橋本裕の日記
DiaryINDEXpastwill


2007年03月06日(火) 敬語をやさしく

 最近、若い人の敬語が乱れているという。先週、NHKの「クローズアップ現代」でもこの問題を取り上げていた。たとえば、レストランで耳にするのが次のような不思議な表現だ。

「ご注文の品はおそろいになりましたでしょうか」

 どこがおかしいのだろう。まず「おそろいになる」というのが「誰に対して」敬意をあらわしているか問題である。これでは「注文の品」を尊敬していることになる。

 「なりました」というのもおかしい。「〜になる」というのも「ご注文の品」を持ち上げていることになる。「なりました」という過去形にも違和感がある。

 英語の場合は「would you」という具合に過去形にすることで敬意をあらわすことができる。番組でも触れられていたが、外資系の外食産業が英語から直訳してマニュアルとしてこうした表現を定着させた可能性がある。しかし、日本語の場合は、過去にすれば丁寧になるわけではない。

 「でしょうか」という疑問形で終わっているところも疑問だ。これも英文の「would you」の影響なのだろうか。敬語表現として使っているつもりかも知れないが、質問形でいわれるとわずらわしい。また、敬語の数が多いのも問題である。たえばこんな例はどうだろう。

「橋本先生はご自分の数学のご授業がご不満で、ご自分をお責めになって、毎晩遅くまでご教材のご研究をしていらっしゃいます」

 これはどうみてもくどすぎる。敬語は文末だけでよいのではないか。

「橋本先生は自分の数学の授業が不満で、自分を責めて、毎晩遅くまで教材の研究をしていらっしゃいます」

 敬語表現で大切なのは、言葉を飾ることではなく、真心をどう相手に伝えるかである。最初のレストランの店員のセリフも、次のように言えばよい。

「ご注文の品です。どうぞごゆっくり」

 NHKの番組で、店員の虚礼に戸惑う留学生のケースが紹介されていた。コンビニに入ると、「今日は。いらっしゃませ」と元気のよい声がかかってくる。そこで、留学生が「はい、今日は」と答えたところ、店員に怪訝な顔をされた。店を出るとき、「ありがとうございました」と声をかけられたので、留学生も「ありがとうございました」と答えた。これにも変な顔をされたという。

 店員は客に声をかけるとき、客の方を見ないで声だけ張り上げていたりする。マニュアルに従っているだけで、返事を予想していないことが多い。これでは何のための敬語かわからない。

 敬語を現実に使えない人が多い。日本語の敬語の体系が複雑なこともその原因だろう。もっと単純明快にして、たとえば「一つの文章に敬語は一つ」ということでもよい。

http://www3.kcn.ne.jp/~jarry/keig/atop.html

(今日の一首)

 ひさかたに雨の音きく障子越し
 小鳥の声もなにやらたのし


橋本裕 |MAILHomePage

My追加