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■ クリック?クラック!/エドウィージ・ダンティカ
ダンティカが幼少期を過ごしたハイチは、今から約200年前の1804年に黒人国家としてはじめて独立を果たした誉れ高い国です。1492年のコロンブス到来以来、ハイチを含むカリブ海地域の国々はずっとスペインやフランス、イギリス等のヨーロッパ諸国に代わるがわる植民地支配されつづけました。同じく奴隷として大西洋を越えてアフリカから連れてこられたジャマイカやトリニダードの黒人が1960年代まで果たせなかったことを150年以上も前に成し遂げたジャイチは、カリブはもとより世界中の黒人の羨望の的でした。しかし同時に、独立したがゆえにハイチは圧倒的な貧困と一部エリートによる独裁政治にずっと苛まれてきました。アメリカのハイチ移民の多くもまた、それらから逃れるために命からがら海を渡った人びとなのです。
そのような過酷な歴史的、社会的現実のなかで、彼らは故郷の地アフリカの豊かな文化伝統を決して絶やそうとはしませんでした。本短編集のタイトルである『クリック?クラック!』は、そんなアフリカの口承伝統をそっくり受け継いでいます。伝統的に文字のなかったアフリカでは、「語る」ことはすべてを意味しました。語ることは伝え育むこと。人が人として生きていくための知恵や教訓、悲しみや優しさを、彼らは「語る」ことによって伝え、育んできたのです。語り手が「クリック?」と尋ねると、あたりの聴衆は待ち兼ねたように「クラック!」と答え、耳をすます。まさにダンティカはこの伝統にのっとり、時空を超えた現代の「語り手」として、新たに加えられた文字という文化を駆使し、私たち読者に「クリック?」と尋ねているのです。人としての大切な思いを伝え、私たちの心を育みたいという切なる願いをこめて。 ─(訳者あとがき/山本伸 より)
それぞれ独立した短編ではあるが、どこかで繋がりがある。上記にあるようなハイチの歴史を考え合わせながら読むと、何か胸がしめつけられるような気もする。血塗られた恐ろしい現実と、死者とも会話するアフリカの不思議な伝承文化がミックスされ、時にはファンタジーのようでもあり、時には逃れようのない真実であったりする。家族の絆、祖先との繋がりを大事にする彼らの温かく心優しい一面と、それらを断ち切る無残な社会とのコントラストが哀しい。
すべての物語に、ドキっとさせられる部分があって、一気に読んでしまった。カリブの暑く湿った空気を感じながら、ダンティカの不思議な世界に引き込まれ、読み終わるまで本を閉じられなかった。
2003年04月30日(水)
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