ハロウィーン通信

[ 初夏の魔女会 ]  2001年06月01日(金)

長い雨の季節の前夜祭、花に囲まれた緑の芝生で
魔女の宴は催された。
赤々と燃え盛る炎と血の滴るような肉を讃える
歓喜と狂乱の祭りである。
経験を持つ魔女長シィアルが厳かに訓示する。
「炎が燃え上がっている時に肉を焼いてはならない
炎がおさまり炭が燠となってそれからが勝負である
慣れぬ者は火が消えてしまうのを恐れて急いで料理にかかるが
くれぐれも早まってはならない」
話ながらもグリルに並べられた炭の下から立ち上る煙が
西風ゼヒュロスの息吹きに乗ってお隣の庭に流れ込む。
申し訳ありません○北さん。
準備から火が燃え上がるまで半時間、
シィアルが憑かれたように火の番をして更に半時間、
仕事が終わって到着したマーズの目にした物は
庭のまんなかでごうごうと吹き上がる紅蓮の炎。
食器やサラダを整えて表に出たナルシアが目にした物は
肉を焼き網に並べる阿修羅のごとき二人の姿であった。
‥‥燠になるまで待つんじゃなかったんかい。
しかし一旦炎を目にしてしまった空腹の魔女には
もう理性も手順もないのであった。
ただ一心に炎に吸い寄せられるように肉を焼く。
店頭では滅多に見ない分厚い上カルビ、
ほこほこ新じゃがおいしいかぼちゃ、
アスパラ、キャベツ、なす、たまねぎ、
甘くて綺麗なパプリカ、鶏肉。
「普通はこれにアルコールがつくんだけどね」とナルシア、
「あとよく音楽があるよね、カントリーとかそんなの」とはマーズ。
それどころではない。一同ひたすら焼いては食べる。
おいしい。
さしもの炎も煙も落ち、薄闇の中できらりきらりと
炭の赤いかけらが輝いている。
食事も一段落した時点でシィアルがぽつりという。
「最初よりおいしくなってる」
そう。
それまで火の上に滴り落ちるのがもったいないと感じていた肉汁が
この段階で肉の中にしっとりとあふれるようになり、
同じ肉が格段にグレードアップしたようにすら感じられるのだ。
肉汁が落ちないから煙も立たない。
つまり、最初のシィアルの訓示にあった
「燠の状態」に今突入したのであった。
これから炭火の真価が発揮されるのだ。
早まるな、とあれほどいっていたのに。
これだけ食べて今からまだ食べられるのだろうか。
しかし、いいかげんおなかいっぱいのはずの三魔女が
更に夢中になる程燠火で焼いた肉は美味であった。
一口食べる毎に「遠赤外線の驚異!」の賛辞の言葉があがる。
とりわけ鶏肉。
マーズが感嘆する。
「焼き鳥屋のおじさんが炭で焼く訳が分かるね」
シィアルが評価する。
「待つ事で『少し』おいしくなるくらいなら
待たずに少しまずいくらいで食べる方を取るけど、
これだけ味が違ってくるなら長くても待つ価値がある」
待ちましょう。燃え盛る炎が消え去り
黒黒とした炭が雪のように白い灰にうっすらと覆われるまで。
‥‥次回は必ず。
夜の闇の中、魔女の園の一角だけが樹の枝からの明かりに照らされている。
消えたように見える炭の上に周りに生えている
セージやローズマリーの枝をちぎって乗せると
白い煙が燻って香草の香りが立ち篭める。
ラジオをつけるとたまたまマーズのリクエストに
ぴったりのカントリーソングがかかった。
六月のはじまり、雨の季節の前夜祭、
このあと屋内に移動してデザートのごまプリン、
中国からきたライチ、
驚異のわたあめマシン大実験と
魔女の宴は夜更けまで盛り上がる(N)。


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