橋本裕の日記
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昨日に引き続き、私がK子にあてて書いた手紙を紹介しよう。これらの手紙は近いうちに処分される。ここにその一部を残しておくことも無意味ではないだろう。これは前回紹介した手紙より4年後の、1988年7月11日の手紙である。
ーーーーーーーーーーー 拝啓。
その後、お元気でしょうか。 暑い日が続いています。私の方は、まあなんとかがんばっています。大学の卒業論文は20数枚書きましたが、どうもうまく書けずに、今はもっぱら参考文献を読んでいるばかりです。
万葉集は読んでいる分には楽しいのですが、これを対象に何か「研究」をし、論文を書こうと思うと、なんとも厄介なものだということが、しだいに分かってきました。しかも、文献が実にぼう大なのです。まったくかないません。今年の夏は、苦しい夏になりそうです。
私の夢は国文学の単位をとって、国語の教師になって、生徒たちに文学を教えることですが、できれば研究を続けて論文を発表し、大学の教師になるのもいいなと思っています。それもできれば、京都か奈良の大学の先生がいいですね。こう書いてきて、なんだか笑ってしまいました。高校の教師であることに少し嫌気がさしているようです。
最近はとくにのどの調子が悪いのですが、高校でさわがしい生徒たちを相手に声を張り上げてばかりいるせいでしょう。大学ならば、マイクも使えるし、それにそんなに生徒たちもやかましくはないと思うのです。そして何よりも大学が魅力的なのは、、好きな「勉強」ができるということです。
目下、仏教大学の通信部の4年生で、卒業の見込みも立たない私は、こんなことはすべて夢の夢のような話です。しかし、この夢のような話にすがって、私は毎日、万葉集やその周辺の文献を勉強しています。K子さんのほうは、その後どうでしょう。何か面白い本とか、何かしたいことが見つかりましたか。
面白いといえば、久しぶりに映画を見に行きました。インド映画で「大地のうた」三部作です。大学生の割引を使ったので、6時間の大作を1100円で見てきました。もう30年以上前に作られた白黒作品ですが、とっても新鮮で感動的でした。その感動をワープロで文章にしましたので、ここに同封しておきます。
学校の方は、受け持ちの生徒が暴走行為をして、鑑別所に入ったりして、その後もいろいろあって落ち着きませんでしたが、今は試験の採点に追われています。成績処理や通知表をつけたり、これからしばらく忙しいのですが、そのあとは夏休みで、少しゆとりができそうです。暑さに負けず、勉強に精を出そうかと思っています。最後に、最近作った短歌をいくつか書いておきます。また、手厳しいご批評がいただければ幸いです。
若竹に雨ふりそそぐこの夕べ我が家のタニシ子を産みにけり
夜もすがら蚊を追いて勇み立つわが心のさびしくもあるか
どくだみの茂る庭べに人ひとり白き下着を干してをりけり
昼顔のほのかな色に染まりたる女の肌をかなしむ夏の日
自らを淫して後の淋しさは石になりたし深山川の
何ゆえにかなしき歌をうたふかと問ふ人もなし夏の日暮れに
以上です。最近は万葉集ばかり読んでいるせいか、どうも歌が古臭くていけません。K子さんもまた何かできたら送ってください。それでは、さようなら。
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(今日の一首)
いつしかも髪の毛白くしわがより 父の晩年われに近づく
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