橋本裕の日記
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2007年07月13日(金) 現代西洋医学の限界

 病気の原因について、昔の人は「悪い霊」がとりついたせいだと考えていた。そこで病気になると祈祷師がよばれた。聖書によれば、イエスも「悪い霊」を追い出すことで、さまざまな人の病気を治している。こうした「悪霊病原説」は姿を変えて、現在も行われていて、これを利用した霊感商法も花盛りである。

 これに対して、古代ギリシャのヒポクラテス(BC460 - BC377) は「健康な人間は身体が調和しており、体の調和が乱れることで病気になる」と考えた。そして彼は、血液・粘液・黄色胆汁・黒色胆汁の4液を人体組成の基本成分とし、病はこの4液の不調和から起きると主張した。これは「液体病理説」と呼ばれている。

 彼は病気そのものを冷静に観察し、健康な人間の場合と比較した。そしてその発症のメカニズムを人体の生命活動の乱調だと考え、悪霊の存在を退けた。さらに彼は、体の調和を取り戻すために、薬草類を用いた。彼は西洋医学の父といわれるが、むしろ東洋の自然治癒の療法に近いものだった。

 しかし近代になって、西洋医学は大きく変わった。顕微鏡の発達によって、さまざなな病気に特有の「病原菌」が発見されたからだ、そしてペニシリンなど、この病原菌の働きをおさえる薬も発明された。こうして、病気の原因はヒポクラテスが考えたような内在的な要因ではなく、外部から進入してきた細菌やウイルスなどの病原菌によるものだということになった。

 この近代科学の考え方は、遺伝子の発見によって、病原体、もしくは劣化した遺伝子が病気をつくるというふうに一部修正されたが、病気の原因を特定の物質的な原因に求め、それを除去することが治療である考える点で、基本的な原理はおなじである。この病原体原理によって、医学はめざましい発展をとげた。

  現代の西洋医学はたしかにコレラや結核といった感染症や早期の悪性疾患、心臓病や脳溢血などの急性期の循環器系疾患などについては目覚しい力を発揮する。しかし、アトピーや花粉症などのアレルギーやその他、腰痛や肩こり、糖尿病や高血圧などの慢性的な疾患について、はかばかしい成績をあげてはいない。せいぜい消炎鎮静剤を処方して症状を緩和する程度である。そして実のところ、こうした慢性的な病気で苦しんでいる多くの人々がいる。

 こうした人々の中には代替治療として、鍼灸や漢方薬など、東洋の伝統的な医療に頼る人も増えている。しかし、出費がばかにならない。私の友人で、高血圧の治療に、漢方薬代として100万円も出費したという人がいるが、こうしたことはよほど経済的にゆとりがないとできないことである。

 現代人の多くは腰痛や心臓病など、ごくありふれた生活習慣病に苦しめられている。これらは病原菌や遺伝子異常によるものではない。ライフスタイルの偏りにより、自律神経の調和が失われて発病したものである。これを現代の西洋医学は苦手としている。西洋医学がもう一段の発達をとげるためには、ヒポクラテスの「病気の原因は心身の不調和」という原点に立ち返るべきではないだろうか。

(今日の一首)

 すこやかな少女のほほえみ草原の
 光にゆれる野花のごとし


橋本裕 |MAILHomePage

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