「体温」
雨の粒が風に乗ってやってくる。二重に響く流線の吐息。
「君と森で」
目的が目的を生み今、僕らのいる場所は星も見えない森の奥深く。笑っちゃうほど単純なことがここでは命取り。手探りでは限界があるよね。そこにいるのは君?
「もうすでに過去」
覚えていないということはおそらくどうでも良いことなのだろう。そして記憶から消したいと願った。印象を振り切るようにあの人は歩き出す。
「故郷」
砂の川を渡って滝へと続く道をゆこう。音色は美しい唄となり深く心に響くだろう。それは新たに訪れた十の津波。蒼緑の沢を見渡す岩の上で二人で茶でも飲もうか。赤く平らな月の形が入り江で僕らを別つまで。
「その涙に」
泣いているあの娘にくちづけるのは少し息が苦しそうで少し唇が冷たい。なにかとても澄んだものがあって思わず引き寄せた。
「待ってな」
届かないなら見ていたい。見ているくらいなら少しは近づいてみせるさ。そこで待ってな。
「すっと撫でるように」
あの人を知らない。あの人のことはなにも知らない。ただその言葉でもってあの人はそこに在る。あの人がどんな人間でどんな生活をしどんな時にああいった言葉を思い浮かべるのかわたしはなにも知らないけれどその中にあるわずかな・・・「何か」がわたしの中に入り込んでゆくのが心地よくてわたしは今日もあの人の言葉を聞きに行く。きっと頬をすっと撫でるように優しく笑う人なんだと思っておこう。
「涙で見えない」
返り血さえ浴びずに笑いながら人を殺せる時代なんだよ。奪われることなく奪うことだけがまかり通る世の中なんだよ。死はそれほど遠いものかい?死を与えられるのは恐ろしいかい?じゃぁ、死を与えるのはどうだい?本当は与えるのも奪うのも同じくらい恐ろしいことなんだけど君達はまるで気付いていないようだからそうやって簡単に他人を否定するんだ。あなたが後生大事に抱えているものの価値がどれほどのものか。死があなたに与えられるその時になるまで教えてあげない。
「だからもっとそばへ」
私に触れることもくちづけることも貴方の自由。いつでもどこでだって私はそれを拒んだりしない。
「待ちわびる」
午前4時の時計の針は思いの外はやく裸電球の灯かりは柔らかい。布団に顔をうずめたりしながらあの人の匂いを思い出す。
「眠りがけのおまじない」
眠っているあなたにキスをする。眠りがけのちょっとしたおまじない。そうしてから僕も静かに目を閉じる。おやすみ。「昨夜、あなたとキスをする夢を見た。」そう言って僕を起こしてください。
「手を伸ばす」
まるで千切れ飛ぶように後ろへと消えてゆく。そしてなにも残らない。あの時触れたはずの頬の冷たさ。