2004年12月04日(土)
うれしいお誘い


あたくしがまだ23だった頃・・・・。(うげっ!7年前かよ・・・・)
この年の夏から秋にかけては多忙の極みであった。8月末に芝居が1本、そして、
翌月半ばには1週間の公演が待っていて、「疲れた〜」「動けない〜」とか言っているヒマもなく、
自宅からかなり遠くにあった稽古場に通ったり、3週間しか経っていないのに
目と鼻の先にある銀座の小屋に舞い戻ったりと、今から思えば実に充実していた。


8月の芝居は、大学時代の仲間たちとの公演で、清水邦夫先生の「狂人なおもて往生をとぐ」という
物凄く重い本に挑戦していた(苦笑)。
同世代の若い人たちよりも、団塊の世代以上の人たちからの評判が熱く、
あたくしは、白い芥子の花を両手いっぱいに抱えているのに、何でか格好はスリップ1枚とかいう
表題に似つかわしい妙な女性の役で(笑)、ほぼセミヌードに近い状況であった( ̄∇ ̄;)
この頃、非常に肉感的な印象を持たれていたあたくしは、(・・・・実際に肉感的だったんだけど)
スリップというものを持っていなくて、人様から借りたのだけど、
もう1人、同じ役をやるダブルキャストの子が着ていたスリップは、今風の大人っぽい
シンプルなつくりだったのに比べて、あたくしが来たやつは、「THE スリップ」というような
本当に下着の域を全然出ていない、妙に色っぽいものであった( ̄∇ ̄;)

加えて、銀座小劇場というところは本当に狭くて、立地が「銀座」というだけで、
後は、その辺のアングラ用芝居小屋と何ら変わりはなく、収容人数もたかが知れていたので、
チケットを捌けば捌くほど、客と演者の距離も近くなる。
1mと離れていないところにもうお客がいて、スリップ姿というのは、
意外と裸よりも恥ずかしいもので(爆)、劇中、着替えのお達しが出るまで、
ずっとその格好でいたあたくしは、すっかり感覚が麻痺してしまったくらいだった(爆)。

この芝居のクライマックスで、あたくしは、かじられるような激しいキスをされたのであるが、
コレも真似事で済まされる距離ではないので、実際にやったんだった。
狂気と正気の境をさまよう実兄から、熱い接吻をされ、遂には自分までもが同じ部屋に引きこもる。
そんな結末だった気がするが、後から考えてみると、正気だったのは実は兄の方で、
何とかしようともがいていた両親の方が狂気の沙汰に喘いでいたのではないか・・・・という
別の結論まで持ち出されて、仲間内で「清水邦夫って奥が深いよなぁ・・・・」と溜息交じりで
自分らがやった芝居の感想とかを打ち上げで話していたんだった。


普通はここで、小休止が入るのであるが、入れられてしまったスケジュールを動かせるわけもなく、
あたくしと、実兄を演じた青年はすぐに、次の公演の稽古に合流していった。
これが、加藤先生が作・演出をしてくださった「忘八」という作品だった。
ここでも縁あってか(爆)、下っ端女郎の役で、出番は少ないものの、
何でか稽古もすごく楽しくて、疲れているには違いなかったんだけど、毎日毎日、
千葉と東京の境目にある稽古場まで必死に通った。

共演者は全員、他の事務所や劇団に所属している、いわばプロの人たちばかりで、
舞台の公演で、初めて「ギャランティ」というものを頂いたのも、この公演だったのだ。
有名新劇劇団や、もうテレビなんかでも活躍している人たちがたくさん集まって、
あたくしは、最年少というのもあって、礼儀も何もわきまえられぬ、どうしようもない子だったんだけど
何でか皆さんにかわいがって頂いて、無事に千秋楽を迎えるに至った。

この芝居の主演には、当初、美木良介氏が決まりそうだったんだけど、
ここには書けぬ裏事情があれやこれやとあって、バシッとキャスティングされた時は
その役に赤星昇一郎さんが決まっていた。
スキンヘッドがよく似合う、男気あふれる俳優さんで、悪役もいい役も素敵にこなす器用な人だった。
客間から逃げ出した女郎に折檻をするシーンなんかは、もう稽古場でも見ているこっちが息を呑むほどで
焼いた火箸を頭にあてたり、耳に突っ込んだりするたびに、される側の女優さんの
断末魔の雄叫びも凄かったんだけど、眉ひとつ動かさず氷のような眼差しで彼女を押さえつけている
赤星さんの目つきがとても怖くて、今でも忘れられない・・・・。
また、こちらの芝居は、博品館劇場での興行だったので、舞台も広く、
1幕のクライマックスで、1人の女郎が殺されてしまうシーンでも、
赤い腰紐が蜘蛛の巣のように女郎の手脚や腰、首にまで巻きつけられて、
それはもう、見映えのするシーンであった。
ここでもその女郎を殺す役は、確か赤星さんだった気がする・・・・。

「忘八」というのは、八つの徳を忘れてしまった人間たち・・・・という意味で、
うちら女郎側から見ると、置屋を仕切っている男衆たちのことをそう呼ぶんだな・・・・という感覚だ。
もっと深い意味があったのだけど、手元に資料がないまま、今この文章を書いているので、
パンフの1冊くらい、実家から持ってくればよかったよ・・・・と後悔中(苦笑)。
そこに、風俗芸能をうちの大学で教えていた先生のコメントと歴史的風景などが
確か記載されているはずだ。

「忘八」で彼らに出あって以来、あたくしの中でも何かが弾けとんだ感覚がした。
何て楽しそうに芝居に打ち込んでいるんだろう、義務感なんかどこにもなく、
体いっぱいに、心いっぱいに、芝居をすることを楽しんでいる。
あたくしと1回りも2回りも離れた年齢の俳優さん、女優さんでも、こんな子供みたいな表情を浮かべて
必死にお稽古をして、本番中もテンションが高くて、あたくしはその中に「プロ意識」を見たんだ。
座学だけが勉強じゃない、とにかく、真似をすることから始めなくっちゃ!!
聞いているんじゃ遅い、とにかく盗むことから始めなくっちゃ!! とばかりに、
あたくしは短いお稽古期間中に、詰め込めるだけの知識や振る舞いを詰め込んで、
やっと本番に臨んだ。
無論、足らないコトだらけだ。
しかし、役柄上、「女郎とはこうあるべき!」たる何かを要求されたわけではなく、
ただ元気に、明るく、そこにいてくれればいいんだよ、という演出からの指示を
遂行するのが精一杯だった。
お稽古中に色々と不安になったりして、演出家にお伺いを立てたこともあった。
そうしたら、加藤さんはケロッとして、こう言うのだった。

「いいか? 考えてもみろ、女郎屋にやってくる女たちなんてのには、ろくな背景がないに決まってる。
お前から見て姐さんにあたる、アイツもアイツも擦れた上で明るいんだ。
お前は若輩者だけどなぁ、多分、この中で一番酷い暮らしを経験してここに来ているはずだぞぉ。
ご飯をお腹いっぱい食べられるだけで、幸せそうに笑ってられるんだからなぁ。」


そうか・・・・もう、食うに困った口減らしなんてものじゃなく、もっと凄惨な背景が自分には
あるかもしれない・・・・自分だけじゃなくて、女衒に連れられてくる女たち全員に。
この劇中であたくしは、出てくれば常に何かを食べている、「大奥」でいうと「浦尾」みたいな
そんな役で(笑)、それこそ、お茶碗に山盛りにされたご飯と御付一杯に漬物という御膳でも
目を輝かせて貪り食っている、で、ふぅと小休止するかと思えば

「お茶くださ〜い♪」

と、呑気に丁稚さんに声をかけたりする、そういう役どころだった。
また、稽古が終わって飲みに行った際に、加藤さんからはこうも言われた。


「まぁ、あの女郎の中で一番マシな死に方をするってなると『ハナ』(主役)だな。」

「足抜け成功しますもんね・・・・。」

「よくわかるじゃないか♪ で、だ。あの中で一番酷い死に方をするのは誰かってぇと・・・・」

「姐さんたち、処世術うまそうだし(苦笑)。劇中で殺されちゃったのり子さん?」

「い〜や、違うね♪」

「じゃあ、どんどん擦れていく感じ満々のやっ子先生?」

「それも違うね♪」

「じゃあ、一見幸せそうに見えるけど、水揚げされたアキ姐さん?」

「的外れだなぁ・・・・(笑)。お前だよ、お前。」

「あたしですかぁっ!?」



無論、劇中での話なわけだが、そこまで考えが及ばなかったのと、自分は一切の脇役に徹していたので
変な甘さというか、物語全体を見渡していなかった恥ずかしさとで、素っ頓狂な声を上げてしまった。


「物語には必ず裏側があるってもんだ。その裏側を探ってみろ。
お前の役どころは、本当に美味しい、面白い役だぞ。
表面上はいっつも笑顔で、あっけらかんとしていて明るくて・・・・でもその裏側にどんなことがあるのか
考えてみればすぐに分かることじゃないか? 置屋を追い出されない程度の仕事を淡々としている。
罪も感じない、食うためだけに体売ってるんだぞ? そんな若い女が若くなくなったら
どうなると思う?」


「あ・・・・。」

「表面上、みんな擦れてて同じじゃ面白くないんだよ。
かといって、悲壮感をわざと漂わせると、お客が勘ぐる余地がなくなってしまう。
お前の存在は、救いのようであって、実はそうではないんだ。
置屋の女たちのその後を予感させる、ひとつの形なんだよ。」



演じることに必死で、何にも考えていなかったあたくしは、この時本当に恥ずかしかったのだけど、
それを恥としてではなく、糧として受け止めた。
23歳・・・・女の官能を説いても、表面上に下手な色気だけが混じって、面白味に欠けると
多分、加藤さんは思っていたのだろう。
この話をしてくれた時、もう軌道修正は叶わないところまで稽古が進んでいて、
多分、あたくしがアクションを起こしたら、一瞬にして稽古が最初からやり直し・・・・なんてことくらい
このときのあたくしでも容易に予測できた。
その上で、いつも明るく、美味しそうにご飯を食べている、下っ端の女郎・・・・という役が
重くは圧し掛からず、寧ろ、楽しくなってきたような気がする。

自分が一番酷い死に方をするに違いないと言われていたのにも関らずだ。

劇中、あたくしは死なない。最後まで明るく楽しく、客引きをする。そして幕が下りる。
表面上、お客様の救いになるのと同時に、自分がそんなキーワードを握っていたなんて
とっても素敵なことだと思っていた。



あれから7年。
来週末、加藤さんと赤星さんの両名と、久々に再会することになった。
赤星さんが全国行脚で、岐阜に公演に来るという報せを、加藤さんがわざわざ報せてくれたのだった。
あたくしがこっちにいるというのを覚えててくださった加藤さんに、電話口ではあったが結婚の報告をした。


「おぉ!!! わははははははは♪ それはよかったなぁ!! おめでとう!」

「ありがとうございます^^ あたしの事をもらってくれる方が現れまして・・・・(笑)」

「いやいや、俺は絶対に君にはちゃんとした人が現れると思っていたよ♪」



ちゃんとしているかどうかはさておき(爆)、加藤さんがこんなに喜んでくださるとは、少し予想外だった。

↑憧れのきみ、いまいづこ・・・・?

あたくしの結婚相手として持ち出されていたこの彼は、あたくしより20も年上なんだけど、
物凄くハンサムで姿よき人で、あたくしが勝手に憧れていて、稽古場でもそれが
もう公に広まっていて、みんなに囃されていたことがあったのもあって、
「結婚」とまではいかないにせよ、あたくしも本気で「好きだなぁ・・・・」と思っていた(笑)。

こっちに帰ってきてしまったからには、こっちでの活動をもっと精力的にせねばな・・・・と思っていて
あたくしの存在を加藤さんが忘れないでいてくれたならば、また面白い芝居のお誘いを
かけてくれたらいいのに・・・・と淡い期待を寄せてしまうのである。

あ!!!!
あと、赤星さんに会ったら、是が非でもお願いしたことがあるんだった♪

↑何だか、御利益がありそうで(爆)

昔、富士フィルムのCMで、七福神のヤツがあってあの中にも赤星さんはいたりして、
だったら尚の事、ちょいとお願い事をしてこねばな・・・・と、気分は既に初詣(爆笑)。
最近では、「超星神グランセイザー」に堀口博士役としてレギュラー出演しておられて
お顔だけは毎週欠かさずと言っていいほど拝見してきたんだけど、彼の顔を見ると、
やっぱりそんな欲求が・・・・(笑)。
でも、お会いできるだけで嬉しいなぁ・・・・。
岐阜の街はあたくしも不案内に等しいけれど、山賊の店が残っていてくれてよかった。
きちんとおもてなしできそうだ♪

あさみ


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