恋のさじかげん
れのん



 恋じゃなかった?

このままの関係を続けることは、彼だけじゃなく、
あたしにとっても、大変な負担になることは簡単に想像がつく。
このまま何も言わず、別れてしまったら、きっと、
未練の情に押しつぶされそうになることだって、分かっている。
でも、あたしはここで勇気を出すべきだと思う。
この恋に出会えたことに感謝して、彼と恋をしたことを大切に思って、
お互いに、別々の道を歩いていくときだと思うから。
妻子のある彼が、日曜日だけあたしの恋人になる、その精神的な負担は、
鳴らない電話を待ちわびるあたしと、もしかしたら大差ないかもしれない。
現実に引き戻される彼が、口数少なく、どこか疲れたように見えても、
それはどうしようもないことだし、
そのことをもっと早く、気づいてあげられなかったあたしには、責任がある。
疲れた顔の彼を見るたびに、
あたしは自分の存在が疎ましく思われていると思い、
彼に愛されていないことを不安に感じ、
約束のないことに恋の終わりを覚悟していた。
恋はお互いを高め合うものでも、快楽を追求するものでもない。
きっと、身体的にも、精神的にも、お互いに恥をかかせあって、
その行為の成果として、
お互いを尊重する気持ちを芽生えさせるものじゃないかな?
動物的な体位で、動物のような声を上げて、皮膚と皮膚といわず、
粘膜と粘膜を、内臓に至るまでを、
知り尽くし味わい尽くす行為がセックスであり、
喧嘩をし、思っても見ないような事を言い合い、罵倒しあい、
価値観を戦わせ、外見から見えない腹の奥底に秘めた思いをぶつけ合う。
その両方の行為によって、お互いを知り、お互いを認めていけることが、
きっと、恋愛だと思う。
そして、あたしと彼がそれを実践するのは、無理だということ。
喧嘩が怖くて、別れが怖くて言いたいことも言えないようじゃ、
本当の恋は出来ないと言うこと。
私と彼が重ねて来たこの月日は、ただ、肉体関係にあったと言うだけのこと。
ただ、それだけのこと。
初めて好きになった彼と、恋が出来なかったことに、未練は残る。
でも、その恋をしたから、あたしはたくさんのことを知ったと思う。
この気持ちが過去になって、彼に再会出来たら、
あたしは彼に、「ありがとう」と言いたい。

2001年01月11日(木)
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