橋本裕の日記
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人生に大切なものの一つは、根気である。主婦が子育てをして食事を作るにも、サラリーマンが会社に通勤するにも、毎日これを続けるには、それなりの根気が必要だ。根気がないと、いくら才能があっても、人は何事も成就することができない。
<人は才能の前に頭を下げない。根気の前に頭を下げる>
これは夏目漱石の言葉だ。才能も大切だが、たしかに才能を生かすものは根気だろう。人生の成果は才能と努力の掛け算になっている。私など才能はないので、その分は根気で補うしかない。だから根気だけは人に負けない。
根気をつけるのに役立ったのは、中学、高校時代の山仕事だったかも知れない。杉苗を担いで山に登り、斜面を鎌で切り開いて、それから穴を掘って杉苗を植える。これを暑い夏の日に行うのは、なかなかの重労働である。しかし、これを続けたおかげで、多少のことではへこたれない精神が養われたようだ。
大学時代に朝刊と夕刊を毎日配り続けたのも、私の中で自信になっている。雪の降り積もる早朝、真っ暗な中で新聞を配り続けるのも、それなりに根気がいる仕事である。私はこれを何年か続け、そして朝晩、お寺の間借りで自炊しながら学問に打ち込み、大学院に進学した。
大学院に合格しとき、友人の一人から、「君は才能があるからいいね」と言われたことがある。同じような言葉を、教員試験に合格したときも聞いた。私はこれを心外に思った。才能がないのは自分が一番知っているからだ。だから、現在の私に多少とも他人に秀でたところがあるとすれば、それは努力の成果に違いない。もう一つ、私の好きな言葉がある。
<静かに行く者は健やかに行く。健やかに行くものは遠くまで行く>
これはパレートというイタリアの経済学者の言葉らしい。「玉磨かざれば光なし」(No gemstones shine without polishing)という中国の諺もあるが、非才の私にとって、「健やかに行くものは遠くまで行く」という言葉は、とても大きな励ましである。
(今日の一首)
風邪ひきて食欲はなし喉痛し 妻が剥いたリンゴはうまし
妻に「何か食べたいものがある?」と訊かれて、迷わず「リンゴ」と答えた。昔は私が風邪をひくと、母がリンゴをおろして食べさせてくれた。そのせいか、私は病気のときはリンゴを食べるものと思っている。熱っぽい喉越しに、ひんやりしたリンゴの感触がこころよい。
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