橋本裕の日記
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昨日は学校に行き、全日制と定時制の合同の職員会議や、入学式や新年度に向けての準備などをした。あいかわらず声がほとんど出ない。みんなから「どうしたのですか?」と訊かれた。隣のS先生にも訊かれて、「気合が足りなかったようです」とささやくように答えた。
S先生の口癖は「風邪を引くのは気合が足らないからだ」である。私も「そうだ、そうだ」とこれまで尻馬に乗っていた。ここで自説を曲げるわけにはいかない。S先生はさすが気の毒そうに、「いや、いや、過労でしょう」とフォローしてくれた。もちろん過労で風邪を引いたわけではない。
あえていえば原因は電気毛布だと思っている。よく風邪を引いていた私が、10年ほど前に電気敷毛布を使うようになって、ほとんど風邪をひかなくなった。このとき私は夜の冷え込みに弱いのだと気づいた。だから、私は毎年4月になっても、用心して電気毛布を使ってきた。
ところが今年は暖冬で、2月があたたかかった。そこで3月になると早々と電気毛布を片付けた。電気を使わずにすませればそれにこしたことはない。しかし、3月、4月になっても寒い日が続いた。結局このところの夜の冷え込みに、電気毛布であまやかされた私の体が悲鳴を上げて、風邪をひいたわけだ。
以前、視覚に異常をきたして不便な思いをしたが、声を失うということも不便なものである。いつものことだが、失ってみて、はじめてそのありがたさがしみじみとわかる。健康であるあることは、実にすばらしいことなのだ。
昨日はそんなわけで、5時間ほど年休をいただいて学校を早退し、6時過ぎに家に帰ってきた。そして、妻に再び寝床に電気敷毛布をセットしてもらった。これで昨夜はぬくぬくとした暖気につつまれた寝床に身を横たえたが、熟睡というわけにはいかなかった。うなされて3度ほど夜中に目を覚ました。
うなされ方が尋常ではない。痛い喉元から思い切り息を絞り出すから、断末魔のような悲惨なうめき声になる。これを自分の耳で聞いて、驚いて眼を覚ます。不思議なのは、その寸前の夢の中で、私は菜の花畑のようなところで春風とたわむれていたことである。そこへ、突然、不気味な声が響いて眼を覚ますと、何とその声の主は自分だったわけだ。
そんな声を聞くと、傍目にはどんなに苦しいかと思われるが、本人は花畑で光につつまれて遊んでいる夢を見ているくらいだから、それほど苦しいわけではない。断末魔のときも、これと同じかもしれない。死に際が苦しそうに見えても、本人は案外、お花畑を歩いている夢を見ているのかもしれない。そうだといいのにと思う。
今朝はいつもより早く3時過ぎに眼を覚ました。誰もいない台所で水を飲んだあと、「おはよう」と空になったグラスに話しかけてみた。かすれているが、一応声になっている。これで今日の入学式の勤務はなんとかしのげそうだ。そうすれば、明日から連休である。ここでしっかり風邪をなおして、9日の始業式は晴れやかな笑顔で臨みたい。
(今日の一首)
菜の花の夢をも破るうめき声 電気毛布は温かなれど
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