8/9の日誌でジェニロペとベンアフが共演し、来年のラジー賞は確定と全米で話題騒然の映画Gigli(ジッリ)について、いち早く取り上げた。
結局製作費5500万ドルのこの作品、公開10日間の全米興行収入が600万ドル以下の体たらく。各地で早々に打ち切りが決まった。
笑ったのがあるラジオ局の企画で、ボストンの映画館において映画公開最終日に最終回上映を途中退席せずに観た人々に無料で「私は最後までGigliを観ました (I survived Gigli) 。」との文字が書かれたTシャツを全員に配布したという。う〜ん、欲しいぞ、これ。これを着ていたら胸を張って街をかっ歩出来そう。
日本でもソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントには是非こんな粋な企画を実行してもらいたい。そしたら怖いもの観たさで筆者も重い腰を上げる…かも?
2003年08月23日(土) |
HERO/英雄(ヒーロー)になる時、それは今 |
以前にも書いたのだがチャン・イーモウ監督はデビュー作「紅いコーリャン」の頃から、色彩、特に紅(あか)にこだわる人だった。だから最新作「英雄」について、その鮮烈な色彩が話題になっても今更決して驚くべきことではない。しかし、筆者が既に半年以上前、1/18のエンターテイメント日誌で予言した通り、今回撮影監督に香港映画界きっての耽美派、クリストファー・ドイルを迎えたことで、映像美にさらに磨きをかけたことは特筆に値する。特にあの紅葉の舞い散る場面の鮮やかさ!もう溜め息あるのみである。雨垂れなど水の表現も驚異的な美しさであった。
ただしこの映画を「グリーン・デスティニー」のようなワイヤーアクションを駆使した痛快アクション大作を期待して観に往くと、肩透かしを喰らうことになるだろう。アクションというよりは華麗な<舞い>に近い。アクション監督はいわば振り付け師の役割を果たしている。また、かなり内容が観念的・哲学的で手に汗握るスリル、興奮からはほど遠い地平にこの作品は存在する。そういう意味では観客を選ぶ映画と言えるだろう。幸いなことに筆者は選ばれたわけであるが・・・。
映画は主人公の<無名>が秦王に語る物語を聞きながら、観客は何が真実で、何がそうではないのかを探るという構成になっており、つまりは黒沢明監督の「羅生門(原作は芥川龍之介の『薮の中』)」を踏襲する形で進行する。そしてその中で色彩分けされた鎧をまとった兵士の大軍が右往左往ドドド、ドドッと蠢く映像が挿入される。このモブ(群衆)シーンを観ながら筆者は即座に黒沢監督の「影武者」や「乱」を連想した。チャン・イーモウが今回このようにして黒沢映画へのオマージュを語っていることに間違いはない。だからこそ「乱」で米アカデミー衣装デザイン賞を受章したワダ・エミがわざわざスタッフとして招かれているのだろう。映画は繋がっている。
「影武者」「乱」を撮った頃の黒沢監督は往年のファンから激しく非難された。観客は「用心棒」や「七人の侍」みたいな娯楽時代劇を期待したのに、そこにあったのは様式美には溢れているがカタルシスからほど遠い作品だったからである。つまり「英雄」を観た一部の観客から漏れ聞こえる不満の声は、このことと決して無関係ではないだろう。エンターテイメントを愉しみにして来たら、アートを見せられたことへの戸惑い。
<無名>を演じたジェット・リーよりも<残剣>のトニー・レオンの方が渋くて恰好良く、儲け役だった。チャン・ツィイーは「グリーン・デスティニー」ほどアクションに切れがなく、チャン・イーモウ監督の手によるデビュー作「初恋の来た道」(もう、超可愛い!)ほどの魅力が残念ながら感じられなかった。タン・ドゥンの音楽はオスカーを受賞した「グリーン・デスティニー」にいささか似ていなくはなかったが、印象に残るとても良い仕事をしたと想う。
「英雄」ではチェン・カイコー監督が映画「始皇帝暗殺」を撮る為に建設した壮大なオープン・セットをそのまま流用しているらしい。だって時代設定が全く一緒だもんね。だから相当経費節減になったんじゃないかな。
2003年08月17日(日) |
<エデンより彼方へ>、あるいはメロドラマの復権 |
トッド・ヘインズ脚本・監督の映画「エデンより彼方へ」はメロドラマの巨匠と言われたダグラス・サーク監督の1955年作品「天はすべてを許し給う」へのオマージュとして製作されたという。だからその「天はすべてを許し給う」を観ていない者はこの映画を批評する資格などないのである。勿論「面白かった。」とか「詰まらなかった。」などといった中身が空っぽの感想文はその範疇に含めない。温故知新、映画は繋がっている。
正直に告白しよう。筆者は「天はすべてを許し給う」はおろか、サーク監督の映画を一本も観たことがない。しかし、サーク作品を知っている映画ファンは現在、日本に殆ど存在しないのではなかろうか?サーク監督は比較的最近になって高く評価されるようになったようで、現役当時はハリウッドでメロドラマを上手に撮る職人監督程度の認識しかされていなかったみたいだ。そういう意味ではサスペンスの巨匠アルフレッド・ヒッチコックやコメディの天才プレストン・スタージェスに似ていると言えるかも知れない。だから「天はすべてを許し給う」など大半の作品は日本未公開だし、代表作と言われる「悲しみは空の彼方に」(1959)を含めサーク作品は日本でDVDはおろか一作品たりともビデオ化さえされていないという惨状なのである。映画評論家の川本三郎さんは「エデンより彼方へ」の批評を書くにあたり、未見だった「天はすべてを許し給う」のビデオをわざわざアメリカから取り寄せられたと書かれていた。
という訳で筆者には「エデンより彼方へ」を語る資格がないので、いずれ「天はすべてを許し給う」「風と共に散る」「悲しみは空の彼方に」といったサーク監督のハリウッド時代の代表作と言われる映画たちのDVDをアメリカのAmazon.comあたりから個人輸入した上で正式にレビューしたいと考える。それまでしばしお待ちあれ。
これから後は他愛のない感想である。「エデンより彼方へ」は正真正銘のメロドラマであることに間違いはないのだが、トッド・ヘインズ監督はダグラス・サークを21世紀に甦られるにあたり、新機軸として1950年代では表現が不可能だった要素を加味した。それが黒人差別問題であり、同性愛である。それが巧くメロドラマの世界に溶け込み、味わい深く余韻のある作品に仕上がっている。アカデミー賞にノミネートされた紅葉の鮮やかな色彩が美しい撮影も見事である。ただし、さすがにコンラッド・L・ホール の渾身の遺作「ロード・トゥー・パーディション」(アカデミー撮影賞授賞)の息を呑む映像には到底及ばなかったが。
特筆したいのはエルマー・バーンスタインの音楽。オーソドックスではあるが文句なしの傑作。「十戒」「荒野の七人」「アラバマ物語」「エイジ・オブ・イノセンス」の巨匠が久しぶりに気を吐いた。是非彼にはこれでオスカーを授賞して欲しかった。
ヒロインを演じたジュリアン・ムーアはやけにウエストが太くなったなぁと想いながら映画を観ていたのだが、なんと撮影当時妊娠5ヶ月だったそうである。どうりで!納得。
2003年08月12日(火) |
T3、カリフォルニア州知事選に出馬するの巻 |
大方の予想に反してアーノルド・シュワルツェネッガーは次期カリフォルニア州知事選挙への出馬を正式に表明した。世論調査でも他候補の追随を許さぬ圧倒的優位に立っているという。
かつてハリウッド・スターからカリフォルニア州知事に華麗なる転身を遂げ、遂には合衆国大統領まで昇りつめた男がいた。レーガン元大統領である。あの名作「カサブランカ」で主人公のリック役を当初は俳優ロナルド・レーガンが演じる予定だったというのは嘘みたいな話だが、紛れもない真実である。しかしシュワちゃんは大統領になることは決して出来ない。なぜなら現行法では大統領は米国出身者しかなれないと決められており、シュワちゃんはもともとオーストリア出身のボディービルダーだからである。
実は「ターミネーター3」は当初、製作費削減のためカナダでロケされる予定であったが、これをシュワちゃんが強行に反対。自らのギャラを約800万ドル(約10億円)もカットするからロサンゼルスで撮影するようにと要請した。理由は「家族と離れたくないから」ということだったが、今から考えてみればこれはカリフォルニア州知事選挙に立候補する為の布石だったんだろうな。だってロサンゼルスはカリフォルニア州最大の都市。そこでロケすることにより地元に利益を誘導したのだから。その経済効果は計り知れないだろう。
さてそのT3である。ジェームズ・キャメロンが脚本・監督した「ターミネーター」とT2は掛け値なしに映画史に燦然と輝く大傑作であった。T3を引き継いだジョナサン・モストゥ監督のプレッシャーは相当なものであったろう。しかし彼はその高いハードルを見事にクリアしたと想う。突出した傑作では決してないけれど娯楽作品としては十分及第点だ。派手なアクションを矢継ぎ早に繰り出し、爽快なまでに巨大なセットや乗り物を破壊し尽くす。ただし、前2作が全く観たことのない斬新さを体感させてくれたのに対し、T3は古色蒼然たるアクション映画を観ているような既視感、つまりあまりにも映画の作りがオーソドックスであるということに不満を感じない訳ではない。言い換えるなら安心して観ていられる居心地の良さがある反面、手に汗握る興奮・張り詰めた緊張感をこの映画に求めるのは無い物ねだりだということだ。
脚本は良く練られている。前作までのファンへの目配せ、ウイットが愉しいし、キャメロンの脚本の最大の弱点であったタイム・パラドックス(タイム・トラベラーは過去を改ざんしてはならないという不文律)という問題を逆手にとってT3では結局、来るべき未来を変えることは出来なかったという皮肉な結末になっているのがすこぶる面白かった。
2003年08月09日(土) |
史上空前の最低映画出現!? |
7/26の日誌でバカ映画の系譜について熱く語ったのだが、どうも究極のトンデモ映画が出現したらしいとアメリカでは大騒ぎ、たちまちそのニュースが全世界を駈け抜けた。
その映画の名前はGigli(ジッリ)。今年最低の映画を選ぶ祭典、ゴールデン・ラズベリー(ラジー)賞の話題を掻っ攫ったのは堂々5部門授賞したSwept Away(「流されて」のリメイク)であるが、それに出演したマドンナと、最後まで最低女優賞を争い、惜しくも敗れた「メイド・イン・マンハッタン」のジェニロペことジェニファー・ロペス主演の最新作である。
Gigliはジェニロペとベン・アフレックがこの映画で知り合い、恋に落ちたことでも有名になったのだが(今年の10月5日に結婚式予定)、とにかく凄い映画らしい。来年のラジー賞で少なくとも最低作品賞、最低主演女優賞、最低主演男優賞、最低カップル賞は確実だろうと今から話題騒然なのである。物語はジェニロペ演じるレズビアンの殺し屋が、ベン演じる異性愛の男性に惹かれていくという内容だそうで、予告篇を観たければこちらをクリック。
Gigliは8/1に全米公開され製作費5000万ドルに対して週末3日間で興行成績がたったの380万ドル(約4億5000万円)しか上げられず、惨敗。これにショックを受けたジェニロペは「もうベンとは二度と共演しない!」と周囲にわめき散らしているそうである。
で、これがどれほど凄まじい代物であるかはYahoo!Moviesを見れば一目瞭然だろう。まず、昨年度の最低映画とお墨付きを貰ったSwept Awayであるが、映画評論家の評価の平均がC-、一般ユーザー評価がB-である。ちなみにこれと英題がよく似たSpirited Awayこと「千と千尋の神隠し」は評論家の評価がA-、ユーザー評価がAとすこぶる良い。さて一方、Gigliの評価を見てみると評論家の平均もユーザーも共にD+なのである!レビューでなんとFという評価を下した評論家が二人もいる。曰く、「映画史上に残る駄作」だそうだ。ニューヨーク・ポスト紙にいたっては、この映画をこき下ろす為に紙面を丸々1ページ費やす熱の入れようである。いや〜笑ったねぇ。こんなに酷い評判はまさに空前絶後である。
8/2より「スウェプト・アウェイ」の日本公開も目出度く始まったようだから、いずれGigliも日本に上陸する日は来るだろう。今から待ち遠しくて仕方ない・・・って言うか、1800円出すのが勿体ないからレンタル・ビデオが出るまで気長に待とうかな。 そういや、どちらもソニー・ピクチャーズ・エンターテイメントの作品だ。ある意味偉いっ!
2003年08月02日(土) |
IMAXで、もうひとつのタイタニック |
大阪天保山サントリーミュージアムのIMAXシアターで「ジェームズ・キャメロンのタイタニックの秘密」を観た。立体映像のドキュメンタリー映画で3D眼鏡をかけての鑑賞。
キャメロンといえばレオ様とケイト・ウンスレット主演の超大作映画「タイタニック」の監督でもあるのだが、今回は2001年夏新型のカメラを開発した上で水深3650メートルの海底に眠るタイタニック号を撮影するという趣旨である。オフィシャルページはこちら。
何よりもこの作品で愉しいのはキャメロンのタイタニック号に対するこだわり、情熱である。劇映画「タイタニック」の冒頭でも海底のタイタニック号を捉えた映像があったわけだから、キャメロンが実際の事故現場でキャメラを回すのはこれで二回目になる。それも深海に潜るのをキャメラマン任せにするのではなく、自らも危険を冒して海底3650メートルまで赴き、陣頭指揮をとるのだから恐れ入る。本当にタイタニックが好きで好きで仕方がない、自分のこの目で観たいんだという気持ちが画面を通して直にこちら側に伝わってくるのである。その瞳は冒険に憧れ、強い意志を持った少年のそれ、そのものである。
ドキュメンタリーの中身は大したことない(笑)。大体、リモート操作で制御し船内を撮影するロボットがトラブルで回収不能となり、別のロボットでそれを救出するというのがこのドキュメンタリーのクライマックスなのだから、肩透かしを喰らって何それ?って感じ。3D映像もはっきり書くがこのドキュメンタリーには全く何の必然性もなく、殆どその効果も上げていない。
でもね、まるで子供のようなキャメロンのはしゃぎっぷり、熱い想いに総てを許そうという気になっちゃうんだよね。「しょうがないなぁ、この腕白坊主は。でもそんなにタイタニック号が好きなんだったら仕方ないか」って。3Dにしたのも、そうやってハッタリかまして話題性を作り、IMAXシアターという大仕掛けの見せ物小屋で上映すれば沢山の人々にボクの大好きなタイタニックを見てもらえるだろうというキャメロンの意図が痛いほど分かるから不問としよう。
これは<タイタニックおたく>の物語である。下らないことに情熱を注げる人間の姿は滑稽でもあり、また限りなくいとおしい。
筆者はアカデミー賞を史上最多12部門制した映画「タイタニック」は余り好きではないし、評価していないのだが、このドキュメンタリーを観てキャメロンの<無償の愛>に触れてしまった今、もし再見したら、悪口が言えなくなりそうだなぁ。
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