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■ 南の話/青山南
翻訳家の青山南さんのエッセイだが、南さんの話というより、アメリカ南部の話。もちろんエッセイなので、南さんの体験を踏まえて語られているわけだから、「南さんによる南部の話」と、二つの南にかかっているわけだが。
これは、アメリカ南部に並々ならぬ興味を抱いている私には、文句なく面白い読み物だった。ハーパー・リーとトルーマン・カポーティが、アラバマ州モンローヴィルで隣同士の幼馴染みで、リーの『アラバマ物語』に登場するちびのディルは、カポーティをモデルにしたものだという話は、鳥肌ものだった。
他にもマーク・トウェイン、アリス・ホフマン、アン・ライス、フラナリー・オコナーといった南部の作家にまつわる面白い話がいっぱい。知らなくてもどうということはないが、知っていたら、俄然本が面白くなるといった類の情報が山盛りなのだ。もっとも、そういったことに興味を持っている人には宝のような本だが、アメリカ南部には何の興味もなく、ここに載っている作家や作品についての知識が全くないといった人にはガラクタ同然の情報で、面白くもなんともないかもしれない。
後半マーク・トウェインが出てきたところで、あっ!とびっくり。私はトウェインの『ハックルベリー・フィンの冒険』を、文化書房博文社の勝浦吉雄氏の訳で読み、この本がまた内容とは別の意味ですごく面白かったので、鮮明に記憶に残っていた。数多いハック・フィンの翻訳書の中で、なんと、南さんもこの本を読んでいて、その内容が『南の話』に書かれていたのだ。
この本には、36ページにも及ぶ翻訳小史がついていて、それが重箱の隅をつついているみたいで、他人事としては実に面白かったのだ。トウェインには悪いが、中身よりもこちらのほうが数倍面白かった。中身は、と言うと、他人の翻訳を細かく批判したつけがまわって、ご本人の訳は無難にまとまりすぎていて、全然面白みのないものだったのだが、南さんはもしかして、この勝浦氏とお知り合いなのかもしれないが、中身には触れず、やはり付録の小史を面白いと言っている。そうなのだ!邪道な読み方ではあるが、中身はどうでも、この翻訳小史が一見の価値あり!なのだ。
上にも書いたが、山ほどあるハック・フィンの翻訳書の中で、よりにもよって南さんもこれを読んでいたとは!この偶然は嬉しいというか、しばし唖然といった感じで、あとから笑いがこみ上げてきた。
こういった文学案内のような本は何冊もあるが、これほど面白い本に出会ったのは初めて。やっぱり南部はミステリアスで魅力的で面白い。興奮しながら読了。
●勝浦吉雄訳『ハックルベリー・フィンの冒険』感想
ハックルベリ・フィンの冒険―附翻訳小史/マーク トウェイン (著), Mark Twain (原著), 勝浦 吉雄 (翻訳) 価格:¥2,800 単行本(ソフトカバー): 356 p ; サイズ(cm): 182 x 128 出版社: 文化書房博文社 ; ISBN: 4830108347 ; (1998/09) 内容(「MARC」データベースより) 30数種以上の邦訳が出されている名作『ハックルベリ・フィンの冒険』を、マーク・トウェイン研究第一人者が英語の方言のニュアンスと日本語のリズム等を吟味して新たに翻訳。他の邦訳を概観した小史も併録。
<参考> ミシシッピ河上の生活/マーク・トウェイン (著), Mark Twain (原著), 勝浦 吉雄 (翻訳) 単行本: 376 p ; サイズ(cm): 182 x 128 出版社: 文化書房博文社 ; ISBN: 4830106492 ; (1993/03) 内容(「BOOK」データベースより) 本書は、作者自身が主人公になり、故郷のハンニバルで過した少年時代から憧れの的であった、水先案内になるための厳しい修業を通じての実体験を基にして、生き生きとした生活が前半で描かれ、後半は、それから21年後、作家として名を成してから、ミシシッピ河を再び訪れた時の、いわゆる再訪記である。
●掲載されている作品
アン・ライス『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』、『魔女の刻』 マーク・トウェイン『ハックルベリー・フィンの冒険』 テネシー・ウィリアムズ『欲望という名の電車』 ウィリアム・フォークナー『兵士の報酬』 スコット・フィッツジェラルド『楽園のこちら側』 トルーマン・カポーティ『遠い声、遠い部屋』 ジュリー・スミス『死者に捧げるジャズ』 マーガレット・ミッチェル『風と共に去りぬ』 ゼルダ・フィッツジェラルド『ワルツはわたしと』 ハーパー・リー『アラバマ物語』 フラナリー・オコナー『秘儀と習俗』 ユードラ・ウェルティ『大泥棒と結婚すれば』 ジョン・ベレント『真夜中のサヴァナ』 ジェイムズ・リー・バーク『ネオン・レイン』、『天国の囚人』 ロバート・オレン・バトラー『ふしぎな山からの香り』 ファニー・フラッグ『フライド・グリーン・トマト』 ブランチ・マクラリー・ボイド『女の子たちの革命』 デニス・マクファーランド『音楽室』 バリー・ハナ『ドクター・レイ』 ルイス・グリザード『けっして楽じゃなかったが、楽しかったよ』 ウォルター・モズリー『RLの夢』 ユードラ・ウェルティ『短編集』、『ある作家の出発』、『写真集』、『あるとき、あるところ』 ジェフ・フォクスワーシィ『シャツなし、靴なし・・・問題なし!』 ジョン・ケネディ・トゥール『ばか者同盟』、『ネオン・バイブル』 ジュリー・スミス『ニューオーリーンズの葬送』 ベイリー・ホワイト『ママは決心したよ!』 シャーウッド・キラリー『知能低下』 チャールズ・ジョンソン『中間航路』 イシュメール・リード『マンボ・ジャンボ』、『ニューオーリンズの告解三ヶ日』 ウィリアム・フォークナー『蚊』 ジョン・グリシャム『ペリカン文書』 ルイス・ノーダン『スワンプの音楽』 マーク・トウェイン『ミシシッピ河上の生活』 M.F.K.フィッシャー『オイスターブック』 ピーター・フィーブルマン&リリアン・ヘルマン『一緒に食事を』 ウィリアム・スタイロン『タイドウォーターの朝』、『闇の中に横たわりて』 マイケル・オンダーチェ『バディ・ボールデンを覚えているか』 ドナルド・M・マーキス『バディ・ボールデンを探して』 アリス・ホフマン『タートル・ムーン』 ロバート・マキャモン『ミステリー・ウォーク』(上)・(下)、『遙か南へ』
2003年02月26日(水)
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