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夢の図書館新館

お天気猫や

-- 2000年12月29日(金) --

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☆年末年始のお休み

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12月29日から1月4日まで、 夢の図書館お休みします。

皆様、来る年もよろしく おつきあいくださいませ。

お天気猫や

-- 2000年12月28日(木) --

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『現代〈死語〉ノート』

ついに激動の20世紀も残り僅か、 連日TVや新聞雑誌等では数々の出来事を並べて 今世紀を回顧しています。 政治事件で振り返る20世紀、科学技術で振り返る20世紀、 音楽で振り返る20世紀、ファッションで振り返る20世紀。

一世紀には半分ばかり足りませんが、 戦後50年を一世を風靡した流行り言葉で振り返る、 というのはどうでしょう。 小林信彦さんの「現代〈死語〉ノート」に載せられた死語の定義は 流行語の中でも消費しつくされたあげく闇に消えていく言葉です。 「一億総懺悔」(昭和二十年)から 「カリスマ店員」(平成十一年)まで、 「いくつ覚えているか?」と言われても困るけど、 「いくつ知っているか?」と言われると殆ど何かで読んだ事がある。 言葉としては残っていても、その現象はその時代のものであり、 流行りの発生源とその流行り具合を教えて貰うと なるほどなるほど、と当時の空気が見えるわけです。 しかし平成三年最大の死語が「ソ連」というのは笑いました、 確かにいまだに言っちゃいますよ。

それにしても面白いのは「完全な死語」と断定された言葉が一部、 最近妙に多用されている気がする事です。 口に出してはさすがに言えない。音として聞く事はまずない。 それならどこで使われているのか? ここです。 「昔流行った言葉」という意識が加わわっているので 発生時とはニュアンスは違ってきていますが、 消費の果てに消え去った死語の脱力具合が 非戦闘的な雰囲気を醸し出すためか、軽い読み物や 話し言葉以上、書き言葉未満のインターネットの書き込みに 向いているようです。(ナルシア)


『現代〈死語〉ノート』 『現代〈死語〉ノート2』 著者:小林信彦 / 出版社:岩波新書

お天気猫や

-- 2000年12月27日(水) --

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『ショパンに飽きたら、ミステリー』

うーん、ショパンとミステリーかあ。 なんだかツキすぎているなあ、と見送った覚えのある 老舗ミステリ雑誌「EQ」に連載されていたピアニストの ミステリ・エッセイ、文庫になったので読んでみました。

「コンサート前の演奏者はほとんど完全犯罪を目論む 殺人者の気分」と言う著者の青柳いづみこさんは ドヴュッシーと世紀末デカダンスの耽美な関係を研究している方で、 おまけに「怪奇小説傑作編」フランス編の翻訳もされた 骨董趣味人でもある仏文学者青柳瑞穂のお孫さん。 誰がこのタイトルつけたの、 ちっともショパンじゃないじゃないですか(笑)。

何事においても専門家のかなしさ、音楽ミステリは 「そんな事あるかい」といったような細部が目について 苦手と言いつつやっぱり興味はミステリにおける音楽関係。 「失恋を癒すためにピアノを奏でる神津恭介は やっぱりプロではない」 「ショパン・コンクール出身のシンクレアは 何でショパンを弾かないのだ?」 古き良き昔の探偵小説が主に取り上げられているのも クラッシックに似合いです。 しかしなにより音楽の演奏というのはいわば非日常の局限状態、 被害者や探偵よりも犯人達の心理に一番感情移入できるのって、 ‥‥やっぱりアヤシいですよ青柳さん(笑)。(ナルシア)


『ショパンに飽きたら、ミステリー』 著者:青柳いづみこ / 出版社:創元ライブラリ

お天気猫や

-- 2000年12月26日(火) --

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☆『茶の葉言の葉』

これは、京都の老舗茶処、一保堂さんの お店にあるお茶のリーフレット。

20cm*10cmくらいの細長い縦形で、表に季節の花の絵、 裏にはお茶にまつわるあれやこれやが 楽しく記されている。

無料の販促ツールでありながら、 何十枚か番号通りに束ねたものも用意されていて、 さながらお茶の本をもらったようなうれしさ。 こんなにたくさんもらっていいのだろうか? と気になりつつも、束でもらってきてしまった。 素材にこだわるお客さんの仕事をしているとき、 ついつい出してきて読んでいる。 もっとやさしい気持ちで書かなければ、と思いながら。

こういう場合、店主が原稿を書いていたり 適当にワープロやパソコンで作ってしまうことも 多いけれど、きちんとプロのコピーライターや デザイナー、イラストレーター(あるいは販促の プロも加わって)の力を集めて仕上げられた、 一服の銘茶のごとき、ひとつづり。

お客さんにお茶を売るのがお茶やさんの仕事。 それは、どんなお茶やさんだってやっていること。 そして、お茶の世界の奥深さ、 お茶のある暮らしの楽しみを やさしくしかもお洒落に教え広めるのは、 余裕を見せることの許される老舗の 果たすべき役割でもある。(マーズ)


『茶の葉言の葉』 / 発行:一保堂茶舗

お天気猫や

-- 2000年12月24日(日) --

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『アンのクリスマス』

『赤毛のアン』の作者、L・M・モンゴメリが 雑誌などに発表したまま忘れられていた作品の なかから、クリスマスと新年をテーマにして 再び編まれた小品集。 発表されたのは19世紀末から20世紀初頭という。

なぜこの本が暮らしの手帖社から出ているのか モンゴメリの翻訳本をほとんど持っている(はず) 私にもわからないが、発行は平成8年。

アンのファンでなくても、 当時、クリスマスにはどんなものを 食べていたのか、どんな習慣があったのか、 知りたい向きにもおすすめ。 (ミンスパイはよくでてくる。)

表題がアンとなっているのは、 クリスマスの朝、アンがマシューにもらった あの「膨らんだ袖」のエピソードや、 中学校で教えていた頃の同僚、カザリン・ブルック (この本ではキャサリン)をグリーン・ゲイブルズに 招待するエピソードが入っているから。


『アンのクリスマス』 著者:L・M・モンゴメリ / 出版社:暮らしの手帖社

お天気猫や

-- 2000年12月22日(金) --

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『クリスマスってなあに』

おそらく、日本人のほとんどは クリスマスイブに、どういう物語が 起こった(とされている)のか、 きちんと筋立てて説明できない。 私だってそうである。 だいたい、異文化に溶け込んでしまった 日本でのクリスマスは、 もう本来の主役、キリストの誕生祭は遠のいているし。 個人的には、冬至とほぼ重なるので、 冬の長い夜に別れを告げ、春を迎える 一足はやいお祭りのようにとらえている。

それはさておき。 ブルーナは、あのミフィーちゃんのイラストレーター。 ひとつ、ちゃんとしたクリスマスの物語を描いた絵本が ほしいと思っていて、あの絵でどうやって聖夜を 描くのかと思い、立ち読みして手に入れた。

絵も文章もブルーナによる絵本なので、 ただストーリーを追うだけではない詩心も 随所にあって、複雑な場面でもあのシンプルな 絵でちゃんと納得できてしまうのが不思議。

さいしょに、御子の誕生を告げる天使が 星になってあらわれたのは誰のところだったでしょう? そう、みんなが眠っているときに起きているのは、 ひつじの番をしているひつじ飼いたち。 夜おそくまで起きていると、 よいこともある?(マーズ)


『クリスマスってなあに』 著者:ディック・ブルーナ ふなざきやすこ訳 / 出版社:講談社

お天気猫や

-- 2000年12月21日(木) --

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『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』

ゆかいなゆうびんやさんシリーズの 楽しいクリスマス道中。 普通の本と大きくちがうのは、 ごぞんじ、見開きの片方にある封筒型のポケットに それぞれ入っている、 凝りに凝った別刷りの手紙類。

私がこの本を買ったとき、 手紙の一通が、床に落ちていた。 なんというアンラッキー。 戻そうにも、どの本から出たのかは 1冊ごとに1ページずつ調べなければわからない。 思わず自分の持っていた本をチェックして レジへと向かったのだった。

しょうがパン坊やは おもちゃ町、小指通り、ビスケット箱に 住んでいて、ゆうびんやさんは届けたお礼に クリスマスのミンスパイを24個も!食べちゃった。 でも、ちっちゃいミンスパイだからだいじょうぶ。 坊やは手紙を読みながら、 小さなバケツにお茶を入れて飲みました。(マーズ)


『ゆかいなゆうびんやさんのクリスマス』 著者:ジャネット&アラン・アルバーグ / 出版社:文化出版局

お天気猫や

-- 2000年12月20日(水) --

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『天使の囀り』

クリスマスにふさわしく天使のお話、という訳ではありません。 あのショッキング・ホラー「黒い家」で大ブレイクし、 一作ごとに手法を変えてその技量が高く評価されている 貴志祐介氏のホラーサスペンス、 以前から文庫になるのを楽しみにしていたんです。

少し読み進めばだいたいの話の展開、 登場人物の役割とその運命が分かってしまうので 内容紹介は割愛しましょう。 しかし、その定番的作りが興を削ぐどころか 「くるぞくるぞ」というあのぞくぞく感を煽るのです。 ホラーやファンタジー、ミステリー等のエンターテイメント作品は アイディアは良くても文章がこなれていなくてひっかかったり 展開に無理があったりする事もしばしばですが、 貴志氏に関してはそういった瑕がありません。 作家になる以前に社会で培った人間観察の目と 小説の技巧が作品中に存分に生かされていて、 とても丁寧に仕上げられた土台の上で 思う存分転げ回れ(笑)ます。 ただ、生理的に気持ち悪いモノが嫌いな人だけは やめたほうがいいですね(あたりまえです、ホラーだもの)

私達が直接耳にするわけではありませんが、 全編の基調音となるのは天使の羽音。 主人公達の雑談で「天使は猛禽類だ」 というくだりが印象的です。 天使の絵を描こうとしたことのある人は 皆納得できると思うのですが、人間の身体を持つ天使を 支えるには、鷲・鷹類の分厚い翼でないと似合わないんですよね。 そして神の志を実践する天使にとっては 人間の意志なんてどうでもよいものなのではないか──(ナルシア)


『天使の囀り』 著者:貴志祐介 / 出版社:角川ホラ−文庫

お天気猫や

-- 2000年12月19日(火) --

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☆辞書を引く。

向田邦子さんのエッセイ集は昔っから実家にもあるのですが 本自体の保存状態はどうせ同じくらいだろうと思って ちょっと思い立って古本屋さんの 100円文庫コーナーで買ってきました。 二冊めのエッセイ集「眠る盃」には あちこちの雑誌から依頼された、普段あまり本を 読まないような女性層に向けた随筆も載せられています。 二十年前赤ちゃん雑誌に掲載された「国語辞典」という小文は 辞書というのはとても面白くて、 一生使える本だからお買得です、 辞書を引いている母親の姿は美しいものだし、 子供にとって「教育」になる、という辞書の薦めです。 ワープロの出す漢字のどれが正しいのか確信が持てず 片時も辞書が手放せない今の私達と違って、 当時忙しいお母さん達はいちいち辞書なんか 引かなかったのでしょう。

そして。
次のページをあけたとたん。 なんと、それまで何ひとつ書き込みされていなかった古本に、 いきなり怒涛の書き込みがなされていたのです。 印刷の余白に鉛筆書きで 「夜さり‥夜。晩」とか 「昂揚(こうよう)‥精神や気分が高まる事」とか 辞書で調べた意味が書き出され、 本文中には鉛筆で熟語を丸で囲んで 「潔さ/いさぎよさ」などと振り仮名が振ってあります。 まるで学生時代の外国語テキスト状態。 この本の持主だった方は 最前の向田さんの「辞書を引きましょう」の 文章を読んでさっそく実行したのですね。 丁寧な書き込みは小さな文字なので、 さほど年配の人ではないのでしょう。 「抽斗」は丸で囲ってあるものの振り仮名がありません。 他の読めなかった丸は振り仮名が振ってあるのですから、 これは家族に聞いても分からなかったものでしょう。 「ひきだし」ですよおかあさん、と見も知らぬ 本の持主に向かって呼びかけてしまいました。

しかしこの美しい努力も、わずか3ページで挫折したようで、 次の話にはもう書き込みはされていませんでした。 あとは思い出したようときおり振り仮名が振ってある程度です。

私は本に余分の文字や記号を書き加える事が出来ない質ですが、 この人は、許す。(ナルシア)


『眠る盃』 著者:向田邦子 / 出版社:講談社文庫

お天気猫や

-- 2000年12月18日(月) --

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『植物一日一題』

「昭和21年8月17日より稿し初め、 一日に必ず一題を草し、 これを百日欠かさず連綿として続け、 終に百日目に百題を了えた。」

この本の序文に、日本の植物分類学の父・ 牧野富太郎博士は記している。 文字通りこの本は、植物にまつわる古今東西の 記録でもあり、明治を生きた学者が いかに博学であったかの記録でもある。

惜しむらくは、文章として読めば 博士が植物画にこめたようないきいきとした光には 及ばないかもしれないが、 しかしそれがなんだろう。

そういう気持ちになれる面白さがあって、 やがて博士の教えを直接受けているかのごとく、 読むものを魅了してゆくのだろう。

幕末、文久2年土佐に生まれ、 90代なかばにして他界するまで 生涯のほとんどを、植物への飽くなき興味とともに 過ごした牧野博士。 自分の生きる道を早々に決め、 それを死ぬまで貫くという人生だった。

そういえばこの日記もそろそろ百日に さしかかろうとしているのではないか?(マーズ)


『植物一日一題』 著者:牧野富太郎 / 出版社:博品社

お天気猫や

-- 2000年12月16日(土) --

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『人はなぜエセ科学に騙されるのか・下』

日本の子供達の科学離れが大問題になっていますね。 世界に誇る技術立国ニッポンの将来が危うい。 若者の理数離れはアメリカも深刻で、 どうやら生活が裕福になると人々は それまでの生活を豊かにしてくれた科学に興味を失うようです。 (セーガン博士は天才はいっぱいいるけれど学生達の理数系の 平均点が低いのを嘆き、平均点の高い日本を羨んでいますが、 平均点が良いだけの日本は天才の出るアメリカを羨んでます) 発達した科学が生み出す破壊的で冒涜的な産物のイメージが 科学主義に一般人の反感を覚えさせているのも 大きな要因でしょう。 科学者達の中には背徳的な研究という印象に 肩身の狭い思いをしている人も多い事と思われます。

でも。
核兵器開発の加熱する冷戦時──人類絶滅前夜、 科学的手法で導き出した「核の冬」の黙示録的ビジョンを打ち出し 権力と手を携えた科学者を断罪したセーガン博士は 一般の人が科学的思考を身につける必要性を力を込めて語ります。

科学的に考える事、というのは文字を知る事と同じで 個人が自分に利益を与え自分の身を護るために 絶対に必要な技術であり武器なのだから。 全ての子供達に、身近なところから科学する心を 育ませてやらなければ。 ロウソクを持たない暗闇の中の人々は 正体の判らないものの気配に怯え、他人から搾取され、 生涯目の前にある美しいものを見る事がかなわないのですから。

1996年12月、 宇宙を愛し地球を愛し国家を愛した 心正しき科学者は62歳で亡くなり、 このエッセイ集は博士の遺書となりました。(ナルシア)


『人はなぜエセ科学に騙されるのか・下』 著者:カール・セーガン / 出版社:新潮文庫

お天気猫や

-- 2000年12月15日(金) --

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『人はなぜエセ科学に騙されるのか・上』

新刊時のタイトルは 「カール・セーガン 科学と悪霊を語る」。

「上巻」では地球外生命との真の「コンタクト」を 切望する我らが宇宙科学者セーガン博士が、 地上に蔓延る「ワタシは宇宙人に誘拐された!」 「◯◯に救世主の顔が!」といった いわゆるタブロイドネタから偽宗教まで、 アヤシい主張を真っ向から「憑き物落とし」してゆきます。 痛快痛快、しかし、トーンは恐ろしく深刻、 悲壮感すら感じられる決死の作業です。 中世「悪霊」として跋扈した邪悪なモノどもは 現代アメリカでは「宇宙人」の姿となって 現実に多くの人々を苦しめ続けているのです。 キリスト教の文化的土台が無く、失った記憶を引出す と言われる「セラピー」が一般的でない日本では、 「宇宙人」はさして暴挙に及んではいないものの、 かわりに水子だの霊障だのが跳梁していますから 暗黒度に違いはありません。

結局一つの超常現象を理屈で解明しても駄目なんです。 人は次の不思議を自ら渇望し、必ず信じる。 だからひとり一人が「科学的思考」という ロウソクを手にして自分の周りを照らしてみよう── 原題は「悪霊に憑かれた世界 暗闇を照らすロウソクとしての科学」。(ナルシア)


『人はなぜエセ科学に騙されるのか・上』 著者:カール・セーガン / 出版社:新潮文庫

お天気猫や

-- 2000年12月14日(木) --

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『ユング』

無意識界の探究者ユング。 力強く父性を強調するフロイトに比べて 内向的で東洋思想に親和性があって そのうえ神秘的なイメージのあるユングは、 現代日本では専門の研究家以外にも 心理療法に興味を持つ人々から オカルトファンに至るまで、幅広い人気を得ています。

ユングが長らくその業績を過小評価されていたのは 袂を分ったユングの事を快く思わなかった フロイトの弟子達の高圧的な態度もあったのでしょうが、 まずなんといっても文章の上手なフロイトに比べて ユングの著作が「何が言いたいのかわからない」、 表現の仕方がひどく下手だったから、 というくだりが納得です。 たしかにフロイト自らの手になる入門書は 私達全くの門外漢でも興味深く読めますが、 ユング本人の思考はその道の研究者に解説してもらうか、 誤解を覚悟で具体的な例を持ち出して貰わないと 素人にはまるきり意味不明(笑)。 ユング派は「無意識」の表現するものを 表層的に理解する事を怖れてパターン化する事を避けるので、 なかなか面白い「読み物」は出来ないという事情もありそうです。 つまるところ「言葉では表現できない」世界なのですから。

著者のストー自身はユング派ではないそうで、 ユングその人を外側から捉え、 高く評価されるべき思想、発展性の大きい部分、 逆に共感できない部分、不必要な部分などを示して その思想を外部の者にも理解しやすいように 要領良く紹介しています。 本邦ユング派のさきがけであり 夢による心理療法の第一人者である 訳者の河合隼雄先生も、親切な注釈を加えたうえで、 公正な立場で上手くまとめてあると太鼓版。(ナルシア)


『ユング』 著者:A・ストー / 出版社:岩波現代文庫

お天気猫や

-- 2000年12月13日(水) --

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『私のしあわせ図鑑』

まず、津田直美さんの “現在の幸せ”(くわしくは本をごらんください)に 「よかったね!!」とつぶやきながら。

今回のテーマは、 津田さんが集めてきたテディベアや 缶々やら、包み紙やら エフェメラ類(何かの切符やなんか)の 詳細なスケッチと 少し哲学的なポイントもおさえた いつもの手書の文章。

そして、旅先で出会った 忘れがたい人、彼女の人生のページを やさしくめくってくれた 一期一会の人々もそこにいる。

いわずもがなのことだけど、 水彩絵の具でていねいに 描きこまれた愛するもの達は 読んでいる手でついふれてしまうほど 癒すちからを持っていて。

どうして自分は小さなかわいいものを コレクションするのが好きなのか、 屁理屈などといいながら、 津田さんは見事に分析していた。

そんな小さかった日々のことを 今もはっきりと思い出せる人と、 未来のことを考えて生きる人と、 人間にはふた通りあるのだと 聞いたことがある。(マーズ)


『私のしあわせ図鑑』(たまてばこ篇) 著者:津田直美 / 出版社:中央公論新社

お天気猫や

-- 2000年12月12日(火) --

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『茶の本』

全然知らないはずの その人の人生にかつて訪れた、 なにがしかの光やら影やら。

この本を読んだのには理由がある。 数寄屋建築の資料を仕事で読み、それが きっかけで、岡倉天心という、有名なわりに よく知らない人物が英文で書いた「茶の本」に ゆきあたったのだった。 今回読んだのは文庫で、英文と邦訳が半分ずつ。

読みたかったのは数寄屋についての 天心の見解だったのだが、 「花」についての章が尋常でなくすばらしかった。 花の感受性が乗り移ったかのように 飛躍する思考の雲。

「花がなくては死ぬこともできない。」
たしかに。真理である。

茶道とは宗教、そう位置付ける潔さがここちよい。 「まことに不思議なことに、かくも相隔たった東西の 人情は茶碗の中で出会っている。東西を問わず 重んぜられているのは茶道というアジアの儀式 だけなのである」(文中より)

日本という国の背後にあって 底流のように流れてきた 茶人の提示する理想世界。 そういう世界のあることを 知らずに日本を語るのは、 マンガ文化を知らずに 日本を語るに等しい。

明治時代末期に米国で書かれた。 原題は "THE BOOK OF TEA"、 翻訳は桶谷秀昭。(マーズ)


『茶の本』(英文収録) 著者:岡倉天心 / 出版社:講談社学術文庫

お天気猫や

-- 2000年12月11日(月) --

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☆ ムーミンとわたし

小学校の図書室には、なぜだかムーミンのマンガがあった。 でもそれは、TVアニメのムーミンとは違い、 小学生にとっては、シリアスな代物で、 おまけに、なんとなく、グロテスクな印象のマンガだった。

大人になってから、 そのマンガが懐かしくなり探してみたが、 絵本やアニメマンガならばあったが、 図書館で見た、色あせた記憶の中の、あの本は見つからなかった。 トーベ・ヤンソンの小説(あるいムーミンの原作)のあとがきに、 新聞紙上で弟と共作で、大人向きのムーミンのマンガを連載していた という事を書いてあるのを読んで、 やっと初めて、 あの頃自分の読んだもの、探していたものが分かったのだが、 それでも、その本自体を見つけることはできなかった。 よっぽど、卒業した小学校に聞きに行こうかと思い迷っている間に、 随分と時間は流れ、そのチャンスさえも失っていた。

今年の夏に、どうやらその本が、出版されたらしい。 こどもの頃読んだそれは、ハードカバーで、 サイズも普通の小説と同じサイズで、マンガのコマ自体も縦組みだった。 新しく出版されたそれは、大判で、コマも横組みで、 随分と立派な本になっている。まるで別の本のようで。 もう、思い出の中の、ざらっとした質感の本ではない。 嬉しいのだけれど、記憶とはかなり違っている。 ふと。 あの本ではなくて、想い出ではなくて、 あの頃の時間そのものを取り戻したいとでも思っていたのだろうか。

もともと、ムーミンの世界は、 何とも言えないせつなさ、悲しさに満ちている。 これも、単に、個人的な記憶がそう思わせるのか。 ムーミンのパペットアニメーションを見たとき、 もう、その時は大人になっていたけれど、 とても悲しくて、悲しくて、 それを見るたびに、わけもなく、 落ち着かない気持ちになってしまうので、 結局、ほとんど、放送を見ることはなかった。

待ちに待ったはずの、 ムーミン・コミックスだが、楽しみに思いながらも、 ほとんど見ることができなかったパペット・アニメーションのように、 ずっと読み返したかったのに、未だ買うことができないでいる。

でもまあ。
そろそろ、サンタクロースにでも頼んでもいいのかもしれない。(シィアル)


『ム−ミン・コミックス』  著者:ト−ベ・ヤンソン / ラルス・ヤンソン / 出版社:筑摩書房
 第1巻 「黄金のしっぽ」
 第2巻 「あこがれの遠い土地」
 第3巻 「ム−ミン、海へいく」
 第4巻 「恋するム−ミン」
 第5巻 「ム−ミン谷のクリスマス」

お天気猫や

-- 2000年12月09日(土) --

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『ミミズクとオリーブ』

芦原すなおさんです。 あの「青春デンデケデケデケ」の。

45才の作家の僕が朝起きてなんとなくごそごそして 原稿も書けないうちに時間はどんどん過ぎ去って 晩ご飯はなにかなー、と今日も終って。 ‥‥と、こうして何にもなくてもそれだけで もう十分面白いという、これは芦原さんならではの 語りの上手さですが、そこに友人がやってきて 奥さんが実に美味しそうな讃岐の郷土料理を並べる。 そのほっとするような料理の描写だけでも 読んだ甲斐があるというもので、 私は解説の加納朋子さんと同じく文中に出て来る 「カマスのさつま」を実際に作って賞味してしまいました。 お酒のあととか寒い日のお昼とかにいいですねえ。 ‥‥と、それだけじゃない。しかもそのうえ 警官である友人の持ち込む話は不思議な事件で、 奥さんはその話を聞いただけで謎をみんな解いてしまう。

なんと芦原さん、ミステリを書いていたのです。 ミステリ的には驚天動地の大トリック、 息詰まるサスペンス──などは特にないのですが、 創元推理の一連の心暖まるミステリ群に また一人お友達になりたい名探偵登場。

タイトルの『ミミズクとオリーブ』は 八王子の奥の古い日本家屋の庭に植えたオリーブに (ほら讃岐の人だから小豆島のオリーブ) なついたミミズクが山から飛んで来て 和服に割烹着の奥さんに餌を貰う。 その光景が、ギリシャ神話の知の女神アテナの 肖像のようだから。(ナルシア)


『ミミズクとオリーブ』 著者:芦原すなお / 出版社:創元推理文庫

お天気猫や

-- 2000年12月08日(金) --

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『オデュッセイア』

聖書・シェイクスピア・ホメーロス。 西洋絵画、文学いずれの分野でも なにかと出くわすモチーフですから、 いつか読まなきゃいつか読まなきゃと思いつつ、 なんといっても古代の物語です、 さぞかし読み難いだろうといつまでも避け続けて幾年月。 先日「オデュッセイア」の一場面を描いた美しい絵画を見て、 ようやく読む決心をしたら あら──予想に反してやたら読み易いじゃないですか。 子供の頃に家にあった難文は いったい何年前のものだったのやら、 今はすっかり改訂されて拍子抜けするくらいです。 これだったらもっと早く読んでおくんだったなあ。 考えてみたら世界中の学者が徹底的に 研究し続けて来たのですから訳が良く分ってあたりまえ、 それでもわずかにまだ意味不明な部分についても 詳しく注釈がされています。

これまでにいろいろな場面で知ったエピソードが多いし、 古代ギリシャの衣装や風俗も映画や美術、 マンガ等で馴染みが有るので場面を思い描くのはいとも簡単。 ゲーム世代には展開が遅すぎる? 枕詞と繰り返される歓待の場面に慣れればかなり早く進みます。 想像力に自信がある者は試みよ、 楽しめてそのうえ後々の「教養」になって 事有る毎に役立つのだからこれはお得。

有名な海の妖者化物達は「上」の後半で語られ、 「下」で帰郷したオデュッセウスは復讐を果たし 家族と再会します。(ナルシア)


『オデュッセイア上・下』 著者:ホメロス / 出版社:岩波文庫

お天気猫や

-- 2000年12月07日(木) --

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『絵画で読む聖書』

えー、決してこの本を読んで クリスマス気分を盛り上げよう、 などとはなさらないで下さい。 崇高なる神と御子のイメージが ガラガラと崩れますので。

「ゴーマンかましたら、だちかんでなも。天国に行けーせんが」 人々に高尚な言葉で説いても意味が通じないから、 イエスは判り易い地元弁で語った── そ、そうだったんでしょうね、きっと。うん。 (でも名古屋弁でないといかんのか?)

西洋文化を理解するには聖書を知っておかなきゃ、 と思いながらも旧約の神の傲岸、人間の残虐に 人類は三千年経ってもちっとも進歩していないなあと 嫌になる事度々、ならば黙って読んでいないで 中丸さんのごとく妄想をたくましゅうしつつ がんがんツッコミをいれるのが 正しい聖書理解ひいては人間理解の仕方かもしれません。

さてイエス様登場の新訳編では もともとの聖書の記述と記述者達の思惑、 後世の解釈、追加された伝説などが 細かく解説&推理されていて、 私達異教徒がキリスト教に感じる違和感がほぐれて 本来のイエスの物語を身近に感じ取る事が出来ます。

実際気楽に読めて、情報量は多く勉強になる本ですが、 後遺症として困った事に美しい宗教画を見ると 反射的に名古屋弁が頭に渦巻くようになるので(笑)、 やはりクリスマスシーズンは避けた方が良いでしょう。(ナルシア)


『絵画で読む聖書』 著者:中丸明 / 出版社:新潮文庫

お天気猫や

-- 2000年12月06日(水) --

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『ACTUS STYLEBOOK』

「百年分を一時間で」の「PR」の話題のところで あの山本夏彦さんが感心したというPR誌が アクタスの「スタイルブック」。 そうそう。これはよく出来ていますよね。 トレンディードラマの小道具(大道具?)によく採用される お洒落な家具で知られる「アクタス」の 商品写真カタログなんですが、 これが最初から最後までなまじのインテリア雑誌を遥かに上回る 素敵な生活空間満載なのです。

インテリア雑誌って「実際こんな風には住めないよ」と 反感を持ってしまうものも多いのですが、 スタイルブックの写真は吟味された小物、空間、光に囲まれて それぞれの家具がとても気持ちよさそうにしています。 PR誌だから本屋さんには置いていないのですが、 (私はインテリアショップで買いました) もともと広告なので、なんとこの内容でたった350円! 「ACTUS」で検索するとウェッブサイトもみつかります。

やけに誉めるって? 実は恩義があるのですよ。 今私が住んでいる家には馬鹿でかい黒皮のソファがあって それが邪魔でしょうがなかったのです。 で、一方家中で一番陽当たりと景色が良いのに 全然使っていない客間用の表座敷がありまして、 空間的にはそこにソファを持ち込めば解決なのですが、 子供の頃に床の間の神聖さをたたきこまれた私は そんな大それた事が出来なかったのです。 でも「スタイルブック Vol.5」に載っていた 「和室に洋家具」の写真があんまり清々しかったので 思い切ってやってみたところ。 ここにこうして障子越しに色付いた楓を眺めながら 珈琲を楽しめる明るいリビングが出来た次第。

と、いう訳で今回新しい家具は買わなかったけれど これから「スタイルブック」で色々検討してみますので 待っててね、アクタスさん。(ナルシア)


『ACTUS STYLEBOOK』 出版社:ACTUS

お天気猫や

-- 2000年12月05日(火) --

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『誰か「戦前」を知らないか』

私達が教わっている「戦前」のイメージ、 あれはあんまり暗すぎませんか? 実際はもっともっと豊かで普通の暮らしがあったのに。 という訳で戦前を直に生活し、年長者に話を聞いていて、 古本を読んでさらに古い時代まで知っている 大正4年生まれの山本夏彦氏が 戦前の明るい雰囲気を私達の眼前に彷佛をさせようと ‥‥試みたのですが、戦後は言葉が失われているので、 なまなかな事では通じない。

そこで山本さん、自分の会社の入社三年目の 女性編集者をインタヴュアーに、 身の回りのテーマを細かく取り上げて 戦前を掘り下げる問答をしました。 これだと旧い言葉を知らない若い女性に通じる様に 最初から説明しなきゃいけないから、 自然彼女と条件の同じ私達にもよく判る。 またこの編集のお嬢さん、言葉は知らなくとも頭はきれる、 文章だけだと鋭すぎて怖いような山本さんと 息の合った掛け合いで、時に茶菓子を奪い合いながら、 楽しくて勉強になる問答を繰り広げます。

「百年分を一時間で」はこの問答集の後編。 この最後で山本さん、これからインターネットに挑戦して IT革命の本質を見抜いてやる、と広言しております。 乞う御期待。(ナルシア)


『誰か「戦前」を知らないか』 著者:山本夏彦 / 出版社:文芸春秋新書

お天気猫や

-- 2000年12月01日(金) --

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『よくわかる広告業界』

特定の業界のしくみを知るための 本はたくさんある。

あるのだが、その業界に実際いる人よりも 素人が読むだけで全体像をつかんでしまえる本は少ない。 それはやはり、マッキャンエリクソンという 執筆者たちのフィールドもあろうし、 主だった広告会社がどういう組織で 何をめざしているかとか、 外国の広告会社の動きに至っては、 業界人でもあやふやなのではないだろうか。 時代を考えても、そんなこと言ってられないと わかっていながら、広告を世界相手の ビジネスとはとらえていないのが日本人。

ちなみに、マッキャンエリクソンの 99年の日本での実績は、第9位となっている。

少なくても。 東名阪以外の地方で活躍する広告関係者は、 素人にあなどられないために 読んでおくべき本である。

広告業界が当たったから、このシリーズの 他の業界にも潜ってみたくなっている。 大事なことだが、サイズも手ごろだし。(マーズ)


『よくわかる広告業界』 著者:寺田信之介 編著 / 出版社:日本実業出版社

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