娘は、5時過ぎに学校から帰ってくると塾の宿題をやっていた。
塾の先生は宿題は2ページでいいよ、と言ったのに、 本人が6ページやる、と決めてきた。
さて、その6ページ、最初は簡単だったらしいが、あとのほうに行くほど難しく手こずっていたらしい。
まして、学校の宿題もあって、かなりアップアップしていた。
あと少しだから、と、学校から帰ってずっとやっていたが、とうとう塾に行く時間になった。
それでもあと少し、あと少しで終わるから、待ってくれという。
「学校の宿題が思ったよりあって時間がなくてできなかった、って言えば大丈夫だよ。」
そう何度も言ったが聞き入れない。
仕方がないので塾に電話する。
「宿題が終わらないので、終わってから行きたいと言っています。 あと6問くらいですので、15分遅れ位で行かせます。」
先生のほうはそんなこと気にせず来てください、と言ったが、
「先生の方からは宿題は2ページでいいよ、と言われていたようですが、娘が6ページやると言ったため、自分で決めてきたことだからやらなければ塾には行けない、と言っています。」
だが15分過ぎても終わる気配がない。 あと6問から止まったままだ。
焦っているせいか計算が合わないらしく、いらいらが募って暴れ出す。
「いい加減にしなさい!」
とか、
「もう充分だから。」
とか、
叱ったりなだめたり、親の精神状態もいっぱいいっぱいである。
夫は、「もう放っておけ!」と言うけど、放っておけない、放っておいちゃいけない。 どっちが正しいかわからないけど、きっと今は、全力投球するしかない。
涙と鼻水でぐちょぐちょになった服を、どうにかこうにか着替えさせ、カバンを持たせ、駅に向かう。
「駅まで行くから。」
駅に着いたら着いたで、やっぱり帰る、と言う。
仕方ない。
塾の駅まで連れてくことにする。
そしたらそしたで「塾まで来てくれなきゃ嫌だ。」と言う。
仕方ないので塾まで行く。
「でも中には入らないよ。ママはここまで来る予定じゃなかったし、化粧だってしてない。こんなんで塾の先生に会えないよ。」
「じゃあ行かない。帰る。」
もう泣きたい。泣きたい。泣きたい。 親やめたい。
塾の入口まで来て、本人が帰ろうとするのを引き留める。 腕をつかんで引き留める。 身体をつかんで引き留める。
もう好きにしてほしい。 もう勝手にしてほしい。 でも勝手にできないんだよ。
親やめたい。 やめさせて、ホント、マジ。
しばらくして気付いてか、中から先生が出てくる。
先生は、
「ごめんな。先生が宿題出しすぎちゃって。」
と言った。
娘は「ううん。」と首を振り、うつむいたまま、ポロポロ泣いている。
「宿題を最後までやろう、という気持ちはとても素晴らしいことだよ。でも無理しなくていいんだよ。できなかったらできなかったでいいんだよ。続けることが大事なんだ。一緒に考えていこう。今日は帰るかい?また次から頑張れるよね。」
そんなことを言った。
せっかくここまで連れてきたけど、連れて来ないほうがよかったのかな。 連れてきてよかったのかなあ。
結局、塾の建物の中には一歩も足を踏み入れず、暗闇の中、先生に挨拶して帰った。
駅前の路上で演奏している人たちがいた。 なんとも癒されるような笛の音色だった。
息子は音楽に合わせて身体を踊らせた。
そう、息子も一緒だったんだ。
息子も一緒に家を出て、一緒に塾まで来た。
息子のそんなおちゃらけた姿を見て、娘も笑った。
なんかバカらしくなっちゃって、すごく腹が立ってむかついて、なんだこいつって思って・・・、 でも息子が笑顔で音楽に合わせて踊ってるのみたら、なんかバカらしくなって、私も娘も笑った。
息子に100円玉を渡して、演奏している人の前に、お金を入れるところがあるはずだから、そこに入れておいでって言った。
私と娘は遠くから、息子が演奏している人にリズミカルに近づきながら、お金を入れているのを眺めていた。
戻ってきた息子に、 「どうする?まだ聴いてる?」
「ううん、帰る。」
結局、娘を送って帰りにスーパーで買おうと予定していたものは、スーパーが閉まってしまったので、ダメになってしまった。
息子は大きな傘が欲しかったんだけどね、また明日来ることにした。
夫は、塾にも行かなかった娘に、わざと娘に聞こえるように、娘の部屋の前を通る時、
ふと娘の顔が曇った。
私はまた気分が悪くなった。
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