「干されたグラス」
私はあの人が笑うのも、泣くのも止めることができなかった。彼女はそう呟いた。それがどういう意味なのか咄嗟には分からなくて気付いた時には彼女は夜の街へ。そして隣には空いたグラスひとつ。
「連続反応」
全ての現象は互いに干渉し合った結果生じる一つの状態であり取り込み、分かれ、変化しながら移ろう連続した反応のある時間における総称である。無から有は生まれないのと同時に変わらないものなどない。そして人間においては形を持たず内面で生じる感情という自由な能力によってさらにその反応は劇的なものへとなる。それがこの世界で生きているという事であり間違っても永遠を求めるのは即ち、生命としての死を選ぶことなのだろう。
「向こう側。こちら側。」
脇目も振らず追いかけて 無様にすがり付いて それでもどうにもならないことこそ そう簡単には諦めきれない。 一度あったということに 簡単に戻れないのも また逆につらいだけだ。 ただ、時々思い出すから 僕は苦笑するだけ。
「手招いて」
情熱的な愛があるなら穏やかな愛だってある。心の欲求があれば理性の欲求だってある。どれも切り離せないしいつもごちゃ混ぜになってすっきりと分かり易くはなかなかならない。だからと言ってどっちかだけなんていつか必ず無理が出るから「焦ることはないと思わない?」と、私は君を手招いて頭を撫でた。君は、にゃぁ、と一声鳴いてゴロゴロとノドを鳴らした。そもそも私と君のことだものきっと、どっちだって楽しいに決まっているしね。にゃぁ。
「微笑」
耳たぶに落ちる囁きをかわして冷たい手を差し出す。楽しげな視線で熱を奪うまではひとときも離れない。
「雨上がりあの子のおうちへ」
あのぶかぶかの長靴はもう随分まえに小さくてはけなくなってしまったことを思い出した。
「存在の証」
認識されてから初めて存在できることがある。自分だけが知っていていかに存在を確信していようとそれがあの人に伝わらないならあの人にとってこの存在はないものと同じだ。あの時、わたしは次々と何時の間にか生まれていった大事な大事な不確かなものをしっかりとあの人の中で存在させたかったからあの人に会うべきだと思ったんだ。