J (ジェイ)  (恋愛物語)

     Jean-Jacques Azur   
   2002年11月30日(土)    私はキスしてあげたいと思いましたが、

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (13)


友美さんは、
「たぶん、恥かしかったんじゃないの?、
 会社の人にそんなこと言えないでしょ、普通、」
と言いました。
「それもそうだな、うん、あ〜あ、もうグテングテンだ、
 そろそろ帰って眠たいな〜、」
私は大きく伸びをしてあくびの仕草をしました。

「大丈夫?、明日二日酔いで辛くなっちゃうね、また、」
「うん、うん、もう帰ろっか、A部長に言ってくるよ、」

私は席を立ちA部長に「そろそろ、」、
と言って会計を済ませ、皆で帰ることにしました。


帰りのタクシーは相乗りでギュウギュウになって乗り込み、
誰がどう乗ったのかは分りませんでしたが、
大騒ぎをしながら宿舎に戻りました。

タクシーを降り、友美さんが私に駈け寄り、
「おやすみなさい、純一さん、」
とひと言言ったので、
私はキスしてあげたいと思いましたが、
皆の手前できませんでした。

私は、「うん、おやすみ、散歩、あしたしような、」
とだけ言って友美さんと分れました。

レイは、いつの間にか部屋に消えていました。


雨が降り続いていました。


(2.夏季研修 の項、終わり)


   2002年11月29日(金)    何話してたの?、

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (12)


私は思わず、「誰?」、と聞きそうになりました。
ですが、その言葉は飲み込んで、ニコリとして、
「どんな人なのかな、レイちゃんの好きな人って?、」
と聞きました。

レイもにこっとしました。
そして、
「そうですねえ、私、う〜ん、やっぱり、ナイショ、、、」
と言いました。
私は、「そっか、」とだけ言って、水割りをゴクリと飲みました。

ちょっと間をあけて、私は聞きました。
「その人、年上?、」
レイは目を丸くして私の顔を見、「、、、え?」、と小声で言い、
そのまま言葉を飲み込んで黙ってしまいました。


私はさらに聞いてみたかった。
ですが、その時はそれ以上は聞けませんでした。
何故ならそこに友美さんが来たからです。

「純一さん、」
「ああ、トモミさん、歌、よかったよ、」
「ありがとう、レイちゃんもさっき歌ってたわね、」
「はい、すみません、へたっぴで、
 あ、友美さん、ここどうぞ、私、向こうに座りますから、」

レイは気を利かせて席を友美さんに譲りました。
友美さんは、どうしたらいい?、と私に目で聞き、
私は、うんうん、と顎で答えました。
レイが立って、友美さんが私の横に座りました。
レイは、
「お邪魔しました♪」
と敬礼するようにして言って向こうにいってしまいました。

「何話してたの?、純一さん、レイちゃんと、」
「いや、別に、、、」
「ふ〜ん、」

友美さんは私を訝しげに見ました。

私はタバコに火を点けてから、
友美さんの顔を見て言いました。


「レイちゃんさ、オレには彼氏いないって言ったぞ、なんでだろうね、」



   2002年11月28日(木)    でも、好きな人は別にいるんです、私、

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (11)


私が声をかけたからきたのか、
レイが自分から進んでかきたのか、
記憶に定かではありませんが、
何時の間にかレイは私の隣に座っていました。

18歳の新入社員、レイ、と、
彼女の上司にあたる30歳の私、
特別にこの場の光景としては不自然ではありません。

「工藤さん、随分飲んでるみたいですね、」
「ああ、レイちゃん、君も飲んでるの?」
「少しだけ、です、」

レイは未成年ですから、
多くは飲んでいなかったでしょう。
でも、ちょっぴり酔っているようにも見える。
そんな感じでした。

「友美さんって優しい人ですね、かわいいし、、、
 工藤さん、友美さんといつ結婚するんですか?」
「この秋だよ、10月、えっと何日だったかなぁ、
 う〜、酔ってて思い出せないや、10月のいつかだよ、」
「いつプロポーズされたんですか?」
「ん〜と、去年の友美さんの誕生日、」
「去年、ですか、友美さんの21歳の誕生日、ですね、」
「そう、」
「なんて言ったんですか?」
「え〜っと、、、おいおい、なんだか矢継ぎ早に、
 どうしたの、レイちゃん、それよりさ、、、」

(それよりさ、歌、歌わないのかい?)
私はそう聞こうとしたのですが、
レイは私の言葉の前にぽつりと言いました。

「いいなぁ、友美さん、幸せそうで、」

私は、話を続けました。

「レイちゃん、歌わないの?みんな歌っているよ、
 好きな歌って、せっかくきたんだから。」

レイはちょっと口を尖らせて、言いました。

「歌はいいんです、さっき歌いました、
 聞いててくれなかったんですか〜?」

私は、しまった、と思いましたが、
まぁ酔っているから分からなかったということにして、
「じゃ、歌はいいよね、」とだけ言いました。

少々バツが悪かった私は、
「しかし、まぁ、レイちゃんはかわいいし、よくできる、
 君みたいなコが入ってきてくれて僕もうれしくってね、」
とよいしょして話題をかえました。
「高校時代ももてただろうね、
 やっぱ、彼氏とかいるのかな〜?」

レイは首を振り言いました。

「お友達は何人か。でも、」

「でも?、」

一瞬の沈黙の後、レイが言いました。

「、、、あ、工藤さん、友美さん、ほら、友美さんが歌ってる、」

「え?、」

レイは指差した先には、
友美さんがマイクを持って歌っている姿がありました。

私は遠い目で友美さんを見ました。
その時は、遠くに、本当に遠くに友美さんを感じました。

私はレイの「でも、」の先が知りたかった、
どうしてもその先の話が聞きたかった。
友美の歌なんかどうでもいい、というようにして聞きました。

「でも、なんなの?、レイちゃん、」

レイは決して誰にも言わないで、
と私に念を押してから言いました。


「でも、好きな人は別にいるんです、私、」




   2002年11月27日(水)    レイは少し酔っていました

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (10)


スナックは先に電話を入れてありましたので、
既に席は用意されていました。

B課長が音頭をとって、
全員がばらけて座るようにしました。
私は友美さんに目配せをし、
私と離れた席に座るように促しました。

もともと私も友美さんも、
人前でベタベタするのは好みませんでしたし、
またこれは会社の行事の一環ですから、
私達だけの世界を作ってはならない事ぐらい心得ています。

レイも、私からは離れた席に座りました。

最初レイは私の隣りに座ろうとしたのですが、
安田が、
「工藤さんの隣りが樋口さんじゃかわいそうっすよ、
 ここまできて上司のソバはないよね〜、」
とか言って、レイを自分の隣りに呼びましたので、
私は、それもそうだと思い、レイに、
「あっちに座ったら?」と席を替えさせました。

実際にはそうとう飲んでいたので、
こんなに冷静な会話ではなく、
ヨッパライの話し方で会話されていたのですが。


総勢20人位のメンバーなので、
誰がどこに座ってどうだったかということは、
殆ど覚えておりません。
誰がいたかも記憶に乏しいところです。

人が入れ代り立ち代り歌を歌って、
その都度、席も変わって隣りに座る人も変わり、
それぞれにバカ話を繰り返していたように記憶しています。


ただ、いつしか私の隣りにレイが座って、
その時話したことははっきりと覚えているのです。


レイは少し酔っていました。
私は大そう酔っぱらっていました。



   2002年11月26日(火)    オレたちは遊びに来ているんじゃない

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (9)


昼の海の家での酒も残っていたので、
宴会は当初から盛り上がっていました。

新入社員は入れ替わり立ち代り、
私のところにも酒を注ぎにきて、
私もそのうちに席を立って注ぎに回り、
席に戻ると友美さんも注いで回っていたりして、
二人しての話はそれっきりになりました。

レイも同様に酒を注いで回り、
私のところにもきて話もしましたが、
なにせ酔っている席での会話なので、
何をどう話したかは覚えていません。

8時が過ぎた頃、中締めをし、9時には本締めをしました。

私はへべれけになってしましましたが、
友美さんとの約束は覚えていましたので、
ちょっとしたら散歩しようと考えていました。

その時、大卒の新入社員の安田が来て、
実はこれからカラオケに行こうと思うんですが、と、
どうですかという顔つきで私に問い掛けました。

「これからかい?、誰が行くんだ?、」
「新入社員の一部、いや大卒はみんなです、高卒の子は何人か、
 女の子はみんな誘ってみようかと思っています。」
「おい、それはだめだ、オレたちは遊びに来ているんじゃない、
 恐れ多くも会社の行事、それも夏季研修に来ているんだからな。」

私は少し考えて言いました。

「それに、カラオケっていったって、このあたりにはないぞ、
 町まで車で出なくてはならない、事故でもあったら大ごとだよ。」

安田は渋々した表情で言いました。

「でも、みんなこんな早くっから寝れませんよ、
 工藤さんはどうするんですか?、もう寝るんですか?、」

「オレは、、、(友美さんと散歩に行って来る、)」、
、、、とは言えませんでした。

「う〜ん、それも、、、そうだなぁ、、、うん、
 じゃ、A部長に相談してやるよ、ちょっと待ってろ、な。」

私は思わぬことを請け負ったような振りをしましたが、
私とて皆と一緒にカラオケに行きたかったのも事実でした。


私は、酒好きのA部長、B課長とをうまく巻き込んで、
なら会社の行事としてみんなでカラオケに行こう、
という話になりました。

メンバーは、A部長、B課長、私と友美さん、
それと酔いつぶれた一部を除く新入社員、

レイを含む女子新入生も当然一緒でした。


私たちはタクシーに分乗し、雨の中、
民宿で紹介されたスナックに向かいました。



   2002年11月25日(月)    みんな胸が大きいの

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (8)


3時も過ぎて雲行きが怪しくなってきました。
私は空を見上げました。(明日は残念だけど雨だな、)

「さあて、宿舎に戻ろう、戻って夜までひと休みだ。」

A部長はそう言って腰をあげ、みなそれに続きました。
一行が宿舎に戻る頃、ぽつりと雨がふってきました。


宿舎には風呂がひとつしかありません。
男女別に入ることになります。
女性の方が時間がかかるので、先に女性が入りました。
次に子供とお母さん、
最後に男どもががやがや入りました。

私は酒をずいぶん飲んでいたので、
部屋で寝てしまい、風呂に入ったのは一番最後でした。


夕食はまた酒を飲みます。
よく酒を飲む会社ですね。
海の家でとは違い、今度は本格的に飲みます。
新人研修とは新入社員に酒の恐ろしさを教えるためにある、
とまで言い切る輩もいるほどです。
私もこうして酒を知り、強くなっていったものです。

夕食では友美さんが横に座りました。
友美さんはアルコールは飲めません。
それがちょっと残念な私でしたが。

「純一さん、飲み過ぎないようにね、
 夜一緒に散歩するって約束、忘れないでね、」
「おう、忘れるもんか。、、、でもなぁ、雨だもんなぁ。」
「いいの、ちょっとだけ行きましょ、
 、、、ここでは、ふたりになれる機会がないんですもの、」
「ん?、なに?、小さくて聞こえないよ、」
「いいの、なんでもない、」
「そっか、」

私には聞こえていたのですが、照れてしまったのです。
そして話題を変えました。

「風呂、どうだった?、みんなと一緒に入ったんだろ?、」
「うん、あ、エッチなこと考えてんでしょう?、」
「なんだよ、エッチなことって?、」
「例えば、〜カラダツキがどうだったとか〜♪、」
「違うよ、狭かったから、さ、、、、え、じゃ、さ、どうだったの?、」
「やっぱり、知りたいんだァ〜♪、」

何なんだよ、この思わせぶりな会話、じれったい。
私は、もういい!、っていう顔をしました。
友美さんは慌てて言いました。

「みんな胸が大きいの、羨ましかったわ、」
「ふ〜ん、それは知ってるよ、さっき水着姿見たもん、」
「あ、やっぱり、そういうチェックしてたのね、」

友美さんはちょっと不機嫌な顔をしました。
私はそういうつもりじゃないというふうに、
え?、という顔をしてみました。
でも、本当は、やっぱりそういう目でみていたのが事実ですが。

少し間を置いて友美さんが言いました。

「でも乳輪も大きいの、」

誰が?、と口先まで言葉が出ましたが、聞くことはできませんでした。


誰?、レイ?、レイはどんなんだろう?、

この時私は初めてレイの身体を想像したのです。



   2002年11月24日(日)    海の家にて

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (7)


一行は海の家に席を取りました。

海は遊泳禁止になっていて泳ぐことはできません。

本来ならば引率者は万が一のために皆の行動を把握して、
監視に努めなくてはならないのですが、
遊泳禁止とあってはその役目も不要でした。


新入社員の多くはそれぞれ仲のよい者同士で散り散りになり、
思い思いに砂浜で過していました。

甲羅干しをする者、
ビーチバレーをする者、
砂に埋まる者、

子供たちは波打ち際で遊び、
女の子達はかたまっておしゃべりをしていました。
レイもその中にいました。
友美さんも。

私はA部長、B課長と海の家でビールを飲み始めました。

A部長もB課長も営業部ではありません。
ですので、仕事の話は一切なくって気楽に話が弾みます。

友美さんと私との結婚式のことなどが話題になり、
自分の時はこうだった、とか、
へぇ〜、じゃ、その時は大変でしたね〜、とか、
そんな話をしているうちに、酔いが回って、

結婚するとオンナは変わるゾ、とか、
今が一番いいときだゾ、とか、
だんだん説教調に話がなってきて、
これはかなわん、と思ったものでした。


いつの間にか大卒の新入社員の男の子が話に加わって、
一緒にビールを飲み始め、酒を注文し、つまみも頼んで、
昼間から宴会の様相になりました。

新入社員のひとりが私にビールを注ぎながら言いました。

「工藤さん、今度、ご結婚とか、おめでとう御座います。
 でも、いいですよね〜、あんなカワイイ子と結婚できるなんて、
 羨ましいっす、とっても、」

私は少し照れて、
「いや、ありがとう、そんなことはないよ、たいしたことないよ、」
と言いました。

「だってですよ、友美さんって僕よりも年下なんですよ、
 ほんと、おめでとう御座います、羨ましいっす、」
「まぁ、まぁ、君も酒を飲め、えっと、なんて言ったっけ、君、」
「安田、っていいます、業務部に入社しました、」
「そっか、安田君、か、で、君はどうなんだい?、
 仲のいい女友達のひとりやふたり、いるんだろ?、」
「それが、、、」


酒飲んで女の話をしていれば、
世代が違っても話が弾むってもんです。



そのうちにみんなして海の家にあがりこみ、
おとなはみんなして水着姿で酒を飲み、
こどもはみんなして好きなものをたらふく食べ、
みんなして楽しい気分で時が過ぎていきました。



   2002年11月23日(土)    レイちゃんって、胸大きいもんねぇ

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (6)


宿舎から海までは歩いて5分位でした。
みな水着姿で海に向かう坂を降りていきます。

先頭にA部長とB課長、
その後ろに新入社員の男女がばらばらと続き、
その後にA部長とB課長のご家族が歩き、
一番後ろに私と友美さんが並んで歩きました。


友美さんは小さな子供に纏わり付かれながら、
微笑んで言いました。

「ね、純一さん、子供ってかわいい、私、子供が大好きなの、」

「オレも好きだよ、結婚したらすぐに子供ができるといいね、」

と、まぁ、ありふれた会話をしていたようです。


レイはと言えば、
同期入社の仲良しの女の子と並んで歩いており、
まわりに男の子が数人、ふざけあいながら談笑していました。

(彼氏がいるってことは、あの中のオトコじゃないな、
 高校時代の同級生かなにかだろうか?)

私は遠目でレイを見ながらそんなことを考えていました。


「純一さん、何見てるの?、レイちゃん?、」

友美さんは私の心のなかを覗き込むように、
そう言って上目遣いに私を見上げました。
私が黙っていると話を続け、

「う〜ん、レイちゃんって、胸大きいもんねぇ、
 身長も高いし、スタイルもいいし、もてるでしょうねぇ、
 ね、純一さんは胸が大きい人、好きなんだもんね!」

と言うので、私は慌てて言いました。

「いやぁ、なに、発育が良すぎるのも色気がないもんだよ、
 やっぱ、中肉中背、トモミさんみたいのが丁度いいんだよ、」

友美さんは顔を赤らめ、話題を変えました。

「レイちゃん、お付き合い始めたばかりなんだって」

「え?、どんな人?、」

「知らないわ、それしか聞いてないんだもん、
 知りたいのなら聞いてあげましょうか、ナイショで、ネ。」

「いや、いいよ、興味ないから、」


私はちょっぴり知りたい気持ちになりましたが、
だからと言って知ってどうなるわけでもないのですし、
また友美さんに妙な疑いをもたれても心外なので、
きっぱりと「聞かなくていい、」と言っておきました。



やがて海岸に出て、海は荒れていました。



   2002年11月22日(金)    みんな彼氏がいるんだってさ

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (5)


宿舎は会社の保養所でした。

保養所、といっても大きな会社と違い、
夏の間だけ民宿を契約して借りている施設でした。


昼前に一行は宿舎に入り、男女別に部屋を割り振りました。
妻帯者も厳格に男女別に分かれて部屋を取ります。
小さい子供はお母さんと一緒、大きい子供は男女に分かれました。

当然私と婚約者の友美さんも離れ離れになりました。
寂しいですがこればかりは会社の行事です。
仕方ありません。

友美さんとレイは同じ部屋になりました。

私は一応引率者なので、
同じ引率者のA部長とB課長と一緒の部屋になりました。


部屋で荷物を広げ、少しゆっくりしてから昼食の後、
さっそく海に泳ぎに行きます。


友美さんはレイとその間に随分仲が良くなったようで、
再び私の前に現れたときには親しげに話をしていました。

もっともレイばかりでなく、他の新入社員の女の子たちもみな、
友美さんと親しくなってはいましたが。


昼食の時、私は友美さんに聞きました。

「何を話していたんだい?、
 なんだかみんなしてオレのことを見ているけれど。」
「みんなね、どうして純一さんと私が結婚するようになったのか、
 とっても興味があるみたいよ、
 いつから付き合ったんですか?、とか、
 プロポーズの言葉はなんですか?、とか、
 いろいろ聞いてくるの、女の子ってそういうものなのよ、」
「あいたっ、で、トモミさん、話しちゃったの?、」
「ちょっとだけね、フフッ、困っちゃう?、純一さん、」

私は、まいったなぁ、と思いましたが、
じゃぁ、何がいけない、ってこともないので、

「いや、別に困らないよ、でもさ、う〜ん、
 噂の餌食になるだけだから、テキトーにあしらっておいてね、」

とだけ牽制をしておきました。

友美さんは敬礼するような仕草をして答えました。

「はい、心得ました、注意します、工藤係長殿。」
そして少し間を置いて、
「、、、あとね、みんな彼氏がいるんだってさ、コレはナイショよ。」

友美さんはそう言って、目配せをし、
水着に着替えるために私から離れて部屋に戻りました。


みんな、っていうことは、レイも彼がいるんだ、、、

私の知らないレイがそこにいたのです。



   2002年11月21日(木)    君の方がずっとかわいい

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (4)


バスは人数の割に大きかったので、
車内では各自思い思いに座りました。


私は婚約者の友美さんと並んで座り、
レイは仲の良い同期入社の女の子と並んで座りました。


友美さんは私に、
「ね、純一さん、レイちゃんてかわいい感じの子ね、」
と相槌を求めるような言い方で話しかけました。

私は、
「そうだね、まぁ、まだ高校生に毛が生えたようなもんだもの、
 かわいいって言えばかわいいかぁ、
 もう少し大人になってもらわないと仕事上困るんだけどね、」
と話しました。

「あと半年もすればそうなるわよ、たぶん、
 あの子はああ見えて芯が強そう、私には分るわ、」
「ふ〜ん、ならいいんだけどね、」

私は窓の外を見ながら言いました。
友美さんは話を続けました。

「レイちゃん、大人びてくるときれいになるんでしょうね、
 うらやましいな、ああいう顔立ちの子って、」

「何言っているんだい、トモミさん、
 君の方がずっとかわいいし、とってもステキさ、
 、、、オレにとっては君が一番なんだから、ね。」


友美さんはきれいというより、かわいいという顔立ちの人でした。
愛くるしい笑顔がとっても印象的な明るい感じの人でした。


私は友美さんを愛していました。
もちろん、今も愛しています。

愛しいと思う心、そうした愛情によって。

 
レイについてはと言えば、その当時はまだ、
私はそういう目でレイを見たことはありませんでした。
部下として思う親愛の情しかありませんでした。

3年後、その親愛の情が恋愛の情に変わるなんて、
その当時は、思いも寄らぬことでした。



バスは海岸線の道を、
水平線にそって東に向かって走りました。



   2002年11月20日(水)    私は婚約者の友美さんにレイを紹介しました

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (3)


その年は明けそうで明けない梅雨が続き、
7月の終わりになっても気温が上がらない寒い夏でした。

夏季研修の初日は、幸運にも好天に恵まれて、
役のない引率者である私も、ホッと胸を撫で下ろした記憶があります。

海までは貸切のバスでいきます。
大型バスが会社の前に横付けされ、
引率者、引率者家族、新入社員が揃いました。

新入社員は総勢13名おりました。
男子が8名、うち大卒が4名、高卒が4名、女子はみな高卒で5名でした。

引率者家族には小さな子供もいて、
研修と言うよりも、泊まりがけで海水浴に行くという雰囲気です。

会議室で出発前のミーティングをし、
総務部から諸注意を説明され、
社長から長い退屈な訓示を戴き、
やれやれとしたところで、いざ、出発です。


バスに乗り込む前に、
私は婚約者の友美さんにレイを紹介しました。

「トモミさん、この子がレイちゃん、だよ、えっと、樋口レイさん。」

友美さんはニコニコしながら挨拶しました。

「よろしくおねがいします、○○友美です。
 レイちゃん、あなたのこと純一さんからよく噂を聞いているのよ。
 だから初めて会った気がしないわ。」

レイもニコニコしながらぺこりと頭を下げ、

「センパイ、よろしくおねがいします、樋口レイです、
 友美センパイは総務部にいらっしゃったんですってね、
 私もお噂はたくさん聞いています、」

「いい噂じゃないでしょう?」と、友美さんが聞くと、

「とんでもありません、みんな友美センパイは優しくっていい人だって、、、
 工藤さんにはモッタイナイくらいの人だって、、、
 あ、工藤さん、ゴメンナサイ、」
レイは手のひらを口に当て、上目遣いに私を見ました。

私はそんなことはどうでもよかったのですが、
話をあわせ、おどけた様子をして、

「ちぇ、まあいい、さ、バスに乗ろうぜ、」
と、うながすように言いました。


バスに乗り込みながら友美さんはレイに、

「レイちゃん、センパイはよしてね、
 もう私は会社の人間じゃないんだから、ネ!」
と話かけ、レイは、
「ハイ、気をつけます、センパイ、あ、ゴメンナサイ、」
と言ってシマッタと頭をこつん、で、ふたりでクスクス笑い。

私はこの二人、なんだか明るいけどなんだかな?
とばかり思っていましたが、
これもまた、どうでもよいことなので、ほっておきました。


当時、私は30歳になったばかり、
婚約者の友美さんは22歳になったばかり、
レイは3月生れでしたので、まだ18歳でした。



   2002年11月19日(火)    こうして私は、私と、私の婚約者と、レイを連れて、

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (2)


「工藤君、毎年7月の終わりに、新入社員対象の夏季研修があるのは知っているね。」
「はい、勿論です、私も新入生の時に参加しましたから、」

(また部長はヤブカラ棒に何を言うんだろう?、この忙しい時に。)

と私は一瞬思いましたが、そうか、レイのことだな、とすぐに察しました。

「あ、樋口さんですね、大丈夫です、仕事の都合はいつでもつきますから。」
「うんうん、そうそう、樋口君、も当然そう、」
「樋口君、も、ですって?どういう意味でしょう、その、も、って言うのは?、」
「いや、君も引率として参加してもらうよう、総務から依頼があってね、、、」


夏季研修には、部長クラス、課長クラス、
そして私のような係長クラスの人間が、
それぞれ引率として参加することになっていました。

男女別に大部屋で宿泊するため、
引率者は既婚者が原則で家族同伴で参加します。

研修とは名ばかりで、海に行って2泊3日、
寝食を共にしながら遊ぶだけなのですが。


「しかし、私はまだ結婚はしていません、予定はありますが、」

私は疑問を持ち質問をしました。
部長はニヤリとして、ちょっと私の顔を覗き込むようにいいました。

「総務部の配慮だよ、君。君の婚約者は総務部の出身だろう。
 何でも君は忙しい、ろくにデートもしていないんだろう。
 いくらかでも一緒の時間を作ってやろうという優しい配慮さ。
 もっとも君への配慮というより、婚約者の○○さんへの配慮のようだがね。」

私は顔を赤らめました。
部長はどうだと言う顔で話を続けました。

「たまには息抜きして恋人と楽しんでこい。
 もっとも、夜は別々の部屋になるのでかえって寂しいかも知れんがな。」
「そんな私的な理由でいいんでしょうか?」
「いいんだよ、君は我が社のホープだ、
 その君への会社からの結婚前祝とでも思ってくれたらいい。
 それに、樋口君もいる、
 君のセクションから参加するんだから大義名分にもなる。
 どうだ、行ってくれるね。」

「はい、ありがとうございます。」



こうして私は、私と、私の婚約者と、レイを連れて、
夏季研修に参加することになったのです。



   2002年11月18日(月)    2.夏季研修

J (1.新入社員)

2.夏季研修 (1)


3月の終わり、レイは入社しました。

当初の予定通り、レイは営業部に配属され、
私のセクションで私のアシスタントとして働き始めました。


私のセクションには課長がいませんでした。
部長直属のセクションでした。
スタッフは私と、私と同年の矢崎、入社3年目の宮川、
在庫を管理する鏑木さん、の4人、
その他に新規事業のため外部から顧問として来ている先生がいました。

矢崎は英語が堪能でしたので、主に輸入の窓口をしていました。
営業窓口は私、そして私の部下である宮川の担当でした。

そしてそこに、彼女、レイが加わったのです。


私は彼女をしばらく放っておきました。
高校を卒業したばかりの彼女には、
仕事を教える前に備えてもらいたい素養があったからです。

先ずは会社に慣れること。
社会に慣れること。

礼儀作法、電話の受け答え、挨拶、など、
社内の様子を肌で感じて勉強してしてもらう。

ひと月もすると、レイは垢抜けてきて、
いっぱしのOLっぽくなってきたものです。


私としては毎日が忙しく、
結婚が近いこともあって公私共に多忙な日々を送っていました。


夏も近づいたある日、私は部長に呼ばれました。



   2002年11月17日(日)    私は内心嬉しかった

J (1.新入社員)

1.面接 (7)


ところが数日後、意外な展開が私を吃驚させました。

彼女、レイ、から、人事課のほうに、
入社志望を取り下げたいとの連絡が入ったというのです。

「はぁ、それはどういうことなんでしょうか?、部長。」

(何れにせよ、オレには関係ない話じゃないか、)
と、私は思いました。(どうせ、営業部に配属になるわけではなしに、)

「いやな、工藤君、正確には履歴書を取り下げて、
 新しく書き直して提出したい、そういう主旨だそうだ。」
「、、、そうですか。ただ、私には無関係のことのように思えますが。
 それとも営業部で働きたいとでも言い出したんですか?、」
「どうもそうらしい、はっきりとしたことはわからんが。
 まあ、明日新しい履歴書が届くそうだから君も見て見たまえ。」


私は翌日、部長から新しく書き直された履歴書を見せて貰いました。
そこには志望動機の欄にこう書かれていたのです。

『志望動機。
 先日は会社訪問をさせて頂きありがとうございました。
 会社での説明を聞き、私は営業部で働きたいと強く思いました。
 辛く厳しくとも、やりがいのある職場で夢をもって仕事をしたい。
 そう強く思いました。
 最初は足手纏いになるかもしれません。
 だけど一生懸命先輩方について行きます。よろしくお願い致します。』


私は履歴書を読み終えると、無表情でそっとそれを部長に返しました。

「それで、彼女はどうなるんですか?」
「どうもこうも、学校の先生からもよろしく頼むとのことらしいので、
 彼女の志望動機がそうまで固いのであれば、
 営業部での採用として決定するだろうよなぁ、
 工藤君、君にとってはよかったのか、悪かったのかは分らんがね。」

「、、、そうですね。」

私は無表情でそう言いました。
なんだか喜ばしい顔をするのは違うような気がしたからです。


こうして、レイの入社はあっさりと決まりました。


私は内心嬉しかったのを記憶しております。
正直に記しますと。


(1.面接、の項 終わり)



   2002年11月16日(土)    ミスマッチにならないうちに

J (1.新入社員)

1.面接 (6)


自席に戻ると私は部長に声をかけられました。

「工藤君、どうだね、彼女の印象は?、」
「ええ、少しばかりおとなしい感じもしますが、
 入社して鍛えればなんとかものになるようにも思いました。」
「う〜む、そうか、、、」

部長は腕組みをしてタバコをくわえました。
少し考え込むようなそぶりにみえました。

「どうしたんですか?、部長?、」
「、、、実はな、工藤君、あのあと人事課長とも話したんだが、
 彼女を面接をしてみて、やはり営業部には無理があるんじゃないかと、
 私も人事課長もそう判断したんだ。」
「どうしてですか?、何が理由なのですか?、」
「人の話をよく聞くし、返事もいい、学校の成績も問題ない、
 だが、いかんせん、君の言う通り、おとなしい。」

私は黙って次の言葉を待ちました。
部長はタバコを一息吸ってから続けました。

「ま、それだけならいいのだが、彼女は一切質問をしなかったのだよ。
 ただ、はい、はい、と返事をするだけでな。
 やはり営業部にあっては、もう少し積極的な性格であって欲しいし、
 またそうでないと勤まらない、と思うのでな。」

「でもそれは、緊張していたからじゃないんでしょうか?、」
「確かに。ただ彼女はもともと希望が経理部でもあったことだし、
 この際、希望とかけ離れている営業部よりも、
 君のフィアンセの入れ代りで総務部に配属させるほうのが、
 より適材適所であろうとの判断なんだ。」

「、、、そうですか。」

私は釈然としないものを感じましたが、
上での決定事項にあえて反駁するほどでもないととも考えました。

「まぁ、工藤君よ、君のスタッフについては、改めて募集する。
 今回の彼女については、お互いがミスマッチにならないうちに、
 営業部としてはパス、ということにする。
 そういう心積もりでいてくれたまえ。」

「、、、そうですか。分りました。」



私は先ほどまで熱心に仕事の内容について話しを聞いていた
レイの表情を思い浮かべました。

私は何故か落胆している自分に気づきました。

その時既に、知らず内に、
私は彼女を好いていたのかもしれません。



   2002年11月15日(金)    僕は君を3年でものにしてやる

J (1.新入社員)

1.面接 (5)


これまでレイは、「はい。」とか、「ええ、」とか、
受身の返事に終始していたものですから、
初めてはっきりと質問した彼女に対して、私は一瞬戸惑いを覚えました。

何故かというと、その質問が、仕事についてではなくって、
私の結婚相手について、であったことにも戸惑いの理由がありました。

それも、真顔で。

ただ、その戸惑いは、ほんの一瞬のことで、
私はすぐに話を続けはしましたが。

私は笑顔で応えて、
「総務部にいる○○さん、だよ。
 2月に退社する予定だから、君とは入れ違いになるんだろうね。」
「お幾つなんですか?」
「今21才だったかな、そう、君の3年センパイになる。」
「へぇ〜、随分トシが離れていらっしゃるんですね〜。」
「おいおい、樋口さん、そいつは余計なハナシだよ。」
「あ、シツレイしました、」
レイは、シマッタ、という顔をして、頭を下げました。

「いや、いいんだよ、確かにトシは離れているんだから、
 ま、そういうことだ、君が入社したら紹介するよ。」
と、私はその話を切り上げ、

「でさ、最後にもう一回、最初に言ったことを言っておくよ。」
「はい。」
「たった一度の人生なんだから、よく考えること、」
「はい。」
「君にやる気があるなら、僕は君を3年でものにしてやるよ。
 ただ、辛く厳しい。その覚悟があるならば、だ。
 君の前任者は2年でやめた。
 ちょこんと机に座って、時間がくれば帰れる、そういう仕事じゃない。
 よく考えて、ね。」
「、、、分りました。」

「よし、じゃ、いこっか、」
「え?、どこへ行くんですか?、」
「人事課長のところ、さ、
 樋口さん、帰るときはキチッと挨拶してから帰るものです。
 これは社会人の常識だよ、さ、行こう。」


私は席を立って、レイを人事課長席に連れて行きました。


レイは深々と頭を下げて、
「ありがとうございました。」といいました。

私はおう揚に、
「期待しているよ。」とウインクをして、そこで彼女と別れました。



   2002年11月14日(木)    優しく私を包み込むような表情

J (1.新入社員)

1.面接 (4)


「よっし、いい返事だ、じゃ、説明しよっか。、、、」
私は話し始めました。

最初のうちはおおまかなことを話したらいいと思って、
一般論を話していたのですが、
そのうちにかなり突っ込んだ話までしてしまいました。

事業の概要、
仕事の内容、
業界の動向、
スタッフの様子、

新規事業なので体制が整っていないこと、
まだこの事業が軌道にのっていないこと、
夜遅くまで仕事をすることになること、
何でもやらなくてはならないこと、
厳しく辛いかもしれないこと、

でも、夢があること、
成果が目に見えてやりがいがあること、
成長する自分をきっと見出せる環境にあること、、、

私はとうとうと説明しました。

それはレイが、
ずっと私の目を見ながら、いちいちに、
「はい。」「はい。」
と相槌を打つものですから、
私はついつい熱く語ってしまったのです。

おそらく一時間も話したでしょうか。
ふっと、私は、未だ入社も決まったわけでもない彼女に対して、
既に多くのことを語りすぎている自分に気づき、
はっと我に返り話を打ち切りました。

「だいたい、以上のような仕事だよ、
 ゴメンね、ちょっと長く話しすぎたようです、
 帰るのおそくなっちゃったね、」

レイは、ニコッとして首を振りました。
「いえ、ありがとうございました。」

その表情は、あどけなさが残っていながらも、
優しく私を包み込むような表情でした。

私はつい心を奪われそうになってしまったので、慌てて、
「ところで、樋口さん、オレに恋しちゃあ、いけませんぜ、
 なんでかって、オレはもうすぐ結婚するんだから、さ。」

(ち、オレはなんてヨケイナコトヲイッテイルノダロウ、、、
 この子には関係ない話じゃないか、、、)
私はつまらぬ冗談を言ってしまったかのように照れ笑いをしました。



ところがレイは、真顔で、
「どんな人なんですか?工藤さんのお相手って?、」
と、初めて私に質問をしたのです。



   2002年11月13日(水)    たった一度の人生なんだから

J (1.新入社員)

1.面接 (3)


部長と人事課長がいなくなると、
レイは少し緊張がほどけたようでした。

「さあ、もう、リラックスして下さいね、
 僕は君を面接するために来たわけじゃないんだから。」
「はい。」
「では、これからもし君が入社したらやってもらう仕事について、
 簡単に説明するよ、いいですか?」
「はい。」

改めて彼女を見ると、
どこにでもいるような女子高生ながら、
最近の子には珍しくキャピキャピしたところがなく、
落ち着いていて芯が通っているように感じる。

髪は長めのストレート、艶やかな黒髪、
昔の日本美人のような目鼻立ち、
身長は160cm以上はあるだろうか、
背筋がしゃんとしていて、スタイルもよさそう。

(ふーん、)
おっと、オレ、何考えているんだろう、

「それで、その前に言っておきたいことがある。」
「はい。」
「これから話す仕事は、実は君が志望している経理部の仕事じゃない。」
「、、、」
「営業部、それも、昨年新しく立ち上げたばかりの新規事業の話だ。」
「、、、」
「もし聞いてみて、イヤだな〜、
 って思ったら、はっきりとそう言うこと。」
「、、、」
「たった一度の人生なんだから、さ、
 自分の望まない道に流されるように進まないこと。、、、いいね。」
「、、、はい。」


レイはこの時、
真っ直ぐ顔を私に向け、私の目を見てしっかりと答えました。

私はこの時、
この子はもしかしたらものになるかもしれないと思いました。



   2002年11月12日(火)    応接室にふたりだけ

J (1.新入社員)

1.面接 (2)


水曜日はすぐにやってきました。
応接室に入ると、部長、人事課長を前に、
神妙な顔をして話を聞いているレイがいました。

部長は私を手招きしながら、
「あ、きたきた、樋口さん、彼が工藤君、
 先ほど話した我が社の中堅社員だよ。
 工藤君、樋口レイさん、だ。」
「工藤です、よろしく、」
私は頭をぺこりと下げ、椅子に腰掛けました。

レイは、小さな声で、
「よろしくお願いします。」
とばかり言って、うつむき加減。
下を向いてじっとしています。

(ダメだな、この子は、)
私は心の中でそう判断しました。
もっと元気がなくっちゃ。
もっと自己主張しなくっちゃ。
これじゃ、オレのスタッフとしては勤まらないよ。

「で、部長、私はどうすればいいんですか?」
「面接はもう済んだので、簡単に仕事の内容を説明してくれたまえ。」
「分りました。」

部長はレイに向かって、
「じゃ、樋口さん、あとは工藤君から仕事の内容を聞いて、
 不明な点はしっかりと質問して、それで今日はおしまい。
 もう帰っていいですからね。
 、、、と、いうことでいいのかな、人事課長。」
「はい、それで結構です、部長。
 樋口さん、学校の先生には僕の方から連絡しておきます。心配なく。
 採否については2週間以内に学校に通知いたします。
 よろしいですね。」
レイは顔を上げて、「ハイ、」とだけいいました。

部長と人事課長は席を立って、
「あとは頼んだよ」と応接室を出て行きました。


私とレイ、ふたりだけがそこに残りました。



   2002年11月11日(月)    《第一章 新入社員》1. 面接

J (1.新入社員)

1.面接 (1)


その頃、私は中規模の輸入商社に勤めておりました。
今よりも10年近くも前のことです。

当時私は新規事業の中心人物として抜擢され、
結婚も秋に控え前途洋々たるものでした。

「工藤君、ちょっと、」
私はある日直属の部長に呼ばれました。
(工藤、というのは、私の本名です。)

「なんですか?、部長、」
「これを見たまえ、」
と、部長は私に一枚の履歴書を渡しました。

「もし、君がよければ、この子を採用しようと思っている、
 人事の方から寄越してきたんだが、ね。」
「今年の内定者はもうとっくに決まっていると聞いていましたが?」

実は私は自分の下に就く女性の採用を部長にお願いしていました。
何故なら、つい数ヶ月前に、仕事が辛いと言う理由で、
いきなり前任の女性スタッフが辞めてしまったばかりだったからです。
しかし、その女性の退職が突然であったために、
今年の補充は難しいと人事から断られた経緯があったからです。

「なに、なんでも、この子の学校の就職の先生から、
 たっての頼みがあったそうでな、
 うちとしても毎年優秀な人材を送ってくれる学校なので、
 無碍にもできないっていうことだそうだ。」

私は履歴書をまじまじと眺めました。

セーラー服に身を纏い、緊張した硬い表情、
どこにでもいそうな女子高生、
くせのある字、ん?、

「部長、経理部志望って書いてありますよ、」
「う〜ん、そうなんだが、もう、経理の方では決まっていてね、
 一応、人事としては、こちらで判断してから対処するそうだ、
 でな、今度の水曜日に面接に来るそうだから、
 工藤君、会ってみてくれたまえ。君の下に就く子だからな。」
「ええ!?、私が面接するんですか?」
「いや、面接は人事課長と私でやる、君は仕事の説明をしてやって欲しい。」
「はぁ。」
「じゃ、たのんだぞ。」


私とレイはその時初めて顔を合わせたのです。



   2002年11月10日(日)    何故私がその時に隠れたのか (プロローグ 終わり)

J プロローグ

2.彼女、レイ、について (3)


何故私がその時に隠れたのか、それは言うに及びません。
逢ってはならない、と、固く心に決めていたからです。

それにしてもレイは変わっていました。
栗色に染めていた髪は、元通りの黒髪に戻っていましたし、
丹念に化粧をしていた頃の彼女とは違い、
素顔に近い薄化粧しかしていませんでした。
着ている服装も以前のようなブランドものではなく、
よく見かける販売員の制服を纏っていました。

一見しただけでは、生活感あふれる、パートの主婦でした。

それでも私はレイを一瞬にして見て彼女を悟ったのです。


変わりはしていましたが、彼女は、レイ、でした。

私自身も変わっていましたが、私は私でした。

ここで、私とレイが巡り合って何が始まるのでしょう?
何も始まることはありません。
ただ、私たちふたりの間に、気まずいものが残るだけでしょう。


私は、今来た道をそうっと後戻りをして、
そのまま振り返りもせずにその場を立ち去りました。


その時私は、まざまざと思い出したのです。

忘れようとしていた彼女との恋愛の軌跡を。


この物語は、これから、その恋愛の軌跡を辿ることとなります。
そして、今に立ち戻り、再び始まるのです。

私とレイは、この日の数ヵ月後に、また始まるのです。


《プロローグ 終わり》



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx

xxxxx

<作者からのMESSAGE>

稚拙な文章をお読み下さいまして、有り難うございます。
この日記は冒頭作中にも記しましたが、
私の長年温めていた恋愛小説を纏めたいがために、
思うに任せて書き綴っているものであります。

文章の乱れ、言葉遣いの過まり、等につきましては、
文章修養の過程にあると思って戴きまして、
ご寛恕戴けますと幸いに存じます。

また、今後の励みになりますので、
宜しければ、ご感想をお聞かせ戴ければと存じます。
GESTBOOKにお願い致します。

今後とも宜しくお願い致します。

                  02/11/10  Jean-Jacques
xxxxx

xxxxx

尚、今後、上記の但し書き、
『この日記は全てはフィクションであり、
 実在する人物をモデルにして書くものではありません。』
につきましては、各章の終わりにのみ書き込むことにします。
予めご了承願います。
(いちいち入力するのが面倒になってしまったからです。)

xxxxx


   2002年11月09日(土)    彼女のその後

J プロローグ

2.彼女、レイ、について (2)


彼女、レイ、は、結婚後、
ふたりのこどもを生んだようです。
私はそれを風の便りに聞きました。

母として、妻として、生きていると。


私とのことは、遠い昔の出来事のように、
既に忘れてしまっているかのように、
日々の生活をしているかのようでした。

私も、同じように、レイのことは、
遠い思い出の果てのこととして、
心の奥底にしまっておりました。


ある日の朝、
私は今の仕事の営業先を出て、
とある住宅街を歩いていました。

そこはアパートと一戸建てと商店が、
無造作に立ち並ぶ古くからの住宅街でした。


私はなんとはなしにぶらぶらと、
当てもなくうろついているうちに、
乳製品を宅配している女性を見かけました。

私は思わず、
「あ、」
っと、声をあげました。

そして、とっさに電柱の陰に隠れたのです。

それは、まさしく彼女、レイ、だったからです。



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx


   2002年11月08日(金)    2.彼女、レイ、について

J プロローグ

2.彼女、レイ、について (1)


彼女、レイ、は、
私の妻よりも年下の女性で、
私よりも一回り年下になります。

レイは私が以前勤めていた会社に、
私の妻と入れ代るように入社してきました。


レイは地方の高校を卒業してきたばかりの未開の女性でした。

現代風というか、はっきりとした考え方を持ち、
芯の強い、独立心のあるタイプの女性でした。

少なくとも私には、その当時、そう思えていました。

彼女の持つ個性については知る由もありませんでした。


そして、3年が過ぎて、
レイと私は恋愛の関係になったのです。

その後の恋愛がこの物語の本筋の部分となるのです。



レイと私の恋愛は、幾たびか終わりと始まりを繰り返し、

彼女が26歳の年に完全に終結し、彼女は結婚をするのです。

彼女よりも4歳年下の男と。


結婚を契機に彼女は会社を辞めました。


その時、私とレイは別れたのです。


、、、別れた、はずだったのです。



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx


   2002年11月07日(木)    恋愛の情と、愛しいと思う心

J プロローグ

1.私について (3)


もちろん私は、
彼女、レイ、との恋愛が初めてであった訳ではありませんし、
私の妻との愛が初めてであった訳でもありません。

遠く幼い日の初恋から、思春期のころの熱情による恋、
愛情からなのか、それとも欲情からなのか、
いつともなく通り過ぎていった恋、
その間に私は、青年となり、そして大人となっていったのです。

確かにそれらはその当時、恋愛でした。

しかしながら、私が今思うには、それらは、
恋愛ではなく、恋であったように思うのです。

恋、恋しいと思う情、です。

恋愛とは、恋愛の情があること、
つまり、恋しいと思う情、と、愛しいと思う情があること。

恋しいと思う情だけでも、
愛しいと思う情だけでも、
それは恋愛としては片手落ちのように感じるのです。

私は、私の妻に対して、
愛しいと思う情はありますが、
恋しいと思う情がありません。

私は妻を愛しています。
しかし、恋愛の情ではないのです。



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx


   2002年11月06日(水)    私の結婚

J プロローグ

1.私について (2)


私には年下の妻と子供がいます。

高校をでてすぐに就職した妻は、
世間のことをあまり知りませんでした。

同じ会社に勤めていた私に対して、
妻はいろいろ世間を知っている大人を感じたようです。

いつしか妻は年上の私に憧れ、
そして恋心を持つようになってゆきました。

性格は几帳面で、おだやか、気立てもよく、家庭的、
誰からも可愛がられ、誰からも誉められる、そんな女性でした。

私はといえば、結婚適齢期であったので、
周囲からせくように薦められ、やがて結婚。
誰もが祝福してくれた、幸せな結婚でした。

私にとってはこの上のない話でした。


ただ、残念なことに、
私には恋愛の情がなかったのです。
私は妻を愛していました。
今も愛しています。

ただし、それは恋愛の情ではなく、
妻を愛しいと思う情だったのです。


そのことに気づき始めたのは、
結婚後、3年がすぎたのちのことでした、

この物語のヒロイン、レイ、との恋愛によって。



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx


   2002年11月05日(火)    1.私について

J プロローグ

1.私について (1)


私は以前今とは別の会社に勤めておりました。
ある事業の中心となって、部下を多く持ち、
意欲的に、精力的に、仕事をしておりました。

その事業が外的要因によりクイットされ、
私は責任をとってその会社を辞めたのです。

そのことについては、
おいおいこの物語の中で触れてゆきます。

私と彼女のこと、
そう、彼女、レイ、との物語のなかで。


今の私はごくありふれたサラリーマンです。

特に目立つこともなく、飄々として毎日を過している、
そんな風に周りからは見られがちです。

表向きは、そういう顔。

それで十分と心得ています。

本来の力を出すこともなく、
気概をもってことにあたる必要もありません。

力半分で丁度いい。

私の過去について知っている人間がいないからです。



xxxxx

この日記は全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx


   2002年11月04日(月)    はじめに

xxxxx

この日記は私の創作によるもので、
全てはフィクションであり、
実在する人物をモデルにして書くものではありません。

xxxxx



私は長年温めていた恋愛に関わる物語を、
かねてからいつの日かまとめてみたいと考えていました。

されど現実の私は、
日々日常の生活に追われ、なかなか機会にも恵まれず、
いつしかその望みも意欲も潰えてしまっていたのです。

ところが最近、ある出会いがあって、
その方より私は私の知らないネットのことを、
いろいろと教えていただきました。

私は日記という形式で文章を書くという方法を知りました。

これなら私にもすぐにできる。
私は、そう思いました。

毎日、想うまま書き連ねて、書き留めておき、
十分にコンテンツの体系が構築された後に、
改めて一篇の物語としてまとめてみればいい。

いろいろな人に読んでいただき、
感想を戴けたらどんなにか励みになることだろう。

日々書いていくことによって、文章の修養にもなるにちがいない。

私はそう思ったのです。


xxxxx

私が書こうとしているものは、恋愛に関わる物語です。

私の名は、J(ジェイ)、ジャン・ジャックと申します。



   Index  New >    


INDEX+ +BBS+ +HOME+ 
この物語はフィクションです。

My追加

+他の作品へのリンク+・『方法的懐疑』(雑文) ・『青空へ続く道』(創作詩的文章)