「些細な解放」
空を見上げて真っ直ぐな飛行機雲があったらそんな日は雲ばかり見て過ごしてしまう一日。陽に照らされた雪があっという間に溶けてゆくのが妙に嬉しかったのでそんな日はずっと観察して過ごす一日。子供が公園で何度も滑り台を滑り降りるのを思わず目で追ってしまって眺めてばかりで過ごす一日。普段はあまり気にしないようなとても些細なことで変わらない日常のあまりにくだらない事から私は穏やかに解放される。
「かかと行進曲」
その先は良く見えないけれど声はよく聞こえる。春の北風はもうすぐ側まで近づいている。足取りはいつだって快調さ。
「きしみ」
その裏腹さはひどく妖艶で心から愛しい。
「特別な宵の囁き」
素足にかかる言葉は二人を包んだ。うなじにゆれる湯気は何も隠すことなく何にも隠れない。この時ばかりは特別な宵に特別な僕ら。頬に当たる雨粒は共に行こう。傍にいるよ。そう囁く。
「静寂」
陰と共に終わり雨と共に始まる。佇むものは壊れやすく最近ではもう見なくなった。気付くことと気付かないことの差は世界が変わるほどの出来事で眉を流れる水滴に僕はただ耳をすませる。
「ひとつになる」
私の世界はあるひとつを中心に回る。それは依存ではなく同化でありたい。
「見えない実験室」
刺激と反応。原因と結果。予想通りにしか進まない事は目に見えて分かりやすく良くも悪くも物事を常識に縛り付ける。考え付く全ての要因を入れ込んでこの見えない実験室は動くけど結局は明日の私さえ知ることができない。でもだからこそ不意な幸福に浸ったりもする。
「確定事項」
ふとした時にあの人を思い出す。そしてすごく申し訳ない気持ちになるのだ。僕はそんなつもりじゃなかったしあの人もそうだったはず。なるべくして今になってそれは当然の帰結だったかもしれないけどできればもう少しうまく振舞えなかったのかとそう思う。僕は間違った。たくさん間違った。
「留まれない」
久しぶりにあの街を歩いた。ほんの1年前のことだけどあの人やあの人やあの人とこの道を一緒に歩いたと思うとなんだかえらく昔のことのような気がした。例えそこが居心地のいいところであってもやはり一つの所には留まれないんだろうけどなにかしら残す事ができただろうかと考えるとそれもどうやらあまり上手くいかなかったようだ。あの時、笑って昇った駅の階段を踏みながら遠くなり過ぎたという事を想う。
「今日の終わり」
今日の終わりを告げるのはいつだって太陽でもなく時計でもなくかわいいあの子のおやすみという言葉。