「雷鳴の元」
雷鳴が雨を呼ぶ前に外へと歩き出す。生暖かい風に乗って懐かしい匂いがした。たくさんの人の背を見ながら歩くのはいつまでも慣れないものでかと言って振り返ることはしないから不思議でならない。信号が変わる度に無口になっていく自分だって確かにここにいるのに。
「斜めの螺旋」
ひとつ欠けた窓。斜めの螺旋。半分の影と風のざわめきから昨日のことを思い出す。意味のない動作を何度も繰り返して袖口に流れ込んで来た君。手元が寂しくてわずかに目が霞む。ちょうどその時机の上の手鏡から光が当たってなにかとても安らかなものから僕らは守られた。
「薄暗い方へ」
君が向いているのは僕。それを背後から見ているのは僕。一心に君は一時だけ君はやって来た者を拒むことなく頷いて笑う。薄暗さを一身に浴びてなにも視界に入れることなく光のある方へと姿を消した。