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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2001年01月31日(水) --

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『ばらになった王子』

ブレンターノは『ローレライの伝説』で知られる 後期ドイツロマン派の詩人・作家。 ツヴェルガーは現在を生きるオーストリアの画家。

表紙を見ただけで、イタリアンメルヒェンの ただならぬ予感にふるえる。 ばらの木を、たぶんお姫さまであると思われる ドレスを着た髪の長い女性が、 今跳び越えたところ。 タイトルから見て、ばらの木は 王子さまらしい。

この物語のなかには、 ラプンツェルやら、 眠り姫やら、 人魚姫やら、 シンデレラやら、 青ひげやら、 もしかすると星の王子さまになったかも しれない、ばらの木の種すら潜んでいる。

王子さまはどうして ばらの木になってしまったのだろう? お姫さまと王子さまは どうなってしまったのだろう? 時間を超えて一冊の絵本になった 作家と画家の空想力は、 その答えを教えてくれる。 そして、そこに仕込まれた新しい謎に こころはさまよってゆくのである。(マーズ)


『ばらになった王子』 著者:クレメンス・ブレンターノ / 画:リスベート・ツヴェルガー / 出版社:冨山房

お天気猫や

-- 2001年01月30日(火) --

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『黒い仏』

怒らないでね。

のっけから何を言い出す、とお思いでしょうが、 だって絶対全国のミステリファンの中で これを読んで怒った人が大勢いるはずだもの。 どういうふうに言ってもネタばれ気味になってしまうのですが、 『ハサミ男』で背負い投げを思いきり決められて 『美濃牛』で技ありを取られて 今度こそリターンマッチだ!と帯を絞め直している方は 悪いことは言わない、お止めなさい。 相手が立っている場所は見た通りの試合場ではないのです。 古典ミステリを読んだことがないために、 いわゆるミステリの作法を逸脱してしまう若い作家はいざしらず、 前作『美濃牛』で示されたように殊能氏の場合は 古典に精通している上での仕業ですからタチが悪い(笑)。

海のものとも山のものともつかなかった驚異の新人も 作家としての力量を世間に納得させて安心したのか 今回はずいぶん普通であっさりしているなあ、 出て来る食べ物はやっぱり小技が効いておいしそうで、 マニア受けジョークも遊びも軽い感じだし、 息の長い安定した作風を目指すつもりかな、 (でもやっぱりそう見せ掛けて何か企んでいるに違いない) ──と思ったら。

やっぱり来た来た! そうか、今回の「遊び」の本命はコレか! と膝を叩いてさんざん笑ってしまった後から、 すうっと不安も感じてしまうのです。

三作目でこれをやっちゃって‥‥だ、大丈夫?(ナルシア)


『黒い仏』 著者:殊能将之 / 出版社:講談社ノベルス

お天気猫や

-- 2001年01月29日(月) --

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『雪女のキス』

この一月、日本は津々浦々雪に埋もれてしまいました。 でもこのあたりはまるで取り残されたみたいに大雨が降り続くだけ。 雪にうんざりしている皆さんには悪いけれど少しは雪に触れてみたいぞ、と 雪女テーマのホラーアンソロジーを読みました。 異形コレクション綺賓館2、『雪女のキス』は旧作新作取り混ぜて 岡本綺堂から宮部みゆきまで、雪にまつわる怪異談集、 その起源はもちろんハーンの傑作『雪女』。

雪女が18歳の若者にささやきかけた言葉、 「巳之吉、おまえはかわいい子だね」(平井呈一訳) 私が子供の頃読んだのはこんな訳でした。 「おまえはまだ年わかくてうつくしいから」 (御想像通り、原文は you are pretty boy,Mino-kichi.) だいぶ印象が違いますね。 そうか、『雪女』は英語で書かれた外国語文学だったんだと 改めて思いました。

それぞれの作家の雪女経験から生み出される現代的雪女達が 束になってもさすがに原典を超える事は困難ですが、 そのかわり皆川博子や加門七海の語る 「雪女が残した子供達」の物語が哀れを誘います。 伝説のTV番組『怪奇大作戦』のシナリオやら 高木彬光の捕物帳やら吉行淳之介氏の世間話風の語りやら、 例によって井上「伯爵」雅彦氏のセレクトは バラエティに富んでいます。 アンソロジータイトルの元ネタは『蜘蛛女のキス』ですよね?(ナルシア)


『雪女のキス』 監修:井上雅彦 / 出版社:光文社ノベルス

お天気猫や

-- 2001年01月27日(土) --

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『ピエタ −pieta− (1・2)』

☆少女マンガだって、愛や恋だけではない。

何だか今年は、例年になくマンガを買ってしまっている。 ぱっとしない気分の時、"明るく甘いHappy End"を求めて。 あるいは、夜更かしの友である「ミステリ」に、 気に入ったものが見当たらない時。 いい大人がマンガを買う。 別に恥ずかしくはないが、 非常につまらない物を買ってしまった時、 とても哀しく、落ち込んでしまう。 時間とお金の無駄遣いだと。 なのに、いろいろな空白をお手軽に埋めようとして、 ついつい、衝動買いをしてしまうのだ。

『ピエタ』は、買うまでに随分と迷った。 「あたり」か「はずれ」かというシンプルなものさしで測れば、 多分、「あたり」だということはわかっていた。 ただ、慢性的な精神疲労に効きそうな "明るく甘いHappy End"ではなさそうで。 愛とか恋とかの話ではなく、 心に痛みを抱える少女たちの癒しの物語。 淡々と描かれる悲しみや苦しみ、再生への鼓動。 透明で脆い、少女の時間。

今ではもう、遠い彼方に見え隠れしている少女時代の、 切なさを思い出す。 誰とも分かち合えないと思った悲しみ。 とても小さく思えた自分の存在。 そんな少女も、たくましく成長して、 マンガの中の少女たちに、 「気持ちはわかるけど、それでいいの?」と 少女たちの幸福に現実的な「?」を投げかけたりもする。 −マンガではあるが、  彼女たちのその後をぜひ知りたいと願う。 (シィアル)


『ピエタ』 著者:榛野なな恵 / 出版社:集英社(ヤングユー・コミックス)

お天気猫や

-- 2001年01月26日(金) --

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『サムシング・ブルー』

☆とても表紙の美しい本。

典型的な表紙買いである。 文庫本ではあるが表紙のイラストの美しさに惹かれて、 即決で購入。 1950年代の傑作ミステリ集として、平積みされていた。 同時期のミステリとして、 『歯と爪』(ビル・S・バリンジャー) 『シンデレラの罠』(セバスティアン・ジャプリゾ) 『まっ白な嘘』(フレドリック・ブラウン) 『殺す風』(マーガレット・ミラー)などの名が連ねられていた。 読んだのがもう、大昔になってしまったので、 改めて紹介することはできないが、 『歯と爪』や『シンデレラの罠』は 月並みな言い方になってしまうが、 読んでいて時間を忘れるほどに面白かった。 まあ、それらの本と一緒に並んでいるのだから、 表紙だけでなく、期待も大きく膨らもうというもの。

作者のシャーロット・アームストロングは、 "現代の魔女"と評されているのだそうだ。 しかし、"現代の魔女"とはいえ、 この2001年には、魔女の魔法もいささか古びて感じられたりもする。 毎日は刺激に満ちあふれ、ミステリよりもずっと不可解で、 そこらのホラー小説よりも猟奇な事件が珍しくない今日。 ストーリーやテンポには、ぬるいような、間延びたような、 何ともいえないもどかしさを感じてしまう。 「古色蒼然」という言葉もあるが。

お天気猫や

-- 2001年01月25日(木) --

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『フローリストは探偵中』

☆派手さはないが、良質なミステリ。

発刊された当初はこの本も、平積みされていた。 濃い赤が印象的な表紙。 ガーベラのような赤い花の上に、黒い影が落ちている。 (読み終わってもう一度表紙を見ると、 ああこの花は…と、花の名前もわかります。) とても目を惹かれた。

しかし。 『フローリストは探偵中』 ぱっとしないタイトルだ。 もちろん、聞いたこともない作者で、 申し訳ないが、出版社が集英社文庫となると、 まあ、ひどく外れることはないにしても、 無理して読まなければいけないような本でもないと(…失礼)、 そう思ってしまった。

けれど、表紙がとても気になっていたことも事実で、 本屋に行くたびに、本を手に取り、 買ったものかどうしたものか、しばらく考えつづけていた。 腰巻の惹句はあてにならない。 だが、参考になるような情報もない。 その時ふと、 amazonのアメリカサイトではどう評価されているのだろう。 そう思いついた。 原題は『ROOTS OF MURDER』 さっそく調べてみると、私にとっては意外にも ★★★★であった。(5つ星中) じゃあ、ちょっとは期待できるかなと、 やっと踏ん切りがついたのだが、 やはり、あくまでも「表紙買い」であったといえる。

前に『閉じられた環』で触れたように、 この本も、思わぬお楽しみ満載の本だった。 主人公ブレッタが花屋さんだから、 お花が絡んでくるのは当然のことではあるが、 いくつかあげてみると、  
・フラワービジネス  
・アーミッシュの生活  
・葬儀ビジネス 被害者がブレッタと花卉の取引のある アーミッシュの男性だったので、 アーミッシュのコミュニティについても さまざまなことを知ることができる。 また、未亡人ブレッタが夫を失った悲しみの中、 ダイエットも敢行中なので、 ダイエットや食べ物に関わる記述も興味深く読めた。 アメリカの日常の暮らしについて、 小さな発見がちりばめられている。

もちろん、肝心のミステリについても、 マニアックではないけれど、 充分楽しむことができた。 読み終わった今、とても満足している。(シィアル)


『フローリストは探偵中』 著者:ジャニス・ハリソン / 出版社:集英社文庫

お天気猫や

-- 2001年01月24日(水) --

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『審問』(上・下)

前回の『警告』の続編。 前回・今回の2冊で、 検屍官ケイ・スカーペッタに大きな変化が訪れる。 この壮大ともいえるドラマは、是非、最初から。 確かに単独でも、面白く読める本ではあるが、 今やこのシリーズの魅力は、流れていく時間であり、 それとともに変化していく、登場人物たちのドラマにある。

ドラマの縦糸と横糸が巧みに織りあわされ、 幾重にも幾重にも重なったストーリー生み出している。 ケイ・スカーペッタの活躍するミステリーものとしてだけでなく、 長く続けば続くほど、人間の愛や悲しみ、 信じたくはないほどの根深く救いようのない悪意の存在、 そういうものの方が浮き彫りにされてきているような気がする。

毎回、検屍官が活躍する「猟奇犯罪」が登場するが、 目を離すことができないのは、ケイをとりまく人間関係。 彼女を愛するもの、憎むもの、同僚、犯罪者。 そのすべての人々。 人は変りたいと思っても、 なかなか自分を変えることはできないのに、 変りたくないとどんなに願っても、 すこしずつ自分自身を変えていかねばならない。 思うようにならない人生の悲痛。 限りなく悪に身をゆだねることのできる人間の恐ろしさ。 シリーズを読み重ねていくにつれ、 「人間」というものについて、しみじみと考えさせられる。 面白くはあるが、同時に非常に重たい物語でもある。 それでも、次が待ち遠しくなるのは、 今やすっかりケイに同調し、彼女の平穏と幸せを願うが故だ。

彼女の行き着く末は、一体どこなのだろうか。(シィアル)


『検屍官シリーズ』
著者:パトリシア・ダニエルズ・コ−ンウェル / 訳者:相原真理子 / 出版社:講談社文庫
『検屍官』 『証拠死体』 『遺留品』 『真犯人』 『死体農場』
『私刑』 『死因』 『接触』 『業火』 『警告』 『審問』

お天気猫や

-- 2001年01月23日(火) --

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『閉じられた環』

☆名匠ゴダードが放つミステリー・ロマン。

1931年、恐慌はそこかしこに暗い影を落とす。 詐欺師のコンビ、ガイとマックスの上にも同様に。 のっぴきならないところまで追い詰められ、 アメリカからイギリスへ逃げ帰る、その船上からはじまる 恋と裏切りと、「あの戦争」の残した傷跡の物語。

単なる詐欺師の恋と裏切りの話だと思って読んでいると、 やがて、ストーリーは大きくうねりはじめる。 ちょっと形が小さいけど、Keyは「◎」 (読み終われば、この意味はわかります。) 今こうやって、書きながら、 ストーリーの巧みさ、構成のうまさをしみじみ感じている。

それだけでなく。 舞台は70年前のイギリスとはいえ、 私の大好きなイギリスの姿を垣間見ることができ、 思わぬ収穫があった。 特に詳しく描写されていたわけではないが、 なじみの駅名がぽんぽん出てきたり、 イギリスならではパブやクラブの情景が出てくると、 またイギリスに行きたいなあと、イギリス熱も高まろうというもの。 イギリスの好きな人には、特にお薦めといえる。

さらに。 舞台はイギリスではなかったが映画『スティング』を 懐かしく思い出したりもした。 『スティング』よりは、ずっとビターであるが。

何だか思いもよらなかったおまけ満載。 それが、私にとってのこの本の魅力。(シィアル)


『閉じられた環』(上)(下) 著者:ロバート・ゴダード / 出版社:講談社文庫

お天気猫や

-- 2001年01月22日(月) --

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『ザ・マミー』(上・下)その2

荒唐無稽な骨組みに、 リアリティの肉を着せ、 ロマンスのドレスで飾る。 これこそストーリィテリング。 そして、よみがえった「マミー」こと「ミイラ」も 不死の肉体をよみがえらせ、ロマンスを体験する。 誰のミイラ? そう、3千年前のエジプト王、ラムセスニ世だ。

舞台は20世紀初頭のエジプトと英国。 ヒロイン、ジュリーは英国人富豪の一人娘。 彼女を取り巻く人間関係には、庇護する者、 善良な婚約者、ろくでなしのいとこ、 忠実な召使い… ヒロインは美人で機知に飛んでいて、世間知らず。 対するお相手は国王にもなれるくらいの男ぶりで、 (実際国王だったのだから当然か) 強さと弱さの両面を見せる。もちろんお金持ち。 そう。このあたりの設定は、あの英国ロマンス小説界の 輝ける星、バーバラ・カートランドを踏襲している。 アン・ライスはきっと少女時代にカートランドを 読んで育ったのにちがいない。

もし私が俳優で、映画化の際に演じさせてあげると いわれたら、ヒロインの父親の親友、エリオットを選ぶ。 どうやら彼もこれから(続きがあるはずの終わり方なのだが) まだまだ活躍しそうだ。

さて、恋愛の成就が目的のカートランド的展開は、 ほぼ上巻で終わり、後半は「愛するふたり」を脇に置いて、 別のヒロインが大活躍する。 それはだれ?

…クレオパトラ。 どう。読みたくなってきたでしょう?(マーズ)

    → 『ザ・マミー』(その1)

『ザ・マミー』(上・下) 著者:アン・ライス / 出版社:徳間文庫

お天気猫や

-- 2001年01月20日(土) --

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『わたしの日曜日』&『とっておきの気分転換』

☆ 日常の中の小さなしあわせ。

この本は2冊とも、日々の暮らしの中の 何気ない、小さな喜び発見のヒントをくれる本です。 ほんとうにささやかなしあわせで、 「何だそんなこと」って、思うかもしれないけれど、 忙しい毎日に押し流されていると、 意外とそれくらいのちょっとしたオタノシミも なかなか実行できなかったりするのです。 だから、お休みの日のちょっとした気分転換には もってこいの、身近で新鮮なアイデアが一杯あります。

ちょっとした工夫で、 毎日は、もっと生き生きと、楽しく過ごせるのです。

お休みの日に、是非、わたしもやってみたいこと。
・1時間半で行けるところへ日帰り旅行してみる
・カメラを持って近所を散歩してみる
・ホテルで朝ごはんを食べてみる
・花を生ける
・小さなひとり旅
・ゴー・ゴー・バスツアー e.t.c.

何でもない日でも、 ほんの少しの魔法が使えれば、 たちまち特別にHappyな日になるのですね。(シィアル)


・『わたしの日曜日』 (杉浦さやか / KKベストセラーズ)
・『とっておきの気分転換』(廣瀬裕子 / KKベストセラーズ)
・『とっておきの気分転換』 (廣瀬裕子 / 幻冬舎文庫)

+++『わたしの日曜日』『とっておきの気分転換』共に、 杉浦さやかさんの可愛いイラスト入り。『とっておきの気分転換』は、私が買ったのは安い文庫本の方ですが、本の体裁・質感としては、KKベストセラーズの方が好きです。+++

お天気猫や

-- 2001年01月19日(金) --

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『ガラスの城』

去年の春、偶然、電車の中で、『ガラスの城』という、 随分昔のマンガを読んでいる女子大生を見た。 何と大昔のマンガを・・・ と、なぜ?というクエスチョンマークと共に驚いたことだった。 その彼女の読んでいたのは、 古本屋ででも買ったのだろうか、 もう汚れてぼろぼろになった古いものだった。

その『ガラスの城』が、復刊されていた。 S45年からS46年にかけての作品なのだ。 なんと。もう、30年も前のことである。 歳月を経ても、瑞々しく、いつまでたっても 新鮮さを失わない、そういう物語もある。 しかし、この『ガラスの城』は、お世辞にもそうは言えないし、 "古色蒼然"という言葉こそ、まさにぴったりといえる。 けれど、そこには、確かに当時の少女たちが憧れていた、 贅沢な夢の世界が描かれているのだ。

舞台はロンドン。 (育ての)母親の死をきっかけに、運命に翻弄されるヒロイン・マリサ。 本当は伯爵令嬢でありながら、 姉として一緒に育ったイザベラの計略で、 令嬢としての幸福な生活を奪われ、 イザベラの召使として、それでも清らかな心で一心に仕える。 エスカレートするイザベラのいやがらせ。 真実が明らかになり、マリサが令嬢として、 実の両親の腕に抱かれるのはいつ?

というようなストーリィが続く。 ふわふわのベッド。白いレースのカーテン。 広々としたお部屋に、大きな窓や 美しい庭と噴水の見えるバルコニー。 贅沢なドレスに、華やかなパーティ。 当時の現実の少女たちの生活は、 今とは大きくかけ離れ、地味で質素なものであった。 海外は遠く、お城で暮らすお姫様というのは、 美しい夢であり、アイドルよりもずっとずっと憧れの存在。 豊かな夢は、少女漫画の中にあったのだろう。 女の子たちの美しい夢の世界。

SMAPの歌の一節にもあったように。 私たちは、すでに、「あの頃の未来に立っている」 この未来の少女たちは… 望めばお姫様のように贅沢に暮らすこともできる少女たちの 夢のお城は、いったいどんなものなのだろう。

そんなことを考えながら、2巻読了。 全何巻かは知らないが、2月までに5巻が発売される予定らしい。(シィアル)


『ガラスの城』 著者:わたなべまさこ / 出版社:集英社

お天気猫や

-- 2001年01月18日(木) --

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『QED 東照宮の怨』

昨年のNHK大河ドラマ『葵 徳川三代』は 三代将軍家光が日光東照宮を壮麗に増改築した所で終りました。 それで上様、忠長卿の死後駿河城から江戸城に運び込んだ 念願の金は結局どうしちゃったの? そしたら計ったように出たQEDシリーズ第4弾が その東照宮を廻る謎解きではありませんか。 やった!タタルさんに尋いてみよう!

という訳で古典テキストに隠された歴史の読み解きに関しては 抜群の解釈力を持つ漢方薬剤師・桑原崇が今回挑むのは 東照宮と──三十六歌仙絵? あのNHK特集にも取り上げられたバラバラにされた絵巻? 徳川埋蔵金の話ではないですね。 それどころではない、将軍家と天皇家の火花を散らす呪術合戦、 大河ドラマ後半でごちゃごちゃしていた天皇絡みの不可解な部分が すとん、と納得できました。

更に日本を統べる両家の思惑を上回る大野望までが顕かに! とってつけたような現代の殺人事件なんかほっといて(おいおい)、 もっと話して下さいよタタルさん。 今度 日光に行く時は、じっくり見て回らなくちゃ。 行った事がない? 日光を見ずして結構と言うなかれ。(ナルシア)


『QED 東照宮の怨』 著者:高田崇史 / 出版社:講談社ノベルス

お天気猫や

-- 2001年01月17日(水) --

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『決断するイギリス─ニューリーダーの誕生─』

ブレア首相のことを書いた本を見つけ、 面白そうだと思い衝動買い。 イギリスが好きなのに、ブレアに関しては すごく若くして政権をにぎった人というくらいしか 知らなくて、どんな背景を持っていて どんな風に行動する人なのか興味をもっていた。 時間をおいて何度かたずねたイギリスの 再生ムードに触発されたともいえる。

TVで、洪水に見舞われた被災地へ即座にかけつけ、 励ますブレア首相を見たことがある。 マスコミを利用する術に長けているブレア。 まさにテレビに映ったトニー・ブレアは 信頼のおける若き指導者そのものに見えた。 ちょっと時代錯誤だが、領民を励ます領主みたいに 頼りがいがありそうだった。 笑顔もすてきだったし。 こんな首相のいる国の住人は幸せだと無責任にも思った。 そして、政治家にとって、生まれもった チャーミングな笑顔ってだいじなんだな、と。 だからか何か、彼は中産階級の富裕層出身だとずっと思っていて、 当然、政党や政策に関してはもうまったくの無知だった。

43歳で党首(首相)になったブレアの掲げる 労働党のスローガンは、「ニュー・ブリテン」。 イギリスはここ数年で、息を吹き返しつつあるという。 産業が元気になり、食の革命まで起こってしまった。 その大きな原因が、ブレアという人物なのだと。 子供の頃から政界入りした後の行動まで 臨場感のあるエピソードを盛り込み説かれている。 なんともうらやましく感じるが、この極東の島国でも そういう奇跡が起こらないとは限らない。 たぶん、イギリスよりも少し遅れているだけなのだ。

著者はオリジナリティのある映画産業の成功例として あげている『イングリッシュ・ペイシェント』と 『フル・モンティ』に、『ウォレスとグルミット』も ぜひ付け加えてほしい。(もともとTV向けだったとはいえ) そして、この本の刊行が1999年よりもう少し遅ければ ブレアに4人目の子供が生まれ、 「首相が育児休暇をとった」 ニュースも加えられていただろう。(マーズ)


『決断するイギリス─ニューリーダーの誕生─』 著者:黒岩 徹 / 出版社:文春新書

お天気猫や

-- 2001年01月16日(火) --

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☆ 身の回り整理術

私は、欲張りな星の下に生まれたので、 常に物があふれた部屋に住んでいます。 小さな雑貨から、本やカップ類、洋服、 好きなものがたくさんあって、 収納力をこえたものが、所狭しとあふれ出ているのです。

世は、「捨てる」ブームです。 あるいは、「整理術」の。 整理下手でブームに弱い私も、 何冊かの「整理術」の本を読んでみました。 もっとも、へんなところであまのじゃくなので、 この手の本の中の一番有名なものは未読なのですが。

今、自分の家を離れて住んでいます。 ほとんどのものを家に置いてきているので、 今住んでいるところには必要最小限(だった…最初は。) のものしかありません。 生活にも、仕事にもさしつかえはないのです。 そう考えると、家に置いてきたものはなくても全然困らないもの、 不要なもの、そういうことになってしまいます。 事実、冬に帰省した時、随分と大胆に捨てることができました。 捨てようと思えば、すべて捨てることができるのです。 ただし、引出しの中や箱の中身さえ見なければ。

というのは、家にあるほとんどのものが、 「必要ではない」かもしれないけれど、「大切なもの」なのです。 「要・不要」ではなく、「大切かそうでないか」 そういう価値観なので、引出しや箱の中を見てしまうと、 結局は物を処分することができなくなってしまう。 たとえ、一生、あの引出しを開くことがなくても、 私は引出しの中身を知っている。 あの引出しの中に、子どもの頃、大切にしていたものや 思い出が詰まっている。 そういうことを大切に思う私には、 必要でないものであっても、 どうしても、捨て去ることはできないのです。

我田引水ですが、手塚眞は『ヴィジュアル時代の発想法』の中で、 整理ができていなくても、どこに何があるか本人が わかっていればそれでいいのだと書いています。 雑然と物が積み重なっている時は、 どこの山に何があるかわかっているのに、 片付けてしまいこんでしまうと、 どこに整理してしまったのか忘れてしまい、 重要なものほどそういうことが多くて、 青ざめて探し回ることがよくあります。

そんなことをいいながらも、 整然とした部屋に住みつづけるのは、 片付け下手の私の夢なので、 整理術の本を次から次へと買ってしまいます。

そして。 まず、こういう本を増やすことを止めるところから、 私の整理整頓生活は始まるのだろうにと、 猛烈に反省するのです。 なぜなら、物を捨てることができないのなら、 できることはもう、物が増えるのを最小限に 食い止めるしかないのだから。(シィアル)


☆こんな私が気に入っている「整理術」の本
・「気持ちのいい空間のつくり方」(ジェフ・キャンベル / The Japan Times)
・「居心地のいい簡単生活2」 (スーザン・オニール / 文香社)
・「ヴィジュアル時代の発想法」 (手塚眞 / 集英社新書)

お天気猫や

-- 2001年01月15日(月) --

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『アムステルダム』

かつて3人の主人公それぞれにとって 魅力的な恋人であったひとりの女性の葬儀から始まる物語。 3人とも老いを自覚し、 ロンドンを舞台に演じてきた ”ささやかとは言いがたい”人生の幕を いつどうやって降ろすのか、そんなことを 考える夜中の3時もある男たち。

私はロンドンの雰囲気は何度かの旅で ある程度理解できるし、アムステルダムのスキポールまで 主人公たちと同じくフライトを利用したこともある。 乗り継ぎだけなのでオランダの街は見ていない。 だから、この物語がめざす終着の場所アムステルダムは、 不思議に白くて実態がない。 読むにはうってつけの状態だった。

この本を楽しんで読んだ。 あまりにもイギリス的で、示唆的で、 破滅的なのに、気が滅入らないユーモア小説の伝統。 といってしまっては誤解されるだろうか。 前作までの作風とはかなり変化しているらしいが、 なにかとても、書き手としてふっきれたものを感じる。 何を書くかが決まれば、あとはどう書くか。 「どう書くかなんて、そいつの人生が決めるのさ、 じぶんでないものなんて、書けるわけがないだろう」 読み終わったあと、3人でありながら1人とも思える男たちが そう笑って、フルートグラスを「チン」と打ち合わせる。

もっと、廊下をつなげて部屋をひろげることもできる。 登場人物をふやして、食卓をにぎわせることも。 だけどそうしたら、忘れられる言葉もあるだろう。 恋人モリーが3人にとって、忘れられないファム・ファタルで あったように、マキューアンは言葉を削り凝縮することで 忘れられない作家になる。 マキューアンは、オクスフォードに住む作家は、 誰にも忘れて欲しくないのだ。 かすかな癖の残像まで、鮮明に。(マーズ)


『アムステルダム』 著者:イアン・マキューアン / 出版社:新潮社クレスト・ブックス

お天気猫や

-- 2001年01月12日(金) --

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☆『大菩薩峠』の作者は?

昨年11月に横浜の大仏次郎(おさらぎ じろう)館に行った。 大仏次郎といっても、名前を知っているくらいで それほどの興味も無かったのだが。 しかし、この大仏次郎館に行ってから、 いろいろな意味で親しみを感じるようになっている。

この時、同行の師に 「大仏次郎って、『大菩薩峠』を書いた人ですよね?」 ときっぱりと尋ねると、師も最初は違うよと言っていたのだが、 だんだんと「何だか、そんな気がしてきたなあ」と曖昧になってくる。 大仏次郎の本は読んだことが無い。 もちろん『大菩薩峠』も読んだことは無い。 しかしそれでも『大菩薩峠』が大作である事は知っている。 だが、その大作が大仏次郎の年譜・作品集の どこを見ても載ってないのである。 私があまりにも確固とした口調で言ってしまっていたのか、 師もその雰囲気につられてしまい「大仏次郎しか思い浮かばないなあ」と、 大仏次郎じゃないような気もするが、 彼以外には作者が思い当たらないというのである。

わからないまま、師と別れ、 宿泊先の友人宅で「『大菩薩峠』を作者は?」と問うと、 友人Iは「大仏次郎でしょ?」と即答。 ・・・。 電話でマーズに同じ事を聞いてみても 「大仏次郎じゃないの?」 その時ランチをご一緒した猫やのお友達Kさんに聞いても 「大仏次郎じゃないですか?」

答えはマーズが調べてくれた。 「大菩薩峠」の作者は中里介山(なかざと かいざん) 私とマーズの付き合いは長いから お互いに誤解を助長しあっていた可能性もあるが、 生まれも育ちも違うIやKさんも同じ勘違いをしていたのが、 おもしろくもあり、不思議でもあった。

その後のマーズの見解では、 菩薩から大仏への無意識の連想じゃないかと。 うーん、そうなんだろうか。 だとすると、 人間というのは結構シンプルな発想で分かりやすいよね。 どうなんでしょうね、Kさん?

追記; 大仏次郎(と特にその妻)は猫好きであったようで、 館内には大仏次郎の遺品である猫の置物がたくさん飾られていた。 売店ではその猫の置物の絵葉書や、 大仏次郎愛用の手あぶり猫のレプリカも売られていた。 大仏次郎館の周辺では ヘミングウエイハウスのように(行った事はないが)、 たくさんの猫達がくつろいでいた。

そんなこんなの理由で、 今は大仏次郎に親しみを感じるようになっている。(シィアル)


中里介山(1883-1944):「大菩薩峠」 出版社:ちくま文庫
大仏次郎(1897-1973):「天皇の世紀」 出版社:朝日新聞社

お天気猫や

-- 2001年01月11日(木) --

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☆児童書の翻訳

子供のころからなじみのある名作翻訳児童書は 単なる邦訳を超えて、 独自の日本語世界を構築していた。 つまり、翻訳者(とその弟子)はネーミングのセンスを、 それもかなりいい感じのセンスを 持っていたといえるのではないだろうか。 同じ翻訳でも分野がちがえば、力点のおきどころもちがう。 その国の社会背景であったり、日常のこまごまとした習慣で あったり、学術的な専門用語であったりなのだろうけど、 児童書においては、ことばが単純なだけに 主人公や脇役たちの"確固たる"名前が大切になってくる。 名前はアイデンティティーそのものといっていい。

たとえば、ムーミン。 「おさびし山」や「ニョロニョロ」といった 他にいいようがないと思わされる固有名詞。 フィンランド語は調べてないが、 英語ではおさびし山がLonely Mountain, ニョロニョロはHattifattenersというそうだ。 どうしてもただの「さびしい山」じゃものたりない。 そう思わせることができるということは、 原作に対して対等に名前の載る翻訳者の仕事の 醍醐味なのだろう。 (話がずれるが、アニメのムーミンで、 そこはかとない寂寥感をあおっているのは ムーミンたちが歩くときにきこえる キュキュキュキュゥという効果音だと思う。 あれはだれが考えたのかと感心する)

さて、ネバーエンディングストーリーこと 『はてしない物語』はどうか。 The Childlike Empressというのが 「幼なごころの君」でなくて、もしも 分別くさい名前、あるいはカタカナそのままだったら? 映画のタミー・ストロナッハはあんなにも 可憐に見えただろうか?

原作のふんいきを損なう、とか そのままの言葉で伝えたい、というのは わかるけれど、作者が細部に関与できるのは 母国語だけのはなし。 (もちろん著作権に関わるような変更は 許されないとして) それだけじゃ世界じゅうの人気者にはなれない。

だから翻訳者には、 名づける権利と義務がある。 「新しい名前」を。(マーズ)

お天気猫や

-- 2001年01月10日(水) --

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『茨姫はたたかう』

これもタイトルでちょっと躊躇していまして。 24才で鮎川賞鮮烈デヴューした気鋭の推理作家、 近藤史恵さんの文庫書き下ろしミステリなのですが、 現代的なサイコテーマも得意な近藤さんのこと、 タイトルの『茨姫』が昨今流行の心理学的な型だったら あんまり読みたくないなーと思いつつ、 しかしシリーズ前作『カナリアは眠れない』で登場した 心の歪みもピタリと判る無茶苦茶腕の良い整体の先生、 一見変なおっさんだけど自然体な合田力先生が なかなか気に入ったのでやっぱり読んでみました。

事情があって一人暮らしを始めた真面目で保守的な主人公は 執拗に彼女の郵便物を調べるストーカーに怯えます。 でも価値観の違う友達や力先生達に出会った彼女は決心します。 相手は自分の事を王子様だと思っているかもしれないが、 こっちの意志を無視して一方的にキスしようとするような輩は はったおす。
えい、えい、おー。

TVの2時間のサスペンスドラマ枠も 事件をおっかける女性達が名所で温泉に入って 連続殺人犯が崖っぷちで延々自白するような話ばっかりじゃなくて こういった作品を丁寧に映像化すれば、 現代的でなお古風な若者達の 感じのいいミステリードラマが作れるのに。(ナルシア)


『茨姫はたたかう』 著者:近藤史恵 / 出版社:祥伝社

お天気猫や

-- 2001年01月09日(火) --

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『キリンと暮らす、クジラと眠る』

ミヒャエル・ゾーヴァの挿絵にひかれて 買ったこの本の帯には、 「ひとと動物たちとのパートナー学」と 書かれている。 一見とても穏当な本に見える。 もしもあの動物が…だったら、というのが ハッケの縦横ナナメな発想のもとになっているようで、 実際はキツイユーモアも混じっている。 だからわざと表紙でたばかっているのだろう。

たとえば、日本は他の野蛮な国と一緒に いつの日か宇宙からやってきた巨大な白い マッコウクジラによって罰を与えられ、 地球から食いちぎられ飲み込まれてしまう、 などといわれているし。

ニワトリの悲劇には、つい 映画『チキン・ラン』を思ってしまった。 (なぜ日本ではこれを2度ずつ言わねばならないんだろう)

ハッケの発想には明らかにクリティカルシンキング の傾向がある。 だから、ものごとを縦横ナナメに 考えたい人には、特におすすめ。 あと、困った親を笑える強い人にも。

親類の葬儀で会った赤面症の中年男性に、 わが母親は大まじめにこう言い放った。 「あなた、顔がえらく赤いですけど、 何かにかぶれたんですか?」(マーズ)


『キリンと暮らす、クジラと眠る』著者:アクセル・ハッケ作 ミヒャエル・ゾーヴァ絵 / 出版社:講談社

お天気猫や

-- 2001年01月08日(月) --

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『FAST FLOWER ARRANGING』

フラワーアレンジメントの本です。 初心者向け(First)の本だと思って買ったら、 よく見るとすばやくできる(Fast)お花の本でした。 でも、初心者でも簡単にできるアレンジメント集です。 去年の12月にあったNHK・BSのフラワーアレンジメントの 特集の番組を見たときも思ったのですが、 外国のアレンジでは果物を大胆に使っていて ほんとうに驚かされます。 このアレンジメントの本でも、 くり抜いたスイカの器にキャベツ (ornamental cabbege;装飾用のキャベツ、ハボタンみたいな感じ) を飾ったり、棒にさしたオレンジやリンゴなどを使ったり、 発想がとても自由で楽しいです。 でもちょっと、変です。キャベツ、スイカ系のアレンジは。

日本人にも素敵と思えるアイデア(笑)
・ガラスの花瓶に白い貝をたくさん入れて  真っ白なお花を飾る。
・花瓶を黄色いラフィアでぐるぐる巻きにして  ひまわりの花を飾る。
・ガラスの花瓶を真っ赤なチェリーで満たし  お花を飾る。(でも、もったいなくて真似できません…)   e.t.c.

他にも簡単かつ驚き満載の いろいろなアレンジメントのアイデアがあります。 写真もきれいなので、見ているだけでも楽しいです。(シィアル)

追記:
amazon.co.jpで注文しました。 でも11月中旬にamazon.co.ukで注文した本の一部が未着なので、 ちょっと憂鬱です。


『FAST FLOWER ARRANGING』 著者:JANE PACKER / 出版社:DK PUBLISHING, INC.

お天気猫や

-- 2001年01月06日(土) --

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『人類の子供たち』

あのP・D・ジェイムズが書いたSF、 というだけで異常なまでのわくわく感を覚え、 持って帰って読み始めるまでの時間がとても 長く感じられた。

読み始めると、やはりジェイムズ。 あえてSFと呼ぶといわざるを得ないだけで、 やはり英国の重鎮ミステリなのであった。

SFというジャンルにカテゴライズされる理由は、 人類が不妊になり、4半世紀が過ぎた2021年が舞台に 設定されているからで、ジェイムズはジェイムズ。 ただ、いつものシリーズと比べると、心理描写の 濃厚な、まとわりつくような重みが多少薄いようにも思える。 お得意の厭世観たっぷりのエピソードには事欠かないが。 自分が年をとって感じ方が変わったのもあるのだろうか。

もちろん舞台は英国で。 女性たちもやはり元気。 探偵ものと違うのは、 おなじみのダルグリッシュが出てこないこと、 「誰が殺したのか」がないこと。 やはり殺人は起こる(私の意に反して)…。

内容に言及するとネタバレになりかねないので 遠慮するが、 次世代の子供が生まれないと、もう文化遺産にも 価値がなくなるし王室も消滅しているという皮肉に 英国の午後の光を見る思いがする。(マーズ)


『人類の子供たち』 著者:P・D・ジェイムズ / 出版社:ハヤカワ文庫

お天気猫や

-- 2001年01月05日(金) --

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『ハムレット狂詩曲』

華麗にして残酷なお伽噺めいたミステリで名高い 服部まゆみさんの今回のお話は。

年若い王子は、彼の実の父である前国王を暗殺し 王位と王妃を奪った叔父に復讐しようとしますが──

なんだか聞いた事がある? それはそうです、これはこういうお話を上演する劇団が舞台。 主人公は英国籍を持つ日本人、高名なシェイクスピア劇演出家。 彼は日本の劇団のこけら落としの公演で 『ハムレット』を演出するために日本に招かれます。 しかし、彼が心に秘めた目的はかって彼と母を捨てた 実の父親である歌舞伎役者を殺して復讐を果たす事。 果たして彼は公演までの舞台稽古の間に 目的を果たす事ができるのか?

復讐心に燃えながらも舞台そのものにも 引き込まれていく演出家の語りと、 もう一方で心ならずも大役ハムレットをあてられて 呆然としながらも成長していく青年との交互の語りで、 旧くて新しい『ハムレット』が意外にも爽やかに 私達の前で演じられます。 主要な役者陣が歌舞伎界からの参加という設定も 字義通り──舞台に華を添えています。

『ハムレット』そのものを知らなくても サスペンスは楽しめるとはいうものの、 やはり知って読むほうがはるかに場面が良く分るし、 何と言っても登場人物達の演劇談義が 具体的に楽しめるので、機会がありましたら 本家の方も御覧下さい。(ナルシア)


『ハムレット狂詩曲(ラプソディー)』 著者:服部まゆみ / 出版社:光文社文庫

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