橋本裕の日記
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北さんが、mixiの日記に映画「男はつらいよ」についての解説をかいている。読んでいるうちに、映画の場面をいろいろと思い出した。また、山田洋次監督の言葉も心にしみた。一部を引用させてもらおう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 映画「男はつらいよ」 北さんのmixi日記1/28より
テレビで人気が出て映画化第一作が完成した時、山田洋次は宣伝用プレスに「喜劇の意味について」と題する次のような文章を寄せています。
「悲しい出来事を涙ながらに訴えるのはやさしい。また、悲しいことを生真面目な顔で物語るのもそう難しいことではない。しかし、悲しいことを笑いながら語るのはとても困難なことである。だが、この住み辛い世の中にあっては、笑い話の形を借りてしか伝えられない真実というものがある。 この作品は、男の辛さを、男が男らしく人間が人間らしく生きることがこの世にあってはいかに悲劇的な結末をたどらざるを得ないかということを、笑いながら物語ろうとするものである。」 このテーマを、山田洋次はずっと守り続け、一つのパターンで描き続けていると言えるでしょう。
さて、シリーズ中最も評価の高い作品はと言うと、第17作の「男はつらいよ、寅次郎夕焼け小焼け」(キネ旬2位にはいりました)ですが、私はそれよりも第1作を評価しています。中身が濃いからです。エピソードの数が多いのです。それは、このシリーズの登場人物それぞれのキャラクターを、エピソードで浮き上がらせようと工夫したからでしょうが、それぞれのエピソードがよく決まっていると思うのです。
寅が妹さくらの見合いの席をぶちこわす場面、隣の印刷工場に住み込んでいる職工の博とさくらが結ばれる場面、結婚式での博と両親の和解の場面、帝釈天のお嬢さんに寅が失恋する場面と、いずれも良くできています。しかし、一番いいなと思ったのは、博がさくらに想いを打ち明ける場面です。さくらに恋している博が、寅のいい加減な「脈はないよ、あきらめな」という言葉を信じて絶望し、工場を出ていこうとします。しかし、最後に一言別れの言葉をと、彼はさくらの談笑して居るところに飛び込み、思い詰めて語ります。
「ぼくの部屋から、さくらさんの部屋の窓が見えるんだ。朝目をさますとね、あなたがカーテンを開けてあくびをしたり、布団を片付けたり、日曜日なんか楽しそうに歌を歌ったり、冬の夜本を読みながら泣いていたり工場に来てから3年間、毎朝あなたに会えるのが楽しみで、考えてみればそれだけが楽しみでこの3年間を・・・ぼくは出ていきますけれど、さくらさんは幸せになってください」
博を演じた前田吟(以後シリーズの欠かせない一員としてレギュラー出演します)の素晴らしい演技によって、これは私にとって忘れられない名場面となっています。実際、わずかこれだけの台詞のなかに、純粋な青年の気持ちが、これ程見事に表現された例はあまりないと思うのです。
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映画「男はつらいよ」は大学時代、よく映画館で見た。第一作はとくによかった。これでやみつきになった。兼六園では、ロケ中の渥美清とと吉永小百合さんを偶然みた。あこがれの小百合さんを、まじかでみたのは、夢のような出来ごとだった。寅さんシリーズには、私の青春の思い出がいっぱい詰まっている。
(今日の一首)
あたたかき心と心ふえあえば かなしきこの世もほほえみあふる
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