日本地図を見ていると、 いつも不思議でならなかったことがある。 どうして四国とオーストラリアはこんなに形が 似ているのだろう? それに、九州とアフリカだって 妙に似ているような気がする。 こんな偶然ってあるのだろうか? 小学生の私は地理の時間になると 地図帳を見てはこの問いを繰り返すのだった。
今でも前をゆく車のスペアタイヤの カバーが世界地図のデサインのだと、 運転しながら、 「あれはここで、あそこの形はこのへんに 似ている。それともあの…」 と飽きもせずやっているのである。
そのことが資料として載っている本があると 教えられ求めたのが本書、神秘学マニア。 著者の20年に及ぶ神秘学研究の集大成というだけあって 世の中の怪奇や不思議についての諸説解説が 洋の東西を問わず、よくもこれだけ、 というくらい詰まっている。
そして、あった。 あの相似形が、ちゃんと世界と日本を対比させて 図解されていたのである。 しかも日本で発表されている。 そうか。やはり富士山はチョモランマでOKか。 イギリスは隠岐である。大陸から果ての島へ移り住んだ ケルト人のことを思う。 地中海は気候が似ているといわれる瀬戸内海。 北海道は北米大陸。
ただ、細かい対比については、 「台湾=南米はちがうんじゃないか」とか 思ってしまう。 いずれにしてもこれが正解という ものはないのだろうし、はたまた何ゆえ こんな相似形を神は創られたのか、 すべてのものごとにはこうした法則があるのでは ないだろうかなどなど、 考え出すときりがないオモシロイ問題なのである。
たとえば、私は誰の相似形なのだろう?(マーズ)
『神秘学マニア』 著者:荒俣 宏 / 出版社:集英社文庫
「エクソシスト」「ローズマリーの赤ちゃん」と並び称される 70年代モダンホラーの古典作品。
といっても超常現象が起り怪物が襲って来る方ではなくて、 現在人気のサイコ・サスペンスの系統です。 ブラッドベリの少年物を思わせる秘密の香りに満ちた、 十三歳の双児の恐ろしい物語。
多くのミステリ作家、少女漫画家に偏愛されたこの作品は、
林檎倉にカーニヴァル、紋章指輪や向日葵などの
美しい田舎の夏の思い出に囲まれて、
半身を追い求める半身、
天使の姿と悪魔の魂を持つ少年の懐かしくて残酷な
──皆さんが夢想する通りの「悪」の世界を繰り広げます。(ナルシア)
『悪を呼ぶ少年』 著者:トマス・トライオン / 出版社:角川文庫
・・・というタイトルではあるが、 成功に関係なく読んでも面白いというか、 世の中の常識を再確認するのにいい。 特に、私のように自宅で仕事しているフリーにとっては 時間の管理って大切なことだ。 そして私のように、自堕落でルーズな時間感覚で 生きている人間、9時5時勤務を放棄している人間には、 これからの仕事を考えるうえでも 避けて通れない問題であったりする。
たとえば、中谷さんは、仕事の締め切りに間に合わないとき、 「もうちょっと待ってください」というのは禁句だという。 そうか。 いついつまで待ってください、ときちんと設定しないと 意味がないのか。ついつい「もうちょっと」と言ってる気がする。
「毎朝決まった時間に起きなさい」 これはこの本じゃなかったかもしれないが、 中谷さんの言葉のなかで、私がここのところ 実行していることだ。 これは正しい。早起きは三文以上の得があると思う。 いちおう何時に寝ても7時に起きるようにしていて、 我ながらたいしたものだと感心する。 二度寝は絶対するなという言いつけも まぁ、守っているつもり。 私には休日と決まった日はないので、この一週間ほどは 7時に起きている。もちろん、眠くないわけじゃない。 私は低血圧だし、夜だって1時より早く寝ることはないから。 しかし、急ぎの仕事や出かける用がないと、 ついつい遅くまで寝ていたりしていたのだけど、 起きてみると起きれるものだ。 実際、9時に起きたりすると、午前中ずっと仕事にならない。
雑用を先に片付けないと、メインの仕事に集中して 取りかかれないし、その方が効率があがるというのも なるほど、である。
長いファクスは最後のページから送ってね。 はい。そうします。これからは。 そういうこと、自分で気づけないのって情けないけど。 いろいろなこと、教えてもらいました。 ああ、自分で気付けよ、と自分を笑う。(マーズ)
『時間に強い人が成功する』 著者:中谷彰宏 / 出版社:PHP文庫
タイトルというのは、なかなか難しい。 確かに、タイトル通りの内容だが、 この本を買うまでに随分と時間がかかった。 書店で、平積みにされているにもかかわらず、 手に取るどころか、絶対買うことのない本として、 私の中ではインプットされていた。 「ステルス艦カニンガム出撃」と言われてもね。 だからといって、原題の 「Choosers of the Slain (屠るべき敵を選ぶ者)」と言われると ますますわけがわからなくなるし。
裏表紙のあらすじというのは、やはり必要で大切なものだ。 派手で、豪快で、スカッとするような何かはないかと、 平台の上の本のあらすじを手当たり次第読み、 数冊を買いあさってきた。 その中の1冊がこの本だった。 2006年という近未来が、舞台となっている。 フォークランド紛争よろしく、南極の利権を巡って、 アルゼンチンとアメリカの一触即発の睨み合いが始まる。 その紛争の解決を任されるのが、ステルス艦カニンガムである。 2006年になると、さらに男女同権が進むのか、 カニンガムの艦長はアマンダ・ギャレット米海軍中佐。 男の世界、海軍にも優れた女性がどんどんと進出している。 迫力ある戦闘、アマンダの活躍、 それプラス、密かやかにゆっくりとした 現在進行形のロマンスがあったりする。 そこのところポイントが高かった。 即、買いである。
『レッド・オクトーバーを追え』(トム・クランシー/文春文庫) のような世界に、 恋愛要素が入ってくるのだから、 抵抗のある人もいるかもしれないが。 でも、単なる「軍事冒険小説」なら、次は買わなかっただろう。 恋の行方も気になるからこそ、 続編「ストームドラゴン作戦」を大急ぎで買ってきたのだ。
私のように、軍事のことが全然わからなくても大丈夫。 親切にも、巻末に、軍事用語の解説一覧がついている。(シィアル)
『ステルス艦カニンガム出撃』 著者:ジェイムズ・H・コッブ / 出版社:文春文庫
紅茶、日本茶、中国茶、ハーブティ。
お茶を楽しむ演出とおいしいいただき方。
最近家で、古い本の発掘をしている。 1990年に初版。 随分前の本となってしまった。 けれど、写真が美しく、 ぱらぱらとめくっているだけで、 幸せな気持ちになる。 どの器もカップも美しくて、 ティーカップひとつ、ポットひとつをとっても隙がない。 ただ美しいだけではなくて、そこには「主義」がある。 これからの価値観。 ゴージャスであることよりも、シンプルであること。 そういうことをそっと教えてくれている気がする。
バブリーだった時代はいつの間にか、 随分前のことになっている。 世の中で大切なのは、「自分自身の価値観」 着るものであろうが、 食べるものであろうが、 小さなカップ一つとっても、 何であろうと、 それは自分を体現する分身という、 素敵なようで、それでいてちょっと困惑してしまう時代でもある。(シィアル)
『TEA<茶>の本−おいしい入れ方とセッティング 』 著者:クニエダヤスエ / 出版社:じゃこめてい出版
法廷物は、映画でも小説でもかなり好きです。 映画になると、「ア・フュー・グッドメン」「将軍の娘」 「GIジェーン」「トップガン」「戦火の勇気」 「英雄の条件(見たかった)」と、 軍隊を舞台にしたものがなぜだか結構好きです。 法廷+軍隊という、好きな要素同士ででき上がっているのが、 この本、「バーニング・ツリー」 さらに、知的な女性が主人公というのが、 私にとってはたまらない。
主人公、クレア・ヘラー・チャップマン。 なかなかクールなことにハーヴァード・ロウ・スクール教授。 夫、トム・チャップマン。 何とびっくり、実は元陸軍特殊部隊“バーニング・ツリー”の隊員。 その夫が、ある日突然逮捕された。 罪状は「87人虐殺容疑」 夫の弁護に立ち上がったクレアに襲い掛かる数々の陰謀。
いかにもハリウッド映画的な話で、面白いです。 (実際、映画化が決まっているそうです。) 登場人物のキャラクターも非常にわかりやすく、 とにかくどんどん進みます。 (悪く言えば、「ステレオタイプ」かもしれないけれど。 私は「ステレオタイプ」というのは、嫌いではないので。。。) 自分の好みのハリウッド(じゃなくてもいいけれど)スターに 置き換えて読むと、さらに面白いので、オススメ。 ちなみに私のキャスティングは… クレアは、メグ・ライアン(ミスマッチなとこがいいんじゃないかと)。 トムは、マイケル・パレかな(彼はB級映画のヒーローだし)。
本の裏表紙のあらすじや帯には、 「全てを覆す呆然の結末」とありますが、 「呆然」とはしないんじゃないかなあ。 うーん、予定された「不調和」とでもいいましょうか。 「なるほどね。やっぱり、最後はそう来ましたか。」という感じで、 むしろ(思った通りで)納得のラストと言えるのでは。
最近、凝っているamzon.comの書評(5つ星)では、 ☆は4・5でした。v(^^)v (シィアル)
『バーニング・ツリー』 著者:ジョセフ・フィンダー / 出版社:新潮文庫
英国ロマンス小説界の女王にして、 デームの爵位を受けたレディ、 バーバラ・カートランド氏が、 2000年5月21日、他界されました。
21歳のデビューから100-2歳の今年まで、 長い作家生活の間ずっと現役で ロマンス小説をものしていたと聞いています。 英国やスコットランドを舞台に、史実を織り交ぜた 冒険心あふれるハッピーエンドの物語は、 つかのま読むものを現実から 解き放つ夢の力を持っていました。 5冊くらいしか読んでいないので そこからすべてを推し量るのは 無謀かもしれませんが、 彼女の小説のヒロインたちは、 なかなかに「計算」のできる可憐な美少女 といえばいいのでしょうか。 持って生まれたお姫様の素質と、 他の女性にない「賢さ」のギャップが、 お相手を夢中にさせてしまうようです。 読む者もまた。
謹んで彼女の魂の安らかならんことを祈ります。
[著者:バ−バラ・カ−トランド/出版社:サンリオ・バ−バラ・カ−トランドロマンス]
・愛の神殿 (2000/09出版)
・海辺のアトリエ (2000/08出版)
・愛の逃避行 (2000/07出版)
・キ−ストン家の女教師 (2000/06出版)
・ナポリからの特使 (2000/05出版)
・ヘイウッド館の天使 (2000/04出版)
・花の都の伯爵 (2000/03出版)
ファッションの華麗な世界の舞台裏。 期待に違わず、さまざまな思惑がうずまき、 出し抜いたり、出し抜かれたり、魑魅魍魎の住む世界。 という、内幕もの(ノンフィクション)であるが、 ファッションに興味がなくとも、この本から得るものは大きい。 トレンド・流行とはいかに創られるのか。 マーケティングやブランディングとは何か。 そこには世の中(市場)の基本的な仕組みが描かれてもいる。
私はこれを読んで、やっと、なぜアルマーニなのか、
アルマーニの価値、その魅力がわかりました。
あと、近頃お気に入りのラルフローレンの何たるかも
よーくわかりました。
久々に、勉強になりました。(シィアル)
→ (2)
『ファッションデザイナー 食うか食われるか』 著者:テリー・エギンス / 出版社:文春文庫
ここでもう一遍、吸血鬼ものの古典とされている「吸血鬼カーミラ」 にも目を向けたい。 この物語の最後に、吸血鬼の特質のひとつがまことしやかに 書かれている。つまり、彼らは手の力が強い、と。 彼らにつかまれたら、並みの人間には太刀打ちできないのだ。 フェル博士ことレクターが、証拠を残したシーンが よみがえるではないか。
そしてもちろん、吸血鬼譚に欠かせないもうひとつの要素、 それはいうまでもなく美女である。 エロティシズムと切り離せないのが吸血鬼ものの設定なのだから。 ストーカーの物語でミナにあたる人物が、クラリスというわけだ。 面白いのは、ハンニバルにおいて、正義は全き悪であるという 設定である。勧善懲悪を、本来悪であるはずのモンスターが 行う面白さ。実際、レクター博士といえば、正当防衛とクラリスを 守る以外に、今回は誰も殺していないという周到さである。 だから、元祖吸血鬼退治をしていたヴァン・ヘルシング教授の 名前の一部である「ヘル」と、レクター博士のイタリア名、 「フェル」が多少似ていても不思議はない。 これは読みすぎだろうか? それに加えて、バルチュスが出てきたり、フェルメールが 出てきたり、現実にある店が登場したり、 遊びの小道具は星のごとくちりばめられている。
また、クラリスに対するレクター博士の反応は、 もう、ファンならずとも手を打って喜ぶシーンの満載である。 最後に登場する「針」こそは、 餌食をとりこにする吸血鬼の牙そのものなのであろう。
そうした設定を下敷きにしながら、かくも人間的な弱さを レクター博士に与え、正義の側に堕落を極めさせた試み。 そうまでして成就させたかった目的。 おそらく、賛否の別れるこの悪趣味なラストまで持ち込まねば、 その目的の成就にリアリティを出せなかったのだろう。 ここで私はラストシーンを先に読むという誘惑に負けたことを 告白する。以上はすべてそのうえでの満足であるということも。
もしこの物語に次があるとすれば、 ハリスはさらにしたたかである。ハリスがというより、クラリスが といったほうがよいのか。 あるいは世代交代して話は進むのかもしれない。 それはさておき。 読み終わったとき、あたかも壮大なオペラハウスの桟敷席に 最初から我々はいたのではないか、と思うのは愉しい。 そう、彼らと一緒に。
今一度、クラリスの胸のうちに湧いた疑問を、 自分自身の疑問として、ここに記そう。
"自分はいったい何者なのだろう? これまでに、だれがいったい自分の価値を認めてくれただろう?"(マーズ)
『ハンニバル』 上・下 著者:トマス・ハリス / 出版社:新潮文庫
さて、いまこの原稿を打っているソフトは、クラリス・ワークスである、 というのはいささか調子に乗りすぎだろうか。
この第三作が、トマス・ハリスの「レクター博士シリーズ」の最高傑作 であることをまず素直に称えたい。 広義のミステリファンにとって、この作品の魅力は、 読むことの快感そのものなのである。 かつて、遠い昔に「戸増張子」などと当て字をして遊んだ 「ブラック・サンデー」の著者が「羊たちの沈黙」で 大ブレイクしたときも喜んだが、「ハンニバル」には まさに作家の黄金時代、脂の乗り切ったゴージャスな 遊び心が感じられる。 アマゾンでは星三つであったが、この困難な課題を、 マントをひるがえして我々に永遠たらしめた 作家の力量に拍手を贈る。
私は確信する。
この話の結末をこそ、ハリスは最初から意図していたのだ。 ハンニバル・レクターという最強の怪物を生み出した時点で 勝算はついていたし、そもそも、本書でも前作でもたびたび クローズアップされるレクター博士とクラリス・スターリングの 出会いから、運命は廻り始めていた。 初めて会った見知らぬ女性に対して、いささか度の過ぎた いたずらをしたからといって、なぜ博士がその男を殺さねば ならなかったか。 その理由を問うとき、少なくても作家の胸に 答えは在ったのだとしか思えないのである。 頭にではなく、胸にである。
では、なにがどう傑作なのか、私なりの解説をこころみよう。 もし時間に余裕があって未読であるなら、 本書を読む前におすすめしたい古典がある。 ブラム・ストーカー作「吸血鬼」。 人類の歴史始まって以来、洋の東西を問わず初めて 共通ヴィジョンを持ちえた怪物として最高位を約束された吸血鬼。 ハリスは、この古典をベースに敷き、その上で登場人物を 躍らせることにしたようだ。 そして、レクター博士をヴァンパイアに見立てることで、 彼を古典的怪物を継ぐ次代の完全なモンスターの地位に 押し上げようとしたし、みずからもパズルの断片をつなぐことに 愉悦のときを過ごしたことだろう。
本書を読み進むうちに、私はかつてのレクター博士の イメージがゆらぐのを感じていた。 これまではなんとなしに映画化されたときの俳優、 アンソニー・ホプキンズで収まっていたものが、 もっとしなやかで美しい、老人とは呼べない「不死の存在」に 変化していったのである。
イタリアでの博士の生活は最初から吸血鬼めいていた。 黒と白に彩られた服装の趣味といい、 どこに住んでもすぐ城なり館なりを入手する手際といい、 大陸を移動することといい、不気味な赤い目といい、 ご丁寧に東欧の貴族の血を引くという事実まで暴露された。 ごく自然に、フィレンツェのお歴々を前にレクチャーする レクター博士のまわりにコウモリを舞い躍らせたあたりで、 疑念は確信に変わったのである。 これが吸血鬼譚であるなら、我々読者はその証拠を探すという 楽しみを、迷いの森の中のパンくずのように与えられたわけである。
吸血鬼とくれば、ニンニクと十字架。打ち込まれる杭。
墓をあばく行為。そして聖水。身長に特徴のある僕。
ニンニクの香りを吸血鬼は嫌うので、魔よけになるといわれる。
レクター博士は知っての通り、臭いフェチであるから、
おぞましい臭いは拷問にほかならない。
十字架と杭に関しては佳境で登場するのでここには書かないが、
レクター博士とともに在ったということだけ記しておこう。
これもストーリーに絡むので控えるが、墓をあばくのは吸血鬼こと
レクター博士本人である。
聖水については、ヴィンテージワインだったのか、
少年の涙だったのか、他にも多くて迷うところである。
僕(しもべ)だってちゃんといる。前作から登場するバーニーだ。 / (2)につづく
(マーズ)
『ハンニバル』 上・下 著者:トマス・ハリス / 出版社:新潮文庫
「君」とは、宇宙飛行士の向井千秋さん。 夫の万起男さんによって愛情あふれる分析を かけられた向井さんの姿に、 たいがいの人間は、しりごみしてしまうだろう。 確かに、普通じゃないのだ。 すばらしいと普通じゃないは、両立するのだ。 普通なんてどうでもよいこととはいえ。
文庫になった上下2冊を、更新作業の合間に つらつらと読んでしまったのだが、 宇宙へ行く話よりも、向井千秋さんという女性の 向井さんたるゆえんが解き明かされる過程こそ、 この本のエッセンスであったと思う。
そして、お二人の出会いもまた、 一筋縄ではいかないグルーヴ感に満ちている。 要するに、誰とでもうまくやっていく必要も 義務も、人間にはないんだなと思わされる。 ちゃんとその人の、でこぼこやら 普通をはずれたところ、それが才能というものなのか、 そこのところを 受け入れてくれる相手が、 あらわれるべくしてあらわれる。 そういうふうにできているのだろう。(マーズ)
『君について行こう』 著者:向井万起男 / 出版社:講談社+α文庫
[一秒四文字、十字×二行以内のせりふ作りにすべてを賭ける世界]
字幕:戸田奈津子 と、名前が出ると安心する。 今は戸田奈津子以外にも、いい字幕翻訳者は 育ってきているのかもしれないが、 やはり、戸田奈津子だとほっとする。 好みというより、 長い間に戸田奈津子にならされてきたのかもしれないが。
映画の字幕の情報量は、限りなく少ない。 セリフは上手にはしょられ、巧みに置き換えられていく。 それは、英語の得意な人には、いうまでもないことだろうし、 そうでなくとも、吹き替えと比べてみればすぐわかることだろう。
字幕に頼らざるを得ない映画の見方は、 正確に映画を把握しているというよりは、 ニュアンスを楽しんでいるくらいなのかもしれない。 だから、訳者のセンスにおもねるしかないのだから、 映画の当たり外れは、訳者の好き嫌いにもかかってくるのだ。
映画字幕とは何かからはじまり、 映画の舞台裏を垣間見る喜びが詰まっています。(シィアル)
「字幕の中に人生」 著者:戸田奈津子 / 出版社:白水Uブックス
タニス・リーを一気に読みました。 グリム童話をもじって「グリマー姉妹からの…」と サブタイトルがついています。 この表題、血のごとく…は「しらゆき姫」。 あの姫は、やはり。 というお話です。
赤頭巾も、 人狼の一族も、 眠り姫も、なんて彼らは まっとうで正直なのでしょう。 みずからの本性に対して。
きちんとタニス・リーを読んだのは ほとんどこれが初めて。 どういうものか理解して読んだという意味で。 学生時代に読んでいたら、 今よりもさらに輪をかけた夢想癖が、 あらぬ方向に走ったにちがいなく。
個人的には、「地球に落ちてきた男のハッピーエンド版」的な、 「緑の薔薇」こと、「美女と野獣」が好きです。 幻想と退廃の物語であっても、 最後に迎えるハッピーエンドは よいものです。(マーズ)
「血のごとく赤く」 著者:タニス・リー / 出版社:ハヤカワ文庫FT
ライスというと、クレイグ・ライス(Craig Rice)だろうか?
それとも、アン・ライス(Ann Rice)か?
絶妙のユーモアで読者を魅了するのが、
ライトな都会派のクレイグ・ライス。
もしも女流推理作家であるママが犯人をつかまえれば、有名になって小説も売れるにちがいない! / 「スイ−ト・ホ−ム殺人事件」(ハヤカワ・ミステリ文庫 )
耽美、絢爛豪華、背徳の美で、これまた読み手を否応なく
力ずくで押さえ込んでしまうのがアン・ライス。
映画でお馴染み、レスタトシリーズ。
(My レスタトは、トム・クルーズのまんまです。) /
「夜明けのヴァンパイア」(ハヤカワ文庫 )
どちらも世界は大きく違うが、魅力的なストーリーテラー。 私自身は、レスタトを擁する濃厚なアン・ライスの世界よりも、 マローン弁護士の活躍する(?) 軽めで明るいクレイグ・ライスの方がより好きだ。(シィアル)
[ 著者:クレイグ・ライス / 訳者:小泉喜美子 ]
・「大はずれ殺人事件」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・「素晴らしき犯罪」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・「幸運な死体」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
・「大あたり殺人事件」(ハヤカワ・ミステリ文庫)
[ 著者:アン・ライス ]
・「ヴァンパイア・レスタト」−全2巻− (扶桑社ミステリー)
・「ザ・マミ−」−全2巻−(徳間文庫)
・「眠り姫」シリーズ −全3巻−(扶桑社ミステリ−)
岡野玲子の「陰陽師」にすっかり夢中になり、 夢枕漠の原作も読み終え、 余力で安倍晴明やら時代背景やらについて、 調べたりしているうちに、どっぷりと平安時代にはまってしまった。 ( 「藤原氏千年」/ 朧谷 寿・講談社現代新書 に続く )
平安時代は不思議な時代だ。 混交としている。 (勝手に決めていることだが、) どうも私の前世は平安時代ではないかと思っている。 で、とりあえず貴族である。(やっぱり勝手に決めている。)
真っ暗な夜がある。 簾の外には闇があり、 そこはもう人外である。 百鬼夜行に、物の怪の気配。 人にあらざるものがいた時代。 空には、今宵と同じ月星が輝いている。 そんな時代があった。
付記:
(1) 昨年夏、念願の京都の晴明神社に行ってきました。
一条戻り橋跡も見てきました。お守りも買って大満足です。
(2) わが家では、家祈祷 [ ヤギトウ ] なるものを
定期的にやっていただいてます。
「太夫さん」と呼んでいますが、仕事は「陰陽師」系です。
御幣やら、お祓い、式(は、…どうなんでしょう?)と
わが家にとっては非常に身近な年中行事です。
「呪」を解いてもらうこともありますね。(シィアル)
『陰陽師』著者:岡野玲子 / 出版社:白泉社
これは湯田伸子さんのコミックス(サンコミックス刊)の タイトルで、友人の書庫から数年ぶりに発掘された 私の愛蔵書です。
そして、この短編集のなかに、 「読書狂の地獄」という特別お気に入りが 入っています。 三度のメシより本が好きな若者が、 謎の男に、読書狂の天国という無限図書館へ 連れてゆかれるというお話。
「こういうものです」 「悪魔!」 のくだりは名言として うちわで語り継がれているのでした。 他のコミックスは読んだことがないので 湯田さんについて多くは語れませんが、 これは名作だと思います。 好きなものも、度が過ぎると 不幸を招くということはわかっていて、 それでもやめられないのが 中毒というものなのでした。(マーズ)
『ささなみのアケロン』 著者:湯田伸子 / 出版社:サンコミックス
書名の「レッド・デス」は、 「ペスト」、つまり「黒死病(=ブラック・デス)」からつけられている。 中世ヨーロッパでは、たびたび黒死病が大流行し、 多くの村がペスト禍に飲み込まれていったのだ。 元来はノミを介するネズミの伝染病だが、 人間に対しても伝染力は強く、きわめて致死率も高かった。 潜伏期間が1〜7日ほどあるので、旅人が感染源となって、 さらにペストの被害をより遠くの村まで広げてしまったという。
もし、そんなことが現在起こってしまったら・・・。 それが、この「レッド・デス」 南極の氷中から発掘された十万年前の オオナマケモノの中で生き続けていた猛毒のウイルスが、 瞬く間に地球規模で猛威を奮い、 人々をむごたらしく、食いあさっていく。 政治は混乱し、無法地帯と化し、 恐怖の中で、人間は理性を失い、 さらにパニックは拡大し続ける。 このような恐ろしいウイルスを前に、 人類に勝機はあるのだろうか?
絵空事だが、絵空事とは言い切れないリアリティを感じる。 現実の世界でも、恐ろしいウイルスが次々と出現する。 エボラウイルスなどのように、突発的に現れ、 その恐ろしさを見せつけるだけ見せつけて、また潜っている 未知のウイルスが地球上には一体どれほどあるのだろう。
人間であるということは、いかにもろいことかと、 肉体的な面だけでなく、理性や精神的な面からも痛感した。(シィアル)
『レッド・デス』 著者:マックス・マーロウ / 出版社:東京創元社
珍しくハイペースで読了。
これまで私は、かの有名なフランク・ロイド・ライトなる人物の 姿をほとんど知らずにいました。 帝国ホテルのライト館についても、なんら 具体的なイメージを持っていなかった。 つい先日、工務店のパンフレットコピーに、 巨匠ライトの言葉を引用したもので、 どんな人物だったのか知りたくもあったのです。
これを読んで、いささかの見解は持ち得たつもりです。 帝国ホテルの来歴についてもですが。 この著者は、ロイドの建てたライト館の夢と実態、 そこに関わった人物たちの数奇な運命の綾を 綿密に取材して組み立ててくれています。
なまじっかなフィクションよりも引き込まれ、 まるで失われた都の物語のように 読む者をつかむ本。 著者の大叔父さんが、その直後の帝国ホテルの支配人を 短期間務めたという縁もなかなか深い。 上手で丈夫な文章、ストーリーテリングの醍醐味も 味わえる本です。 そう、読み出したらやめられない。(マーズ)
「帝国ホテル・ライト館の謎」著者:山口由美 / 出版社:集英社新書
随分前に最初の1巻だけ読んだ時はそれほど面白いとは思わなかったけれど。
大掃除をしていて、どこかにまぎれていたのが出てきたので、 ふっと訪れる気の抜けた炭酸のような空虚な気分の中、 何となく読んでしまった。
初めて読んだ頃、地味で盛り上がり無く感じたそれぞれのエピソードも 今はなるほどねと、続きを読みたくなった。 大学生の頃、吉野朔美の書くストーリーや絵柄は好きだった。 彼女の初期の作品「月下の一群」がまた読みたくなる。 淡々とした毎日のルーティンワークの中、 切なくも甘やかなラブストーリーは、 マンガの世界にしかもう見つけられないのだろうか?
後日5巻全巻を手に入れ、読了。 たっぷりと満足しました。 5巻を通して、一挙に読むと、 そこには恋愛だとか、 日常生活だとかに対する、 ある種の[哲学]が描かれているなと、感じたことでした。 難しい言葉で語れなくとも、 私たちは生きているだけで哲学的存在なのだと。(シィアル)
「恋愛的瞬間」(全5巻) 著者:吉野朔実/出版社:集英社(マ−ガレットコミックス)
貝原益軒の「養生訓」に凝っている。 はっきり言って、面白い。
本屋のレジで、お金を払っていると、レジの上に一冊の「養生訓」が。 なんか、急に電波が来たみたいに、ものすごく面白そうで、 猛烈に読みたいという気持ちになった。 出来たらその場で誰かが買おうとしている その本のページをどうしてもめくりたい、 という強い衝動に駆られた。 何で、こんなに面白そうな本に今まで気付かなかったのか、 過去の日々への後悔の思いが巡る。 レジでの支払いが終ると、慌てて棚に「養生訓」を探しに行く。 やっぱりなかった。 こんな本、何冊も置いてるはずがない。 どうしても読みたかったその気持ちだけが空回りして、 「一生の不覚」…その言葉だけが頭に響き渡る。 ほんとうに、どうしても読みたかったのに!
後日、他の書店で念願の「養生訓」を入手した。 読みたくて、読みたくてたまらなかった「養生訓」は 期待に違わず、実に面白い。 とはいっても。 読み終わるまで、一気に徹夜してでも読みたいとか、 おなかを抱えて笑うようなんじゃないけど。 江戸時代の健康カタログを読んでいるかと思うと、 妙に嬉しくて、少し怪しい人になっている。
「養生訓」・・・それは江戸時代の「ターザン」、あるいは「壮快」か。(シィアル)
「養生訓」 著者:貝原益軒 / 出版社:講談社学術文庫
長編推理小説と名うたれているが、超常的な話である。 超常的な話であるが、その核は日常的な人の「想い」の話である。 いろいろな読み方ができるのだろうけど、どんな小説でもどんな人生でも 月並みに突き詰めていけば、「愛」がテーマとなるであろう。 超常的な能力を持つヒロインの闇の活躍に力点を置いても、 あるいはその能力を持つゆえの悲しみに力点を置いて読んでも、 彼女の幸せを願わずにはいられない。 読み終わって最後にたどり着く想いが「愛」だ。 その「愛」は完結したのだろうか。 せつない想いが凍てつく星のように鋭く胸をさす。
「できると思えば必要のないことまでやってみたくなるのが“神”じゃないか」
ヒロインと同じく超常的な能力を持つ木戸浩一のセリフ。 ずっと、心に残っている言葉である。 何度も何度も反芻した。そう、それは「人」の悲しくも愚かな性だ。 たとえ超常的な能力を持っていても不完全である人間の、 いや不完全であるがゆえに人間であるという、確かな証だったのかもしれない。
まるで映像を見ているようだった。 読んでいる最中に登場人物に具体的なイメージを持つことはないが 「眠れる森」を見終わった頃(98/01/18)に読みはじめたので、 木戸浩一がすっかり「キムタク」。 肝心のヒロイン青木淳子の具象は浮かばなかったが。 でも、中年のおばさんの刑事石津ちか子はやっぱりTVの影響で 市原悦子だった。・・・おかげで読みやすかったけど。(シィアル)
−付記−
今年、映画化され公開されました。
[ 主なキャスト ] 青木淳子:矢田亜希子 / 木戸浩一:吉沢悠 /
多田一樹:伊藤英明 / 石津ちか子:桃井かおり
[ Official Site ]http://www.cross-fire.net/
「クロスファイア」 著者:宮部みゆき / 出版社:光文社
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管理者:お天気猫や
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