short story


2001年11月30日(金)


「手の平に儚さ」

雪の結晶を観察するコツはね。
じっと我慢をして
息をしないことさ。

思わず出た溜め息だけで
彼らは簡単に溶けてしまうからね。

溶かしてしまわないように
壊さないように
そっと
慎重に観察しないと駄目だ。
そうしてようやく
あの美しい形を
目にすることができるんだ。


でもさ。
考えてみてよ。
そんなに長い間
息を止めていられるわけがないだろ?

どれだけ我慢しても
どれだけ苦しくても
僕らの心の中に
しっかりとその形が留まる前に
結局、雪は消えちまうって寸法さ。
何度も試したけど
やっぱり息が続かなくて
いつももう少しのところで
最後には溶けてしまうんだ。


だからさ。
みんな知っているような素振りをしてるけど
実は雪の結晶の本当の形は
誰も知らないんだ。

きっと誰も知らない。

僕はそう思うんだけど
君はどう思う?


2001年11月23日(金)


「シーツ」

先の見えない紐を
手繰り寄せるように
いつだって
あなたを引き止めようとしたけれど
明日になればまた
ここにはいない。

残される痛みとは
こうも鈍く
長く続くのか。

置いて行くのなら
シーツの皺だけで
私には十分すぎるのに。


2001年11月18日(日)


「風は言葉」

もし風が見えたなら
それは流れであり
波であるに違いない。

矛盾してように
感じるかもしれないが
そうは思わないことだ。

風は言葉。
見えない流れ。

今僕の中から
緩やかに流れながら
波は遠くにまで
伝わってゆくはずだ。

あなたへ。
その深いところへ。


2001年11月14日(水)


「花」

私の手に紅の糸がひき
指先を伝って
水面へと落ちた。

花が咲く。
色はおそらく
薄い桃色だったか。
いや。
もしかしたらそれは
私の知らない色だったのかもしれない。

しかしそれはどうでも良いことだ。
そしてやがて花は散る。
緩やかに。
私のように。

広がってゆく。
世界へ。あなたへ。


2001年11月11日(日)


「距離と吐息」

その声が聞きたかった。
そうすれば
もう少しくらいは
近くに引き寄せられるんじゃないかと
思ったんです。

吐息を感じたいと思うことは
止められないことですよ。

ねぇもっと。
恥ずかしがっている顔を見せて。


2001年11月08日(木)


「わたし」

私は私であるが
私を形作る部品は
私と言えるだろうか。

私の血も内臓も手足も
声や仕種や癖。
それらは全て
私の所有物であり性質であったりするが
厳密に言えば
それらは「私」そのものではない。

私が私であるためには
一つも欠かすことのできないものであるのに
それらは「私」ではない。
これはどういうことだろう。
私とは一体なんなのだろう。

一つ、一つ
必要なものも
余分なものも剥ぎ取っていったら
これぞ「私」というものが
あるのだろうか。
それはどんな形をしているのか。

見つけることができるなら
命も惜しくはないんじゃないかと
ふと思ったりする。
教えてくれる人がいるのなら
命も惜しくはないと
強く思う。


2001年11月05日(月)


「時間と変化」

僕といることで
あなたになにかしら変化があったのだとしたら
そしてそれが
あなたにとって好ましいものだったとしたら
僕はとても嬉しい。

そういった変化を
与えようと思って
与えてははいけないと
知っているから
僕はあるがままの僕で
あなたの側にいます。

僕の周りを流れる時間は
どうかゆっくりであって欲しい。
僕が感じているのと
同じくらい。

あなたは言う。
ちょっと眠い。

僕は言う。
じゃぁ眠ろう。


2001年11月01日(木)


「別れた枝」

ここにはいられないと
必死にもがいて
邪魔するものは殴り倒し
大切なものを傷つけてまで
逃げ出した。

それでも
振り切る事はできなくて
残ったのは
悲しませてしまった
あの人や。あの人。

過ちが
過ちとなって
もう取り返しが付かなくなる瞬間。
それっていつなんだろうか。
その瞬間には
僕はなにをしていただろうか。

別れた枝は
その部分で折れやすい。
先にかかる重みに
耐えられなくなるのは
まず僕かもしれない。

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日記才人