恋のさじかげん
れのん



 「さよなら」すら言えない。

一人で哀しい思いにさいなまれるのは、
もう、おしまいにしようと思う。
携帯電話の着信履歴が気になったり、
ネットを繋げては彼のICQが立ち上がるのを待ったり、
あり得ないことと知りつつも、メールチェックをしたり。
恋は終わってしまった。
それも、自分から、自分すら気がつかないうちに、
体ではなく、唇から先に、彼に別れを告げていたのだ。
キスを全くしなくなっていたわけではないけれど、
セックスに熱を上げるのに夢中で、あたし達はキスを忘れてしまっていたぐらい。
「キスは好きな人としかしない。唇には信実が宿るから、ね。」
そう信じてやまなかったあたしは、今になって自分の信念の残酷さを知る。
会いたいときに会えないと言えない人、
声を聞きたいときに、電話すらできない人、
言いたいことすら、遠慮して言えない人、
思い出になるプレゼントの一つも、
写真の一枚も、残らなかった人、
そして、あたしが一番愛した人。
どんなに、なおざりにされても、
どんなに、都合良くあしらわれていると客観視できても、
それでも、愛し続けた人。
もう、さよならと言うことすらできないぐらい、
遠くへ隔たってしまった人。
不倫は、毒のある恋愛だと言った作家がいたけれど、
その人はこうも言った。
不倫は、純愛である、と。
二年がかりの毒のある純愛は、やっぱり、、、、定石どおりに終わるようです。
あたしは、また、違う人と出会って、キスができるのだろうか、
あたしは、彼を、恨まないで生きていけるだろうか、
彼は、あたしを一瞬でも愛していたのだろうか、、、、。
答えのない問いばかりくり返して、途方に暮れるばかり。



2001年01月10日(水)
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