いや何にって……指編みマフラー。
毛糸玉一個でできる上に、一時間くらいでできるので、そんなお手軽さ加減が気に入っています。 …まあ、出来上るのも細い小さなマフラーなんですがね。
毛糸玉一個でできるので、ちょっと奮発して、とびきりフワフワの、肌触りの良いもので作ると、これが最高! 一個八百円くらいので作ったら……あまりの出来の良さにハマっています。
やはり、寒くなってくると、毛糸とかにさわりたくなるのです。
今まで安い毛糸でやってきただけに……上等の毛糸の肌触りは、マジで快感!
2004年10月28日(木) |
今週中で撤去します。【平@管理人より告知】 |
以前、おしゃべりBBSでもグチっていたんですが、web拍手のことです。
やはり、以前よりも、爆発的に利用するサイトが増えた結果なのでしょうが、一番見に来てくれる方が多い時間に、サーバーが止まったり、混み合い過ぎて拍手をしても画面が見られない、等のトラブルがあいついでいます。 私のサイトだけでなく、私が他のサイトに行って拍手しても、せっかく拍手したのに、楽しみにしていた送信後の画面が見られなかったり……。
今まで、web拍手というシステムをとても楽しんでいただけに、とても残念でなりません。 有料版もできた、ということですが、お金をかけてまで続けようとも思いませんし、(安定はするらしいけど)
以上のような理由から、web拍手は今月中で撤去します。
短い間でしたけれど、ご利用、ありがとうございました。
撤去後どうするかはまだ決めていません。 一言掲示板を設置しようかな? 本文だけで簡単に送信できるようなの。
まあ、検討中、ってことで。
2004年10月27日(水) |
『ファーレンハイト−氷点と沸点−5』(精良さんとヒカルと…おや?) |
郊外に入ると渋滞はなくなり、車はスムーズに走った。 ヒカルは本因坊秀策のライバルだったという江戸時代の名棋士、岸本左一郎に興味を持ち、精良に話をせがんだ。 話をしているうちに、ヒカルが秀策は知っていても名前だけ、その上道策の存在すらも知らないという事が判明し、精良は苦笑しながら、 「…まぁ、歴史を知っているからといって、強くなる訳ではないけどな」 と前置きしながらも、歴代本因坊の中でも後世から「実力13段」と言われた怪物、第四世本因坊道策の話からはじまり、歴代の本因坊や、秀策、そしてライバルであった岸本左一郎の話などを、ヒカルにも分かる言葉で話してくれた。
「…お前、昔の名人たちの棋譜を並べてみることはないのか?古い対局とはいえ、勉強になることはたくさんあるぞ」 「あ…はははは……」
ヒカルは乾いた笑いでごまかしながら、ちらり、と背後を見上げた。 そこには、自分にしか見えない、1000年以上のキャリアを持つ囲碁の幽霊がふわふわと浮かんでいる。 棋譜を並べるも何も、自分はこの囲碁の歴史そのものみたいなモノと毎晩打っているのだ。そんな時間はまずない。…棋譜や本なら、自分が疲れた時に本を閉じればそれでおしまいだけれど、この生きた棋譜は……そりゃあもう、しつこかった。
「……進藤?次の角はどっちだ?」 「…え、あ、左に曲がって!そしたら左側の向こうから二番目がオレん家」 「分かった」
精良は左にウインカーを出し、ステアリングを切った。 住宅街なのでゆっくりと走る赤い車は、ヒカルの家の前で静かに止まる。
「ありがとーございました!家まで送ってもらって、助かったよ」 「まぁ、ついでだったからな。――それから、あの近くの碁会所に、行くなとは言わないが、今日みたいに遅くならないようにしなさい」 精良の言葉に、ヒカルは素直に頷いた。 「は〜い。あ!まだお礼言ってなかったよね、ヘンなおっさんから、助けてくれてありがとうございました、緒方先生」 「どういたしまして」 素直な子供の言葉に、つられて精良も微笑む。
ヒカルがシートベルトを外してドアを開けた時、不意に彼は振り向いた。 「――あ、そうだ」 「?」 「丁度いいから本人に聞いちゃうけどさ、緒方さんの下の名前……あれ、なんて読むの?」
「は?」
「精神の「精」に「良い」の「良」だろ。漢字はわかるんだけど、どう読むか分っかんなくて……まさか、女なのに「せいりょう」とか「やすよし」なんて読むわけないし」
大まじめで尋ねてくるヒカルに、精良はとうとう吹き出した。 面白い、面白すぎる。 八大タイトルの種類も分からず、当然そのタイトルホルダーの名前も言えない。それなのに、塔矢アキラのライバルを名乗り、今年プロ試験を合格してのけた、怖いもの知らずの新しい波、進藤ヒカル。 停滞しがちな囲碁会に、津波級の衝撃をもたらしそうな、そんな少年。 ――そんな彼に、改めて名乗りをあげてやるのも、面白いかもしれない。
精良はシートベルトを外した。 ヒカルの顔に手を添え、もう一方の手で彼の黄金の前髪をかきあげてやる。
かすかに。
一瞬だけ。
ヒカルは自分の額にひやりとした感触を感じた。 …そして感じる、微かな煙草と交じり合った、不思議な香り。
「??★!!○●?↑↓///!!」
「……セイラ」
「?」
精良はゆったりと微笑んだ。
「セイラ、と読むんだよ。覚えておきなさい、ボーヤ」
そう告げて、逃げ腰になりかかったヒカルを半分開いたドアにとん、と押してやる。
「うわぎゃっっ?!」
ヒカルは、自分の家の前に転がり落ちた。
そんなヒカルの様子を微笑みながら満足気に眺めた精良は、助手席のドアを閉め、自分のシートベルトを締め直した。 ステアリングを握り、発進しようとして……ようやく立ち上がったヒカルに、何かを告げた。 ドアを閉め、窓を閉じたままで告げられたそれは、ヒカルには聞えない。
「?…ま、いーや。ありがと、またねー」 ばいばい、と手を振るヒカルに軽く頷いて、精良は愛車を走らせる。 真紅の車のテールランプが角を曲がるまで、ヒカルはその車をぼうっと見送った。
『なかなか……強くて、かわいらしい女人ですね』 ヒカルの隣でふわりと狩衣を揺らしながら、佐為が微笑んだ。 「強いのはそうだけど……かわいらしい?!靴履いたら180センチ越えるんだぜあの人!佐為、おまえどっか目、おかしいんじゃないの?!」 『そうでしょうか』 佐為は扇で口元をそっと隠す。 …ヒカルには、分からなかったかもしれない。 …けれど、彼女は間違いなく、最後にヒカルに向かってこう言ったのだ。
「ありがとう」――と。
口に出さずとも、分かり切っている感情。 しかし割り切れない想い。 ――ヒカルはあの時、それを真正面から彼女に問いかけたのだ。
それは、小さなきっかけ。 しかし、大きな波紋をもたらす。
彼女は自らの弱さを認め、さらなる強さを望んだ。 タイトルにも満足しない、その貪欲さ。上へ上がることを怖じない、心の強さ。
佐為には分かる。 おそらく、彼女はもっともっと、強くなるだろう……と。 氷のような冷静さと、炎のような激しさを合わせ持つ、不思議な瞳をしていた。
……どこか、懐かしい………
『そういえば、岸本左一郎とは…なつかしい名前を聞いたものです』 「え、佐為、その人知ってるの!」 『ええ。私と虎次郎の……それはよい好敵手でしたから』 「こうてき……なにそれ?」 『今風にいえば、「らいばる」ですね』 「…強かった?」 『それはもう』 「へえ〜、その話、もっと聞きたい!」 『良いですよ。あの頃の一局を並べながら、お話しましょう♪』 「やったぁ♪」
ヒカルは元気良く、玄関に向かってぴょん、と飛んだ。
『…あ、ヒカル!』 「なんだよ!」 『額に、紅がついたままですよ』 「!!!!///////!!!!」
ヒカルが真っ赤になって固まったのは、言うまでもない。
2004年10月26日(火) |
『ファーレンハイト−氷点と沸点−』4(精良さんとヒカル) |
かぼそく揺れていた白い煙が、不意にかき乱された。 精良が、手にした華奢な煙草を灰皿にねじ込んだせいだ。 先程まで、どこかつき放すように前を向いていた彼女は、対局の場さながらの鋭い目つきで隣りに座るヒカルを睨み付けた。 その視線は凍り付かんばかりに怜悧なのに。 向けられた先を灼きつくしてしまわんばかりに、熱い―――。
そんな精良の視線を受けても、ヒカルの灰翠色の瞳はそらされることがなかった。 じっと、精良を見つめている。 そして繰り返した。
「緒方先生は、悔しく、ないの?」
その答は、微笑みによってもたらされる。 ――凄絶なる、しかし艶やかな、「怒り」という名の微笑みによって。
「悔しくないと…思うか」
……侮辱としか言いようがない言葉を吐かれて。
「悔しくないなんて……思うか?」
……いいや、違う。そんな些事なぞ、高みから哀れんで見下ろすことができる。 実の親が呆れ…師匠が愛でた、その矜持。 ……そんな事ではなくて………。
ナニガ?
ドウシテ?
ヒカルはふ、と左後ろを見上げて、それから精良に向き直る。
「――悔しい?」
「――ああ、悔しいとも」
苦々しく、吐き捨てるように精良は言った。
プァン!と、背後からクラクションが響く。 気が付けば、前方の車とはだいぶ距離が開いていた。 ち、と精良は舌打ちし、今までよりもいささか乱暴に車を発車させて、前の車のギリギリまで近寄ったところで急に車を止めた。その反動で、シートベルトに止められたヒカルの身体ががくん、と揺れる。
「……悔しいよ……。師匠との十段戦五番勝負」
精良は前を向いたまま、目を細めた。
――対向車のライトも、ないのに。目の前に見えるテールランプは、ぼんやりと赤く光るだけ。
「…私が、もっと強ければ。……誰もが名局と言わしめる戦いができていたら―――!」
――あんな中傷なぞ、言わせないのに。
――自分はともかく、師匠まで侮辱するようなあんな暴言、許しはしないのに―――!
先に見える信号は青いのに。 車はまだ、動かない。
だん!と精良はステアリングの中を叩いた。 夜の町にけたたましく響くクラクションの音。
響いて……こだまして……消えてゆく。
ようやく交差点に出たところで、また赤信号になった。 今度は静かに車が止まる。
「進藤」 ぼそり、と呟くような小さな声。 「なに?」 しかしヒカルは聞き逃さなかった。
「お前の言う通りだ。どんなに言いつくろおうとも、私は、悔しい」 「うん」 白い手がなめらかに動いて、また細い煙草を取り出し、火が点けられる。 「…自分に実力がないことが……とてつもなく悔しい」 囲碁界の頂点のひとつに既に立っている彼女が求めるのは、さらなる強さ。 タイトルを所持しながら、飢えている。 ヒカルよりもおよそ高い所にいる彼女は、そこから見える光景に、全然満足していなかった。 今のヒカルには、彼女の見えている光景ですら、まだ見えないでいたのだけれど。
ふう、と吐き出される煙が踊り、窓の外に消えてゆく。 とんとん…と、彼女はシガーボックスに軽く灰を落とした。
「だから…な、進藤」 「?」 「院生だったか?その彼女に言っておけ。私みたいな弱い棋士ではなくて、どうせ目指すなら、本因坊道策や秀策、そうでなければ秀策のライバルだった岸本左一郎クラスの棋士にしろ、とな」
精良は煙草を銜えると、スムーズにクラッチをつなぎ、軽くシフトバーを操作して前進した。気が付けば、信号は青になっている。
「げ〜っ、緒方先生が弱いなんて言ったら、俺たちなんか何なんだよ〜」 少年の無邪気なぼやきに、精良はくつくつと笑う。 「さてな……とりあえず、プロにはなったようだし、芽は出たんじゃないか?」 「へへへっ///そぅ?」 「簡単に踏みつぶせるけど」 左手で煙草を取り、ニヤリと笑う。
「ひどっ!」 「踏まれて踏まれて、大きくなりな、ボーヤ」 「俺は雑草じゃねぇよっ!」 ぎゃんぎゃんと噛みついてくる子犬を相手にしているようで、そんな無邪気さが精良には面白かった。 煙草をもみ消してからぐしゃぐしゃとかき回したヒカルの黄金の髪は、意外に固い感触がした。
「…それで?お前の家はどの辺りだ?」 「…へ?あ、うわわっ、そこで右曲がって、それから青梅街道入って!」 「右折させるなら、もう少し早く言え!――ったく」
深紅のフェアレディZは、少々強引に交差点を右折した。
2004年10月25日(月) |
『ファーレンハイト−氷点と沸点−』3(精良さんとヒカル) |
「――誰だよ……」
「……………………」
「誰がそんな事言ったんだよ!!」
「ウルサイ。…怒鳴らなくても聞こえるよ」
つい激高して噛みつくような勢いのヒカルを、精良はじろり、と冷ややかな視線と刺すような言葉で制した。 やがて見えてきた赤信号に、精良は車を止める。
「煙草、いい?」 「…え?」 「煙草、吸っていいか?」 「あ…う、うん。ドウゾ……」 思ってもいない言葉を投げられて慌てるヒカルをよそに、精良はシフトレバーの後ろにあるポケットから煙草とライターを取り出し、火を点けるとウィンドウを少しだけ開けて、ふ、と煙を吐いた。 細身のそれは、彼女のしなやかな指にしっくりとおさまり、先端から、細くて微かな紫煙がゆらゆらと立ち上った。 (そんなに煙草臭くないや…。じいちゃんの煙草とは、全然違うんだ)
精良はもう一度煙草を吸うと、まだ長いそれをシガーボックスに押しつけ、車を発進させる。――信号は青だった。
「さっきの話だけど」 ぴくり、とヒカルは顔を上げた。彼が見る彼女の表情は、相変わらず静かなままだ。 「…別に、ああいう話は今に始まったことじゃない。プロ試験に合格してから、低段からさらに上へ勝ち上がっていった頃からも、形は違えど言われてきた事だから」 「…そんな……」 「珍しかったんだよ」 「何が」 「女流枠でなく、プロ試験をまともに合格してきた女流棋士がな。…そして、そんな女流棋士がタイトル戦のリーグ入りまで狙える位置に登ってきた」 前の車のテールランプがさらに赤く光る。渋滞気味のようだ。 「だって、それは緒方先生の実力だろう?」 「そう言える男の方が、少なかったんだ。…おまけに、私がこんな姿(ナリ)だから、余計にな」 「……?」 首を傾げるヒカルに、精良は前を向いたまま、嘲るように微笑った。 ――何に対してか、までは、分からなかったけれど。 「対戦相手と寝て……それで、勝ちを譲ってもらったんだと。…そうでなければ、女がタイトル戦の第三次予選まで勝ち上がるのはありえないそうだ」
とんとん、と、精良の指がステアリングを軽く叩く。 彼女の表情は読めない。 対向車のヘッドライトに時折照らされるだけで、凍りついたように。
「そんな……ひどいよ」 「?」 「緒方さ…緒方先生が、そんな事する訳ないよ!相手が誰だろうが叩っ切って自分を押し通して、女王サマ状態で碁盤の上を支配するのが緒方さんの碁じゃん!そんな自分の実力に自信も誇りも有りまくりな緒方さんが、なんでそんな真似するなんて思えるのさ!!」 「……オマエが私の碁をどう見てるかすごくよく分かったよ」 ふふ、と精良は少年を横目で見た。 「――っ///、じゃなくて!!」
「大丈夫だ、その時には師匠がキレた」
「………………え?」
(師匠って……緒方先生の師匠って……緒方先生は塔矢と同じで塔矢門下だから……塔矢名人?!え、ちょっと待って、キレた??!) 灰色の大きな目をまん丸にして驚く少年に、精良は楽しそうに笑った。 「ああ、キレたとも。「私の弟子を不当に愚弄するか!」…とな。そんな棋士がいる囲碁界で対局するなど、虫酸が走る、とかなんとか、大事なイベントはキャンセルするは、タイトル戦はボイコットしかけるは、一時は引退話まで持ち出して、日本棋院はおろか、スポンサーの新聞社まで巻き込んでの大騒ぎになった」 「……すげ………(やっぱ塔矢の親父だ……)」 「おかげで、何故か私までが師匠をなだめなくてはならなくなってな。自分の噂話なのに、私が怒る暇などなかったぞ」
あのように激昂する師匠の姿なんて、あれ一度きりだ。 ……自分のせいで、迷惑をかけた。 …なのに、すごく嬉しい思い出でも、ある。
ゆっくりと、車が動いては、止まる。 その度に、精良の左手がシフトレバーをなめらかに操っていた。
「…まぁ、そのおかげで表立っての攻撃はなくなったがな。それでも聞こえてくるものさ。――自分の負けを認める度量もないクセに」
精良はシガーボックスに置いた煙草を銜えて、再び火をつけた。カチン…と音を立てて閉まる、少し小ぶりののジッポー。
「……今回のもそのひとつだ。今まで男しか手にしたことがないタイトル……。その頂点に、女の私が立ったのだからな。はっきりとした形で、あいつらは私よりも「下」だ、と位置づけられてしまう」 とん、と、灰をボックスに落とした。 「それが耐えられずに……しかし上に這い上がってやろうという気概もない、くだらない嫉妬が言わせているのさ。私が手にしたタイトルは、「女流棋士である私の実力で獲ったものではない」そう思いこみたくてな」
細い煙が、揺れる。 ゆらりと流れて、窓の隙間から外へ流れていく。
「………でもさ」
「?」
ヒカルは、前を見つめたままの精良をじっと見ていた。 どこまでも、まっすぐに。
「―――緒方先生は……悔しく、ないの?」
前を向いたままの彼女の表情が、僅かに動いた。
車は動かない。渋滞はまだ続いていた。 精良が手にした煙草の煙だけが、ゆらゆらと、白く揺れては、消えた。
2004年10月24日(日) |
『ファーレンハイト−氷点と沸点−』2(緒方さんです。…女性ですが) |
まるでネコの子よろしく襟首を掴まれ、ひきずられそうになるのをヒカルは小走りになりながらついて行った。 「あ、あのさ…」 「ん?何だ」 彼女はヒカルの声にぴた、と足を止めて、振り返る。 ヒカルは、そんな彼女をじっと見上げる。
「あの……緒方センセイ……だよね?」 「ほう」
彼女は面白そうににこりと笑った。 何か企んでいそうな…キレイなんだけど、怖い微笑み。やっぱりこれは緒方さんだ、とヒカルは確信した。 「私と間違えるような女と面識があるのか?進藤新初段」 ふ、とヒカルの襟首を圧迫していたものが、軽くなる。 彼女が手を離したのだ。
「…や、だってさっき、すっげー言葉使ってたから……」 いつもは、女性にしてはやや固いものの、あんなにガラが悪くない筈なのだ。棋院の職員や上段者にたいしては、丁寧な言葉遣いしかしないのを、彼は見たことがある。 けげんな顔で見上げてくる少年に、彼女はくつり、と笑った。 「あれは喧嘩用だ。普段は使ったりしない…安心したか?」 眼鏡の奥の目が、ふわりと優しくなる。ヒカルはそれを見てにっこりと頷いた。
「うん。…でもすっげ似合ってた…………違和感なかったんだけど、緒方センセイって元ヤン?」 ぱかん!とヒカルの頭がはたかれる。 「…誰のおかげで院生になれたと思ってるのかな?ボーヤ」 「あたた……緒方先生…のおかげです」 「ならばその恩人に対しての口利きに気をつけることだな。……送っていくから、乗りなさい」 「…え、いいの?じゃない、いいんですか?」 「お前みたいな容姿の子が歩くには、この辺りは物騒すぎる」 「オレ、一応男なんだけど……」 「その「カワイイ少年」が大好きな輩もいるのは、さっき体験済みだろう?もしお前がそういう嗜好の持ち主だったら、止めはしないが…ふむ。という事は邪魔をした事になるのか?だったらお詫びにさっきの奴の所まで連れ戻して……」 「スイマセンオレが悪かったですお手数かけますが送っていってください!」 真剣に連れ戻そうとされかけて、ヒカルは必死に緒方を押しとどめた。その様子がおかしくて、彼女は車にもたれて声を殺して爆笑する。 「ひっでー!緒方先生、オレ、マジで連れ戻されるかと思ったのにー!」 先程までのやりとりが、単なる緒方の冗談だと知って、ヒカルはむぅ、と膨れながら彼女に抗議した。 彼女はなんとか笑いを納め、ぽんぽん、と少年の頭をかるく叩いてやる。…やっぱり、この少年は面白すぎる。 「まぁ、そうむくれるな。送っていくから、乗りなさい」 トン、と音がして、車のロックが解除される。 2人の目の前にあるのは、夜の街灯のほのかな灯りに鮮やかに照らし出される、バーニングレッドのスポーツカー。
「うわ、「十段Z」だ!」 「…なんだそれは」
怪訝な顔をしながら、緒方はシートに乗り込んだ。慌ててヒカルも助手席に乗り込む。 「…それで、何のこと?「ジュウダンZ」って」 「このクルマ、「フェアレディZ」だよね」 「ああ」 「緒方先生が十段のタイトル取ったくらいから、乗ってるよね?」 「ああ…確かあの頃の納車だったから」 「だから、きっとタイトル取ったお祝いなのかなって、みんな、緒方さんのこのクルマのことを、「十段Z」って呼んでるんだ!」
――ごち。 ヒカルの台詞に、緒方はステアリングに頭をぶつけた。…まさか、自分のあずかり知らぬところで、そのような名前でこの愛車が呼ばれていようとは。もう少しまともなネーミングはなかったのだろうか。 しかしタイトルを取ったからこうなった訳で。もし取れていなかったら、タイトルを取れなかった腹いせにヤケっぱちで買った車、と思われかねない。自力で買った初めての車に、そんな逸話をつけられてはたまらない。ショーウィンドゥで目にして以来、一目で気に入った車だったのだから。 (…つくづく、タイトルを取れてよかった……) 改めて、そう思った緒方新十段であった。
「…うん、だからオレたち新初段も、院生も、すげーよなって、話してるんだ♪特に女子なんてはりきっちゃってさぁ…。奈瀬って、院生で一緒だった奴なんだけど、「緒方十段みいな棋士になるんだ」って、すっげ燃えてる」 無邪気に語るヒカルに、緒方はふ、と顔を上げた。
「…私みたいな棋士に?」 「―うん!」
緒方 精良 新十段。 女流棋士でありながら、初の8大タイトルのうちのひとつ、十段を手にした女傑。 あの塔矢行洋名人の唯一の女弟子にして一番弟子。彼女は、その師匠を倒して、タイトルを獲った。
……くつり、と緒方は下を向いたまま自嘲的な笑みをこぼした。履いていたピンヒールを脱ぎ捨てて後ろに放り投げると、運転用のシューズに履き替える。
「…やめた方がいい」
そう呟いて、彼女はエンジンを始動させた。 真新しい、しかし馴染みつつある音と振動が2人を包む。
「緒方センセイ?」
彼女の様子が変わったのに、ヒカルはけげんそうな顔をして、緒方の横顔を見つめた。
「「師匠のお情けで、タイトルを譲って貰った」…そんな噂をされるような棋士にはな」 「――――!」
視線の険しさとは正反対に、緒方のフェアレディZは滑り出すように動き始めた。
2004年10月23日(土) |
『ファーレンハイト−氷点と沸点−』(ついにやりました…ええ、あのヒトです) |
道玄坂の碁会所で、つい夢中になって打っていたら、気がつけば辺りは暗くなっていた。 仕事帰りに立ち寄る客で、碁会所はこれからも賑わいそうだが、いかんせん、ヒカルはまだ中学も卒業していない未成年。 「ほら、とっとと帰りな!暗くなると、ここの辺も危ないからね!」 引き止めようとする常連さんたちを蹴散らし、おかみさんが追い立てるようにヒカルを碁会所から追い出した。 もちろん、それが、ヒカルの身を案じての言い回しだと分かっているから、ヒカルはありがたくおかみさんの言葉にしたがう。 「ありがと!おかみさん♪またねー♪」 「ああ、またおいで」 そっけないけれどちゃんと返事が返ってきたのが嬉しくて、ヒカルはひとり、笑みを含ませながら帰途についた。
………筈だったのだが。
「キミ、いくつ?この時間に此処にいるってことは、結構遊んだりしてるのかな?」 …なんて、サラリーマン風の気弱だけどちょっとイッちゃってるっぽい男につかまってしまった。 何がイッちゃってるって、ヒカルがはいている膝丈の短パンから伸びた、すらりとした脚を見る、その目つきである。…いわゆる、「そういうシュミ」の男らしかった。 「俺、急いでるから!」 「ま、待ちなよぅ。タクシー代くらい、出してあげるからさ。いいや、特別におこづかいもあげるよ?だから……ね?」
何が「だから」なんだか。 早く逃げたいのは山々なのだが、ヒカルの右手を掴んだ男の手は、案外、力が強かった。 (どうするかなぁ……とりあえずオッケーして、油断させといてダッシュで逃げるか……) 最寄りの地下鉄まで、ちょっと距離はあるが、走れない距離じゃない。 そんなこんなを考えていた時、カツ!と甲高いヒールの音が彼らの耳に響いた。
「……ウチの弟に手ェ出そうなんて、イイ度胸してるじゃねーか…」
やわらかなメゾソプラノの声が、こんなぞんざいな言葉を吐くとこうも迫力あるものになるんだ……と、ヒカルは妙なところで感心していた。 くい、と見上げてみれば、そこには、ヒカルの腕を掴む男よりも遥かに長身の女性が、迫力満点の目つきで彼らを見下ろしていた。 あつらえて作られたような白いスーツは出るところは出て、くびれるところはしっかりとくびれたナイスバディをしなやかにくるみこむ。膝上のやはり白いタイトスカートから伸びた脚はすらりと伸び、まるで人を踏むための狂気のようなピンヒールが恐ろしいほど似合っていた。 色素の薄い髪、理知的な瞳。フレームレスの眼鏡すらもが彼女の氷のような雰囲気をひきたてている。 そして彼女は、灼熱の溶岩もかくやとばかりに、その怒りをあらわにして男をにらみつけていた。
「その手を放せ、オヤジ」
カツ、と、ピンヒールの音がひびく。 ヒールの高さもあいまって、180センチは超えようかという長身に、男は最初から位負けしていた。 男の手が緩んだ瞬間、ヒカルは彼女の元に駆け寄る。 彼女はがし、とヒカルの首根っこを捕まえた。
「……ったく!こんな時間までんなトコウロウロしやがって!とっとと帰るぞ、オラ」 言うが早いか、そのまんま、カツカツとヒールを響かせながら、彼女は少年を引きずり、その場を後にした。
2004年10月22日(金) |
『雨やどり4』(マイフェア。何か緒方さんが主人公っぽいぞコレ…) |
緒方が店から裏手の方へ辞すと、美登里はやれやれ、とため息をついた。
「すいませんねぇ。進藤さん。ヒカルちゃん。あの子、どうもああいう所は融通きかなくってねぇ…」 「いえ…若いのに、けじめを通すことができる、良い青年じゃないですか」 今時の若い者では、なかなかああはいきませんよ……と正夫が頷くと、美登里は団扇を口元にあててくすり…と笑った。 「ふふ…あれはねぇ…あの子の父親の影響なんですよ」 「お父さん?緒方さんの?」 ヒカルも、興味深げに身を乗り出す。 美登里は進藤父娘に団扇でゆったりと風を送りながら、頷いた。
「あたしの弟が、あの子の父親なんですけどね。宮大工をしてたんですよ。男の子ですからね、当然、大工道具に興味を持って、触ろうとしてたんだけど……そのたびに、こっぴどく怒られてねぇ。よく泣いてましたよ」 「うわ…想像つかない……」 ヒカルの呟きに、美登里はくすくすと笑った。 「そりゃあ、まだ小学校にも行かない小さな頃だもの。早くに母親を亡くして……父ひとり、子ひとりの、そりゃあ仲の良い親子だったけど、弟も、「大怪我させちゃならねぇ」…なんて、仕事道具の事に関しては厳しかったからねぇ。よく泣いてはウチに転がり込んできたもんですよ。泣き疲れて眠った頃に、弟が暗い顔して迎えに来るのさ。「叱りすぎた」ってねぇ」 まったく、後悔するんなら、泣くほど叱らなきゃ良いのにねぇ。 美登里は、どこか遠い日をなつかしむように目を細めた。 正夫は、そんな彼女の語り口と視線に、まさか、と思いがよぎる。
「結構ガンコ者なお父さんだったんだね」 「ああ、良く似てるでしょう?」 「…ふふ、そうかも。でも一度会ってみたいなぁ」
ヒカルの無邪気な言葉に、美登里が団扇を動かす手がはたと止まる。 「?…どうしたの?」 「ヒカル」 なおも問う娘を、正夫は制した。 やはり、先程感じたものは、気のせいではなかったのだろう。
「弟もねぇ……もう、いないんだよ。交通事故でねぇ。あの子が、小学校に入ってすぐの年に」
苦い微笑み、というものは、こういう表情を言うのかもしれない。 それほど、美登里の表情は憂いに満ちて……しかし確かに、微笑んでいた。
「だからなのかねぇ。父親に叱られた事が、余計に思い出として残ってるみたいなんですよ。だからああいう場合であっても、変に厳しい言い方しかできなくて……。ごめんねぇ、ヒカルちゃん。女の子にあんな事を。気を悪くしただろう?」 ヒカルはううん、とかぶりを振る。 「そんなことない。オレ、こういうの、あんまり知らなくて……だから、知らないままに、変なことしたり失敗したりするんだ」 何をしたんだ、と正夫は内心冷や汗をかいた。 娘はそんな父親の視線を感じて、へへ、と舌を出す。 「たいていは、まだ若いから…とか、プロになったばかりだから…とか、女の子だから……って、笑って許してくれたりしてたけど、緒方さんだけは、違うんだ。絶対許さない」 「まぁあの子の性格からしてそうだろうねぇ」 「多少の破目を外すのは結構許してくれるんだけど、―ほら、囲碁の世界って、しきたりとか、約束事とか、結構あるじゃない。それをさ、叱りながらでも、ちゃんと教えてくれるんだ」 ――自分にも、分かる言葉で。だから納得できる。だから頷ける。 榛色のあの視線は、時々ひどくイジワルだけど、嘘をつかない。 ――だから。
「………………」
正夫は、そう言って微笑む子の姿を、黙って見つめるしかできなかった。 まだ子供だと思っていたその子が、「娘」として、成長しつつあるのを、目の当たりにしたような気がして。
何となく喉の渇きを覚えて正夫が一口麦茶を飲んだ時、店先でエンジンの音がした。 「あ、緒方さんだ」 ヒカルはひょい、と立ち上がり、うす青の縞のしじらの裾をけたてて上がり口に駆けてゆく。 ヒカルが雪駄をつっかける前に、緒方が暖簾をくぐって顔を出した。
「車、用意しましたので……」 「はい、ご苦労さん。ヒカルちゃん!この袋に入ってるの、ヒカルちゃんとお父さんの服だからね!帰ったらすぐ洗うんだよ、匂いがついちまうから!」 「は〜い」 「すいません、何から何までお世話になって……」 「いいんですよぉvv。…さ、遅くならないうちにお帰りにならないと。忘れ物はありませんね?」 「え、ええ。もとからこの鞄ひとつですし、服はヒカルが持っているようですし……」 「ちょいと、精ちゃん!安全運転でお送りするんだよっ、雨の中なんだから、スピード出すんじゃないよっ!」 美登里の早口に、緒方は苦笑しながら頷く。 「了解しました。美登里伯母様。……では、進藤さん、行きましょうか」
緒方は、正夫の前に男物の少し古びた雪駄をそろえた。 足に馴染む履き心地に、ふと、目の前の青年がこちらをじっと見ているのに気がつく。 「…もしかして、君のお父さんのものかな?」 ――着物も、雪駄も。 ぴくり、と彼は表情を動かしたが、やがて彼はふわりと笑った。 「いいえ…着物は父のものですが、雪駄は、私の履き古しです。――使い古しばかりで、申し訳ないんですが」 その苦いような切ないような…微笑みは、女将に似ているな、と思った。 「いいや、よく履き慣らしてあるから、とても履き易いよ。ありがとう」 そして、自分の仕事道具である黒の鞄を左手に提げる。
「そういえば、ちゃんと自己紹介していなかったね」 「は」 「私は、進藤正夫。久住證券で営業を担当しております。…ご存知の通り、進藤ヒカルの、父親です」
名刺がなくて悪いね、と正夫が微笑む。そんな表情が、どこか、ヒカルに似てような気がした。 「緒方精次。棋士です」 ……気がつけば、緒方は正夫に手をとられ、握手を交わしていた。流石、営業というのは伊達ではないらしい。いつのまにか間合いに入られている。…しかしそれでいて、不快な感じはしない。
改めて間近で見ると良く分かる。囲碁という、勝負の世界に身を置く人間の気迫。この若さにしてにじみ出る不遜なほどの貫禄。長年石を持ってきたであろう、固い指。 ひょっとしたら、結構有名な棋士なのかもしれない。正夫は、後でインターネットで検索して調べてみよう、と思った。
「…なにしてんの?ふたりとも」
一度車に乗り込んだ筈のヒカルが、ひょい、と暖簾から首だけをのぞかせた。後に来るはずの二人が来ないので、下りてきたらしい。
その瞬間、ふ、と握手は離れた。
「お前の先輩に、挨拶していたんだよ」 いつも、お世話になっているんだろう? くしゃり、と正夫は娘の髪をなでた。
「………………」
何とはなしに。 緒方は、差し出したままの右手の行き場がないような気がして。 少しだけ、面白くなさそうに眉をひそめた。 そして。
それはそれは楽しそうな伯母の表情に気付き、ふたりに気付かれないよう、じろり、ときつい一瞥をくれたのだった。
ふふん、と、鼻で笑われてしまったのだが。
雨は、まだ止まない。
けれど、雨やどりはもうおしまい。
またも台風です。皆さん、無事ですかー? 平のトコは、現在吹き返しの風がきついですが、まぁなんとかいけそうです。…でも、たぶん落ち葉とか枝とかいっぱい落ちているものと……うわー明日の朝の掃除が大変だぁ。(泣) とにかく日本によく来る今年の台風。新記録更新だとか何とか……嬉しくない更新だなぁ。 季節の自然の営みとして、台風は必要なものだと思っている私ですが、ここまで来ると、もぉ異常気象に眉をしかめずにいられません。これも、温暖化の副産物なのだろうか……と、うす寒くなります。 あああ、そしてさらに食べるものがなくなった熊が人里に下りてくるんだろーなー……。そして熊が殺される……。山の捕食者がいなくなると、来年の春の山は怖いことになりそうです。(鹿などの草食動物の数が増えて新芽を食い荒らし、禿げ山のできあがり、とか、冬眠明けで非常に腹をすかせた熊が、人里があることを学習して、どんどこ里に下りてくる、とか……) おまけに、この台風の来すぎのせいで、野菜は上がるし!米も、せっかくの美味しい時期なのに湿らせるし!(←味落ちるやんけー!) 改めて、自然を前にした人間の無力さと、自然をこうまでしてしまったひとの愚かさにため息をつく次第です。
……さて、生真面目な話題はここまでとして、最近のお気に入り小説について。 雪乃紗衣さんの『彩雲国物語』シリーズ。(ビーンズ文庫。最近はコバルトよりも、こっちのが「読ませる」作品が多くなってきた) …まぁ、一応「中華モノ」なんですが。 恋愛モノじゃないんです!(むしろ二の次。ギャグ扱い) アクションモノでもないんです!(シーンとしてはあるけど、メインじゃない) 物語の王道である、貴種流離譚すら、サブなんです! じゃあどんな話かというと…… 政治経済モノ。 …なのですよ。2巻あたり以降から特に。(普通官吏の仕事や科挙の話なんか取り上げへんて……) ただし、十二国記ほど殺伐としてないので、いやむしろコミカルなので、とても楽しく読み進めるというか。 あー、傾向としては、茅田砂胡とか、津守時生系統ではないかなと。 ジャンルではないですよ。文章のもっていき方がね。よく考えたら、結構凄い政治的取り引きや駆け引きなのに、どこかユーモラスに、そしてキャラの前向きさにぐいぐいひっぱられてゆくんですよねぇ。 今の時点で、4冊出てます。すぐ読めますよ。 4冊目にして、ようやく、まともな敵キャラらしい敵キャラが登場して、ストーリーも面白くなってきました。次回がとても楽しみです。 そうそう、この話に出てくる、元気なじいさまキャラたちも、すっげステキですよ〜〜vvv 主人公世代を、思いきりひよっ子扱いですもん♪(カッケー!)
もうひとつお気に入り。漫画ですが。 大河原遁の『王様の仕立屋〜サルト・フィニート〜』(スーパージャンプコミックス) 男性物の、スーツの仕立屋の話なんですけど、まさにトリビアの宝庫!スーツ、シャツの蘊蓄がこれでもかとばかりにつまってて、主人公の性格や江戸っ子気質(だって言葉がべらんめぇ…)に惹かれてます。「渋い」というのを、久しぶりに見ましたよ。職人さんの話は大好きなのです。 ゆくゆくは、ここでネタを仕入れて、何かスーツネタを……なんて下心も出来つつありますが(苦笑)。まぁ、今のところは純粋に楽しんでます。 たまに、「ありえねぇ」ワザが出ますが、それは漫画だし、お約束ってコトで。 今4巻くらいまで出てるかな。
ところで。
来月に茅田さんの新刊って……ホントに出るのか?!
2004年10月17日(日) |
何でもやります。素人だろうが、容赦なく。 |
常連サマから、先日の筋肉痛さわぎでおたよりをいただきました。
「着物を着る仕事なのに、ドカチンみたいなこともする仕事って一体……?」
あははははは(汗)。 そりゃそーでしょうとも。 普通ならありえません。
私も、通常は事務書類と資料にまみれ、コピーとパソコンに向かう日々です。 …でもね。 私が所属している法人は、昔の城跡に建っておりまして(古い城壁跡があります)、しかも迎賓館が殆ど和風建築なのですよ。(敷地の中に十以上のお茶室がある……) つまり。 「接待」→「お抹茶接待」なのです。 団体をあげて行う行事や接待には、どんな部署の者であろうとかり出され、係員として組み込まれて出仕するのです。(年末年始なんてお茶席から一歩も出られない〜〜。わーん。) だから茶道は必須で身につけておかなければならない、という事になります。実際、ココに来るまで私、お茶もやったことがなければ着物を着たこともなかったのですが……。 ええ、ココに正式に採用されて、真っ先に始めた習い事が茶道です。(職員割引がきくので、格安なのがありがたいですホント……) だから、自然に着物を着る機会は多くなります。
…んじゃ、土木仕事の方は?
……先程も書きましたが、城跡に建っていますでしょう? つまり、ハンパじゃなく敷地が広いんです!端から端までの移動だったら、ん〜と。徒歩で10〜15分? 松林あり、梅林あり、人工池あり、植物園あり、印刷工場あり、当然事務棟があって(普段はここで仕事してます。)坂あり、石段あり!別の土地に田んぼも畑もある…。 そいでもって、それら敷地の中には青々と木々がしげり、道には生け垣が生い茂り、ところどころに植えられたススキとハギ……。(自然がいっぱい。季節感満載。だから虫もヘビもムカデも出まくり) もちろん、敷地内を整備することを専門にしている部署も存在しますが、 追いつきません。 …なので、私たちが平日、仕事前に朝礼を行ってからまずするのが、この敷地内の外を、各部署で割り振られた場所の清掃なのです。落ち葉の季節や、台風の後はけっこう大変……。 まぁ、そんなこんなで、先日の道の整備も、こういったことに関連する作業のひとつなのですよ。 部署の垣を越えて、皆で汗を流して作業するので、参加する人は楽しんでやってます。(もちろん、自分の部署の仕事の状況をみながらなんですけど) 普段、屋内にこもって、活字とパソコンばっかり眺めていますからねぇ…。青空での作業は、結構気持ち良いですvv…先日の筋肉痛は、夢中…いや、ムキになりすぎたあまりの自業自得な結果なんですよ。(苦笑) 作業にはいろいろあって、田植えや稲刈り、草むしりや落ち葉かき…等々。素人だろうがなんだろうが、指導の人に教わりながらやります。 ココがオソロシイのは、「やったことないから、できません」…と言っても理由にならない事でしょうか。(お茶席の接待とかもね…トホホ) だって、 「じゃあ教えてあげるから。大丈夫大丈夫vv」 ……いや、大丈夫じゃないから。
そんなことを心でツッコミながら、日々、ばたばたやってる次第です。 おかげさまで筋肉痛はすっかりよくなり、念願の2連休は1日半の休みになっちゃいましたが、久しぶりにこの週末、大過なく、まったりのんびり過ごしました。
そういえば、あの道の整備、こないだ始まったばかりなのよねー。 …つまりまた次の作業もアレなんだろか。 その時には、自分の身体の事も考えて、加減します。(笑)
昨日、午後からいっぱい作業の日でした……。 参道の端が雨でえぐれて傷んでいるので、その補修作業でござんす。(ホントいろんなコトさせてくれるよなぁウチ……)
しきつめてある砂利を竹箒でよけて、両側の土を掘り返してやわらかくし、そこに新たな土を入れたら、 木槌のでかいのを持って…… ひたすら打つべし!打つべし!打つべし!! 何度かに分けて、均一に、そして平らになるように…… 打つべし!打つべし!打つべし!!
不思議ですよぉ。叩いてるうちに土が締まってきて、しまいにゃ 「バン、バン」 という音が、 「スパァン!」 という甲高い音に変化するんですから。そして更に叩くと、金属音に近くなってくる。 その頃にゃ、土の表面はぴっかぴか、まるで昔の土間を思わせるような表面なめらかな仕上がり。靴で踏んだって、跡なんかつかないつかない。(笑)
……んで、そんな風にね。 ムキになって、かわるがわる右手左手交互に叩いていたらどうなるか。
→筋肉痛。
…ええ、只今左腕の二の腕がえらいことになってます。 利き腕右だから、当然左は普段あまりよく使ってないわけでして(苦笑)。 左手の中指にも、マメができ、掃除してる最中、フキンを思い切り絞っていたら……裂けました(←加減しろよ)。
久々に何か書かないとなー、とは思ってたんですが、左腕がこんな状態な上、右手もちょっと握力がおかしい。(そりゃ右利きだから、左手以上に酷使しましたし) おかげで、キーボード打つのが遅いわ痛いわ……。
とてもじゃないけど、新しい話書くのは無理っぽい(泣)。
だからせめて、再録の方だけでも……何とかしたいかなと。
なして休日出勤はこげんに眠いだかー(泣)←どこの言葉だよ。
上司サマから出された宿題を昨日提出し、別件のものにとりかかっていると、関連の資料をやはり上司サマから「どさ」と預かりました(苦笑)。 ……会議は休み明けなんですけど。上司サマ。
つまりは明日の休日出勤も決定ということで、ほぼヤケになっております。 来週は絶対連休取ってやるー!
それにしても、眠いこと眠いこと……! あまりの眠さに、パソコンにおかしげな文字が乱発し始め、(←打ち込みながらうたたねしてた) 眠気覚ましにこっちにごしゃごしゃ書いてます。
あーあ。良い天気だなー。 洗濯日和なんだけどなー。 チャリ飛ばして田んぼ道かっとばしたいなー。
…なのに私は事務所のパソコンの前にいる……。
…ふう、ちょっと眠気もとんだので、またやりますかぁ。
2004年10月05日(火) |
ほぼ半日歌いました。 |
……いやその。忙しいんだけど。 ムリヤリ仕事にケリつけちゃって、友人とカラオケに行きました。(久しぶり〜〜vv) 平はカラオケ…というか、カラオケに限らず歌うのが大好きです。 能の謡とか、音頭とかもね……。合唱も大好き☆ そんなこんなで、お昼過ぎにカラオケでしっかり三時間歌いまくりました☆ (日曜日仕事だったから今日は代休なのさ〜。午前中仕事したけど)
…んでもって。 夜は夜で、合唱の練習をしてきたのです。 知人の結婚式と、披露宴の二次会で歌わせてもらうのでね〜。練習にも気合いが入ります。 その中の一曲が「遠い日の歌」。……つまりカノンなんですよ。 高校以来ですこの歌……。 しかも、高校の時は、女性パートはソプラノとアルトしかないバージョンでやってたのに、今やってるのは女性三声。 そし私はメッツォ。 昔やったのと、(当時アルト)微妙に似ているようで違うので、メロディを覚え直さないといけなくて……。全く知らない曲を覚える方が楽かもしれません。 気を抜いたら高校時代にやった方のメロディが出てきてしまうので。
それにしても。 今日はほぼ半日、歌って過ごすという……。 なんか、とても幸せな一日でした。
ちなみに。 昼間行ったカラオケ、妙にアニソンが充実してましてね。 『天空戦記シュラト』の、「稲妻の友情」を見つけた時にはひっくり返りましたよ。笑いすぎて。(←知る人ぞ知る迷曲。これに対抗し得るのはかの悪名高き『COOL MOON』か、堀内●雄が歌った『RAHJA』以外にない。……あああ、マニアックすぎるか。分かる人だけ笑ってください……) …是非、RANDOMメンバー(高校時代の悪友集団)たちと歌いたいと思いました。 いやちゃんと普通の曲も歌いましたってば。ポルノグラフィティの「シスター」とか。 ……しかし『JUST COMMUNICATION』歌ってる時に、アニメが出るのは嬉しいのだが「その映像が一部『RYTHM EMOTION』の時のやんけー!」 …などと怒るわしら(平と友人)は立派な……×××、ですね。うん。(ははは)
何かこう、楽しいんだけど忙しいデス。 いやその。良い意味で仕事が忙しいのですよ。(^-^)
充実してるから楽しいんだけど……室長!一つ仕事が終りかけるのを見計らって、次の仕事(しかも緊急)をねじこんでくるのは何故デスか?! ……きっと、いっぺんに大量の仕事をおっつけたら、気力が萎えて能率が落ちるヘタレな部下を慮ってのことなのかしら。
そんなこんなで、明日は休日なんだけどどうやら出勤っぽいなぁ……。 えーん。明日こそ映画「スウィングガールズ」見に行こうと思ったのにぃぃ!! どうやら夢と消えそうだ……(泣)。
2004年10月01日(金) |
『Harvest Home』(オガヒカ) |
紫、濃紫、赤紫、青紫、そして若葉のような薄い緑。 大地と、水と、太陽の恵みが、たわわに実る。 一粒一粒がはちきれそうに大きくなったぶどうの房は、ゆったりと枝からたれ下がり、収穫されるのを待っていた。
「うわー♪すーごーいーー♪♪」 そんな一面のぶどう棚の光景に、ヒカルは心底嬉しそうにはしゃいだ。
棚に巻き付いたぶどうの蔓と葉の向こうには、秋の空独特のどこまでも高くて青い空がつきぬけ、そんな葉っぱの間から洩れる光が、蔓から下がるぶどうをキラキラと映し出す。 「……綺麗だなぁ………」 ヒカルは、うっとりとそんな光景に見とれていた。
「――食べないのか?」 ぱちん、とヒカルの目の前に下がっていた濃紫のぶどうを、緒方ははさみで切り取った。 ぶどう狩りに行きたいと切望して、ずれまくるスケジュールを何とか調整し、このぶどう園にやってきたのだ。当然、旺盛な食欲を発揮して、着いたと同時にぶどうにかぶりつくのではないかと思っていたのだが。 ――しかし当の本人はといえば、棚から下がるぶどうに見とれるばかりで、手を出そうともしない。 いささか拍子抜けしながら、緒方はヒカルの目の前にぶどうをぶら下げた。
「もちろん!食べるに決まってるさ♪」 にっこりと笑うと、ぷつり、と房から一粒をもぎとった。 切り口から、豊かな果汁が滲み出す。 ひょい、とヒカルはそれを無造作に口に放り込んだ。
「うひゃ〜〜〜っっ!激ウマ〜〜〜〜っっっ♪」 ヒカルは相好を崩してぶどうの甘さをかみしめる。そのまま咀嚼して、ごくん、と飲み込んだ。 これには緒方の方が目をしばたたく。 「……おい……種と皮……」
「あれ?緒方さん知らない?」 ヒカルは構わずにさらにもう一個もぎ取って口に入れた。 「これピオーネだもん。種無しだし、皮ごと食べても大丈夫だよ。…てーか、皮剥いて食べる方が面倒なんだ。剥きにくくて」 そしてさらにもう一個つまむ。
そんなヒカルの様子に、緒方は苦笑した。 「…なるほど、お前向きのぶどうな訳だな」 「そうそう。間違っても塔矢にゃ向かない」 その言葉に、ぶっ、と吹き出した。――確かに、あの生真面目な師匠の息子は、たとえ皮が剥きにくかろうが、断乎として剥いて食べようとするかもしれない。 緒方も一粒取ろうと、手をのばした。 「あ、緒方さんちょい待ち」 「?」 ヒカルは緒方の手を止めた。
「これはねー、房の下の方が甘くて美味しいんだ」
ぷち。
微かな音をたてて、ヒカルは房の一番下から一粒をもぎとる。 ぽつりとほとばしる黄金色の雫。 その雫が、碁盤の上で宇宙を紡ぎあげる指を濡らして。
そのまま、それは目の前に差し出された。
「………………」
「はい」
無言で見つめる緒方と、 彼を見上げて、ふわりと微笑むヒカル。
意図しないその媚態に…緒方は、そのまま乗ることにした。
ヒカルの指にすい、と顔を近づけ。 ぶどうを持つ指ごと、口にふくんだ。
「…………!…………」
びくり、と震えてヒカルが手を引くと、 あっさりと緒方の唇から指は離れた。 彼はゆっくりと口の中の果実を咀嚼する。 ヒカルの指は濡れていた。 葡萄の汁と……そして。
にぃ…と、満足そうに緒方が微笑んだ。
「なるほど……甘いな」
口の端に少し零れた汁を手の甲で拭き取ると、彼は無造作にそれを舐めた。
…ヒカルを、見つめたままで。
「エロオヤジ」
頬が熱くなるのを、止められない。
「ん?」
心底楽しそうに、緒方はニヤニヤとヒカルを見下ろしている。
「ホンッ――ットに、緒方さんって、エロい!」 一歩間違うと犯罪者だよー? ぶつぶつと呟きながら、ヒカルは頬をふくらませて緒方からぶどうの房を取り上げた。
「あと5房は取って籠に入れて!それから、向こうの棚マスカットみたいな色のぶどうも取りに行くからな!早く!」
ヒカルはずんずんと先に立って歩き始める。 「……おい、俺にはもう食べさせない気か?」 その言葉に、ヒカルは進みかけた足を止めて、くるりと振り向いた。 見せつけるように、手にした房から、直接口で一粒を囓りとる。
「――――――!」
そして、にっこりと微笑んだ。
「アトデネ」
ヒカルはまたくるりと身をひるがえすと、先に進んでゆく。
緒方は、ヒカルの行動に見とれてしまった一瞬を思い返しながら、苦笑した。そして、先程のヒカルの言葉も。
『―――――エロい!』
手近にあった大きなぶどうの房を、ぱちり、と切る。 その房を見つめながら、ぼそりとつぶやいた。
「どっちがだよ」
|