橋本裕の日記
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2007年03月09日(金) 事故で一家崩壊

 昨日の「ピック症」の日記を読み返しているうちに、近所のAさんのことを思い出した。Aさんは私の町内のスポーツチームの監督だった。私の二人の娘も小学生の頃、彼のチームでお世話になった。また、長女とAさんの娘さんとは小学校の同級生でもある。そんなわけで、とくに親しいわけではないが、道で会えば挨拶をする間柄だった。

 そのAさんが10年ほど前に自転車に乗っていて車と衝突し、脳挫傷を負った。生命はとりとめたものの、その後、いろいろな後遺症が現れ、会社をやめた。そうして昼から暇になり、近所を徘徊するようになった。散歩するだけならよいが、若い女性を見ると親しく話しかける。小学生の少女にまで声をかけ、車に乗せようとするので、近所の人が警察に通報し、パトカーがやってくる騒動もあった。

 ほんらいは面倒見のよい好人物である。それが事故で脳にダメージを受けて、性格が変わってしまった。本人もいくらか自覚があるのでつらい。そこで家族に当り散らすようになった。今度は暴力沙汰で、パトカーが来るようになった。家族も事故の後遺症だと思って辛抱していたが、世間の目も厳しくなってきて、忍耐ができなくなってきた。

 ある日、奥さんが娘さんたちを連れて家を出た。Aさんはそれからしばらく一人暮らしをしていたが、そのうち姿が見えなくなった。しばらくして、家が売りに出され、今そこに新しい住人が住んでいる。Aさんとその一家がどこでどんな暮らしをしているのか分からない。

 元気なころのAさんは、会社でもやり手だったのだろう。ボランティア活動にも積極的に参加して、地域でも頼りになる人物だった。よき夫であり、娘さんたちにとっては誇らしい父親だったはずだ。そうした一家の幸せが、事故によって暗転してしまった。

 私は隣人として何もしてあげられなかった。それどころか、彼の姿が町内から消えたと聞いて、厄介者がいなくなってほっとした気持さえあった。これは何とさびしいことだろう。

(今日の一首)

 さびしさに河原歩けば鶯の
 初音を聞けり白雲の空


橋本裕 |MAILHomePage

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