2003年02月22日(土) |
<中>と<指輪物語> |
麻雀牌の「中」、すなわち「レッド・ドラゴン」は良く出来たミステリイ映画だった。なんといってもその勝因は「羊たちの沈黙」でアカデミー脚色賞を授賞したテッド・タリーがふたたびトマス・ハリス原作小説に挑んだことが大きいだろう。では今回の監督ブレット・ラトナーはどうだったかというと、無難にそつなくこなしたという印象。だから強烈な作家の個性を感じる作品ではないので、そこが不満といえば不満であるが、エンターテイメントとしては及第点だろう。ダニー・エルフマンの音楽が印象的だった。
ロード・オブ・ザ・リングの第一部「旅の仲間」は雄大な自然を捉えた撮影は美しく特撮は凄いけれど、登場人物の紹介と舞台背景の説明に終始したため、正直退屈で上映時間の3時間が苦痛であった。これがDVD4枚組のスペシャル・エクステンディッド・エディションになると、さらに30分の未公開映像が追加され、「もう勘弁して!」という感じだったが、それでも第二部の予習のつもりで頑張って観た(笑)。しかし開いた口が塞がらなかったのがこのDVD版はエンド・クレジットが延々27分も続くのである!なんと「指輪物語」公式ファンクラブのメンバー全員の名前がクレジットされているのだ。それにしてもその中で一体何人の人が実際に映画に貢献したのだろうか!?
で第二部「二つの塔」を観た。「旅の仲間」を5段階評価するとしたらまあ僕はせいぜい2つ星半までだな。それに対して「二つの塔」は文句なしに5つ星だ。正直こういう掛け値なしの傑作についてコメントを書くのは気が進まない。だって誰が書いても似たような称賛の言葉を並べるしかないのだから。
まず「二つの塔」の成功の最大の要因は旅の仲間達が三手に分かれたことにあるだろう。それによって前作では平板だった物語に起伏が生まれ、変化に富み飽きさせない。第一作の何が鬱陶しかったかというと、それはあの役に立たないくせに煩いホビットどもに尽きる。その魅力のない主人公のフロドとサムのチームに今回フルCGキャラクターのゴラムが加わって引き締まった。この2重人格のキャラクターが秀逸。CGの描写力もここまでくれば人間をリアルに描ける時代もそう遠くはなさそうだ。ただし、そうなるとクローン人間同様「モラル」という厄介な問題が絡んできてややこしいことになりそうだが。実は全米放送映画批評家協会賞というのがあって、今年から最優秀デジタル演技賞というのが新設された。ノミネートされたのは「ハリー・ポッターと秘密の部屋」のドビー、「SWエピソード2」のヨーダ、そしてこのゴラムで、結局ゴラムに栄冠が輝いた。僕個人としてはヨーダを応援していたのだが、まあゴラムの出来を見てしまうと仕方ないか。
そして「二つの塔」の一番の見せ場は、なんといってもアラゴルン、レゴラス、ギムリのチームが一手に引き受ける壮絶な戦闘シーンである。CGやミニチュアセットを存分に駆使した特撮の絶大な効果も相まってもう息もつかせぬ怒濤の展開に圧倒された。こんなにスケールの大きなモブ(群衆)・シーンはいまだかつて観たことがない!ド迫力である。どうも映画のファンサイトでの一番人気はアラゴルンらしいが、今回弓の魔術師レゴラスが、見せ場も多く恰好良いので株を大いにあげることだろう。お笑い担当のギムリもひょうきんで◎。
そうそう、先日テレビで「二つの塔」がDVDで発売される時にはスペシャル・エクステンディッド・エディションが4時間半になるかもという噂を耳にした。ピーター・ジャクソン、正気かよ!?
・・・とありきたりの映画評はこれくらいにして、この次は感動作と大評判の「戦場のピアニスト」を俎上に挙げて、徹底的に馬鹿にして叩きのめす予定。まあ、あの映画の悪口を書くのは僕ぐらいなのでは?乞うご期待。期待して下さる人は是非投票の方もヨロシク。
2003年02月19日(水) |
ジブリ美術館再訪と江戸東京たてもの園 |
宮崎駿さんが企画・設計した三鷹の森ジブリ美術館へ往ってきた。実は去年既に訪れており、これが二回目になる。ジブリ美術館では新作短編アニメーションを月替わりで上映しており、前回観たのは「くじらとり」という作品であった。実はこれ、絵のタッチが従来の宮崎アニメとは異なっており、当初は若いスタッフに任せているのかな?と想いながら観たのだが、ちゃんと宮崎さんが監督で、絵コンテも書いておられることを後で知り、驚いた。
今回訪問する最大の目玉は昨年10月から上映されている「めいとこねこバス」を観ることにある。勿論、原作・脚本・監督は宮崎さん。タイトルから分かる通り、「となりのトトロ」の姉妹編である。今回はめいが主役なのだがちゃんとサツキやトトロも特別出演してくれて嬉しくなる。それから可笑しかったのがねこバスという生き物はなんと赤ん坊の時は足が6本で、成長するに従って足の本数が増えてくるという事実を今回初めて知った。
なんとも贅沢なことに音楽は今回も久石譲さんが担当されていて演奏は東京フィルハーモニー交響楽団という豪華版だ。最高!「となりのトトロ」に登場した懐かしい各種テーマ音楽が再現されるとともに、新しいテーマも幾つか登場してワクワク愉しい。美術館で限定発売されているサウンドトラック版も当然購入した。
映像展示室「土星座」で映画に真剣に見入っている子供たちはキャアキャア喜んでいるし、大人たちも童心に返ってにこにこ顔だ。韓国人の旅行者らしき集団(20代くらい)が10人ほどいて、彼ら彼女らも韓国語でワイワイと言葉を交わしながら心底愉しんでいた。「千と千尋の神隠し」は韓国でも大ヒットしたそうだから東京ディズニーランドに遊びにきたついでにジブリ美術館に立ち寄る旅行者もいるのだろう。さすが世界のミヤザキだ。
予想外で嬉しかったのは現在美術館では「天空の城ラピュタと空想科学の機械達展」という特別展をやっていて、なんとここでも宮崎さんの新作アニメ「空想の空飛ぶ機械達」というのを観ることが出来た。ラピュタに出てきたような奇想天外の空の乗り物達がもうワンサと登場。完全に宮崎さんの趣味に走ったマニアックな掌(たなごころ)の作品である。宮崎さん自らナレーションをしているわ、音楽がこれまた久石さんだわでもう嬉しくってニヤニヤしながら観た。作品に登場する乗り物の実物大模型まで展示してある。特別展では「空想の機械達の中の破壊の発明」という短編アニメも上映されており、こちらの監督はなんと新世紀エヴァンゲリオンの庵野秀明さん!いやはやもう、恐れ入りました。
ジブリ美術館の後は「千と千尋の神隠し」に登場する街並みのモデルとなり、映画の制作報告記者会見も行われた江戸東京たてもの園を訪ねた。ここでは現在、特別展「江戸東京たてもの園と千と千尋の神隠し」が行われている。映画で使用された原画と動画の全てが展示されているのだから壮観だ。しかし笑ったのが、生でセル画や背景画を見るとDVDの様に画質が赤いことは全くない。考えてみればジブリの主張する「製作者の意図した色調」とは生の絵を見れば明らかではなかろうか?赤いDVDをめぐって現在争われている裁判で、原告側がこの生の絵を証拠として提出すれば、ジブリとDVD発売元のブエナビスタ側の敗訴は間違いないだろう。
追伸: きょうこ味メモさんが、今度「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」のメガフォンを取るアルフォンソ・キュアロン監督の映画を取り上げ、1/18のエンターテイメント日誌に書いた<キュアロン・グリーン>(筆者命名)に関してもコメントされている。ちなみに「アズカバンの囚人」は既に撮影が開始された模様。そのロケの様子はこちらで垣間見られる。キュアロン監督とラドクリフ君のツー・ショットの写真もある。さてキュアロンの朋友、撮影監督のエマニュエル・ルベツキーが本当に「アズカバンの囚人」にも参加しているかどうか気になるところ。ちなみに筆者はキュアロン作品の中では「天国の口、終わりの楽園。」よりも「リトル・プリンセス」の方が断然好きである。
2003年02月15日(土) |
亜門版「ファンタスティックス」 |
たまには映画から離れて舞台の話でもしようか。
一昨年8月に生まれて初めてブロードウェイへの旅をした時、1週間の滞在で当時最もホットだった「プロデューサーズ」や42ND STREET、「オペラ座の怪人」など6本のミュージカルを観た。そして最後まで当日券で観ようか観まいか悩んだのが「ファンタスティックス」だった。
「ファンタスティックス」は1960年5月3日オフ・ブロードウェイで開幕後、なんと40年以上にわたり上映され続けてきたミュージカル史上最長ロングラン記録を誇る作品である(ちなみに演劇全体での世界最長記録はロンドンで上演中のアガサ・クリスティ原作「ねずみとり」。初演が1952年11月25日)。
これだけロングランしているミュージカルだから、またいつの日かブロードウェイを訪れる機会があればその時観ればいいやと、結局別の作品を選んでしまった。しかし、な、なんと僕が帰国して一週間ちょっとで同時多発テロが勃発、ブロードウェイから観客の足が遠のき、その煽りを喰らって「ファンタスティックス」はあろうことか2002年1月13日にクローズしてしまったのだ!何たる無念。
だから今回、宮本亜門さんが新演出で「ファンタスティックス」をやると聞いた時から何が何でも観に行かなければという一念で、飛行機に飛び乗って上京し、会場に駆け付けたという次第。
感想を一言で言い表すならば第2子が誕生した時、キムタクがマスコミに送ったFAXの文面の最後を引用するのが最も適当だろう…「感動」。あるいは第1子が誕生した時のキムタクのコメントに置き換えても構わない…「最高」。
舞台はいたってシンプル。登場人物はたった7人。伴奏はピアノ、シンセサイザー2人、そしてパーカッションの計4人(オリジナルではピアノとハープのみ)。ひし形の小さな八百屋(傾斜)舞台に箱が幾つか載っていて、舞台の両脇には天井に延びる棒がある、舞台装置はそれだけ。後は観客の想像力に委ねられ、役者のパントマイムや照明の魔術で様々な情景が目の前に鮮やかに浮かび上がってくるという仕組み。
「ファンタスティックス」で語られるのは青春期を迎えた少年と少女の幼く未熟な恋と、その二人の成長の物語なのだが、これが初々しくて正に作品自体がミュージカルの原風景というか観客と舞台とのあるべき最も幸福な関係を指し示してくれているという気がする。
宮本亜門という演出家はその出発点である「アイ・ガット・マーマン」もとてもチャーミングで大好きなんだけれど、兎に角初演と再演を観たソンドハイム作詞作曲のミュージカル「太平洋序曲」の名演出には舌を巻いた。特に最後に舞台セットが瓦解する場面には驚愕し息を呑んだ。だから凄い演出家だとは分かっていたけれど、今回の「ファンタスティックス」にも参った。クライマックスで巻き上がる紙吹雪の余りの美しさに言葉を失い、ただ涙、涙。すると突然黒幕の背景がさっと色鮮やかな夕焼けの風景に変わり、天井には青空が広がるという演出に、観客席は興奮の坩堝に。これぞ劇場でしか味わうことの出来ない演劇的体験の醍醐味!正にマジック。
帰路につく人々が口々に感極まって「良かったね〜。また観たいなぁ!」と語り合う、そういう至福の舞台だった。僕のブロードウェイでの忸怩たる想いが払拭されたことはいうまでもない。寧ろ亜門版で初めてこの作品と出会えて本当に良かった。
「ファンタスティックス」を観た翌日は三鷹の森ジブリ美術館で宮崎駿監督の新作「めいとこねこバス」を鑑賞したのだが、それはまた、別の話。
追伸:「ファンタスティックス」は1995年に映画化され、日本でも「ファンタスティック・ムーン」というタイトルでビデオ発売されている。筆者は未見だが余り評判は芳しくないようだ。
2003年02月12日(水) |
アカデミー賞ノミネート速報 |
遂にオスカー・ノミネーションが発表になった。前回分の僕の予想と合わせてお読み頂きたい。
最多ノミネーションは予想通り「シカゴ」だった。なんと13部門!これは僕の予想より若干上回る結果だった。内訳は作品賞、監督賞、主演女優賞(ゼルウィガー)、助演女優賞(ゼタ=ジョーンズとラティファ)、助演男優賞(ジョン・C・ライリー)、脚色賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、編集賞、音響賞、そして歌曲賞(映画化にあたり舞台版になかった新曲が追加された)である。
次にノミネートが多かったのが「ギャング・オブ・ニューヨーク」で10部門。内訳は作品賞、監督賞、主演男優賞(デイ=ルイス)、脚本賞、撮影賞、美術賞、衣装デザイン賞、編集賞、歌曲賞、音響賞である。
それに続くのが「めぐりあう時間たち」の9部門、「戦場のピアニスト」の7部門である。
「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」は意外と苦戦して、作品賞、美術賞、編集賞、音響賞、音響効果賞、視覚効果賞の6部門に終わった。続編であり、前作が沢山ノミネートされた反動なのかも知れない。
外国語映画賞は全くの予想外。その代わり、僕がノミネートされるだろうと予想した「天国の口、終わりの楽園。」は脚本賞で、そしてスペイン映画「TALK TO HER」は監督賞と脚本賞でノミネートされた。また、今年の1/18のエンターテイメント日誌で紹介したチャン・イーモウ監督の中国映画「英雄HERO」がノミネートされたのは嬉しかった。実は今年、日本代表作品に選ばれたのは「OUT」だったのだが、これは明らかな選択ミスだろう。むろん落選。「たそがれ清兵衛」ならまだノミネートされる可能性があったのでは?
長編アニメーション部門に「千と千尋の神隠し」は当然ノミネートされたが、まあ他に「リロ&スティッチ」は妥当としても評判の悪かった「TREASURE PLANET」(宝島のSF版)がノミネートされたのは意外だった。長編アニメーション部門が新設された昨年の第一回目にディズニーは天敵であるドリームワークスの「シュレック」に敗れているので今年は何としても授賞したい筈。だから大々的なキャンペーンを展開するだろう。しかし英語吹き替え版を配給しただけの「千と千尋」よりはやはり自社製作の「リロ&スティッチ」や「TREASURE PLANET」に肩入れしたくなるのが人情というものだろう。「千と千尋」はだからそういう物量作戦に対して、作品の力だけで勝負しなければならない不利な立場にある。しかしその逆境を乗り越えるだけのものを持った作品であると僕は信じて疑わない。
そうそう、それから最低の映画や俳優を選ぶラジー賞は予定通りマドンナと、彼女の旦那が撮った「SWEPT AWAY」がノミネート(7部門!)された。マドンナが唄った「007 ダイ・アナザー・デイ」も最低主題歌賞にノミネート。マドンナと最低主演女優賞を競うのはジェニファー・ロペスやブリトニー・スピアーズ。三つどもえの熾烈な戦いとなりそうである。さて、栄冠は誰の手に?
2003年02月10日(月) |
アカデミー賞ノミネート予想! |
いよいよオスカー・シーズンの到来である!アカデミー賞のノミネートは現地時間で2/11に発表される。時差があるので日本時間では2/12あたりになるだろうか。まあ、個人的にはその前日にノミネートが発表されるゴールデン・ラズベリー賞(ラジー賞)も気になるのだが(マドンナは当確だろう)、それはまた、別の話。
今年のオスカー・レースは「本命なき戦い」と呼ばれていて、作品賞の最有力候補と呼べるものが見当たらないのが現状である。監督賞に関しては作品自体が弱いながらも功労賞の意味合いを込めて、未だにアカデミー賞受賞歴のない、マーティン・スコセッシ(ギャング・オブ・ニューヨーク)に行きそうな気配である。「タクシー・ドライバー」「レイジング・ブル」など映画史に刻印される名作を撮った巨匠だけに僕にも異存はない。
さて、その混線模様の中で予想外に大健闘しそうなのがミュージカル映画「シカゴ」である。作品賞授賞も夢ではない。ミュージカルというジャンルが廃れて久しいだけに、「シカゴ」には是非頑張ってもらいたい。それがミュージカル映画復権の切っ掛けになれば嬉しい。「レント」や「オペラ座の怪人」「サンセット・ブルーバード」など映画化を期待するミュージカルは沢山あるのだから。
さて、前置きが長くなったが具体的な予想である。恐らく今年の最多ノミネートは「シカゴ」になるであろう。可能性のある部門は作品賞、監督賞、主演女優賞(レニー・ゼルウィガー)、主演男優賞(リチャード・ギア)、助演女優賞(キャサリン・ゼタ=ジョーンズとクイーン・ラティファ)、脚色賞、美術賞、編集賞、衣装デザイン賞、音響賞、メイクアップ賞などで、ずばり11±1部門と予想する。
それを追うのが「ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔」でノミネートの可能性があるのは作品賞、監督賞、脚色賞、編集賞、美術賞、衣装デザイン賞、音響賞、メイクアップ賞、視覚効果賞、作曲賞で9±1部門と予想する。
「ギャング・オブ・ニューヨーク」は作品賞、監督賞、主演男優賞(ダニエル・デイ=ルイス)、脚本賞、撮影賞、編集賞、美術賞などが予想され、もしかしたらメイクアップ賞、視覚効果賞にもノミネートされるかも。8±1部門くらいか。
外国語映画賞はスペインの「Talk To Her」、メキシコの「天国の口、終わりの楽園。」そしてフランスの「8人の女たち」の三つどもえの戦いになるだろう。
長編アニメーション部門は何がノミネートされようが結果的には100%間違いなく「千と千尋の神隠し」(Spirited Away)が勝利を収める。しかし、前から言っていることだがアメリカが大嫌いな宮崎駿監督は、ちゃんと授賞式に参加されるのだろうか??う〜ん、怪しい。
アニメーションのアカデミー賞と呼ばれるアニー賞は例年9月に授賞式が行われていたのだが、今年は延期され2/1に変更された。これには理由があって、アカデミー賞が昨年から長編アニメーション部門を新設したためで、その選考に影響を与えたいからだと公式にアナウンスされている。そして今年は<千と千尋の神隠し>が長編アニメーション部門と監督、脚本、音楽の計4部門を制覇した。前述したように、今年は候補となる対象の作品公開日が例年より長期に渡り、「モンスターズ・インク」など強力なライバルを退けての授賞だけに、ますますアカデミー賞受賞の期待が高まらずにはいられない。また、<千と千尋>はNational Board of Reviewやロサンゼルス映画批評家協会賞、ニューヨーク映画批評家協会賞、ゴールデン・サテライト賞なども授賞しており、まあオスカーも当確と信じて間違いないだろう。
先日、このエンターテイメント日誌を愛読して下さっている方から一通のメールを頂いた。そこには筆者が昨年の8/21の日記で取り上げた、<千と千尋>のDVDが赤みを帯びていて苦情が殺到しているという問題に触れ、「ジブリ側はやっぱりあの赤い画面は『意図した色合い』だと、公式に言っているのですがどうしてなのでしょうか?」と疑問が投げ掛けられていた。その理由についての筆者の考察を若干述べてみたい想う。
僕はあのDVDの赤い画面は明らかにジブリの色調調節ミスと信じて疑わない。だって国民生活センターも「対応が不適切」だと販売元のブエナビスタに勧告している(←記事にリンク、クリック!)くらいである。しかしなぜ鈴木プロデューサーは「製作者の意図した色彩」とあくまで主張するのか?それは自分たちの非を認めたら大量に出回っているDVDの回収や返金をしなければいけない立場に追い込まれ、そうなるとジブリやブエナビスタが大赤字を抱えることになるからだと考える。認める訳には決していかないのだ。
先日<千と千尋>は日本テレビでオンエアされたが、真っ赤っかのままだった。これにも理由がある。なぜなら現在販売元のブエナビスタはDVDの画質が赤いことに関して京都のある弁護士から損害賠償を求めて訴えられ、現在裁判沙汰になっているのだ。その詳細はこちら(←クリック!)。だからもしテレビで修正したまともな色調の画面で放送すればそれを録画され法廷に証拠として提出され、DVDの画質と比較されたらジブリの「DVD版が製作者の意図した色彩」という主張が根底から崩れてしまうのである。そうなれば裁判では明らかに敗訴する結果となるだろう。だから赤いまま放送せざるを得なかった。
ジブリは日テレの放送日である1/24からなんと3日間、「電話工事の為電話は繋がりません。」という告知を出した。こんな偶然の一致がありえるだろうか?つまり「画面が赤い」と再び電話で視聴者から抗議を受けることを想定して、予め予防線を張ったのである。これを確信犯と呼ばずして何と言おう(笑)?
では<千と千尋>をまともな画質で観るにはどうすればいいか?僕は今年の4/15に発売される、アメリカ版DVDを購入する予定である。 購入先はこちら(←クリック!)。さすがにアメリカ版は赤くない筈だ。なぜならアメリカは日本よりも過激な訴訟社会で賠償額も桁外。それなのに敢えて日本と同様の危険な賭けに出られる訳がないと確信するからである。日本での騒動を充分承知し裁判沙汰などトラブルを回避したいアメリカの販売元、ウォルト・ディズニー・ホームビデオ(ブエナビスタの親会社)もジブリに色彩修正を当然要求するだろう。
音声を切り替えればオリジナルの日本語でも愉しめる筈。ただしアメリカ版DVDはリージョン1で日本製のプレーヤーはリージョン2専用だから再生出来ないのでご注意を。勿論わが家にはリージョン1を再生出来るプレーヤーを用意してある。
さて、週末にははるばる上京して三鷹の森ジブリ美術館で宮崎駿監督の新作<めいとこねこバス>を観る予定。<となりのトトロ>の姉妹編だ。レポートは後日掲載予定。乞うご期待。期待して下さる方は是非右下の投票ボタンをクリックすることで意思表明を(笑)!
2003年02月01日(土) |
浅田次郎はあざといか?<壬生義士伝> |
「壬生義士伝」「鉄道員(ぽっぽや)」を書いた浅田次郎といえば僕にとってあざとい小説家の代名詞である。しかし、浅田が極めてあざといと感じているのは僕だけではない。その証拠に検索エンジンGoogleで「浅田次郎」と「あざとい」をキーワードにウェブ上を検索してみれば明白である。なんと140件もヒットする。「浅田次郎」と「あざとさ」なら64件、「鉄道員」と「あざとい」なら89件、「壬生義士伝」と「あざとい」なら28件ヒットする。これだけ沢山の人が同様の感想を抱いているのである。
「鉄道員」は高倉健主演で映画化されたが、もうその次から次へと送り出されているあざとい手練手管に心底うんざりさせられた。最後に物語に都合よく脳卒中で主人公が死ぬ場面に至ってはもうそのお涙頂戴の古くささに失笑しないではいられなかった。浅田次郎の小説は演歌の世界である。しかも「鉄道員」のプロットは明らかにやはり映画化もされたロバート・ネイサンの幻想小説「ジェニーの肖像」(こちらは大傑作)のパクリであり、この模倣小説に直木賞を与えた選考委員の無知蒙昧には呆れるしかない。ましてや映画「鉄道員」に作品賞、監督賞、主演男優賞など8部門も与えた日本アカデミー賞は狂気の沙汰。だから故・黒沢明監督から「日本アカデミー賞には権威が無い。」と批判されたりするんだ。「鉄道員」を観て泣いたような輩とは、決してお友達になりたくないなぁと真剣に想っている。感性が全く合わない。
映画「壬生義士伝」のあまりの評判のよさに「もしや・・?」と僅かな期待をして観に行った僕が馬鹿だった。浅田次郎は所詮、浅田次郎でしかなかった。お涙頂戴のご都合主義。「この場面で読者(観客)にどれくらい涙を流させてやろう。」という作者の計算が見え見えで白けてしまう。「鉄道員」の時もそうだったのだけれど、浅田の作品世界って昔流行った童話「一杯のかけそば」を彷彿とさせるんだよね。あの胡散臭さがプンプン匂い立つのだ。あるテレビ番組で原作者の栗 良平さんが「一杯のかけそば」を朗読するのを、横で徳光和夫アナウンサーが涙を流しながら聞いていたのが強烈な印象として脳裏に焼き付いているのだけれど、徳光さんみたいな純粋で信じやすい人(もちろん皮肉ですよ)は映画「壬生義士伝」を観ても号泣するんだろうなぁと映画を最後まで観ることの苦痛に耐え忍んでいる間中、ず〜っと考えていた。
特に主人公が自害を果たす前にシェイクスピアの芝居の如くその心情を延々と独白する場面には閉口した。作者の内なる声が聞こえる、「さあ、ここで思いっきり泣きなさい」と。しつこい!くど過ぎる!中井貴一よ、お前はハムレットか!?未練がましいぞ。さっさと武士らしく潔く死ね。
そしてようやく中井が自害した後に、のこのこ現れた三宅裕司が泣きながら死体に握り飯を突き出して「喰え!」と言う場面には大爆笑した。オイオイ、お前が中井に自害しろと強要したんだろうが。今更そりゃあないだろう!?武士の情けなら腹を切らす前にお前自身が喰わしてやることが出来ただろうに。ただただ観客を泣かせる為だけの自己矛盾。こりゃコメディだね。だからスーパー・エキセントリック・シアター主宰の三宅裕司をキャスティングしたんだと納得した。
この救いようのないお笑い草映画で唯一気を吐いていたのが久石譲さんの音楽。最近前面に出てこない控えめな仕事が多かったが、今回は臆することなく美しいメロディが全編に朗々と響き渡る。聴いていて気持ちが良い。音楽で盛り上げないと映画の間が持たないという久石さんの悲壮な使命感が伺えて、微笑ましかった。
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