橋本裕の日記
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2007年03月30日(金) 暴走する資本の論理

 3月16日にライブドアの前社長の堀江貴文が粉飾決算など証券取引法違反の罪で懲役2年6ヶ月の実刑判決を受けた。彼は著書『稼ぐが勝ち』で、「人の心はお金で買える」「人間を動かすのは金」「金を持っているやつが偉い」などと公言していた。

 ホリエモンは会社は株主のものだという。だから、株を多く持ったほうが勝ちである。株は金で買えるので、最終的にお金がものをいう。彼に言わせればこれが唯一正しい資本の論理である。

 彼はこの論理を武器に、2年前にニッポン放送に敵対的買収を仕掛けた。このとき多くのメディアは彼を新しい企業家として持ち上げた。その年の秋に行われた衆議院解散選挙で自民党は人気のある彼を選挙の目玉として担ぎ出した。

 彼は自民党の郵政民営化反対組みを落選させる「刺客」として健闘した。落選はしたが、この選挙で自民党は大勝利を収め、一気に郵政民営化に突き進んだ。郵便事業は民営化され、そのトップには大銀行の元頭取がすえられた。国民の生活を守る砦であった公共財の牙城が、こうしてまたたくうちに崩れ去った。

 小泉構造改革について、私はこの5年間つねに反対してきた。その理由は、これが日本の社会構造を大きく変えることになるからである。「競争論理」よりも「共生論理」を大切にすべきたということを一貫して主張してきた。

 資本の論理が暴走すればどういうことになるか、アメリカという実例がある。現在、全米富豪ランキングの上位12人のうち5人は米ウオルマート・ストアーズの創業者一族でしめられている。

 同社は世界最大のスーパーマーケットだが、社員の人件費を抑えた徹底的な安売りで成長してきた。ブッシュ政権への大口献金をし、権力に影響力を行使して、資本の論理に基づく政策を実現してきた。

 資本の論理とは、株主主権ということだ。それでは株主主権ということはどういうことか。それは会社の利益を従業員に還元するのではなく、株主に回せということである。だから、会社が儲かっても従業員は豊かにはなれない。

 ウオルマートは今年も配当を3割もふやした。一族の配当収入は15億ドル(1800億円)になる。一方、従業員の年収は2万ドル(240万円)だという。勤続6年でも自給は9ドル台だというからワーキングプアーすれすれのレベルだ。(3/19朝日新聞「分裂日本2」)

 ホリエモンは実刑判決を受けたが、彼が広告塔となって先導した小泉改革はすでに制度上実現している。この5年間で会社法は改正され、国際的な企業買収も可能になった。

 今日「格差社会」がマスメディアで騒がれているが、私たちはすでにこれを許してしまったのであり、もうあともどりできないところに日本社会が置かれているのだという認識を持たなければならない。

 米ウオルマート・ストアーズ従業員たちは、株主たちの笑顔を尻目に、「健康保険に入れないので病気にならないように毎日祈るしかない」と訴えているという。残念なことだが、こうしたことが今、日本社会でも現実のものになろうとしてる。

(今日の一首)

 働けどさらに貧しく忙しい
 競争社会の弱者はかなし


橋本裕 |MAILHomePage

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