Land of Riches


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 2023年11月03日(金)   White dove over troubled waters. 

人間がいかに自分で考えず行動を決めているか、『影響力の武器』で読みました。
稀少性を悟ると対象の価値が相対的に上がって見えるようになり、動いてしまうのです。
しかし、刀剣鑑賞の機会に関しては逃すと一生ものの後悔になる可能性も否めません。
京極正宗を見に金沢へ行くか悩む私を、あるチケット販売告知が突き動かしました。

お先にトクだ値の抽選に外れた(当たれば金沢へ片道1万円未満で行けた)私は
日帰りを断念し、赤い風船の1泊1日ツアーを手配しました。退社後に新幹線へ飛び乗り、
21時頃に金沢駅へ到着。いかに新幹線の開通で金沢が近くなったか、分かります。
けれども、赤い風船を使ったのが久しぶりで、予約番号が書かれたメールを
消してしまい、どのホテルに泊まるのか分からず危うく野宿になるところでした。
(富山駅の辺りまでカラオケで過ごせばいいやと思っていたけれど、
そもそもカラオケがパッと見た限りでは見つからなかったので非常に危なかった)
到着少し前に切符へ番号が刷られているのに気づいて、事なきを得ました。

翌朝、持ってきたソックスに穴が開いており、コンビニで購入する羽目に。
金沢駅でミネストローネを朝食としてすすってから、まちバス(大加州刀展で
訪れた前回に比べると一部北鉄バスでSuicaが使えるようになっていましたが、
料金が100円と圧倒的に安いまちバスに長蛇の列)に乗り損ねた結果、
石川県立美術館まで歩いていきました。3kmもないので余裕ですが暑かったです。

三の丸尚蔵館は昭和天皇の遺品をベースとして皇族から寄贈された品々を保管しています。
古くからの伝来品のみならず、明治以降に帝室技芸員となった美術家の大作、
天皇家が宮殿で使うために当時の技巧の限りが尽くされた調度品、旧大名家や
旧摂関家といった華族や財界人らから度々献上された美術品など幅広いラインナップです。
江戸時代、京極家では幕府から守るために存在自体を抹消されていた秘蔵の短刀だった
京極正宗も大正時代には華族の所有品を集めた展覧会に姿を見せるようになり、
昭和3年に皇室へ献上されました。そのまま現在に至り三の丸尚蔵館の収蔵品となっています。

後水尾天皇と加賀藩2代藩主利常が幕府に対して鬱屈した感情を抱きながらも
江戸では遠く及ばないハイカルチャーを振興することで昇華させたのが共通点という
ある意味で気持ち悪い交友関係だったと示す「忍」1文字の宸筆+怒る菅原道真像に
後水尾天皇自ら賛をつけた2つの掛け軸から今回の『皇室と石川』展はスタートでした。

刀剣は3振り。前田育徳会所有の太郎作正宗(姿を見た感じ南北朝時代っぽい)と
研ぎ減りが北谷菜切レベルに凄まじい京極正宗、そして展示館寄託品の白山吉光。
左右の二振りが「健全」な姿に見えるだけに、菊の御紋のハバキの幅と比べ
明らかに瘦せ細っている京極正宗の刀身は、京極家ではそういう意味で
大事にされてきたのか…と切ないような不思議な気分になってしまいました。
研ぎ減りは一般の刀剣鑑賞ではマイナス要素になるとされていますが、
刀剣乱舞ではそれを所有者の愛情表現と捉えて転化しているのです。

第2会場の国立工芸館を中心に、一般の展示企画ではあまりお目にかかることのない
新しい時代…明治・大正のみならず昭和・平成の美しい工芸品もたくさんあって、
古くから大切に保管されている物はもちろん価値があるのですが、平たく言えば
「今を生きる人々」が継承している「技」も同様に価値があるのだと噛みしめました。

再び金沢駅まで歩いて戻り、本当は夜に行く予定だったクラフトビールバーへ
うっかり入ってしまったのが運の尽きでした。昼は混んでいたのに夜は空いていたし…。
オリエンタルブルーイングのビール自体はどれも美味しかったし、地元の食材を
使ったおつまみも美味しかったので、お店には全く罪はないのです。悪いのは飲み過ぎた私。

この後、金沢へやって来るトリガーとなった梅津さん主演のオンライン演劇
「バックステージオンファイア」(以下バク炎と表記)の振り返り上映会が
隣のフォーラスであったのですが、酔いが回った私はお手洗い(推定)に
スマホを置き忘れてインフォメーションカウンターに受け取りに行くわ
(届けてくれた人には感謝の気持ちしかありません。だからこれを書いている
11/4にスーパーのセルフレジで見つけたクレカの忘れ物は即届けました)、
1カメラで撮影されたバク炎はカメラを手持ちしているためブレも結構あって
見ていた私はカメラ酔いしてしまって本編をほぼ音声のみで楽しむ羽目になるわ、と
さんざんでした。11月とは思えぬ暑さだったので昼から呑むのは最高だったのですが、
それにしても反省すべき点ばかりだろ…と思うのでした(そう思うなら昼呑みは控えろ)

観客の約半数が石川県外からで、九州から来た人もいました。
(今回の上映会は金沢駅でしたが、バク炎の舞台は小松市で、聖地巡礼した人も多数)
演出の川本さんは私にとってはテニプリ河村の声優で、トーク力もアニプリの
イベントなのでよく存じ上げているのですが、今回も見事に盛り上げていました。
(観客からの質問1人目は確かに仕込みを疑うほど流暢な話しぶりでした(笑))

梅津さんは通信途絶リスクを避けるため実はカメラを優先で繋いで撮影された
(それでも昼夜2公演のうちマチネでは切断され配信が途切れた時間帯もあった)
実情をコードに繋がれたエヴァンゲリオンと表現して喝采を浴びていました。
ちょうど目の前に梅津さんがいる位置での2列目だったので、最初の発表では
なんで設けたんだと感じた上映とトークショーのインターバル10分休憩に救われました。

コロナ禍で演劇は特に地方で大きなダメージを受け、これを憂いた石川県出身の
舞台映像作家・荒川ヒロキさんは公演を配信して見てもらうニューノーマルを
もっと生かせないかと『配信でしかやれない演劇』を立案しました。
当初は石川の演劇人だけで創る予定でしたが、この試みを広めるためには
あえて全国的な地名度を有する役者に出演を依頼する必要があると判断、
ナルステで縁のあったネルケにキャスティングを依頼しました。
そして、梅津さんの事務所にオファーが入ったのです。その他、メインどころには
テニプリ幸村の声優である永井さん(エンドロールまでどの役か全く気づけなかったので
役者はやっぱりすごいんだと思ったり)など東京で活動する知られた役者が配され、
石川の演劇人が脇を固める形式に。このため、稽古もかなり難しかったようです。

そもそもステアラと同じで会場が特殊過ぎて、小屋入りしないと何も分からないも同然。
それでも『劇場をバックヤード含めまるまる1棟使う』スタイルだったため、
楽屋・奈落・舞台袖など構造としては馴染みで、梅津さんはかろうじて導線を
マスターできたとのことでした。とんでもない事態が次々と起こる(ハプニングの中に
いわゆる男女のもつれが含まれているのに一部では批判的な感想も見ましたが、
起伏の激しいドタバタ劇だから繊細な表現は無理かなと私は思いました)のですが、
最終的にはハッピーエンドに収束していきます。まあ、12/25上演ですからね。
梅津さんも雪が降るか事前取材では懸念してましたが、まさかの大雪だったのでした。
(川本さんが小松のイオンに買い物に歩いていこうとして断念したレベル)

芸能、特に舞台は東京で活動するのが圧倒的に有利ではあるのですけれども、
それでも舞台という場を共有する活動に臨む者として、どこに住んで活動しているかで
大差はないという結論に至った川本さん。梅津さんも、美味しい魚を食べられたのと
当時の座組の熱量を懐かしそうに振り返っていました。言式を立ち上げ、正式に
クリエイター側になった今の梅津さんが見ると、自分の演技はいろいろ改善できる
箇所もあるようですが、もっと成長した上でまたこんな場があればいいな、と。

入場前に買ったシャインマスカットソーダも飲み干すのに苦労するぐらい
コンディションが悪化した私は、海鮮を諦め、白とろろ昆布のおにぎりを食べました。
北前船の影響で今でも昆布が使われまくる北陸では、おにぎりは海苔ではなく
昆布を巻くのが主流で、とろろに至っては表面を削る黒とろろが存在する程。
何も知らない私は白を選んだのですが、実はおにぎりには酸味効いてる黒がいいらしい…!
福井が梅の産地で、北陸では梅と言えば福井梅なのも初めて知りました。

どうにか最終の新幹線で帰宅できましたが、もう弾丸遠征なんてできない身だと
強く思い知らされました。遠出する時は自分と計画を天秤にかける必要がありそうです。

2023.11.4-5 wrote


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