橋本裕の日記
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| 2007年08月27日(月) |
「国家の品格」を読む(4) |
犯罪大国のアメリカをはじめとして、先進国はすべて荒廃(on the road to ruin)している。環境破壊(environmental destruction)が進み、テロが横行し、麻薬やエイズも蔓延しようとしている。教育崩壊(collapse of education)による学力の低下(decline in academic achievement)や、犯罪の低年齢化もすべての先進国ですすんでいる。
このままでは世界は破壊され、人類は滅亡するしかない。それではどうしたらよいのか。藤原さんはだれもこの問いにしっかりした解答を与えることができないでいるという。
「世界中の心ある人々が、このような広範にわたる荒廃を「何とかしなければいけない」と思いながら、いっこうに埒があかない。文明病という診断を下し眉をくもらせているだけという状況です。この荒廃の真因はいったいなになのでしょうか。私の考えでは、これは西欧的な論理、近代合理精神の破綻に他なりません」
<Right-thinking people everywhere know that they “have to do something” to deal with widespread decay, but still they make no headway. All we can do is look grave and diagnose it as a “disease of civilization”. What then is the true cause of this societal decay? To me this decay represent the failure of Western logic and the modern spirit.>
産業革命と科学の発達が、現代の物質文明の繁栄をもたらした。そしてその根底にあるのは、西欧的な論理と近代合理精神である。たしかに、それはすばらしい進歩を私たちの文明の上にもたらした。そのため、私たちはこれを過信(put too much faith in then)するようになってしまった。
「論理とか合理というものが、非常に重要なのはいうまでもありません。しかし、人間というのはそれだけでやっていけない、ということが明らかになってきたのが現在ではないでしょうか。近代を彩ってきたさまざまなイデオロギーも、ほとんどが論理や近代的合理精神の産物です。こういうものの破綻が目に見えてきた。これが現在の荒廃である、と私には思えるのです」
<Logic and reason are extremely important. That goes without saying. But the present time makes it clear that they alone are not enough for people to live their lives by. Nealy all the different ideologies that have colored the modern age were the products of logic and modern spirit of reason. The bankruptcy of all such ideologies has now become apparent. And that, I believe, accounts for the ruination of the present.>
藤原さんは近代的合理精神の産物として、共産主義をあげている。生産手段をすべての人が共有し、生産物も共有する。そうすれば貧富の差のない平等な、公平な、幸せな社会ができる。まさに「美しすぎて眩暈をおこしそうな論理」だ。
「しかし現実には、ソ連が74年間の実験で証明してくれたように、大失敗に帰しました。これを「ソ連の失敗であって共産主義の失敗でない」と強弁するのは誤りです。共産主義という立派な論理それ自身が、人類という種に適していないのです」
<As the Soviet Union proved in the course of its seventy-four-year long experiment, Communism ended up failing epically. One argument doggedly insists that the failure was on the part the Soviet Union, not of Communism itself. This is erroneous. Communism’s beautiful and magnificient logic is simply ill-suited to the human race.>
共産主義は論理としては完璧で、筋が通っている。しかし、現実はどうであったか。それは大失敗であった。論理的に整っているだけでは、実際の役にたたないばかりか、ときとしてとんでもない災難を人類に及ぼしかねない。藤原さんはそのように主張する。
私は共産主義が人類という種に適していないという藤原さんの断定にいささか疑問を持っている。しかし、共産主義者は自分たちが無謬であり、論理的に正しいということを売りにしていた。その意味で共産主義者たちは自己を過信するという誤りを犯していた。
共産主義運動が失敗したのは、それが論理的だったからではなく、論理的にも間違っていたからだ。本来の共産主義についていえば、それは実現することがそれほどたやすくはない、非常に高邁なひとつの理想である。そうした理想的な社会をどのようにして実現していくか、これは私たちに課せられた課題として、今もなお残されている。
(今日の一首)
風騒ぐ木立に入りて目を閉じる 葉ずれの音に遠き日思ふ
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