2004年12月08日(水)
あまのじゃく


15歳をきちんと全うした頃のことを書こうと思う。
実は、きちんと全うしきっていないまま、16になってしまったかもしれないから、
「記録」としてここに残す作業も悪くないと思ったから。


ここ数日で、すっかり風邪をこじらせ、昨夜も布団攻防戦で敗戦を喫したせいか、
何だか症状は昨日よりも酷いみたい( ̄∇ ̄;)・・・・嗚呼、今日は1人で眠れるよ、センセー(苦笑)。
1人だと寂しいくせに、2人になると煩わしいふりをする。1人というのが苦しいのを知っているくせに
わざと1人でいることを選択する・・・・あたくしは、いつまでたってもあまのじゃくなんだな・・・・。


卒業式って悪い思い出ばっかりだ・・・・と、以前、卒業シーズンに擬えて、
自分にとっては4回訪れた卒業式のことを振り返って、そのことを書いてみたけれど、
人生史上、2番目くらいに記憶がヤヴァめな卒業式なのが中学の卒業式。
1番記憶としてヤヴァいのは高校のときのヤツで、でも、あれは進路が決まってないやら、
後輩から色々とプレゼントをもらったりするのも束の間、別れを惜しむヒマなど寸分もなく
とても慌しかったからで、それで式次第をあんまり覚えていない・・・・というもので、
あの場所で過ごした3年間、とても濃密で、自由奔放で、それこそやり残したことなどあるものか!?
みたいな感は満載だったので、高校での生活はとても有意義で幸せなものだったと自覚もしている。


中学の時は、全然事情が違った。
卒業式のその日が来るまで、あたくしは形勢を意識して少しも気を抜けなかったし、
とりあえず、最後まで優等生の顔をしていなければならなかった。
今から思うと、とても悔しいのだけど、コレだけガッチリと仮面をかぶっていたにも拘らず、
あたくしの変調は教師たちにはズバリと見抜かれていたようで、
各クラスのサミットたちが、次々と代表で証書の授与であるとか贈呈品の代表受け取りであるとか
それこそ、答辞であるとか、卒業合唱の主要ポジション・・・・そういうのに抜擢されていく中、
あたくしだけは箸にも棒にもかからず、何もしなくてただ大人しくそこにいればいい子として
式に参加したのであった。(だんだん思い出してきた)

卒業式の前日にまで、生徒会執行部の活動は続き、その中であたくしの良き理解者であった
カズコは、何のお役にも就けなかったあたくしのことに同情して

「ヨシオじゃなくて、夕雅さんにあの受け取りをやらせてあげればよかったのよ!!」

と、何だかもう憤る気力さえ失ってしまっていた抜け殻のあたくしに代わって、
まるで我がことのように怒っていた。
2学期が終わるその日、カズコは、あたくしを通路脇の階段下にある小さな物置部屋に呼んでくれた。
あたくしは事の全容を彼女にだけは話そうと思い、全部を話しきったところで、彼女の怒りが爆発した。

「どうも最近、B組に近づくとおかしな空気が流れてると思ったわよ!
夕雅さん、どうして大沼に言う前にあたしに相談してくんなかったの?
あ〜ぁ、どうりでベンベンもヨシオも最近ちょっと冷たいはずだわよ。
知ってた? センセーたち、うちらには何にも言わないで、あの2人だけに個人的に
注意勧告してたんだよ!! ベンベンはともかく、ヨシオなんかそれでビビってるだけなんだから。」


・・・・そんなこと、全然知らなかった。
あたくしはただ、変な噂がどこかから洩れて、それでヨシオが急によそよそしくなったんだと
そう思いこんでいた。

「センセーたち、どうして男子だけに?」

「その方が効くからよ!! あたしも何回かそうやって邪魔されたんだよ!!
やり方が汚いわよねぇ・・・・職員室にいってみな、生徒同士がどういう関係にあるかなんての噂話、
うちらより事細かに知ってんだから!!」


だったら尚の事。あたくしが教室の中で孤立していたのを、教師は色恋に現を抜かした制裁とばかりに
見て見ぬ振りをして、わざと放置したというのか・・・・?
・・・・教員は、時にとんでもなく残酷なことをするもんだな。あたくしは瞬間、そう思った。


心強い味方ができたものの、3学期の間中、うちらは毎日の放課後、執行部の仕事に追われて
3年生の4人と2年生の2人は、ほとんど暗くなるまでの居残りを重ねた。
2学期の頃はこうなると帰る方向が真逆であるにも拘らず、そしてベンベン(仮名:学年きっての超優等生)
があたくしと同じ町内であるにも拘らず、必ずヨシオが家のすぐ近くまで送ってくれた。
センセーからの注意勧告があったらしい、その日を境に、コレはなくなった。
生徒会執行部の顧問の先生が、誰と誰が同じ方向だから、なるべく一緒に帰るように・・・・
そう促してくれて、やっとヨシオカズコとの同伴を呑んでいたみたいだったが。
あたくしは、特に毒にも薬にもならない、ベンベンと一緒に帰ることで救われていた感もあったが
後輩の中には、ベンベンに憧れを抱いていた子もいたらしく、
一緒に帰るところを目撃されて、変な噂を流されかけたのを寸でのところで止めたり・・・・
なんてことも実はあったのだ。
もう、コレ以上騒ぎが大きくなるのは、正直カンベンして欲しかったし、あの女豹たちの耳に届けば
これをエサに、更に叩かれることは明々白々だったし。

そうやって3学期をギリギリの状態で過ごして、さっきのカズコの怒りのお言葉だ。
この頃のヨシオはそれまでと打って変わって、無愛想になってしまい、
それだけならばよかったが、元々、執行部の仕事を真面目にこなす方ではなかったので、
それでカズコもご立腹・・・・となったわけ。

「同じ書記なのにさぁ・・・・どうよ? この仕事量の違いはよ??」

あたくしもヨシオも執行部の中では書記という役職だった。
あたくしが議事進行を黒板に書く役割、そして、その議事録を取るのが彼の役割だったが、
実際、彼がきちんと議事録を取っていたのは、最初の1回か2回くらいで、
これがないと、うちらの活動の記録はほぼ抹消されてしまうので、カズコは口喧しく、
彼にきちんと記録をとるように再三再四、文句を言っていたのだった。
カズコの苦言も、「うるせぇなぁ。」の一言でいつも潜り抜けて、ごまかし続けたヨシオ
多分、生徒会活動で箔をつけてそれをロイター板にして、学業成績をも上げ、
親やセンセーが望むような「一流」の高校に行かなければならない・・・・そういうプレッシャーが
彼を押し潰そうとしてたのかもしれないなぁ。

彼の目には、あたくしやカズコ、そしてベンベンが、もう大した努力もなしに、
ちゃんとした高校への合格ボーダーを手に入れているように見えていたのかも。

2学期の最後の三者面談で、あたくしは第一志望の高校は危ない・・・・そう釘を刺されていた。
カズコも同じような内容だったと言っていた。
そして、担任や学年関係者しか知らないあたくしたちの成績は、他には絶対に洩れることがなく、
こんなところで守秘義務を発揮せんでもいいのになぁ・・・・と、センセーを呪ったこともあったっけ。

本当は、そこまで勉強が出来る子じゃなかったのになぁ。
他のセンセーや、別のクラスの子たちには、定着したイメージを訂正してまわるのが
非常に難しいことなのだということを、願書を提出するまでひしひしと噛み締めなければならなかった。

同じように居残りを続けながら、結局勉強に手がつかず、ヨシオよりも2ランクも下の高校へ
願書を出したあたくしのことを、彼は少しでも気にかけてくれたんだろうか・・・・?
そして、そこに願書を出して合格すれば、また3年間、シンと一緒の学校に行ける・・・・
そう信じて出した結論とスライドするように、シンがまた1ランク下の高校へ変更して提出してしまった
この儚き事実・・・・。
もう、何を誰を恨んだものかそれすらわからなくなって、あたくしは卒業式を迎えても
感慨深くも何ともなく、ただ与えられた役割をきちんとこなして、あと腐れなく
そして逸早くここを出て行きたい・・・・そんな気持ちでいっぱいだった。


晴れがましく、代表で卒業記念品の目録を受け取っていたヨシオの顔はよく覚えている。
伝統の卒業合唱で、ずっとうちらの学年を見てきてくれていた、退職が決定している音楽の先生が
タクトを上げた瞬間、顔をくしゃくしゃにして泣いていた・・・・そのことも凄くよく覚えている。
ただ、そんな先生の顔を見ても尚、あたくしの瞳からは、一筋の涙も流れないのであった。
伝統の卒業合唱では、ピアノ伴奏だけの間奏の時に、女生徒たちが啜り泣きを始めて、
そこから大盛り上がりになる・・・・というのも通年通して知ってはいたが、
そして、自らの学年でも、やっぱり感極まって泣き出す子とかがいたんだけど、
そんな彼女たちの力を借りても、もらい泣きまでには至らなかったのである。

嗚呼・・・・究極のあまのじゃく。

能面のような顔をしていたはずのあたくしを見て、

「1人、とっても凛々しくて立派だわねぇ・・・・日野さんの娘さん。」

と、母は同席していた同級生のお母さんたちにそんなことを言われたのだと、
帰宅してから明かされた。
「あまのじゃく」の仮面は最後の最後まできちんと全うしてくれた。外面の良い、凛々しき優等生。
自室の隅では、もう寂しくて悲しくてやりきれない思いで、声を殺して泣いていた冬を乗り越えて
遂に表情までなくしてしまった、中学の卒業式の式次第はこのように終わっていった。


式次第が終わった後、卒業生たちはひとところに集まって、在校生たちの見送りを受ける。
その集合場所で、何枚かの写真を自分でも撮った。
その様子を見ていて、業を煮やしたリエが、あたくしのカメラを奪い取って、
自分のクラスメイトであるシンを無理矢理ひっぱってきて、あたくしの横に並ばせた。

「さぁ、撮るから!! 笑って!!」

最後まで世話をかけさせたが、あたくしはそのファインダーにもどうしても笑顔を向けることが出来ず
残った写真は、シンだけが優しく微笑み、あたくしはというと
言葉では言い表すことができない複雑な表情をしている。
リエからカメラを返してもらって、彼女はそれこそ誰にもわからないように
さっと人ごみに紛れていってくれたが、同じように立ち去ろうとするシンを反射的にあたくしは呼び止めた。


「後で・・・・誰もいないところで、少しだけ話がしたいの。」

「構わないよ。どこにする?」

「・・・・バスケットコートのとこがいい。」

「わかった。」



あっけないくらいに快諾してくれた。あのファインダーに収まった時点で、もう許してくれてたのだろうか?
普段、シンと2人だけで話をするのは至難の業だった。
学校一厳しいバスケ部に所属していたので、朝から晩までその練習、
昼は放送委員として、放送室にいることが多かったし、時間割の合間の10分間の休み時間は
他愛のない話をするには短すぎるし、教室同士の距離も遠く感じられた。
ひょっとしたら、あたくしが秋口に告白して以来、寂しい別れの言葉を聞いてからは
2人きりで話をするのは初めてなのかもしれなかった・・・・今思うと、そのくらいに遠い関係。


中庭を通って、在校生たちの見送りも無事に受け、校門前までほとんどの卒業生たちが集まった。
あたくしは誰にも悟られないように、元来た道を少しだけ戻って、通路からグランドに出て
ともすれば、皆から見えてしまうかもしれないバスケットコートの、ギリギリ見えないところで
シンが来るのを待った。
この恋を告白する時には30分待った。
自分が悪いことをしたから謝ろうと思った時には、3時間半待った。
この日、シンは、あたくしの拍動が整うのを待たないくらいに、きちんとその場所に現れた。


「・・・・ごめんなさい。」

「・・・・・・・・。」

「あの日、あたしちゃんと謝れなかった・・・・最後くらいきちんと謝りたくて。」

「もう・・・・いいんだよ。」

「・・・・・・・・。」

「俺にも余裕がなかったっちゅうか・・・・周りに振り回されとったみたいや。」

「・・・・・・・・。」



ここにきて、あたくしの瞳からぶわっと涙が溢れ出した。
それを察したシンは、自分のハンカチを差し出してくれた。


「なぁ、明日、時間ある?」

「どうして・・・・?」

「最後・・・・って言ったやろ? 俺ら、まだ何も一緒にしてない気がしてさぁ。
街を歩くだけでいい、一緒にお昼食べたり、買い物したり・・・・そういうの、したことなかったもんなぁ。
行こうぜ? 『最後』なんやろ??」



この時のあたくしには、この提案に対して快諾するのに、ものすごく勇気が要った。
自分の身勝手で彼のことまで傷つけて、裏切って、「最後だから」の言い訳をいいことに
元の鞘に納まることって、許されるのかしら・・・・と。反射的にそんなことを考えてしまった。
この場所で、この時間だけでも贅沢だと思っていたのに、まさか彼の方からそんな提案がなされるとは
それこそ予想外・・・・しかしあたくしの「あまのじゃく」はここでも顔を覗かせて、
悪戯にせっかくの雰囲気をかき乱してしまうのであった。


「・・・・行けない。。。。行けないよ、やっぱり。受験、終わってからならまだしも
今、大事な時期だよ・・・・? うちは筆記だけやけど、そっち面接もあるんやし・・・・。」


「・・・・そうか。」

「面接さえなかったら、そのボタン、欲しかったなぁ(笑)。」



泣くなよ、笑ってくれよ・・・・そう言い続けてきたシンの期待に沿えて、やっと笑うことが出来た。
合格発表が済んだら、電話する。その時も同じ気持ちでいられたら、一緒に出かけて。
あたくしは、精一杯の我侭を「あまのじゃく」を振り切って伝えた。

涙が残ったままの顔を、同級生のお母さんに見つかって、励まされた。
この人、絶対にあたくしがどうして泣いているのか知らないに決まってる。
まだ残っていたカズコたちや、同じサミット仲間と撮った写真には、
何かが吹っ切れたのか、自然な笑顔が残った。唯一の救い・・・・。


後日、合格発表が済んで、シンもあたくしも無事に行き先が決まった。
その日の夕方、彼のところに電話をした。「おめでとう」しか言えなかった。
彼にもこれから新しい生活が待っているのと同様に、あたくしにもそうと考えたのか、
彼からは2度と「一緒に出かけよう」という提案はなされないまま、電話は切られた。
「頑張って・・・・」と言われたような気がする。
それと同時に、「ああ・・・・本当にこれで終わってしまったんだなぁ。」という脱力感で
受話器を置いたその後も、未練がましく彼のことばかりを考えていた。


受験生の春休みは長く、あたくしはその後、何日かして、カズコに誘われるがまま、
生徒会室の後片付けと称して、2人で南舎の最上階、一番片隅にある生徒会室で、
思い出の染み付いた書類や、苦労して立ち上げた新しい校則の議事録をファイルにまとめたり、
ダンボールに詰め込んだりしながら、色んなことを話していた。


「どうなった? その後・・・・。」

「シンとは決着ついた・・・・今までよりはうんとマシになった・・・・と思う。」

「つきあい、続けないの?」

「それはもう無理だと思う・・・・。出来ないよ、虫が良すぎて。」

「そんなもんかなぁ・・・・。好きだったらそんなの、関係ないと思うけど。」

「そうかもしれないけど・・・・でもやっぱり。」

「ヨシオは?」

「カズコ、つかまえられんかった?」

「それがさぁ、アイツ、卒業式が終わったらとっとと帰っちゃったらしくてさぁ。
一緒に写真とか撮ろうと思っとったのに、冷たいヤツ・・・・。」


「ホント・・・・冷たいよね・・・・。」



カズコは一瞬、「おや?」という顔をした感じがした。


「正直ね・・・・シンのこともそうだけど、ヨシオにもきちんと謝っておかなきゃって思ってたんだ。」

「ほっとけば? あの調子じゃ、こっちから連絡とりようもないよ?」

「そうだね・・・・。」


↑今さら遅いけど(苦笑)


あたくしと彼女は、北舎でまだまだ授業を受け続けている在校生を生徒会室から眺めながら
「いいなぁ」「羨ましいなぁ」などと言い合って、名残惜しんだ。
名残惜しむくらい、片思いの間は幸せだった・・・・ということなのかもしれない。
卒業して初めて、本当の気持ちをカズコにだけ言った。
自分は、ヨシオのことも好きになったから、どうしようもなくなったんだ、と。

あさみ


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