びました。

食事の後、私はごろりと昼寝に決め込んで横になりました。
ですので、その間の皆の様子は定かではありません。


「純一さん、もうみんな帰るってよ、」
私は友美さんに揺り動かされ、
起きた時にはもう3時を回っていました。

私達は送迎バスに再び乗り、宿舎へ戻りました。

雨は上がっておりました。



宿舎に着くと、また夜まで暇な時間です。

私は友美さんを誘って海岸を散歩にでようと思いました。
一応、A部長に許可を取って。

すると、安田をはじめ数人の新入社員が一緒に行きたいと言い、
(ち、何とまぁ、気が利かない奴らだ、)と私は思いましたが、
団体行動の引率者の一人としての立場もあり、
「おう、一緒に行こう、」と誘ってやりました。

安田は、
「樋口さんとかも誘っていいですか?、みんな退屈そうだし、」
と言うので、
「なんだ、君は樋口レイをいやに気にかけるじゃないか、
 たしか君には彼女がいるって言ってたよな、」
と私はカマをかけて言いました。

「いやぁ、僕ならどっちかって言うと、
 杉野さんの方がタイプなもんで、へへへ、」
「ふーん、」
「やっぱり、女の子がいた方が楽しいッすから。
 ですし、工藤さんも友美さんと一緒となりゃぁ、
 アツアツで当てられっぱなしになっちゃうし、」
「ま、勝手にしろ、すぐ行くからな、」
「了解しました、工藤係長殿!、」


ということで、新入社員の男女の複数人、
ついて来ることになってしまいましたが、
私は友美さんとふたり、
ほかの連中とは距離をおいて散歩にでかけました。


しかし、友美さんとふたり、とは言え、

もともと私は手を繋いで歩いたりすることは苦手でしたし、
 
友美さんも人前でそういうことをするのは恥かしがるタイプでした。


ですから、はたから見るとふたりは、

私が前を歩き、友美さんが後ろからついて歩く、

ただそれだけでしたので、

決してアツアツには見られなかったかと思いますが。



新入社員の男女はこの二日間で親睦が深まった様子でした。

彼らは海岸でとても楽しそうにじゃれあって遊んでいました。

レイも?、、、。



   2002年12月05日(木)    レイについてのふたつの疑問

J (1.新入社員)

3.雨、そして (5)


私はさらに暫く泳いでから、プールサイドに上がりました。

雨は多少小降りにはなってきましたが、依然降っています。
新入社員たちはビーチボールなどで遊んでいました。

私が上がったのを見て、友美さんが上がってきました。
「冷たい、少し寒いわ、」
「うん、もう上がろう、みんなはほっとけばいい、」

(子供じゃないんだから、)
私は心のうちでそう呟き、
友美さんにバスタオルを掛けてやりました。


私と友美さんが上がったのを見て、
レイと杉野佳菜も上がってきました。
「さっむ〜、工藤さんたち、もう上がるんですか?、」
とレイが私に聞きました。
「うん、もう泳ぎはいいから、温泉に入ろうと思ってね、」
レイと杉野佳菜は顔を見合わせ、
「じゃ、私たちもそうしよっ、」
と杉野佳菜が明るくにこにこして言いました。



ですが、私は女の子達と一緒に風呂に入れませんので、
そこで3人と別れ、一人タオルをもって浴場に行きました。

沸かし湯とはいえ、一応温泉、
冷えた身体にはとても心地良いものです。

私は深深とあごまで湯船につかり、
浴場の天井を仰ぎ目を瞑りました。


レイ、、、

私の脳裏にレイのことが浮かんできました。

私にはレイについて、
この夏季研修でふたつの疑問が生まれていました。


ひとつは、
レイが付き合っている人がいるのか、いないのか、ということ。

友美さんには、いると言い、
私には、いないと言ったレイ。
何故だろう?

好きな人はいる、と言ったレイ、
どういう事だろう、、、


もうひとつは、
レイの水着の下の秘められた果実、

レイの胸の形はどんなだろう?
レイの乳輪は、、、

うーん、、、これはオレは一生知る由もないか!


私は、ザバっと湯で顔を洗い、
「ふ〜っ」と、ため息のような、おおきな息を吐きました。



   2002年12月04日(水)    彼女は見た感じよりキュートな身体なのです

J (1.新入社員)

3.雨、そして (4)


身長160cmを超えるレイは、
18歳の若さのまま、水着に包まれていました。
豊かな胸、締まったウエスト、小気味よい腰、すらりと伸びた足、
均整のとれた体型は私の目に焼き付いていきました。

杉野佳菜は友美さんと同じくらいの背丈でしたが、
やはり胸が大きく、ちょっぴり太めですが、
あどけない笑顔が印象的で、それはそれで魅力的でした。

友美さんは、
他のふたりに比べると少しばかり胸が貧相に感じましたが、
彼女のことは私はよく知っていますので、
別段何も感じませんでした。
彼女は見た感じよりキュートな身体なのです。

ただ、そういう目で見たのはその一瞬だけで、
私の脳裏にはそうしたことが一瞬に焼きつきましたが、
誰も私がそういうことを考えていたとは気づく筈もなく、
私たちは屋外のプールを見ながら話していました。



既に安田たちはプールに入っており、
「ツメテ〜、うひゃ、」
とか歓声を上げながら泳いで、遊んでいました。

私は、
「じゃ、泳ぐか、水が冷たそうだけど、、、」
と言って、ザブンとプールに飛び込みました。

冷たい、これは早々に上がった方がいいな、
私はクロールで流しながらそう考えました。


25Mの小さなプールでした。
私は行ったり来たり200Mほどひとりで泳ぎました。
ふと女の子のほうを見ると、まだ入るかどうするか迷っていました。

「お〜い、せっかくだから泳いだらどうだい?、」
私がプールの中から声をかけると、
安田たちが、「それなら、」といって彼女たちのところへ行き、

水をかけたり、プールの中に落とそうとしたり、

きゃっきゃ、きゃっきゃ、と楽しそうな歓声が上がり、

そのうちに、レイも、杉野佳菜も、
そして友美さんまでも、プールの中に落とされました。



遠目で見ていても楽しげにに見えました。

まだコドモなんだな、みんな、
私はひとり微笑んで、泳ぎながらそう思いました。



   2002年12月03日(火)    この子の水着の下はどんなだろうか、、、

J (1.新入社員)

3.雨、そして (3)


朝食が済んでも雨は降り続いていました。

一行は温泉に行くことになりました。
温泉、と言っても、地下水を汲み上げて、沸かしているだけのものですが。

健康センターのような施設が近隣にあって、そこには温水のプールもあり、
風呂に入り、食事をして休憩もできる、地方に行くとよくあるような施設です。

送迎バスもあって面倒もない、大人も子供も楽しめる。
こんな雨の日には都合のいい場所でした。

私たちは所在無くバスを待ち、
9時も過ぎたころ、バスは迎えにきて、
そこへと向かったのです。


そこでは昼まで自由行動にしました。

私は風呂に入る前にひと泳ぎしたかったので、
友美さんを連れ立って温水プールに行きました。

よっし、昨日海で泳げなかった分まで泳ぐか、
と、勇んで着替えて行ったのですが、
残念なことにプールは子供で一杯で思うようには泳げません。

「がっかりだね、」と私が友美さんに話している所に、
男の新入社員が何人かぶらぶらやって来ました。

安田が私の姿を見つけ言いました。
「工藤さん、これじゃ、泳げませんよ、
 屋外プールに行きませんか?
 さっき見たところ誰も泳いでいませんでした。」



寒そうだな、と私は思いました。
7月の末とは言え、雨の中では肌寒い。
友美さんを見ると、
私は純一さんに合わせるわ、と言う顔付きでした。

「どうします、僕たちは行きますよ、みんな若いっすから、」

ちっ、オレだってまだ30、若いんだよ、と私はカチンとし、
「オレも行く、、、ぜ。」
と思わず言ってしまいました。

安田は女の子も誘い、レイも誘われ、
何人かが応じて、私たちは屋外へ出ました。


レイは仲のよい総務部の新入社員と一緒でした。

この総務部の新人は杉野佳菜といい、
友美さんの後を受け継いで仕事をしている子でした。
ぽっちゃりとしたかわいい子です。

(総務部は友美さんといい、いつもこんな感じの子を採用するな、)
私は総務部長の顔を思い浮かべそう思いました。


レイが私に言いました。
「工藤さん、水泳、上手なんですってね、」
「え?、誰がそんなことを、あ、」
私は友美さんを見ました。
友美さんは「エヘヘッ」、と顔を赤らめました。

そんな話をしながら、
私は、実はレイの水着姿を見ていました。
昨日、友美さんが言った言葉を思い出しながら。


この子の水着の下はどんなだろうか、、、

この子の乳首は、、、


(でも、乳輪も大きいの、)

この友美さんの昨夜の一言が、私の頭に浮かんでしまっていたのです。


私はレイを見、杉野佳菜を見、そして友美さんを見ました。

そういう目で。


男なんてそんなもんです、ハイ。



   2002年12月02日(月)    私はそんな友美さんをただ愛しく思った

J (1.新入社員)

3.雨、そして (2)


私は友美さんに恋愛の情は持っていませんでした。
愛しいという心、そういう心情だけ持っていました。

愛しい、愛しい、友美さん、そんな感じです。

恋しい、恋しい、友美さん、ではなかったのです。


友美さんは、
私と知り合った時も、
私と付き合うようになった時も、
私と初めてキスをした時も、
私と初めて結ばれた夜も、
純真で、無垢で、慎ましく、
私の中に溶け込んできました。

私はそんな友美さんをただ愛しく思った、
こんな私と一緒にいて、
こんなに幸せを感じてくれるのならば、
私はいくらでも友美さんに愛をあげよう、
そんな心持ちになっていったのです。


友美さんは誰からも好かれていました。
決して自分を前に出さない、
いつでも人の話を微笑んで聞いている人でした。

私は何でも話してあげました。
何でも教えてあげました。
友美さんは私を頼り、何でも相談するようになりました。
私のいう通りにすることが彼女の幸せであるかのように。


私はいつでも友美さんをリードして、
いつでもエスコートして、
いつでも包んであげました。


それは今でも続いている、私と友美さんとの関係です。


ただ、その関係は、
お互いに話し合って何かを決めるということがないので、
私にとってはちょっぴり物足りないと思うこともある関係ですが。



   2002年12月01日(日)    3.雨、そして

J (1.新入社員)

3.雨、そして (1)


朝から雨、海は荒れていました。
前日の酒が残って辛い朝でした。
私は所在無くごろりと畳の上で寝転んで、
TVの天気予報を見ていました。

新入社員たちも思い思いに過していました。
女子の部屋の様子は分りません。
朝食は8時からという連絡だけが皆に伝えられました。

A部長、B課長も私の傍らで寝転んでいました。
私と同じようにアルコールが残って、
口を利くのが面倒な様子でした。

安田が来て、
「これじゃぁ、泳げませんね、」と私に声をかけました。
(そんなことは天気をみれば分るだろうに、)
私は面倒臭そうに、「ああ、」とだけ答えました。

「ビールでももってきましょうか?、」
と安田が聞きました。
この問いかけはいい。とっても。

「お、いいな、迎え酒といこっか、」
A部長は、ニヤっとして身体を起こし、
安田にビールを持ってくるように頼みました。


少しのアルコールで私たちは元気になり、
今日の予定をたて、
その後またごろんとして、
朝食までの間朝寝と決め込みました。


私は天井を見上げ友美さんのことを考えていました。



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この物語はフィクションです。

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