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[2005年11月15日(火)] 天井裏より愛を込めて 第二話


注意書き

※作中の主人公の性癖その他筆者のそれとはまったく関係ありません。本当だって。本当だってば。



 俺、国寺 真。現在、幽霊真っ最中。

 楽園などどこにもないのだと、改めて気付かされました。









天井裏より愛を込めて
 第二話「『Knockin' on heaven's door』ってどこよ?」









 事故の後、なんとなく自分の死体に憑いて救急車に乗り込んで病院までやってきた。

 病院ってのはいう場所にはあんまりいい思い出がない。

 それに足ではなく意識で方向を思い浮かべるという移動方法には、いまいち馴染めていない。出来立てほやほやの幽霊だから仕方ないといえば仕方ないんだろうけど。

 そんな俺を尻目に、あっという間に慌しく移動式のベッドでどこぞに運び去られる俺の身体。それを呆然と見送る俺。いや、今更自分の死体を眺めてたって何の意味もないのだが。何だかんだ言って、まだ身体に未練があるのかもしれない。

 周りは夜も更けてきたというのに人がひしめき合っている。救急病院にははじめて来たのだが、こんなに賑わっているものなのか。そういえば雨の日は自殺者が増えるってのをどこかで聞いた覚えがある。それとも今日の俺みたいに、街中で交通事故が多発しているのかもしれない。……まぁ、アイ○助けようとして死んだ間抜けは俺ぐらいのものだろう。

 くそう、泣けてきた。



 行き交う人々をぼんやりと眺めながら、俺はなにか重大なことを忘れていることに気づく。

 なんだ? 俺は何を忘れているんだ?



 ―― 自分の名前か?

 国寺、真だ。



 ―― 何時死んだとか?

 ほんの30分前。



 ―― 死んだ理由は?

 ……交通事故。厳密に言うと路上に飛び出したアイ○を助けようとして。考えれば考えるほど無様以外の何物でもない。ていうか世界でTOP10に入る間抜けな死にっぷりではないだろうか?



 ―― 自分の身体の場所か?

 モルグ(死体安置所)にでも行けば置いてあるだろ。そんなくだらないことじゃない。



 ではなんだ。俺は何を忘れてしまったんだ?



 ―― では問おう。ここはどこだ?

 救急病院、俺がさっき搬送された。とはいうものの即死だから手術室に行かずにモルグに送ったほうが早い。人件費、その他もろもろの節約のためにはそうするべきだと、我がことながらそう思う。



 ―― 目の前にいるのは誰だ?

 医者、医者、患者、救急隊員、患者。そして、看護士(男)。看護士(女)。看護士(女)。看護士(女)?

 …………看護士(女)!?



 看護士(女)。一昔前までは看護婦の名前で親しまれていた白衣の天使。ナース。荒んだ都会のオアシス。傷ついた身体とか心とかその他もろもろを癒してくれる、まさに天使。むしろ女神。

 そうか、そうだったのか、ジョニー。俺は今、楽園にいるのかっ!!

 それに今の俺は誰にも見られることはない、ないすすぺしゃるばでー。つまり、今の俺を縛るものは何もない。常識? んなもんそこら辺に捨てとけ。

 ひゃっほーい! 死して俺は理想郷を得たっ!!

 皆のもの、我に続けとばかりに俺は駆け出した。

 目指すはそう、約束の地(女子更衣室)なり!!






 ギリシャ神話における最初の女、パンドラが開けてしまった禁断の匣(はこ)。パンドラの匣とも呼ばれるそれの中にはあらゆる災厄 ―― 絶望が詰まっており、蓋を開いたことによりそれらは世界中に飛散したとされる。そして匣の中に最後に残っていたもの。その名は希望。

 なぜ希望が絶望と同じ匣の中に存在していたのだろうか?

 匣から飛び出していったのは本当は希望だったのではないだろうか? 仮に絶望だったしても、匣の中の存在と比べてあまりに違いすぎて、絶望たちは慌てて逃げ出したのではないだろうか?

 つまり最後に残っていたのは希望ではなくて、絶望以上の何か。

 そして俺は、匣の中の最後の一欠片を見つけてしまった……。






 看護士(女)たちの生着替えを鑑賞すること数分。俺は自分の身体の変調に気が付いた。否、気が付かざるを得なかった。

 おかしい、違う、こんなはずじゃない、何かの間違いだ。嘘だ、嘘だ、嘘だ。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ、嘘だっ!!

 なんでっ、なんで俺がこんなっ、こんなっ!!

 間違ってるっ! こんなの絶対に間違ってるっ!!






 ―― 絶望すら生ぬるい、そいつの名は虚無。ガランドウ。空っぽ。空白。真っ黒で真っ白。何もなく、何もない。存在すらしていない存在、虚無。






「何でちっとも反応しないんだよ! マイサン!?」

 嘘だと言ってよっバーニーッ!?





 俺はがっくりとその場に崩れ落ちた。

 話が上手すぎると思ったんだ畜生。いや、畜生は俺か? 俺なのか? 俺なのか畜生。

 そうだよな、ははは。幽霊にもなって最初にやることが覗き? 馬鹿か? 馬鹿ですか貴方は? いやでも覗きは男のロマンかと問われれば、全力で首を縦に振りますよ、自分。つーか男の本能でしょ?

 ていうか、本能さえ枯れちゃったみたいだけど。



 そっか俺、最終解脱しちゃってたのか。



 死んだことよりも何よりも、そっちのほうがショックだった。









 次回予告

 自分の葬式を見学中、俺は倒すべき敵の存在を知る。

 誰か、俺に人を呪い殺す術を教えてください。いや、マジで。

 俺の前にイズコ、現れんかな? 釈由美子でお願い。

 やっぱり自分、死んでもダメ人間みたいです。



天井裏から愛を込めて
 第三話「『ヒゲとボイン』とデブとメガネ」





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