橋本裕の日記
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2007年06月10日(日) 眼の進化

 哺乳類の人間と、軟体動物の蛸はまったく違った生物だが、ただひとつとてもよく似ている部分がある。それは眼である。水晶体のレンズを持ち、網膜をそなえている。見かけもそっくりだが、解剖学的な構造的もほとんどかわらない。それぞれまったく別の進化の道をたどってきたこの二つの生き物の眼の構造の、この正確な相似はどこからきたのだろうか。

 じつのところ、蛸の目を作るDNAの塩基配列と、人間の目を作るそれとは、ほとんど同じものだという。問題はこうしたDNAの配列が進化の過程でどのように獲得されたかである。

 原生生物のミドリムシには眼はない。しかし、光を感じるセンサーは持っている。ミミズも目はないが、体の表面に光を感じる細胞が点在している。これらは「眼点」(がんてん)と呼ばれている。この光センサーはロドプシンと呼ばれるタンパク質で、じつはこれが私たち人間の網膜にもある。

 網膜の起源はミドリムシやミミズの体表にあるこの特殊なたんぱく質らしい。しかしこの原始的な網膜で得られる情報は光の明暗や色合いくらいで、正確に外界のようすを捉えることはできない。そこで生物はその周辺の細胞を変化させて、原始的な眼の構造を作り上げた。それがピンホールの眼である。

 たとえばプラナリアや貝などはこのピンホールと同じ原理を利用した原始的な目を持っている。このピンホール眼が、やがてレンズ眼に進化したのだと考えられている。だから私が小学校でピンホール暗箱を作っていたとき、じつは原始的な眼を作っていたわけだ。

 ヘビは私たち同様に立派なレンズ眼を持っているが、これとは別に眼と鼻の間には頬窩(loreal pit)と呼ばれる小孔があり、じつはこれがピンホール眼になっている。ピンホールの底には熱を感じるピット膜があり、ここに映し出された像の情報は、脳の視覚野に送られる。これでヘビは「赤外線視覚」を獲得し、夜間に獲物を捕らえることができるわけだ。

 ピンホールカメラが生物の原始的な眼だったことがわかったが、人間と蛸、昆虫はまるで進化の過程が違うのに、どうしてこのようなそっくりの精巧な器官が生まれたのか。これをダーウィン流の自然淘汰説ではどのように説明しているのか。眼の進化については、勉強不足でよくわからないことが多い。

 ただわかっているのは、眼は脳とともに生物の進化の最高の産物だということだ。私たちがものを識別する微細な視力を持ち、天然色の世界を持っているということは、とてもすばらしい奇跡のようなできごとなのだ。

(今日の一首)

 なんというすばらしきこと両眼で
 くまなく見える君のほほえみ


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