読書の日記 --- READING DIARY
 ⇒読書日記BLOGへ
  schazzie @ SCHAZZIE CLUB



 メリー・アン・シングルトンの物語(1)バーバリー・レーン28番地/アーミステッド・モーピン

内容(「MARC」データベースより)
家族のもとを離れ、サンフランシスコ、バーバリー・レーン28番地で一人暮らしをはじめた、25歳のメリー・アン・シングルトン。家族のような下宿人たちに支えられ、都会での新しい生活を切り開いていく。

上の内容を見た限りでは、これも「ブリジット・ジョーンズ」風の話(そもそもシングルトンという言葉は、こちらのほうがずっと先だけれど)かと思っていたが、メリー・アンだけの話ではなく、周囲の人間の人生もそれぞれに語られていて、都会での生活の寂しさ、孤独といったものも感じられる。

この本を読むまで、サンフランシスコがゲイの街だったことをすっかり忘れていたのだけれど、どちらかというと、ゲイやレズの話のほうが多いような気がした。サンフランシスコならではというところか。

6巻まであるので、この後の展開が気になるところだが、個人的には、これがニューヨークの話だったら、興味をひかれなかっただろうと思う。サンフランシスコの風景とあいまって、孤独な男女の心理が浮かんでくるようなところがいいのだと思う。


2002年07月31日(水)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 The Fourth Hand/John Irving

ハンサムで稀代のプレイボーイであるテレビのアンカーマンPatirick Wallingfordは、サーカスの取材中にライオンに左手を食いちぎられてしまう。その後、自殺したOtto Clausenの左手を、Dr. Zajackによって移植されるが、移植後1年で再び失ってしまう。移植前に、Ottoの妻Dorisのたっての願いで子どもを作る羽目に陥り、期せずして父親となる。数限りない女性と関係を持ちながらも、真実の愛に目覚めていくPatrickだが、ついに「第四の手」を手に入れる。

Patrickは彼の元妻によれば、「けして大人になれない、いつまでも子どものままの男」である。なるほど言い寄る女性にはけして嫌と言えず、欲しいものは欲しいと単純に行動してしまう男だ。文中に登場するE.B.Whiteの『Charlotte's Web』や『Stuart Little』は、彼の子どもっぽい一面を象徴しているということだろうか。

対するMrs. Clausen(=Doris)は「とことん大人の女性」という設定。いきなり子どもを作って欲しいとPatrickに迫り、その場で事に及んでしまうあたりは、クレージーな女としか見えないが、実は自分の意志をちゃんと持った、しっかりと地に足のついた大人の女性で、彼女は心の底から夫の死を悲しんでいたのである。彼女は左手よりもっと大事な、つまり心底愛していた夫を失ったのだ。夫との間に子どもができなかった彼女は、その夫の片鱗を所有する男に、最後の望みを託したということだろう。

PatrickはDorisを愛するようになるが、それは彼女が多分に母性を持っていたことと、他の女性にない強さをもっていたからかもしれない。彼は無邪気に「愛している」と言うが、彼女は「愛するようにつとめる」と言っているように、自分の気持ちが決定するまでは、けして相手に期待させないという意志の強い女性。子どもを作ったいきさつは仰天ものだが、本来は夫の面影が消えるまで、他の男性は愛することが出来ないという女性だったのだ。

アーヴィングは今回、コメディ&ラブストーリーといった感じの作品を書きたかったようだが、それぞれのエピソードや言い回しなど、十分にコメディの要素があるものの、最後にはコメディをラブストーリーが上回り、「大人の愛の物語」となっている。最後にDorisの真意がわかると、たとえようもなく切なく、胸を打たれる。一見、主人公はPatrickのようだが、実はこの話はMrs. Clausen(=Doris)の物語だったのである。

アーヴィングは小説を書く前に、全ての登場人物の性格を決定しているということだが、この作品でも、それぞれのキャラクターが非常にはっきりしていた。アーヴィング独特の奇怪な世界も健在で、サーカスやどこかに障害がある人(肉体的および精神的にも)など、事欠かない。その代表がDr. Zajackの一家だろう。そういったイメージを象徴する動物(これもお約束)は、Dr. Zajackの犬で、『ホテル・ニューハンプシャー』に登場した犬のソローを彷彿とさせる。

ところで「第四の手」とは一体何だったのか。
それが分かった時、この小説がラブストーリーであることを、深く認識できるだろう。ラストはさすがアーヴィング!といった終わり方で、じっくり時間をかけて読んだ甲斐があったという満足感があった。


2002年07月30日(火)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 Ruby Red : Tales from the Weedwater/Henrietta Branford

この本の作者は、欧米でベストセラーであるレモニー・スニケットの<不幸シリーズ>よりも前に、不幸な話<Dimanche Dillerシリーズ>を書いていた人。とはいえこのシリーズも、スニケットのそれ同様、ユーモア小説である。

この本は、そういったジャンルとは全然違って、おとぎ話である。主人公のルビーは、人間のようであるけれども妖精かも?といった正体不明の謎の女の子。Weedwaterというところに住んでいて、アイデア抜群、手先も器用、頭もいいし、何より優しい女の子なのだ。ルビーを取り巻く登場人物(?)も、小人だったり、鳥だったり、おもちゃだったりで、それぞれが個性豊かで楽しい。100年も水の中につかっていたガーゴイルを助けて、修理してあげたルビー。全編を通して、このガーゴイルが優しくルビーを見守っている。

わくわく、ドキドキの物語ではないけれど、ほのぼのとして温かく、楽しいお話だった。ルビーのおじいちゃんとおばあちゃんの喧嘩がおもしろい。



2002年07月28日(日)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 ニルスのふしぎな旅(4)/セルマ=ラーゲルレーヴ

「親指くん」ニルスの旅も、これが最終巻。スウェーデンの風土を伝説や民話を交えて描いていくのはこれまでどおりだが、今回は作者本人と思われる人物も登場する。話の中に何度か登場した、ガチョウ番のオーサの弟マッツの死など、ちょっと悲しい場面もあって、涙ものの最終巻なのだ。

なによりも最後に人間に戻ったニルスが、もはや鳥や動物の言葉を理解できなくなり、ただ黙ってアッカや他の仲良しのガンたちと別れる場面は、本当に涙が出た。鳥の悲しみなど、そう長くは続かないと知っているニルスが、まだガンたちが悲しみの声をあげているうちに去っていくところなど、心憎いばかり。

ガンのアッカ、ワタリガラスのバタキ、ワシのゴルゴ・・・全編を通して、彼らの言葉は、ニルスを大きく成長させてきた。特にアッカの言葉は、自然を大事にしなくてはいけないとか、人のことを考えて行動しなければならないなどという、大切なメッセージがたくさん含まれている。

どんなに悪い子でも、親は子どもを愛しているのだということも書かれている。ニルスが戻ったときの両親の喜びよう、それまでの心痛、そういったことも痛いほどわかる。なるほど、たしかに子供向けに書かれているものだが、忘れていた何かを思い出させてくれるような、そんな本だった。そしてニルスが本当によい子になり、素晴らしい人間になったことが、なにより喜ばしい。

------------------------------------------
<翻訳者・香川 節さんからお言葉をいただきました>

ニルスのふしぎな旅を読んでくださって感謝!| 09/03 15:25 |

偕成社文庫版「ニルスのふしぎな旅」をこの暑い夏に読んでくださったことを嬉しく思います。
この本の初の邦訳は1918年ですが、完訳本は訳者の死後、1982年になってやっと出ました。いま非常に多くの日本の愛読者が出来て本当に嬉しいです。スウェーデンと日本との文化交流もますます盛んになるでしょう。あなたのご多幸をお祈りします。

ニルスの友の会主宰香川 節より


2002年07月21日(日)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 プリンセス・ダイアリー/メグ・キャボット

「主人公はミア・サモパリス。身長175センチ以上、胸はぺったんこ、数学まるっきり苦手の女子高生。いたってフツーの、あまりもてそうにない女の子。そのくせ男の好みはかなりうるさい。彼女が「正真正銘のイケメン」と保証するのが、「身長183センチ。ブロンドが、澄んだブルーの目にかかってると最高。甘くてアンニュイなほほ笑み」のジョッシュ。彼女に言わせれば、ジョッシュの唯一の欠点は「ラナ・ヴァインバーガーなんかとつきあう趣味の悪さ」。つまりミアは片思い。

そこに一大事件発生。なんと、ママが数学のジャニーニ先生と初デート!(ちなみに、ママは未婚の母だけど、生活費も養育費も教育費も、ちゃんとパパから送られてきている)

そしてまた一大事件発生。なんと、パパがやってきて、「おまえは、アメリア・ミニョネット・グリマールディ・サモパリス・レナルド。ジェノヴィアのプリンセスだ」と問題発言。「ジェノヴィア」というのはヨーロッパの小国(という設定になっている)。パパは癌の手術や化学治療のせいで、子どもができなくなってしまい、ミアが唯一の跡継ぎになってしまったのだ。」─訳者あとがきより

図書館の英米文学コーナーで、一番汚れていないのがこれだったので借りただけで、まるで期待していなかった本なのだが、予想外に面白かった。あらすじはあとがきから抜粋したとおりで、これで十分だと思うが、やっぱりこれも「ブリジット・ジョーンズの日記」みたいなんでしょ?と思う人も多いだろう。期待にたがわずそのとおり。でも、年齢設定が違うと、周囲の状況も違うし主人公の視点も違ってくるので、「ブリジット」のようではあるけれども、全然違う雰囲気。

この本で一番いいのは、主人公ミアはフツーの女子高生なのだが、とてもいい子だってこと。「ムカツク」ことは多々あれども、いつも「ママを悲しませたくない」、「心配させたくない」という心遣いを見せる。友達のこともよく考えているし、何より「体に悪いことはしない」主義なのだ。つまりよくある青春小説のように、酒・ドラッグ・セックス・暴力なんかに溺れる若者とは全く違うということ。

だから、単純に「私はプリンセスなのよ!」と思ったりせず、自分は自分でいたいと悩むわけで、そんな部分がミアの魅力になっている。終わり方が、まだまだ先があるという感じの終わり方で(もちろん先があるのだが)、すぐに次が読みたくなるくらい楽しい話。いきなりプリンセスだなんてあり得ない!などと思ってはいけない。何も考えずに楽しめばいい本なのだ。

「ブリジット」以来「なんとかダイアリー」という日記形式の小説が多いが、その中の面白い作品に関して共通していることと言えば、それを書いた作家の観察眼が鋭いことだろう。もちろん小説として出すからには、しっかりしたストーリー展開も重要だと思うが、なににも増して、観察眼の鋭さが第一の条件ではないかと思う。この作品も例外ではない。


2002年07月20日(土)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 ニルスのふしぎな旅(3)/セルマ=ラーゲルレーヴ

怠け者で意地悪な悪い子だったニルスが、トントを怒らせて小人にされてしまい、白ガチョウのモルテンと共に立派なリーダー、アッカ率いるガンの群れと一緒にスウェーデンを縦断する物語。第三巻。

旅を始めてから自分の行いを悔い改め、道々、たくさんの人や動物を助けて行くニルス。人の親切にも感謝の涙を浮かべるまでに成長した「親指」くんだが、今回は人間に捕まってしまい、モルテンやアッカと離れ離れになってしまう。そこに登場したのが、昔ひなの時にアッカが助けた鷲のゴルゴ。ニルスにも助けられたゴルゴは、お礼に、素晴らしいスピードでニルスをアッカのもとへと連れ戻してくれる。

この間に、スウェーデンの各地方がどのような成り立ちをしたのかという民話が語られ、実際の地理と合わせて、子どもがよく理解できるように工夫されている。民話の間にニルスがひょっこり現れて、本筋との繋がりも示すという書き方は、地理を勉強しながらニルスと共に旅をする感じで、非常に面白い。

最終巻の第四巻で、ニルスは無事、人間に戻れるのだろうか?でも、このまま「親指」くんのままでいてほしい気もする。


2002年07月18日(木)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 細菌ハックの冒険/マーク・トウェイン

本書に描かれた細菌の世界は結局、人間の世界の縮図である。必然的にこの作品の中心テーマは人間というものの本質、そしてその存在価値に関わる重いものとなっている。かつて人間であったコレラ菌ハックは両方の世界を比較しながら、至るところで人間の性質を包み隠さずに述べていく。それはどれも、人間というものを知り尽くしたトウェインならではの鋭い指摘ばかりであり、そのためにかなり読みごたえのある内容となっているのだ。辛らつな皮肉もある。しかし、その一方で、主人公の語りには怒りや絶望感、あるいは軽蔑した調子はなく、説明は愚タオ的でしばしばユーモラスなものにさえなっている。─訳者あとがき

あの、ハックルベリー・フィンがコレラ菌に!というので、そのアイデアにとても興味を持ち、さらに冒頭の書き出しは非常に面白く好奇心をかき立てるものだったにも関わらず、この本は「トウェイン・マニア」以外にはお薦めできない。

内容は訳者あとがきに述べられている通りなのだが、なんだか小難しく、まるで哲学書でも読んでいるような感じ。あのハック・フィンを想像して、また期待をふくらませたりしていると、まるで違うハックに遭遇して、とんでもなく面食らうことになる。

それでも興味を持って読んでみたいという方は、きっとトウェインの世界を深く理解できることだろう。トウェインの世界は、「トム・ソーヤ」や「ハックルベリー・フィン」などではなく、むしろこちらのほうが本質だと思うから。



2002年07月16日(火)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 Suzanne's Diary for Nicholas/James Patterson

ニュヨークタイムスでベストセラーになり、かなり話題の本。バーゲンで400円になっていたので、早速購入して読んでみた。ジェームス・パタースンといえばミステリーと相場が決まっており、個人的にもアレックス・クロス刑事シリーズは大好き。しかしこれは、異色のラブ・ストーリーだというのでかなり興味津々だったのだが、期待が大きかった分、少々失望も。ともあれ、感想を書くのが難しい話だ。

「Katie」が語る部分と「The Diary」としてSuzanneの日記の部分が交互に登場し二部構成のようになっているが、登場人物の関係は下記の通り。

Suzanne─日記を書いた人
Matt─Suzanneの夫
Nicholas─SuzanneとMattの息子
Katie─Mattの恋人

Katieはある日突然、恋人のMattから日記を渡され別れを宣告される。わけが分からないまま日記を読み始めるKatie。それは一度も聞いたことのなかったMattの妻Suzanneの日記で、息子Nicholasに宛てて書かれたものだった。Mattとの恋愛から結婚、そして出産という折々に触れ、家族の愛を書いたものだったのだ。Suzanneは深刻な心臓病を患っており、結果心臓発作で亡くなるのだが(これは容易に想像できるので、書いても差し支えないと思う)、パタースンらしい意外な結末に驚かされる。

しかし、なぜ恋人(死別してから関係を持ったのか、同時進行だったのか今いちはっきりしない)に、妻の日記を見せなければならなかったのか?自分の気持ちを理解してほしいというだけのことなら、ずいぶん身勝手であると思うし、やはりこれは男性の視点で書いた本であるという感じが否めない。女性の過去は許されないが、男性の過去は、たとえ全部さらけ出しても女性が傷つくことはなく、安易に許されるだろうといった類の勘違いだ。

タイトルからするとSuzanneが主人公のようで、大部分が彼女の日記なのだが、本当の主人公はKatieであり、Katie側の結末を書いたものなのである。だが、双方にかかわりを持つMattとは、どういう人物なのだろう?

Suzanneの心臓病のことは承知して結婚したMattだが、妊娠・出産が危険であることも顧みず、子どもを作る。息子のNicholasの出産の時、案の定、危うく死にかけたSuzanneなのに、また二人目を作る。しかし、体が心配だから今回は産まないほうがいいと言うなど、この男、どういうつもりなのだろう?そういう結果は分かりきっていることなのに。優しくていい夫として描かれているが、私には勝手な男にしか見えない。そしてKatieとの関係。。。どうも納得できない。

冒頭、Katieの飼い猫の名前がグウィネヴィアだったり、犬の名前がマーリンだったりして、アーサー王物語ファンとしては、いきなり引き込まれる感じがしたが、延々愛の言葉が連なり、死があり、さらに衝撃的な事実があり、どう見てもお涙頂戴を意識して書いているとしか思えない筋書きに、結果としては退屈した。結局、アメリカ人が好きそうな「ちょっといい話」だったわけだ。

パタースンは、その時流行の本や音楽などを取り入れる作家で、それは読む側としてはひとつの楽しみなのだが、今回は、Katieが『Harry Potter and the Goblet of Fire』(『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』)を読み、テレビで『Ally McBeal』を観ているという記述があったりした。そして「Sun Tea」も出てきた。当然「Sun Tea」の出所である『The Bridges of Madison County』の話題も。そういった部分は結構楽しかったが、『マジソン郡の橋』を誉めているようなパタースンのラブ・ストーリーは、私としては納得できないかも。逆に言えば、『マジソン郡の橋』を好きな人は、この本も気にいるかもしれない。


2002年07月13日(土)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 わたしが私になる方法(BOOK PLUS)/サリー・ワーナー

<カバーより>
わたしの名前はカーラ・ビッグス。わたしには秘密がある。先生も友達も知らない。離れて暮らすパパも知らない。わたしのママは病気だ。・・・精神病、っていうのかな。ろくに食事もせずに、長いこと外へも出ていない。パパがいなくなってから、ずっとそうだ。昔は楽しかった。パパが、ママが、家族がひとつだったころ。子犬のフェザーがいてくれたころ。でも、そんな日はもう戻らない。けれど、わたしはだいじょうぶ。だれにも頼ったりしない。ひとりで生きてゆける。大好きな『青いイルカの島』の主人公のように、なににも負けずに自分の足で生きてゆくんだ─。

とある木曜日。その1日を主人公カーラが、それまでの思い出を織り交ぜながら語る。六年生のカーラの母は精神病で、その母親の面倒をたった一人で見ている。誰にも言わずただ一人、時折『青いイルカの島』の世界に入り込み、本当の自分と違う自分との境を行き来する。学校で何を言われようが、秘密を守り通そうとするカーラ。ときどき母親が嫌いになるが、そんなことはない!と言い聞かせて、父親にさえも何も言わない。母親が精神病院に連れていかれてしまうのが怖かったのだ。その木曜日の3週間後、母親はとうとう精神病院へ。

う〜ん、内容を書いてしまうと、これでおしまいって感じ。そういうことなのかってだけで、確かにカーラの心を思うと切ないのだけれど、それ以上の感想は出てこない。だいたい父親は精神病の母親と娘を残して、どうして出て行ってしまったんだろう?姿をくらましたわけではなく、別の土地で働いているらしいのだが、このあたりの状況が何も書いてないので、よくわからない。

翻訳はまた金原瑞人氏。最近、この手の本はみんなこの人の訳で、しかもみんな同じ調子。またか!という感じでうんざりだ。今回は共訳になっているので、お弟子さんにでも訳させたのだろうか?だったらもう金原氏の名前は出さないほうがいいんじゃないかと思う。母親が狂っていくあたり、『サラ、いつわりの祈り』に似ていると思ったが、それもやっぱり金原氏の訳だったからだ。


2002年07月08日(月)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.



 ミルク・イン・コーヒー(BOOK PLUS)/エリック・ジェローム・ディッキー

<訳者あとがき>より
骨まで凍えるニューヨークの冬。南部で育ち、いまはこの街に暮らす黒人のジョーダンは、空車と思ったタクシーに飛び乗ってから、先客がいたのに気づく。赤い髪に白い肌をした、その美しい女性の名はキンバリー。ふたりは恋に落ちるのだが・・・。

黒い肌の男性と、白い肌の女性とのラブ・ストーリー。一昔前、あるいは保守的な地方の町の出来事なら、白人側からの差別や偏見がジョーダンを苦しめたことだろう。でも、現代のニューヨークに生きるジョーダンにとって、最大の障害は同じ黒人の目、そして自分自身の心なのだ。そして、屈託なく自由にふるまっているように見えるキンバリーも、実は心の奥底に、肌の色についてのあるこだわりを隠していた。

出だしは、これもまたよくある、ニューヨークのファンキーな黒人の話かと思ったのだが、結構きわどい描写などを経て、最後にたどり着くのは、なんとなく暖かな気持ち。ファンキーでヒップで軽いノリなんだろうな、と予想していた内容とはだいぶ違っていた。

ジョーダンの語りと、キンバリーの語りという二つの語り口で書かれているものの混乱はなく、むしろそれぞれの立場が良くわかって、なかなか良かった。二つの語り口というのは、コーヒーにミルクが(あるいはミルクにコーヒーが)徐々に混じっていく様子を連想させる。タイトルはそのまま白と黒という意味で、根底に流れるテーマは人種差別だ。つまり社会の差別の中で、ジョーダンとキンバリーが理解し合っていく過程を描いているわけだ。そしてまたここには、白人と黒人の「混血」という意味もある。

冒頭のイメージで、この手の小説なら400ページ(2段組)はあっという間かと思ったが、意外にも濃い内容で、人種差別のほかに、友情や親子の愛情、暴力、リストラなどなど、多彩なテーマが盛り込まれており、結構じっくり読んでしまった。

特にキンバリーと父親のやり取り。個人的な思いだが、ここにはやはりジーンとくるものがあった。父親とは、なかなか娘に本音を言えないものだ。世界中で一番愛していたとしても。

ところで、恋愛と友情はどちらが大切か。人それぞれだろうが、恋人に裏切られるよりも、友人に裏切られるほうが怒りは激しいのではないだろうか?ここでも、日頃温厚なジョーダンが友人の裏切りを知って怒り狂うが、その気持ちはよくわかるような気がする。悲しみは同じように深くても、怒りは数倍激しいと思う。

さて、ジョーダンはどんなことで友人に裏切られたのか。それがこの物語のどんでん返しとも言うべき部分で、あっと驚く仕組み。そしてキンバリーにも意外な秘密が。。。



2002年07月01日(月)
Copyright(C) 2000-216 SCHAZZIE All rights reserved.
初日 最新 目次 MAIL HOME


↑参考になったら押してください
My追加

Amazon.co.jp アソシエイト