エンターテイメント日誌

2003年01月25日(土) 意外な伏兵<黄泉がえり>

ミラマックスが社運を懸けて製作した「ギャング・オブ・ニューヨーク」は昨年末に日米同時公開されたが、結局どちらも興行成績で1位になることなく惨憺たる失敗作となった。特に全米では初登場4位という体たらく。現在既にランキングのベストテンから消え去った。そして日本ではなんと3週間限定公開の「黄泉がえり」にまで抜かされてしまった。しかしこの地味なキャストによる和製ファンタジーを製作したTBSや東宝も、これほどの大ヒットになるなんて予想だにしていなかったのではなかろうか?今回はその「黄泉がえり」のお話である。

「黄泉がえり」の予告編を映画館で観た時の率直な感想は「何だか、胡散臭そうな映画だなぁ。」しかも主演が草なぎ(←漢字が文字化けするのでひらがな表記)剛と竹内結子といういわゆる癒し系路線なので、ますます胡散臭さがプンプン匂った。もしこれがその才能を信頼する塩田明彦が監督でなければ、僕は決して映画館に足を運ばなかったであろう。塩田の「どこまでもいこう」「月光の囁き」から「害虫」に至る作品論については昨年の8/10の日誌「<害虫>、あるいは塩田明彦の軌跡」をご覧頂きたい。

しかしまさか単館系の映画を撮り続けていた塩田明彦が、初めて取り組む全国一斉公開のメジャー作品(しかもジャニーズがらみ)で、これだけきっちりとウェル・メイドで観ていて心地よい、エンターテイメント快作に仕上げてくるとは驚いた!不覚にもこんな胡散臭い低予算のファンタジーで泣かされてしまうとは!!・・・癪に障る・・・塩田の術中にまんまと陥った自分が不甲斐ない。という訳で、余りにも悔しくて仕方ないのでここは敢えて塩田明彦に宣戦布告、意趣返しだ。「黄泉がえり」を徹底的に叩いてやる!

まず観客を泣かせるために、可愛い子役を使うというのは反則である。さらに90歳を超えた大女優、北林谷栄さんを起用するなんて卑怯だ。もうあの姿を観ただけで泣けてくるじゃないか!聾唖の美人女優、忍足亜希子が甦ってしかもあの田中邦衛と手話で会話させるというのも絶対反則技だ。塩田明彦許すまじ。そんなに絞り取るように泣かせて嬉しいか!?

それからこの映画に仕掛けられた最大の秘密というのが「シックス・センス」と全く同じネタというのは如何なものか?二番煎じじゃない?あの不自然なカット割りを観た瞬間に、分かっちゃったよ。大体「切ないラブストーリー」と映画を宣伝していること自体がネタバレなんじゃないの?

死者が集団で甦ってくるという設定は大林宣彦監督の「あした」(原作は赤川次郎の「午前0時の忘れ物」)のバリエーションである。それに自分より年若い兄貴とキャッチボールをするというのは、「フィールド・オブ・ドリームズ」や大林監督の「異人たちとの夏」の引用(後者2作品は主人公が自分より年若い父親とキャッチボールをするのだが)に過ぎない。

それから映画に登場するカリスマ・シンガーRUIに3曲も唄わせるのはやり過ぎじゃない?クライマックスのコンサートの場面が長くてダレちゃうよ。プロモーション・ビデオじゃないんだからさ。主題歌「月のしずく」だけで良かったんじゃないかな。でもRUIを演じた柴咲コウの唄が上手いので驚いた。・・・あ、いかんいかん、褒めてる場合じゃない。

突如出来たクレーターからある一定の範囲内の場所に、死者の遺骨などDNAが存在し、その人に甦って欲しいという生者の想いがそこに重なれば奇跡が起こるというSF的設定はよしとしよう。しかしそれで有機物の生体が再生されるのは納得いくとして、なんで死者が身に付けていた無機物の洋服まで再生されるんだ?論理的に言えば死者は裸で甦らなければいけないだろう!?この点で言えばタイム・リープの際、裸で現れたターミネーターの方がSF的設定がしっかりしていると言えるだろう。

え?言いがかりにしか聞こえない?負け惜しみだろうって?いいよ、仕方がないから認めてやるよ、塩田明彦。貴方は希有な才能に溢れた凄いフィルム・メーカーだよ。今回は完全に降参。「黄泉がえり」は傑作。それでいいだろ?あ〜悔しい。

追伸:塩田監督には是非、東野圭吾の小説「白夜行」を将来映画化して欲しいと切望する。あのヒリヒリと身を切るような完全無欠のノワールを映画化出来るのは世界にただ一人、塩田監督しか考えられない。



2003年01月18日(土) 2003&4年 期待の映画たち

まず何といっても今年大いに期待しているのは以前からこのエンターテイメント日誌で再三取り上げている「呪怨」映画版である。最初に触れたのが昨年の8/30の日誌。どこのサイトよりも早かったという自負がある。今月末、いよいよ戦慄のロードショー。公開されるやいなや、日本中が話題騒然となりその強烈なキャラクター<伽梛子>や猫少年こと<俊雄>君は「リング」の貞子よりも有名になることは必至。既に世界数カ国での公開も決まり、「リング」のリメイク版を製作したハリウッドの映画会社ドリームワークスでは既に「呪怨」の社内試写を済ませ、版権を買い取るか目下検討中という。

公式ページはここだ!

次に期待するのは今年の夏公開が決まっている「呪怨2」(笑)<オイオイ、公開前からもう続編の製作決まっているの!?
主演はのりピーこと酒井法子。え?冗談だろうって?いやいや。

れっきとして動かぬ証拠はこれだ!

もう一本、日本映画から取り上げるなら「青の炎」かな。小説「黒い家」で日本ホラー小説大賞を授賞した貴志祐介氏の原作で、これは二度と取り返すことの出来ない燦々と輝く時を鮮やかにすくい取った、切ない青春犯罪小説である。僕は雑誌「このミステリーがすごい!」2000年版でこれが15位にランク・インされた時、興味を持ってハードカバーを購入したのだが、もうたちまち魅了され、最後は泣いた。現在では文庫版が発売されている。未読の者は兎に角直ちに読め!…ただその一言である。

ただ、原作は掛け値なしの傑作だったが映画版は出来損ないだった「黒い家」の前例もあるので、「青の炎」も心配。あややこと松浦亜弥が主人公の恋人役というのはイメージ的に似合っていると想う。ただし、松浦亜弥の演技力が未知数なので若干不安が残るが。一番気になるのが今回メガフォンを取る蜷川幸雄さんだ。舞台の演出では世界的名声を誇る巨匠だが、果たして映画監督としての力量は!?「魔性の夏 四谷怪談より」以来、映画監督としては21年ぶりという。前作の評判も余り芳しくないしなぁ・・・3/15公開。

さて、洋画では何といっても「シカゴ」である。衰退したミュージカル映画の復権なるか!?「ムーラン・ルージュ」がヒットし、既に全米公開された「シカゴ」も好評のようである。数日後に発表されるゴールデン・グローブ賞でも作品賞をはじめ、いくつかの部門での授賞の期待が高まる。実は舞台版「シカゴ」はウエストエンド(ロンドン)での公演と米ツアー・カンパニーが来日した時の東京公演を僕は観ている。とってもセクシーで危ない匂いのする粋な作品であった。ロブ・マーシャル監督はテレビ版「アニー」の出来がすこぶる良かったのでもう今から待ち遠しくて仕方ない。予告編を観たがキャサリン・ゼタ=ジョーンズの圧倒的歌唱力に完全にノック・アウトだ!リチャード・ギアも案外唄が上手いので驚いた。日本ではGWの公開予定とか。

「シカゴ」の情報はこちら

さらに注目すべきは中国のチャン・イーモウ監督の超大作「英雄(HERO)」である。一言で言うならば「始皇帝暗殺」(チェン・カイコー監督)の物語を「グリーン・デスティニー」(アン・リー監督)の手法で撮る作品と言えば分かり易いだろう。始皇帝暗殺を狙う三人の刺客を迎え撃つ一人の男(ジェット・リー)。その壮絶な闘いをワイヤーアクション(アクション監督は「少林サッカー」のチン・シウトン)をふんだんに盛り込んで描く作品らしい。チャン・イーモウは「紅いコーリャン」「菊豆」「紅夢」などコン・リーを主演とする古い中国の封建社会の戒律と葛藤するヒロインの悲劇を紅を基調とした鮮烈な色彩で描くシリーズから出発し、「秋菊の物語」や「あの子を探して」など田舎と都会の格差を描くことにより現代中国社会が抱える問題を告発する作品を経て、最近は「初恋の来た道」「至福の時」など、クローズアップを多用し如何にヒロインを可愛く撮るかに腐心したいわゆる<アイドル映画>路線を突き進んでいたのだが、新作「英雄」で新たな地平に立つ。「恋する惑星」「ブエノスアイレス」「花様年華」など、ウォン・カーワイ監督と長年組んでいた香港映画界きっての耽美派、クリストファー・ドイルが撮影監督として参加するのも要注目である。しかし、プロデューサーが「グリーン・デスティニー」のひとで、チャン・ツィイーも出るし、さらに音楽まで「グリーン・デスティニー」でオスカーを授賞したタン・ドゥンというのは如何なものだろう??

「英雄」は既に中国では昨年末に公開され、中国映画最大のヒット街道を驀進中。「タイタニック」が中国で打ち立てた興行成績を塗り替えるのも時間の問題だ。日本公開は今年の秋予定。

予告編Trailerも視聴出来る「英雄」の公式サイトはこちら

2004年に目を向けるとこれはもう「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でしょう。今回監督に抜擢されたのはメキシコ人のアルフォンソ・キュアロン監督。昨年日本でも公開された彼の映画「天国の口、終わりの楽園。」は米国でも好評で沢山の映画賞で外国語映画賞を授賞している。アカデミー外国語映画賞も最有力候補である。キュアロンがハリウッドで撮った「リトル・プリンセス」「大いなる遺産」を観れば分かるのだが、彼は緑色という色彩にこだわる人である。北野武の<キタノ・ブルー>に対して<キュアロン・グリーン>と命名したいくらいだ。かれと長年コンビを組んできた撮影監督エマニュエル・ルベツキーも「アズカバンの囚人」で起用される模様。キュアロンはきっとこのシリーズに爽やかな新風を吹き込んでくれるだろう。ホグワーツ魔法学校が緑に包まれる日は近い。ただし、色々と細かい注文をつけてくる原作者と、この確立した自己スタイルを持つフィルムメーカーが衝突することなく上手く折り合っていけるかどうか、そこが一番心配の種である。撮影は2月17日から開始される予定と聞く。ちなみに新キャラクターのシリウス・ブラック役の有力候補はゲイリー・オールドマンとか。しかしリチャード・ハリス死亡にともなうダンブルドア校長役の後任は如何に!?

2004年で忘れちゃいけないのが宮崎駿監督の「ハウルの動く城」。当初の監督は細田守さんと発表されたのだが、結局宮崎さんが手がけることで落ち着いたらしい。ラピュタ以来の大冒険活劇、血わき肉躍る漫画映画になりそうで大いに楽しみだ。しかし、それよりもなにも目下のところ最優先課題は「千と千尋の神隠し」が米アカデミー賞でアニメーション賞を授賞することだろう。

東宝ラインナップはこちら



2003年01月11日(土) キネマ旬報ベストテンに想う

2002年キネマ旬報ベストテンが発表になった。結果は以下の通り。

【日本映画】
(1)たそがれ清兵衛(2)刑務所の中(3)KT(4)OUT(5)AIKI(6)笑う蛙(7)阿弥陀堂だより(7)ごめん(9)ピンポン(10)とらばいゆ
〈読者選出1位〉たそがれ清兵衛

【外国映画】
(1)ロード・トゥ・パーディション(2)ノー・マンズ・ランド(3)鬼が来た!(4)マルホランド・ドライブ(5)まぼろし(6)酔っぱらった馬の時間(7)ゴスフォード・パーク(8)チョコレート(9)息子の部屋(10)アモーレス・ペロス
〈読者選出1位〉ロード・トゥ・パーディション

【個人賞】
日本映画監督賞=山田洋次「たそがれ清兵衛」▽脚本賞=山田洋次、朝間義隆「たそがれ清兵衛」▽主演女優賞=宮沢りえ「たそがれ清兵衛」「うつつ」▽主演男優賞=真田広之「たそがれ清兵衛」「助太刀屋助六」▽助演女優賞=北林谷栄「阿弥陀堂だより」▽助演男優賞=香川照之「刑務所の中」など▽新人女優賞=小西真奈美「阿弥陀堂だより」など▽新人男優賞=田中泯「たそがれ清兵衛」▽外国映画監督賞=姜文「鬼が来た!」

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「たそがれ清兵衛」が日本映画の一位というのは順当なところと納得出来るが、「ロード・トゥ・パーディション」が外国映画の一位というのは正直驚いた。確かに先日亡くなった撮影監督のコンラッド・L・ホールの生み出した映像は驚嘆に値する程美しいのだが、物語は所詮「子連れ狼」だからなぁ・・・。

ボスニア・ヘルツェゴビナの民族問題をブラックな風刺劇として描いた外国映画二位の「ノー・マンズ・ランド」の言いたいことは良く理解出来るのだが、僕はこういう頭でっかちで詩情の乏しい映画は嫌いだ。これは個々人の嗜好の問題であるから作品の善し悪しとは関係がない。

大林宣彦監督渾身の傑作「なごり雪」がベストテン入りを果たせなかったのは正直ショックであった。筆者も投票した読者選出ベストテンに入選していることを期待したい。せめて須藤温子ちゃんに新人賞を獲って欲しかったのだが、まさか台詞の全くない小西真奈美さんとは・・・。いや、そりゃあ確かに彼女は奇麗だけれど、新人賞ってそういうものではないだろう!?

逆に同じ「阿弥陀堂だより」で助演女優賞を北林谷栄さんが授賞されたのは心底嬉しかった。撮影当時90歳。ご高齢ながらもお元気な北林さんは日本映画の至宝である。

「文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞」を授賞した「クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」がキネ旬で入選を果たせなかったのは単に投票した映画評論家たちが無知だからである。彼らはアニメーションを端から馬鹿にしているから、既に評価の確立している宮崎駿監督や高畑勲監督作品くらいしか観ないのである。「クレヨンしんちゃんなんて子供向け」だと本気で信じているのだろう。宮崎さんや高畑さんでさえ、未だ無名だった若き日の不朽の名作「ルパン三世カリオストロの城」や「太陽の王子ホルスの大冒険」などはキネ旬で完全に無視されたのである。

それにしても筆者はあまり評価しなかったが世評はすこぶる高かった「ロード・オブ・ザ・リング」や、米アカデミー作品賞・監督賞を授賞した「ビューティフル・マインド」が入選しなかったのは意外であった。そういえばアカデミー賞を含めアメリカの映画賞の外国語映画部門を総なめにしそうな勢いのメキシコ映画「天国の口、終わりの楽園。(アルフォンソ・キュアロン監督)」も不思議と日本での評価は低かったんだなぁ。余談だがこのキュアロンは映画「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」でメガフォンを取ることが決まっている。

未見の「刑務所の中」「ゴスフォード・パーク」は近々観る予定。


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雅哉 [MAIL] [HOMEPAGE]