2004年01月28日(水) |
アカデミー賞ノミネート速報と<たそがれ清兵衛> |
アカデミー賞のノミネートの発表があった。前回のエンターテイメント日誌の予想と比べながら読んで欲しい。
いやぁ、なんといっても嬉しい驚きだったのは「たそがれ清兵衛」(英題THE TWILIGHT SAMURAI)が外国語映画部門にノミネートされたことだ。快挙である。助演男優賞でノミネートされた渡辺謙と並び日本の誇り。頑張れふたりのサムライ!
最多ノミネートは「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」で11部門。僕の予想が12部門前後と書いたからまぁ許容範囲だろう。続くのが「マスター・アンド・コマンダー」の10部門、「シービスケット」「コールドマウンテン」の7部門、そして「ミスティック・リバー」の6部門である。音楽部門での健闘を祈ると書いた「ビッグ・フィッシュ」はなんと!作曲賞のみのノミネートだった…。「ビッグ・フィッシュ」については正直、期待はずれな結果に終わってしまい残念である。
それから「マトリックス」の2,3作目は、やはり全滅であった。12/20の日誌で長編アニメーション部門について、今敏監督の「千年女優」などのジャパニメーションは今年はノミネートも危ういと書いたが、結局選から漏れた。まぁ、「ファインディング・ニモ」の受賞が100%確定なのだからどうでも良いことではあるが。ちなみに「ニモ」は長編アニメーション賞、作曲賞、脚本賞、音響編集賞と4部門もノミネートされた。アニメとしては大健闘である。凄い。さすがピクサー。
長編アニメーション部門に関しては来年か再来年、ジャパニメーションの激烈な逆襲が始まるだろう。勿論その最前線は「ハウルの動く城」であり、そして「スチームボーイ」「イノセンス」などである。
2004年01月27日(火) |
アカデミー賞ノミネート予想 |
ゴールデン・グローブ賞も決まり、まもなくアカデミー賞ノミネートの発表がある。まず12/8のエンターテイメント日誌「日本一早いオスカー予想!」をご覧頂きたい。あの時点でかなり正確な予想をしていたことがお分かりいただけるだろう。注目して欲しいのは12/8の時点では「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」や「コールドマウンテン」はアメリカでもまだ公開されていなかったということだ。「LOTR 王の帰還」が作品賞・監督賞の最有力候補であることも、助演女優賞はレニー・ゼルウィガーが有力であることにも現時点で変わりない。渡辺謙の受賞は難しいがノミネートは確実だろう。そして「マトリックス」シリーズは視覚効果賞、音響賞などの技術賞も含めてノミネートさえ皆無・全滅であろう。
ただ前回の予想を若干軌道修正したいのは、期待していたティム・バートンの「ビッグ・フィッシュ」の作品賞・監督賞でのノミネートが微妙になってきた。むしろ「シービスケット」や「マスター・アンド・コマンダー」の方が現在ノミネートに近い位置にある。特に「シービスケット」は先日観て大変感銘を受けたので、沢山ノミネートされると嬉しいな。
今年の最多ノミネーションは「王の帰還」であることは間違いない。最低10部門以上、恐らく12部門前後のノミネートになるのではなかろうか。「王の帰還」に次ぐノミネート数を競う作品は「シービスケット」「マスター・アンド・コマンダー」「ミスティック・リバー」などで、それぞれ7部門前後ではないかと予想する。アンソニー・ミンゲラの「コールドマウンテン」は若干一歩遅れをとっている模様。
脚本賞は「ロスト・イン・トランスレーション」と「イン・アメリカ」の、そして脚色賞は「王の帰還」と「ミスティック・リバー」の一騎打ちとなるであろう。
「ビッグ・フィッシュ」は音楽部門での健闘を祈る。
さあ、いよいよオスカー・シーズン到来だ!授賞式の2/29(日本時間で3/1)まで、大いに愉しませて貰おう。
映画「半落ち」を観た。評価はB。非常に重厚な作品である。ベテランの役者たちが内容の濃い演技合戦を繰り広げ、見応えがある。特に主人公の寺尾聡、検事役の伊原剛志、そして被害者の姉を演じる樹木希林が素晴らしい。犯行供述の偽装工作を企てる県警、それを暴き立て、この事件を契機に群馬の田舎から華やかな東京へ返り咲こうと画策する検事や新聞記者などの丁々発止のやり取りが面白い。
ただし、<重厚>とは、言い換えるならば紙一重で<鈍重>にもなりかねない境界線を彷徨っているということであり、それがこの映画の弱点でもある。少々テンポが悪いのだ。それから原作を脚色するのに当たり、自首した主人公が犯行後2日間の自分の行動について供述を拒むことで何を守ろうとしているのか、その核心部分が曖昧になったきらいがある。説明不足。あれじゃ原作読まないと分かんないよ。
裁判官を演じる<純くん>、もとい、吉岡秀隆は完全なミスキャスト。滑舌悪すぎ、私情をはさみすぎ。鬱陶しいんじゃい!それから自分の父親が痴呆で暴れているのを妻が懸命に取り押さえようとしているのに、それを横で何もせずに目に涙を浮かべて眺めているだけなんて夫として失格。最低!僕が裁判官ならお前に死罪を言い渡したい。
横山秀夫のミステリ小説「半落ち」は雑誌「このミステリーがすごい!」で堂々年間ランキング一位を獲得し、直木賞候補にもなった。しかしそこで想いもかけないようなケチが選考委員から付き、大騒動となる。結局頭に来た作者が直木賞との決別宣言をするという最悪の事態に陥った。そのあたりの経緯はここに詳しい。謎の核心部分で何が問題とされたかについてはここを読めば分かるが完全にネタバレになるので、原作あるいは映画を既にご覧になった方のみご覧になると良いだろう。
最近の直木賞の選考は酷すぎる。既に名声を獲得した作家に余りにも遅すぎる時期になって今更ながらに賞を与え、またその受賞作品が完全にピントがずれているのである。例えば宮部みゆきは「理由」、船戸与一は「虹の谷の五月」、そしてつい先日、京極夏彦は「後巷説百物語」で直木賞を受賞したが、これらの作品はそれぞれの作家の代表作では決してないことはミステリ・冒険小説ファンなら誰でも知っている紛れもない事実である。そして実はこの三人の作家はそれぞれ直木賞よりも前に既に山本周五郎賞を受賞しているのだ。宮部みゆきは「火車」、船戸与一は「砂のクロニクル」、京極夏彦は「覘き小平次」で。こちらの選定の方が明らかに妥当である。「文学賞メッタ斬り!」にも書かれているが、直木賞よりも山本賞の方が権威がある・信頼できるということは文壇では既に常識となっている。
何故直木賞はこれほどまでにも堕落したのか?答えは明白である。選考委員の選択を誤っているのだ。質が悪すぎる。選考委員にミステリ作家が極めて少ないことも問題だろう。だから「半落ち」が馬鹿馬鹿しい理由で受賞できないという醜態を演じる羽目に陥るのである。現在日本のエンターテイメント小説の主流はミステリ・冒険小説である。その点で直木賞は完全に時代に乗り遅れた。選考委員の一新を望みたい。
2004年01月18日(日) |
アカデミー賞有力候補二題 |
「イン・アメリカ/三つの小さな願いごと」評価A:アカデミー賞では脚本賞にノミネートされるであろう。非常に優れた作品だがオスカーの作品賞・監督賞へのノミネートは難しい状況。なぜならこの映画はアイルランド・イギリスの合作だからである。ハリウッドの祭典なのだからアメリカ映画に主要部門の賞を与えたいというのは当然の心理である。しかしその点では脚本賞はリベラルだから(昨年はスペイン映画「トーク・トゥー・ハー」が受賞)十分受賞の可能性あり。アイルランドのフィルム・メーカー、ジム・シェリダンが実の娘たち(ナオミ&カーステン・シェリダン)と共同で脚本を書き、故国で弟のフランキーを脳腫瘍で失った実体験をひそやかに織り込んでいる。つまり、これは家族の物語であり、その切実な想いが観るものの心に響く温かい名品である。実は僕はシェリダンの「マイ・レフトフット」(89)や「父の祈りを」(93)はあまり好きではない。だから今まで僕とは無縁の作家だと想っていた。しかしこの映画には胸打たれ、映画館の暗闇で心地よい涙を流した。完敗。子役の姉妹が素晴らしい。<如何なる名優も子役と動物には敵わない>というジンクスがあるけれど、あれは反則だよな。
「ミスティック・リバー」評価B-:アカデミー賞では作品賞・監督賞・主演男優賞(ショーン・ペン)、助演男優賞(ティム・ロビンス)、脚色賞のノミネートは確実。作品賞での受賞はまずあり得ないが、各男優賞については最有力。ミステリの出来としては見事である。しかしそれはあくまで原作者デニス・ルヘインの功績であり、映画の評価とは無関係である。また充実した役者たちのアンサンブルも素晴らしい。しかし、それ以上の好意的評価をこの映画に与えることは出来ない。余りにも結末が理不尽で不快なために、納得いかないまま映画館を後にした。イーストウッドの映画なら「許されざる者」や「マディソン郡の橋」の方を高く評価したい。
ところで、「ミスティック・リバー」の日本における宣伝文句<もうひとつの「スタンド・バイ・ミー」を見るために、あなたは大人になった。>って、いくらなんでも酷くない?少年たちが登場するということ以外、両者には全く共通点ないし。日本のワーナー宣伝部、もうちょっと真摯に頭捻れよ。
2004年01月10日(土) |
今年期待の新作映画/宮部みゆき原作「理由」 |
今年は沢山のミステリ小説の映画化が進行中である。現在公開中の横山秀夫原作「半落ち」、そして殊能将之原作「ハサミ男」、東野圭吾原作「レイクサイド マーダーケース」、京極夏彦原作「嗤う伊右衛門」さらに大御所高村薫の「レディ・ジョーカー」などである。またミステリとは言い難いが、こんな面白い小説は十年に一作巡り会えるかどうかだろうと言っても過言ではない、恐るべき冒険小説の大傑作!福井晴敏の「終戦のローレライ」映画版はまもなくクランクインし、2005年に東宝系で公開予定である。「終戦のローレライ」についてはいずれまた語らねばなるまい。
そんな中で高村薫、桐野夏生と並び日本三大ミステリ女王のひとりである宮部みゆきの小説「理由」が映画化された。メガフォンを執るのは大林宣彦監督。撮影は既に終了し現在編集中。WOWOWで今年の4月に放送され、夏以降に劇場公開も予定されているという。なんと台詞のある登場人物が107人もいて出演者は現在判っているだけでも風吹ジュン、南田洋子、小手川祐子、宮崎あおい、裕木奈江、伊藤歩、小林聡美、赤座美代子、根岸季衣、菅井きん、渡辺えり子、村田雄浩、小林稔侍、石橋蓮司、岸部一徳、渡辺裕之、片岡鶴太郎、柄本明、ベンガル、勝野洋、峰岸徹、大和田伸也、立川談志、加瀬亮など錚々たるメンバーである。「理由」映画化についての大林監督の決意表明はこちらに詳しく記載されている。
宮部みゆきの小説はこれで3作目の映画化である。金子修介が監督した「クロスファイア」の出来はなかなか良かった。矢田亜希子演じる陰のあるヒロインが魅力的だったし特撮の完成度も高かった。しかし、森田芳光が脚本・監督した「模倣犯」は酷かった。この小説の主題ー現在の日本では犯罪事件において加害者の主張にスポットライトが当てられ加害者の人権ばかりが主張されて、被害者やその家族の人権や心のケアが蔑ろにされているのではないかという作者の問いかけが映画ではスッポリと抜け落ちてしまい、ラストの改悪はもう全く意味不明。これを独善と呼ばずして何と言おうか?さすがにこれには宮部みゆき本人も納得できなかったようで、彼女のファンも激怒している。そのあたりの詳しい経緯はここのサイトを見るとよく判るだろう。
実は直木賞受賞作である小説「理由」の評判は宮部みゆきファンの間では芳しくない。ファンの人気投票でも圧倒的に評価が高いのは山本周五郎賞を受賞した傑作「火車」であり、「理由」は15位にランクされている。僕も正直余り好きな作品ではない。現代社会に鋭いメスを入れその病巣をえぐり出す手腕の確かさ、完成度の高さは認めるがルポルタージュ風の客観的記述法が宮部さんらしくないし、最後に明かされる真相が余りにも救いがないからである。大林監督の作風にも合っているとは想えない。むしろ大林監督なら「火車」や「蒲生邸事件」などの方が相応しいのではないか?しかし、意外な組み合わせだからこそむしろ何か想いもかけないような新鮮な傑作が生まれるのではないかという期待感もある。これは大きな賭である。そして大林監督ならきっとそれに応えてくれるだろう。願わくば今度こそ宮部さんが納得し、ファンからも「こいつは許せん!」と言われないような映画に仕上がりますように。
2004年01月03日(土) |
ミュージカル映画「オペラ座の怪人」遂に登場! |
今年期待する映画は沢山ある。特にジャパニメーションを代表する宮崎駿監督「ハウルの動く城」、大友克洋監督「スティーム・ボーイ」、押井守監督「イノセンス」という御三家そろい踏みは壮観でさえある。そんな中から今回は「オペラ座の怪人」を取り上げる。
ガストン・ルルーの小説「オペラ座の怪人」は今まで繰り返し映像化されている。劇場映画には実に5回、テレビ映画も含めると7回。さらに一度アニメーション化もされているようだ。
「キャッツ」「エビータ」などで知られる作曲家アンドリュ・ロイド・ウェバーが舞台ミュージカル化してロンドンで初演されたのが1986年10月9日、日本で劇団四季が初演したのが1988年である。またブロードウェイでは演劇界で最大の名誉であるトニー賞で作品賞・演出賞・主演男優賞・助演女優賞・衣装デザイン賞・照明賞・美術装置賞の7部門を受賞し、以来英米では今日までロングラン中であり、日本でも現在福岡シティ劇場で上演されている。筆者は今まで沢山の舞台ミュージカルを観てきたが、「オペラ座の怪人」以上に深い感銘を受けた観劇体験はないと断言できる。余りにも好きなのでブロードウェイは無論のこと、世界初演されたロンドンのハー・マジェスティ劇場まで観に往ってきたくらいである。
ロイド・ウェバー版「オペラ座の怪人」は比較的早い段階で映画化の話があった。1990年にはワーナー・ブラザースがジョエル・シューマッカー監督、舞台のオリジナル・キャストであるマイケル・クロフォードとサラ・ブライトマン主演で映画化を発表した。その時業界紙「ハリウッド・レポーター」に掲載された広告がこちらで見ることが出来る(←クリック!)。
しかしこのプロジェクトは頓挫し、その後主演のファントム役をジョン・トラボルタがするという話が持ち上がった。そしてこれに激怒したマイケル・クロフォードのファンが立ち上がり、猛烈なネガティブ・キャンペーンをインターネットなどで展開するという騒動に発展した。トラボルタの話が立ち消えになった後発表されたのがアントニオ・バンデラス主演で「エリザベス」の監督のシェカール・カプールがメガフォンを取るという企画である。バンデラスのファントムはロイド・ウェバーのバースデイ・コンサートでお披露目された。
しかし、それでもなかなか実現に向けて具体的に動かない。業を煮やしたロイド・ウェバーはワーナー・ブラザースから映画化権を買い戻し、自身のプロダクションで映画化することを決意した。そこで彼が監督を依頼したのが1990年にも名前が挙がっていた「セント・エルモス・ファイアー」「タイガーランド」「フォーン・ブース」のジョエル・シューマッカーである。シューマッカーはロイド・ウェバーにこう言った。 「貴方が私にまだ監督をして欲しいと考えているのなら喜んで引き受けましょう。ただし条件があります。ファントム役をはじめとして、ちゃんと唄える若い人を中心にキャスティングしたい。」 ロイド・ウェバーはこの提案を承諾し、そして遂にこのビッグ・プロジェクトは始動した。
ファントム役に起用されたのは「トゥーム・レイダー2」のジェラルド・バトラー33歳。ヒロインのクリスティーヌは「ミスティック・リバー」でショーン・ペンの娘役を演じているエミィ・ロッサム、弱冠17歳。オペラを学んだ彼女はメトロポリタン歌劇場やカーネギーホールにも出演経験もある実力派である。彼女の歌声はこちらの映画「歌追い人」予告編で聴くことが出来る。
撮影は2003年9月15日よりロンドン郊外のパインウッド・スタジオを本拠地に開始された。その豪華な美術セットはこちらで見ることが出来る。さらに映画の一場面のスチール写真もつい先日公開された。こちらからどうぞ。シューマッカーは最近ではコリン・ファレルなど若手俳優の育成に長けている。彼が今回どのような成果を上げるか今から非常に愉しみである。またロイド・ウェバーは映画化に際し、舞台版にはない新曲を書いているそうである。狙うは当然米アカデミー歌曲賞。これは今から当確と予言しておこう。そして最終目標はアカデミー作品賞。果たしてミラマックスの「シカゴ」に続くことが出来るか!?
|