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2003年07月24日(木) ■ |
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◆レニングラード国立バレエ『ドン・キホーテ』レドフスカヤ、ルジマトフ、ジュド、シェスタコワ、シヴァコフ、他 |
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キトリ/ドルシネア: ナタリア・レドフスカヤ、 バジル: ファルフ・ルジマトフ、 ドン・キホーテ: シャルル・ジュド、
サンチョ・パンサ: デニス・トルマチョフ、 ガマーシュ: アレクセイ・マラーホフ、 エスパーダ: ミハイル・シヴァコフ、 大道の踊り子: アリョーナ・ヴィヂェニナ、 メルセデス: オリガ・ポリョフコ、 森の女王: オクサーナ・シェスタコワ、 花売り: タチアナ・ミリツェワ&アナスタシア・ロマチェンコワ、 キューピット: タチアナ・クレンコワ、 ファンダンゴ: アンナ・ノヴォショーロワ&ヴィタリー・リャブコフ、 ジプシー: エレーナ・モストヴァヤ&アンドレイ・クリギン、 ヴァリエーション(3幕):スヴェトラーナ・ギリョワ&イリーナ・コシェレワ、
レドフスカヤ=キトリということで、以前観た彼女の素晴らしい公演を思い出し、楽しみ倍増で出かけました。それに、明るくはじけたルジマトフの『ドン・キ』、実は大好きなんです。 レニングラード・ダンサー達も、皆全力で盛り上げてくれましたし、ハッピーな気分になる公演でしたね。 それにしても配役のメンバーは、主役張っているソリスト達が各要所に配されていて、質の高い舞台を提供してくれました。それに、若手が沢山育っていることを今回特に感じましたし、今後もさらに期待できる公演を上演し続けてくれることでしょう。
【プロローグ】 おぉ、いきなりジュド様のドン・キホーテ姿に衝撃を受けてしまいました。 あの老けメークと鬘で、とても先日見た素敵なジュド様とは思えないお姿。なぜこの役を引き受けたのか、正直“謎”な部分もありますが、折角舞台に立ってくださるのですから、ありがたく拝見しましょう。 サンチョ・パンサ役のトルマチョフも小柄でいい味出しています。表情がとても良いし、何だか和む…。そういえば、前回のレニグラ『ドン・キ』もこの役を演じていらっしゃいましたが、今回の方が全幕とおして印象に残りました。
【第1幕】(バルセロナの広場) プロローグの暗い場面から、この第1幕のいきなり明るい町の広場への場面転換は、雰囲気もガラリと変わって、ワクワクしますね。庶民の生活感あふれる港町(後ろに船が停泊している)といった感じの美術で、色々な人々が登場し、元気のいい踊りが展開されてゆきます。 この幕は群舞・音楽とも明るく、舞台に立っている全員が楽しそうに演じていて、観ていて気分が高揚してきます。
さて元気よく登場したキトリ役のレドフスカヤですが、いきなり軽やかなジュテの小気味良い事!! シャキッとしていながら、しっとり感、優美さ、品を兼ね備え、いたずらっぽい表情も出せる、本当に感じの良いキトリ。 踊りもしなやかで、何気なく難しいことをサラッとやってしまう。 それに、例えばジャンプするにしても、回るにしても、さぁ次この動きをするぞという準備や気合が顔に出ることが無く、するすると見事につながった踊りになっています。 上手なダンサーですが、みせびらかしたところがなくて、客が驚く暇も与えない、本当にバレエダンサーとしての美徳を兼ね備えた方だなとつくづく感じます。 特に華やかというわけではないのですが、年々見惚れる踊りと演技を見せてくれて、私もどんどんファンになってしまいました。
それにルジマトフとの相性もとても合っていて、彼女が少しお姉さんっぽい雰囲気でルジマトフをガッチリと受け止められる感じ。 すると、ルジマトフの方もどんどん弾けて、若々しくエンジン全開モードで、観客をグイグイと引き込んでいきます。
ルジマトフですが、今回も魅力がさく裂してましたね。とにかく表情豊かでとってもチャーミング、そして色気のあるバジル。 実は私、彼のこういったメチャメチャ陽性バジルの方が、『ジゼル』のメランコリックなアルブレヒトより好きなんですよね。彼の演じるソロルとかオテロなどの苦悩系ばかり見ていた人は、あまりにも違う演技なのでビックリするのでは…。 1幕の常にテンポの良い踊りは、長年踊り続けて培われたアクセントやステップの妙が、とても素晴らしく、この作品の特徴“色々な踊りの楽しさ”を充分堪能させてくれました。 本人もきっとこの演目は楽しんで踊っているのではないでしょうか。
ガマーシュのマラーホフもいい!! 細くて背の高い方なのですが、毎回素晴らしい演技を見せてくれます。こっけいな役ではあるのですが、やり過ぎでなく人の良さも感じられる愛すべきキャラになっていました。
大道の踊り子を踊ったヴィヂェニナは初めて見ましたが、スタイルがよく容姿も美しい方でした。まだソリストではないようですが、この役を与えられていると言う事は、今後の活躍が期待されているダンサーなのでしょう。 エスパーダのシヴァコフは若さが溢れ、どちらかというと粋とか色気というより、スポーティーな感じかな。踊りはキレがあり、頑張っていて好感が持てそう。最近は草刈民代と組んで踊ることが多いようです。 エスパーダと大道の踊り子の場面はこの演目の醍醐味のひとつ。 ズラリと並んだエスパーダ隊のマント振り回しの壮観なこと!!(一人ふっくら体形だったなぁ) ここのバレエ団ではナイフは突き刺さないで、逆に刃が上になるように柄を下にして置いていました。
フラワーガールのミリツェワとロマチェンコワ。 ミリツェワは大きく迫力ある踊りですが、容姿は妖精のように可愛らしい方で見栄えがすごくいい。先日の『ジゼル』でもペザントを踊っていらっしゃいました。 ロマチェンコワは、主役も踊られるバレエ団期待の若手ソリストですが、キレの良い踊りをされていました。有望なダンサーが隅々まで配されていますね。
【第2幕】
(ジプシー野営地) 日が暮れてキトリとバジルはジプシー達が休んでいる(その辺で寝転んでいる)所にたどり着きます。ドン・キホーテ、サンチョ・パンサも現れ、2人はジプシー達の人形劇を見入ります。 そのうちキホーテは物語中の姫君を助けようと錯乱して暴れだし、劇を台無しにした上、風車を悪者に勘違いし突っ込んでいってしまいます。(キトリとバジルは人形劇の時は、もうはけています)ジュド=ドン・キホーテは風車の羽に摑まりゆらゆら…。
(ドン・キホーテの夢の場面) 頭を打った、ドン・キホーテは、夢の中でドルシネア姫やキューピッド、森の女王に遭遇します。この場面は、今までの原色の世界から淡い柔らかな色調に変わり、踊りも皆ゆったりとして、まさにロマンティックな“夢”の世界です。 コールドの衣装は皆、白が基調でうっすら胴の部分にほんのり緑や紫、青といった色彩が入っていて大変上品なものでした。
森の女王のシェスタコワは、優美で気品に満ちた癖のない踊りで、ジュテも高く、ヴァリアシオンも申し分のない出来でした。彼女はこのバレエ団の中では気に入っているダンサーです。 キューピットのクレンコワは、何と申しましょうか、ちょっと辛かったなぁ。上半身が滑らかでなく頑丈な感じでしたし、キューピット役のイメージには程遠い容姿…。鬘が似合わないのかなぁ…スミマセン。 そして、ドルシネア姫のレドフスカヤは、誰よりも真っ白でシンプルなチュチュ姿。 キトリの時よりも柔らかで、しかも全く音を立てずに優しく静かな表情で踊っていました。
(酒場の場面) こういう雑多な庶民が登場する場面がなぜか好きです。 メルセデス役のポリョフコは濃い髪色といい容姿といい、この役にピッタリ。 それに大きな目から放たれる強い視線と大胆な踊りも、音楽と共にすっかりスペインの世界にいざなってくれます。とても素敵でした。
キトリとバジルの歯切れのいい踊り。ダイブも軽やかにきめ、狂言自殺の場面へ。 毎度お決まりのことながら、ルジがおもむろに剣を自分に刺し、たっぷり溜めてから、マントをサッと敷いて寝転がるところなど、解っていながら客席から笑いが漏れていました。 ルジの表情、コメディっぽくて普段のとの落差もあり、何だかより可笑しい!! あまりにもパッと起き上がるところも。 レドフスカヤも、おきゃんな娘ぶりが良かったです。
【第3幕】(結婚式の場) お待ちかねの結婚式ですが、セットが1幕の背景に提灯の飾りを付けただけというのは、ちょっとなぁ…。盛り上がる場面なのでもう少し工夫した目を見張るような美術にして欲しかったです。だって細かい事ですが、時間経過があるのに全く同じ位置に船があるなんてねぇ。 さて群舞はフラメンコ風衣装、チュチュ隊も同系色で様々な色の衣装でした。 ただ、各色チュチュの女性ダンサーと、グラン・パ・ド・ドゥの合間に踊るソリストの衣装が同じテイストでしたので解りづらい感があります。
まず、ファンダンゴのノヴォショーロワ&リャブコフ。先日『ヌレエフ・フェス』でルディエールが踊ったのを見たばかりでしたので、音楽がまだ耳に残ってました。 こちらは多分、キャラクター専門のダンサーだと思うのですが、この種のベテランのようで年齢が高めに見えました。とても安心して見ていられてプロフェッショナルな印象。
そしてルジマトフ&レドフスカヤのグラン・パ・ド・ドゥ。 ルジマトフは下ろしていた髪の毛をキッチリ結び、レドフスカヤは赤と黒の衣装で登場。 決めるところをキッチリ決める素晴らしい踊りでした。 とにかく良く2人が合っていて、リフトでの難しいポーズのところもピタッと綺麗に止まり鮮やかなこと!! 彼女はバランス・回転系どちらも軸がまっすぐで見事でした。 ルジですが、いつもとソロは振り付けを多少変えたみたいです。凄くキレていた訳ではないと思いますが、それでも独特のアクセントの付け方、フィニッシュのポーズ、粋なラテン系男という感じで情熱的で良かったです。 実際ありがたいですよ。あれだけのものを見せてくれるのですもの…。 レドフは扇を使わないソロヴァリアリオンでした。本当は小道具を使う方が好きですが、シャキシャキ踊っていて気持ちがいいです。
レドフのコーダのフェッテは前半、ダブルが沢山入り後半は両手を腰に留め、しかもスピーディに回ってました。 全幕中危なげなところがなくて、いやホント見事なプリマですね。 コーダの盛り上がりも2人熱を帯びた演技の相乗効果で、会場全体が興奮と歓喜に包まれて素晴らしい舞台を堪能する事が出来ました。
最後におまけとして、ドン・キホーテとサンチョ・パンサが旅立ってから一旦幕が閉まり、再び2人の手により幕が開き、にぎやかな大団円となりました。
『ジゼル』から始まり、『ヌレエフ』『ドン・キ』と一連の今回の公演は大成功だったと思います。ゲストは勿論のこと、レニングラード国立バレエのソリストや、脇も含めたダンサーそれぞれが惜しみなく力を発揮し、成長が目立った公演という印象を残しました。
それと有り難かったのは、ジュドとこのバレエ団、そしてルジマトフとの良い関係です。 何年か前は、想像もつかなかった組み合わせが実現され、さらに今後もきっと素敵な出会いに満ちた公演が実現される事でしょう。 それはファンにとって最も嬉しいプレゼントになるのですから、さらにビックリする感動を生み出して欲しいものです。
そして冬の公演ルジマトフ『ジゼル』の相手役、なにげにルディエールを期待しているのですが…。さてどうなる事でしょう。
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2003年07月20日(日) ■ |
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◆『ヌレエフ・フェスティバル』ジュド、ルジマトフ、ルディエール、イレール、ムッサン、パケット、ペレン、他、 |
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今回のフェスティバルは、“不世出の偉大なる天才舞踊家、ルドルフ・ヌレエフの没後10年を追悼し、彼を敬愛するシャルル・ジュドの呼びかけによって実現したメモリアル公演。 パリ・オペラ座、キーロフ・バレエ、ボルドー・オペラ座、レニングラード国立バレエなどからトップ・ソリストたちが集いヌレエフを偲ぶ“というもの。
私としては、ヌレエフをよく知っている元&現オペラ座エトワール、ジュドやイレール、ルディエール達と、彼の母国ロシア勢との素晴らしい共演が大変楽しみで出かけました。
【第1部】
◆《フィルム上演》 ヌレエフの貴重な映像 (ルネ・シルヴァン監修) 彼の出生のことや、キーロフ時代、亡命劇、ショヴィレやフォンティーンとの共演、映画やメディアとの関わり、振付作品、亡くなるところまでを、短くまとめたフィルムでした。 アメリカの子供向けTV番組に出演した映像はちょっとビックリ。(歌までうたうとは…)
でも彼は若かりし頃から自分のダンスというものを確立していたのが古い映像ながら良く見てとれ、美しい中にも内なる情熱や激しさが伝わってきました。 やはり“踊り”に全てをかけた一生といって過言でない、不世出な人物だと思います。 彼(ヌレエフ)を一度でも生で踊るところを見てみたかったと思いますが、今現在でも、例えば今回参加されたジュド、ルジマトフ、ルディエール、イレールを見ることが出来る私はきっとラッキーなのでしょうね。 彼らもヌレエフに負けない位、他に代わりがいないほどの素晴らしいダンサーですもの…。
◆『海賊』よりグラン・パ・ド・ドゥ、 (デルフィーヌ・ムッサン&イルギス・ガリムーリン)
『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥは、ガラ公演では必ずといっていいほどプログラムに入っていますが、今回は振りも違うし、雰囲気もだいぶ違っていて、面白かったです。 知的で、身体の隅々まで研ぎ澄まされている印象のムッサン、今回は高貴な雰囲気で輝くように美しかったです。 アピールし過ぎといったいやな癖がなく、振付そのものが際だち、ムッサンのポーズの美しさや個性が品良く伝わってきます。 踊りがすっきりとしていて、さりげなく技術の高さを見せてくれまし、まさに大人の『海賊』でしたね。
ロシアやアメリカ以外のダンサーの『海賊』ってあまり見かけませんが、貴重ないいものを観ることが出来ました。 衣装はベージュゴールドの上下がつながったハーレム風パンツ、ゴールドネットのヘットドレス、チュチュじゃないのも新鮮で素敵じゃないですか!
ガリムーリンのヴァリアシオンは、元々テクがあるのは知っていますが、鋭さ、キレというより、安定感を感じさせるものでした。コーダはそれよりも鮮やかさを増した印象でしょうか、こちらの方が良かったかな。でも少々は押さえ気味に感じました。
ムッサンのソロは、映像化されたフォンティーン&ヌレエフの『海賊』と同じで、『ドン・キホーテ』の森の女王のヴァリアシオンでした(イタリアンが入るもの)。 コーダが圧巻で、身体の向きを四方向に変える変則フェッテをされていました。(グラチョーワ等もやりますね) 正直、演目として、ガラの『海賊』は、ちょっと飽きぎみでしたが、今回は魅力に溢れ、とても気に入りました。
◆『ファンダンゴ』〜ドン・キホーテ、 (モニク・ルディエール&カール・パケット)
黒に赤のアクセントのあるたっぷりしたドレス姿で登場したルディエール。 ひるがえるドレス、足元はかかと付の靴を履き、ときに激しく、または小刻みにサパテアートを打ちながら、挑むような目つきで静かな情熱を秘めたように踊ります。 すごい!! このようなスパニッシュ・ダンスまで、かっこよく踊れるなんて!! パケットとのデュエットは、まるで男と女の戦いのよう…。 二人の交差する真剣な眼差しに観客は引き込まれていきます。 ルディエールの迫力は圧巻、パケットも堂々とした踊りで良かったですね。 赤い背景がよく合っていました。 それに音楽も暫らく耳から離れなくなりました。 次に登場する『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥのダンサーが登場するまで、進行の流れがつながるように、ルディエール達は暫らく脇にいて、合図を送っていました。
◆『ドン・キホーテ』よりグラン・パ・ド・ドゥ (オクサーナ・クチュルク&ロマン・ミハリョフ)
えんじ色に金の衣装で登場の「レニングラード・バレエ」組。 クチュルク、ミハリョフは「モスクワ国際バレエコンクール」で1位、2位を獲得した実力派でバレエ団を代表するソリストです。 何度か踊りを拝見した事がありますが、今回が今までの中で一番良いと思いました。
クチュルクは、何だか一皮向けたような印象。以前は勢いで回ったり、ちょっと雑に見えてしまうところもありましたが、今回は、丁寧でしたし、しっかりと演技の上での踊りを心がけて踊っていたように思います。 なにしろ踊りが素晴らしかった。バランスも1人で立っていられるほどビクともしないですし、コーダのフェッテは、腰に手を添えたまま危なげなく回りきっていました。
振付もヌレエフ風なのか良くわかりませんが、だいぶ見慣れたものと違っていましたね。例えばアチチュードのところがアラベスクだったり、言い出したらきりが無いほど…。 手のひらを正面に見えるようにつき出して、「ちょっと待った」みたいなポーズ(笑)が沢山使われていました。(これってスペイン風に見えますね) ミハリョフも高い技術の踊りで、曖昧さが無くノッて演じられたと思います。
◆「シンデレラ」よりパ・ド・ドゥ (デルフィーヌ・ムッサン&カール・パケット)
ヌレエフ版の『シンデレラ』は1920年代ハリウッドを舞台に、スターに憧れる主人公という設定で創作したオリジナリティ溢れる作品です。 私も映像で(ジュド・ギエム主演)のものを見ましたが、出演者の豪華さに圧倒されますね。(他にも、ヌレエフ、ルディエール、ゲラン等が出演…)
で、この作品の一部分でも、こういった「ガラ公演」で見かけたことが無かったので、今回の上演は、嬉しかったです。(ジュド様のおかげだわ) くるくる回る椅子を効果的に使い、流れるようなダンスを披露していました。しかし、難しそうな振り付けだなぁ…。
プロコフィエフの音楽は、心の中の細かい部分まで映し出しているよう。 観ている側は、ただウットリと見つめるのみです。 ムッサンの柔らかい演技と、繊細な生地で作られたドレスの揺らめき…綺麗でした。
◆『ロミオとジュリエット』より寝室のパ・ド・ドゥ (モニク・ルディエール&ローラン・イレール) いやぁー 素晴らしかったです。ヌレエフのあの複雑で激しい振り付けを、あそこまで完璧に感情を込めて踊るなんて!! 正直言って、現オペラ座エトワール達がこれを踊っても、ここまで観客に響いてくるでしょうか? それほど見事な世界を作り上げていましたね。
幕が開くと、舞台中央にベッドが置かれています。そこに横たわるルディエール、後ろのカーテンから登場するイレール。彼は中世風ブラウスが大きくはだけていて、何ともしどけなくてセクシーでした。 二人の感情のほとばしり、すぐ後に来る不幸を予感させるような緊張感のある激しさ。 この逢瀬が最後になってしまうのではと想像してしまうような演技と踊り。 ベッドの上、床、舞台全体を使い、スリリングなリフトもあれば、倒れ込み転げ回るように絡み合う二人。とても息がピッタリでないと踊れないパ・ド・ドゥ。
実際の物語の主人公達は、少年・少女という設定ですけれど、そこまで子供っぽい雰囲気で踊ってはいなかったと思います。ですが、恋する感情に身を任せ、押し寄せる不幸に翻弄される若い二人を、全身で表現し踊っている姿には大変感動しました。
あと、ヌレエフという人は、一時たりとも気が抜けない程、難しい振り付けをするのですね。まさにダンサー泣かせだわ。 (振付に、もうちょっとゆったりとした部分もあればいいのにとも少し感じました…忙しさの連続なんで…)
ルディエール、イレール、本当に素晴らしかったです。魅せてくださって有難う! 是非、全幕で観てみたいですが、もう無理ですかねぇ…。
【第2部】
◆『オレオール』 (シャルル・ジュド、ステファニー・ルブロ、 シルヴィ・タヴァラ、ロール・ラヴィス、リンシンドルジュ)
バロックの巨匠ヘンデル作曲の「コンチェルト・グロッソ」など何曲かを組み合わせ、軽快さと、ソロではゆったりとした伸びやかさを表現した爽やかな演目でした。 やっとジュド様の御登場。アレグロでは中央にルブロを抱きかかえ美しく立ってらっしゃいます。アメリカの振付家ポール・テイラー作と言う事で、明るく元気が出て、観ていて高揚を感じる作品でした。
全員が裸足。ジュドともう一人の男性ダンサー、リンシンドルジュ(東洋的な風貌のかた)は白いタンクトップに白いくるぶしまでのタイツ姿で体操選手を思わせる衣装。女性3人は薄い白の膝丈スカート。 腕を大きく前に振り、飛んで歩くような動きが何度も繰り返され、それがとても印象的でした。ジュドのソロは曲調も変わり、とても美しかったですね。でもまぁ、この演目は深く考えず楽しみました。
◆『アポロ』 (ローラン・イレール、イリーナ・ペレン、 オクサーナ・クチュルク、アンナ・フォーキナ)
バランシンの傑作『アポロ』ですが、このフェスの中で私のツボにピタッとはまった作品(人)です。もう、イレール素晴らしすぎ!! 本当に人を引き付ける凄い魅力を持ったダンサーだと改めてホレなおしました。この作品の面白さを伝える上で、イレールが「アポロ」を踊った事はこの公演が成功する大きな要因だったのではないでしょうか。 多くの場面パーツからなる作品ですので、他の演目に比べて少々長めでしたけれど、アッという間に時間が流れていました。
導入部のイレールがリュートを持ち、ポーズをとっている姿から美しいこと!! そして腕を大きく回し、楽器をかき鳴らす動きをしただけでも、もう私の神経は彼以外考えられなくなるほど集中して見入ってしまいました。 ソロで踊る時などひときわ鮮やかに輝きを増し、目が離せなくなってしまう…。 でも良いダンサーって本当に、その人にだけ強く光が当たっているように見えるのね。
急遽、ヴィシニョーワが出演出来なくなりテレプシコールに抜擢されたペレンですが、何だか今までと全く違って、表現しようとする意欲を見せて踊ってくれました。 元々の類稀な美しい体形(特に脚の形が恵まれていますね。細いのに柔らかそうで、筋肉質もしくは筋っぽくない)を持っていましたが、表情がイマイチで、私的には「どこがプリマなの?」と疑問に思っていたダンサーでしたが、今回は表情、踊りも見違えるくらい良くなってたし、笑顔も観る事が出来ました。(イレールの影響? ジュドの指導?) でも、最近のペレンは評判も良いし、成長著しいのでしょうね。
先程『ドン・キ』で出演したクチュルクと、以前ルジマトフ来日公演で『オテロ』のデズデーモナを演じたフォーキナも、カリオペ、ポリュヒュムニアを良く踊っていました。
◆『ムーア人のパヴァーヌ』〔オテロのテーマによるヴァリエーション〕 (ファルフ・ルジマトフ、シャルル・ジュド、 エマニュエル・グリゾ、ヴィヴィアナ・フランシオジ)
ホセ・リモン振付、パーセルのバロック音楽を使い、シェークスピアの演劇的な世界を、みごとバレエ作品に作り上げたもの。 人への不信感、ねたみ、真実と嘘、愛、悔恨、これらの人間の心に沸き起こる様々な感情を、よくあれだけ短い作品の中に盛り込んだものだと感心しました。 『オテロ』は以前やはりルジマトフ出演の作品を拝見しましたが、こんなにジュド踊るイアーゴの存在感が突出したものだったかと、改めてビックリ。 (今回と前に見たものはきっと少し違うのだろう)
ジュドのあの粘っこいしつこさ、人を小ばかにしているような表情、「オテロ」のルジに、疑いの心を芽吹かせる悪意に満ちた囁きの場面も、もう凄いの一言!! 圧巻でした。 ルジは苦悩する姿など悪くは無かったと思いますが、感情表現としてイアーゴの方が魅せ方に工夫する余地が大きいような気がしますので、ジュドという素晴らしい演者と一緒に舞台に立つと、食われてしまう感があります。 苦悩、怒り、悔恨のオテロは分が悪いのかな…。 まとめると、ルジも良かったが、ジュドはさらに良かったという感じでしょうか。 女性たちも迫力ある大きな踊りでした。
最後は、舞台にヌレエフの大きな写真が現れ、ダンサー達が讃えるかたちで幕となりました。ジュド演出・企画、素晴らしかったです。また何らかの企画で、やっていただきたい。
あぁ〜 それにしても、ヌレエフ芸術監督時代のパリ・オペラ座って、本当に多くの素晴らしいダンサー(芸術家)を輩出しましたよね。再び、集まってくれないかな? 今度はゲランも揃ったら嬉しいのですが…。
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2003年07月05日(土) ■ |
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◆『イタリア・ベネチア室内管弦楽団』〜素晴らしきヨーロッパ映画音楽〜 指揮:サンドロ・クトゥレーロ、 |
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ソプラノ: パオラ・グイネッティ、 テノール: カタルド・ガッローネ 指揮: サンドロ・クトゥレーロ
【素晴らしきヨーロッパ映画音楽】
友人と、会場である有楽町の東京国際フォーラム内の書店で早めに待ち合わせた。しかし、本屋は潰れていたよー知らなかった…。(友人は探し回ったみたい…ゴメンね…)
それはさておき、《素晴らしきヨーロッパ映画音楽》なるプログラムですが、もともとこの楽団は、18世紀当時のベネチアンスタイルを再現した衣装を身にまといながら、ヴィヴァルディなどに代表される『バロック音楽』を中心に演奏活動をしているそうです。 今回は『映画音楽』というガラリと違った音楽ですので、実際彼らが本当に聴かせたい演目かわかりませんが、観客に楽しんでもらいたいという意気込みが伝わる楽しい内容でした。
衣装は、ベネチアン・スタイルということですが、いわゆるフランス・ロココ風デザインで、女性はパニエが左右の腰あたりに張り出した形のドレスに鬘、男性もその時代の貴族の衣装に鬘を被っていました。(暑そう) でも、演奏する内容が、エンリコ・モリコーネとか、ニーノ・ロータなんですよ! ???な感じもしますが、単純に絵的には面白いのでお客は喜んだのではないでしょうか。
1部はモリコーネ作品が6曲もズラリと並び、他4曲というラインナップ。 まず、『ミッション』より「ガブリエルのテーマ」から始まりました。映画自体は知りませんでしたが、何か聴いた事があるなぁと思っていたら、サラ・ブライトマンが、アルバム『エデン』でカバーした「NELLA FANTASIA」でした。オーボエが美しく響いてくる優しい曲。
そのほかに、『ウエスタン』では指揮者のサンドロ・クトゥレーロ氏が、ギターを持ち出して、かっこよく演奏。この方は、曲に合わせて、ピアノを弾きながら指揮したり、アコーディオンもされたり、皆が楽しめるように色々な事をなさいます。 モリコーネといえば、私は『ニュー・シネマ・パラダイス』を思い出します。今回曲目に入っていましたが、全篇に流れる有名な“あの曲”ではなくて、静かな雰囲気の曲が演奏され、ピンときませんでした。なんか残念…。
モリコーネ以外には、バロック音楽の「アルビノーニのアダージョ」(映画では『審判』で使用)も演奏され、なぜかバレエファンの私にはF・ルジマートフ氏の同名のソロ作品が目に浮んできます。 他にも映画『ベニスの愛』の「オーボエ協奏曲2楽章」も美しい旋律も、耳に心地良かったですね。
また、このコンサートは、実力あるソプラノ歌手、パオラ・グイネッティと、若手ながら、大変な美声のテノール歌手(この人はすごく良かった)カタルド・ガッローネの歌唱を聴けるのも大きな魅力でした。グイネッティさんは自然で無理のないお声、ガッローネ氏は非常に美しいハイテノールの方で大変気に入りました。
休憩を挟み、2部はまず男性の楽団員から入場。上着と鬘は取っていましたが、ベストは着用。軽い身なりになってました。 対して女性達は、すっかり衣替えで現代のセクシーな黒のタイトなドレス姿に変身して登場。さすがにイタリア女性はあか抜けて見える。
こんどの曲目は、哀愁が漂う中にも優しさに満ちた美しいメロディを数多く残している、ニーノ・ロータ作品と、ポピュラーで誰もが知っている曲目を組み合わせた内容になっていました。
『ゴッドファーザー』1&2のテーマ曲、『道』、『甘い生活』など心地良くアレンジされていましたし、『ロミオとジュリエット』は本当に美しくて情景が目に浮ぶようでした。(この音楽で、バレエ作品を作ってほしい!) 『81/2』は何て楽しくウキウキした気分になるんでしょう。 他にもマンシーニ(ムーン・リヴァー)や、ピオヴァーニ(ライフ・イズ・ビューティフル)なども聴く事が出来ました。
最後は歌手による、イタリア民謡、「オー・ソレ・ミオ」「帰れソレントへ」「フニクリ・フニクラ」とかベタ〜な曲目。 でもこういったものって、わかっていながら、客席では結構盛り上がるのよね。イタリア旅行気分になるのかな? それとも素晴らしい声の力かしら。
コンサートが終わったら、ホール入り口あたりで指揮者がパンフにサインサービスを行っていた。 私は別に欲しくは無いけれど、友人が並びたいと言うのでボゥーと脇に立って終わるのを待っていたら、楽団員がもう着替えて出てきていました。
いやぁ、見ていたら面白い。さすがにイタリア男だわ! お客の若い女性と、お話ししたいらしく、ずっと女の子を見つめていたり、めっちゃ親しげに写真取ったり、サインしたり...。それがすごく嬉しそうなの。振り返ってまで見てるし... たんなるファンサービスというより、“気質”じゃないでしょうかねぇ。 何だかとっても微笑ましかったですー♪(笑)
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2003年07月04日(金) ■ |
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◆『Luminous』勅使川原三郎、スチュワートジャクソン、エヴロイ・ディア、イザベル・シャフォード、他 |
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勅使川原三郎、 佐東利穂子、 スチュワートジャクソン、 エヴロイ・ディア、 イザベル・シャフォード、 川村美恵、 吉田梓、 土井由希子、
渋谷のシアターコクーンで、勅使川原三郎氏の『Luminous』を観て来ました。 先日『コクーン歌舞伎』がやっていた同じ会場ですが、全く雰囲気が変わり、落着いたいつもの劇場に…。 ロビーは混んでいなかったのですが、椅子があまりに少ないので、買って来たサンドウィッチも立ち食い状態です。 座席はほぼ埋まっていましたが、1F後方は少し席が空いていました。
で、私は7月・8月公演のチケット貧乏におちいっていたので、一番安いコクーンシート(2Fの真横から見る席)を買ってしまったのですが、コレが大失敗!! (トホホだわ...) 舞台が見づらいにも限度があるぞー! 背もたれまでキチンと腰掛けたら、舞台の3分の1しか見えない。前に乗り出しぎみでも、全体の半分位しか見えない! 手すりも視界を遮るし、酷いもんだ!! そういえば『コクーン歌舞伎』の時は、この席の人たち立って見ていたような気がする…。(少なくても手すり邪魔状態からは逃れられる) でも、今日の観客はフツーに座って、我慢して見ていました。 そのような訳で、舞台がよく見えませんでしたので、レポは書けそうもありません。
ごく簡単に印象など…。 1部はノイズ音を工夫した音楽?で、モノトーン、(黒・白、或いは光りにあたる部分と影の部分)が特殊な照明でダンサーの美しい肉体にをよりいっそう浮かび上がらせていました。アクリル板も効果的に使用。 暗い舞台の上にはスクエア、サークルの形に照明で形を作り、その中でダンサー達が、ゆっくりと、時には急激に震えるような動きをしたり様々な動きに取り組んでいらっしゃいます。 何人かのダンサーが出演していますが、やはり勅使川原さんがダントツに良かったですね。 それと話題の全盲のダンサー(といっていいのか?)、スチュワートジャクソンも印象的。
2部はまず、暗いなかで緑色に蛍光する服をダンサーがまとい、一人にストロボor明かりがたかれると大きなボードにその肉体が転写される(カメラのように)という凝った技術を演出で使ったり、1部とは趣が変わった印象を持ちました。蛍光素材は暗い舞台の中とても美しく見えます。
一番最後は勅使川原氏が踊っている中、スチュワートジャクソンが登場し、その無垢さが何ていうか天上界のような雰囲気を作り出して、清らかな気分になりました。彼はずっとくるくる回転する動きをしていても全くふら付かず、踊.る位置も全く間違えないのね。すごいなぁ…。 音楽もノイズィーなものではなくなり心地良い感じ。 最後はダンサー達へ観客の皆さんが、長いこと拍手を送っていました。
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