Niseko-Rossy Pi-Pikoe Review
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2004年01月15日(木) 『ヌートピア宣言Mind Games/ジョン・レノン』・CDジャーナル:レーベル研究『ECMレーベル』2003年6月号

朝6時。
さぶい。
そばを食べようとお湯をわかして、気合いを込めて3たば360gを放りこみ、おー、あったけー、と軽快に長ばしでゆでる。
ゆでる、ゆでる。いてついた台所の空気を突き破って湯気をたててぐつぐつとゆでる。
ざーっと、ざるにあげる。だーっと冷たい水道水で締め付けるように、ざっ、ざっ、と気合いを入れて、水きり。
そばつゆで食べあげながら、ぶるぶるぶる…体の芯まで冷えてきて、あれ?おれ、あったかいかけそばにするつもりだった!ことに気付く。

少し、のこす。

『フットルース〜完全版〜Footlose!/ポール・ブレイ』(Savoy 1962)
ジャズ・ピアニストとしてゴリッと登場したポール・ブレイ62年の初期名盤。ピート・ラロッカのタイコがまたいい。この時期のブレイのジャズ感は野良犬のように不良でカッコいい。ジャズ・コンポーザーズ・ギルドとかの活動前ですね。このあとブレイは、『Barrage』(ESP 1965)、『Closer』(ESP 1966)、『Touching』(Black Lion 1966)へと。

『ヌートピア宣言Mind Games/ジョン・レノン』(EMI 1973)
友だちとビートルズ解散後の4人についてだべっていて、それぞれのソロ!でまっさきに思い浮かぶ曲をそれぞれ、と、ポールなら「ラム・オン」「メイビーアイムアメイズド」、ジョージなら「イズントイットアピティ」「FAB」、リンゴなら「フォトグラフ」「バックオブブーガルー」、んで、ジョンなら「ブリングオンザルーシー」「グロウオールド(アロング)ウィズミー」と(後者が友だち)。選曲センスはわしが全敗かも。
「ブリングオンザルーシー」って、ほら「666はオマエの名前だ!」って歌うやつでさ、当時としては新しいレゲエのビートでポップな曲。「アウトザブルー」って曲もあったよ、「とつぜんきみは空から降ってきた」ってラブソングで、松浦亜弥がデビューシングルでUFOに乗って飛来したシーンはこのコンセプトでできているーわけないかー。6秒間の無音が録音されていて、各自が思った旋律が「ヌートピアインターナショナルアンセム」になる、なんてのもあったっけ。とか。
いまあらためて聴くと、スタジオ・ミュージシャン(デビッドスピノザ、ジムケルトナー、ゴードンエドワーズ、マイケルブレッカーなど)を集めて、EMIとの契約でのやっつけ仕事であることが理解できる。「マインドゲームス」のイントロの電子音は今で言うところの音響派?
「ブリングオンザルーシー」のイントロ、ジョンが「オーライ、フォーリッツ、ジスイズイ、オヴァーザヒル」(わはは、聴き取れねー)と曲のはじめに呼びかけるのがすごいカッコいい。レットイットビーのときも「ゲットバック」を歌い終わって「ぼくたちはオーディションに受かったでしょうかー?」とおどけて終わらせるカッコよさがあったし。LPでも「レットイットビー」に向かってジョンが「さあ、天使たちがやってくるという曲です!」と呼びかける「ディグイット」があったし。
ぼくはきっと、態度としてのジョン・レノンを、より愛していることに気付くのだ。

『ティファニーで朝食をBreakfast at Tiffany's(OST)/ヘンリー・マンシーニ』(BMG 1961)
耳やすめ。中古盤屋で48円(!)。「ムーン・リバー」、さいこー。

『Fibres / Stephane Rives』(Potlatch P303: 2003)
さて、本日のハイライト、と、傾聴。サックスを共鳴させまくって電子音のようなハウリングを出し続ける(!)1曲目、紙コップの背中におしっこをずうっとしているだけの音が実はサックスとつばと空気の振動だった2曲目やら、世の中には技巧を駆使してこんなことまでやってます的ないじましさにあきれるやらおどろくやら。そのうち、なんだかお経を聴いているようなありがたい気持ちになってしまい、そのまま眠る。



CDジャーナル・レーベル研究『ECMレーベル』2003年6月号。転載許可を得たので、ここにアップ。

『ECMレーベル』

 hyde(ラルク・アン・シェル)のシングルを聴きながら、その耽美性にデヴィッド・シルヴィアンを連想し、そのシルヴィアンの作品に参加する「釣りびとが緩やかに凍死してゆくかのような演奏」と形容されるスティーヴ・ティベッツの恍惚ECMサウンドまでを耳の手ほどきしてしまう不良中年である、私は。
 ECMはジャズのレーベルでもあり、古楽や現代音楽のレーベルでもある。4ビートのノリや熱いサックスに魅了されるジャズ・ファンからは否定され、録音に対しては「これはこの世のピアノの音ではない」とその虚構性を問題にされ、ジョン・ケージやヘルムート・ラッヘンマンまでを「美しく」録音してしまうことにクラシック・ファンからも口を歪められてしまうレーベルでもある。
★マンフレット・アイヒャー
 創立者はマンフレット・アイヒャーというコントラバス奏者としてジャズでもクラシックでもそれなりに腕の立つ、グラモフォンでの録音技師の経験もある青年。1943年ドイツの南部の町リンダウに生まれ、6才でヴァイオリンを手にし、14才でコントラバスに転向。クラシックの音楽大学を出るが、関心はクール・ジャズから前衛ジャズに向かい、マイルス・デイヴィスの『カインド・オブ・ブルー』、スコット・ラファロのビル・エヴァンス・トリオ、アルバート・アイラー『スピリチュアル・ユニティ』に耳を焦がされていた。彼はライブ三昧に明け暮れる中で、自分の音楽的素養と録音技術で「今日的」な音楽をドキュメントすべく自らのレーベルをECM(Edition of Contemporary Music)と名付け、1969年に立ち上げた。
北欧の4人(ヤン・ガルバレク、テリエ・リピダル、アリルド・アンデルセン、ヨン・クリステンセン)、フュージョン・ブームの口火を切ったチック・コリアの『リターン・トゥ・フォーエバー』、キース・ジャレット、チック・コリア、ポール・ブレイらのピアノ・ソロでの録音、これらが評判を得た。多くの新しいミュージシャンに焦点をあて、とりわけギタリストの登用(パット・メセニー、ジョン・アバークロンビー、ラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチなど)が光った。専属ミュージシャンによるソロや様々な組み合わせによる小さなユニットでのアコースティックな表現を制作することで(名作多し)、強烈なECMのレーベル・イメージを確立した。同じくギターに重きを置きながら、ECMは電化サウンドを排除した(ベースが象徴的だろう)、クラシックの視点に軸足を置いた、もうひとつの“フュージョン”を試みていたと理解できる。
84年にはクラシックに流通させるための“ECM NEW SERIES”をアルヴォ・ぺルト『タブラ・ラサ』のリリースで開始し、広範な音楽ファンの支持を得ることに成功した。このニュー・シリーズはその後シュニトケ、カンチェリ、クルターク、ブライアーズといった作曲家を取り上げつつ、ハイナー・ゲッベルスの舞台音楽やエレニ・カラインドルーの映画音楽、ジャン=リュック・ゴダールのサントラなどもリリースしている。
ジャズとクラシックの素養を持つアイヒャーは、その耳の経歴を青年期から幼年期へ遡行するかのようである。
★アイヒャー帝国の迷宮
ECMは創立してから34年、カタログは900を超えようとしている。各国のジャズやクラシックの権威ある音楽賞はすべからく手にしている。と同時に、ほとんど無名でありながら聴く者を美に痺れさせる隠しキャラ的名盤も多数存在する。“the most beautiful sound next to silence” この「沈黙に次いで最も美しい音」をサブ・テーマとするこのレーベルの統一感は、アイヒャーの「君たちは意のままに演奏して良い。だが服従せよ。」と言わんばかりの徹底さによる。作品にはそこにもうひとりのミュージシャンが参加していると評され、”produced by Manfred Eicher”のクレジットはもはや伝説化して語られている。
しかし問題はこの「美しさ」だ。ツェランやカフカ、ヘルダーリンを引用した解説文やアートワークを含めたドイツ人らしい徹底した仕事には、まさにヨーロッパの、ゲルマン民族のガイストを感じるが、醒めた知性に潜んで狂気に反転するような美しさが問題なのだ。見る者の内面に痕跡を残すかのようなジャケットやインナースリーブの選択もアイヒャーによるものだ。
 私は読者に助言する、ECMの迷宮に手を伸ばしてはならない―――。

このレーベルを代表する10枚(2003年・暫時選定)

ヤン・ガルバレク 『オフィチウム』(1994)
 古楽合唱団ヒリアード・アンサンブルとヤン・ガルバレクのサックスを組み合わせた世界的なベスト・セラー『オフィチウム』の天上の美しさは、あまたのヒーリング・ミュージックを駆逐さえした。16Cスペインの作曲家クリストバル・デ・モラレスの曲を聴いたアイヒャーは、その感激に即座にガルバレクの音を思い描いたという。

キース・ジャレット 『ケルン・コンサート』(1975)
 ピアノ・トリオ“スタンダーズ”の活動で、かつてのピアノの貴公子は今ではジャズ・ピアノの帝王の座に君臨している。ここでは彼の人気を決定付けたピアノ・ソロ作品群から、当時の若者に「ひとはここまで美しい音楽を作れるのか」と陶酔させ、70年代のジャズ喫茶ではリクエスト禁止指定まで受けた、“時代の名作”を。

ポール・ブレイ 『ノット・トゥー、ノット・ワン』(1998)
耽美で官能的な美しさを弾く不良ピアニスト(この点で対抗できるのはコンボ・ピアノの渡邉琢磨だけだろう)であるブレイだが、彼の“スタジオに駆けつけ、タクシーを外に待たせている間に弾き終える”という即興魂(深いぞ!)は、ゲイリー・ピーコック、ポール・モチアンとの35年ぶりの邂逅でも不変であった。新たな名盤。

ジョー・マネリ 『テイルズ・オブ・ローンリーフ』(1999)
第2のプロデューサーとして辣腕を奮うスティーヴ・レイク。ジミー・ジュフリーのリイッシュー、老怪人ハル・ラッセル、エヴァン・パーカーの音響ユニット、英国トラッドの伝説ロビン・ウイリアムソン…。そして、微分音による微細なソノリティの変化に、能や狂言の表現形態とも通ずる発見をもたらすこのジョー・マネリ。

ラルフ・タウナー 『ANA』(1997)
 バルトーク+ストラヴィンスキー+スパイク・ジョーンズ、タウナーの跳ね上がるようなギターのつまびく美しさの謎は彼の幼少期の耳にあったとのこと。「Joyful Departure」は地中海に囲まれたパレルモ(彼が住む)に降り注ぐ太陽の眩さを音像にしたかのよう。名作『Diary』(1974)を超えるギター・ソロ作品を作ったのだ。

ディノ・サルーシ 『Kultrum』(1983)
 このバンドネオン奏者の登場は衝撃だった。喪失した故郷への強烈な想いと生き残ってしまった者の夜の孤独を描く、アストラ・ピアソラ以降に(タンゴとも訣別して)出現するに相応しい音だ。抑え切れない生々しい演奏は安易な自然讃歌を突き崩す。初期の『Kultrum』『Andina』『Mojotoro』はいまだに胸を掻きむしるものだ。

アルヴォ・ペルト 『テ・デウム』(1993)
 エストニア出身の作曲家ペルトの作品を規定する全音階上の音と休符だけによるティンティナブリ(鈴鳴らし)様式とは、“祈り”の導入にほかならない。「私の音楽は、あらゆる色を含む白色光に喩えることができよう」という発言はあまりにも知的ではない気がするが、宗教的崇高を呈示できる才能とはそういうものなのかもしれない。

メレディス・モンク 『ヴォルケイノ・ソングス』(1996)
 モンクは演劇出身で、変幻自在のヴォーカリゼーションを駆使し即興的パフォーマンスを通して“声楽音響劇”というスタイルを築き上げた。ここでは声を純粋に楽器のように扱いながら、次第に自然描写への傾倒が明らかになった本作を挙げた。アカペラ・デュエットの「Walking Song」の突出した美しさにも注目。

ECMレコード社にはこれまで傘下に4つのレーベルを抱えているのでその紹介を。
「WATT」
歴史的作品チャーリー・ヘイデン『リベレーション・ミュージック・オーケストラ』でのもうひとりの主犯、カーラ・ブレイが主体のレーベル。最新作は彼女にとってのアメリカをテーマにした7年ぶりのビック・バンド(写真)。
「Japo」
ECMの前身である Jazz by Post から41枚がリリースされた(現在は休止)。ダラー・ブラント『アフリカン・ピアノ』やステファン・ミクスの緒作のほか、スティーブ・レイクがここで制作した加古隆のピアノ・トリオ(TOK)やAMM、エルトン・ディーンなどが秀逸。
「CARMO」
ギタリストでありながら、キース・ジャレットが嫉妬したであろうほどに美しいピアノを弾くエグベルト・ジスモンチのレーベル。彼のECMとは別顔な高品質プログレ作品が目白押し。躍動的で瑞々しくブラジルの太陽を思わせるピアノ・ソロ『Alma』は美しすぎて、ホントーに誰にも教えたくない1枚。
「Rune Grammofon」
80年代に活躍したポップ・ユニット「フラ・リッポ・リッピ」のベーシストが97年に創立したレーベル。これまでのノルウェー的音楽=ECMの呪縛を葬り去るかのような、同国の若き才能による「今日的」音響と即興をドキュメント。スーパー・サイレントの緒作に瞠目せよ。

 昨年ECMは『:rarum』と題して、24bit/96khzでのリマスター仕様で、レーベルを担ってきた「今日的な音楽の景観を革新した」18組の演奏家による自選集を二つのボックス企画(それぞれ単独でも発売)を公表した。
<I〜VIII>発売中:ボックス・セットは残部僅少
キース・ジャレット、ヤン・ガルバレク、チック・コリア、ゲイリー・バートン、ビル・フリゼール、アート・アンサンブル・オブ・シカゴ、テリエ・リピダル、ボボ・ステンソン
<IX〜XVIII>近日発売予定
パット・メセニー、デイヴ・ホランド、エグベルト・ジスモンチ、ポール・モチアン、カーラ・ブレイ、デヴィッド・ダーリング、ジョン・サーマン、トーマス・スタンコ、エバーハルト・ウエーバー、アリルド・アンデルセン


Niseko-Rossy Pi-Pikoe |編集CDR寒山拾得交換会musicircus

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